3つの選択肢を同じ土俵に置く

事業承継の議論は、しばしば「息子に継がせるかどうか」から始まり、そこで行き詰まります。しかし実際には、親族内承継・社内承継・第三者承継(M&A)の3つがあり、それぞれ得意な場面が違います。まずは3つを並べ、自社の状況に照らして比べるところから始めます。

親族内承継|想いは残るが、資金と適性が課題

もっとも自然な形に見えますが、実務上のハードルは2つあります。1つは自社株の移転にかかる資金と税務、もう1つは後継者の適性と意思です。

食品製造業では、これに加えて「現場を理解しているか」が重くのしかかります。原料の目利き、季節による歩留まりの変動、取引先ごとの規格や納期の癖。こうした知見は文書に残りにくく、引き継ぎに時間がかかります。承継を決めてから育成を始めるのでは間に合わないことが多いのが実情です。

また、個人保証の引き継ぎも避けて通れません。後継者が保証を引き受けられるか、金融機関と早い段階で話をしておく必要があります。

社内承継|現場は強いが、株の買い取りが壁

工場長や役員が継ぐ形です。現場を知り尽くしているため、承継後の混乱が小さいのが最大の利点です。取引先や従業員の納得も得やすいでしょう。

一方で、後継者個人に自社株を買い取る資金がないことがほとんどです。持株会社を使う方法、金融機関の融資を活用する方法、段階的に移転する方法など、設計次第で実現できるケースはありますが、税務と資金の両面から検討が要ります。

第三者承継(M&A)|相手次第で選択肢が広がる

近年、食品製造業でも第三者への譲渡は珍しくなくなりました。同業だけでなく、卸・小売・外食、原料メーカー、異業種からの参入まで、買い手の裾野が広がっているためです。

食品工場が評価されやすいのは、許可を受けた製造拠点、稼働している設備、そこで働く人、そして取引先との関係がまとまって手に入るからです。ゼロから工場を建てて許可を取り、人を集めるより、はるかに早い。この「時間を買う」価値が、条件に反映されます。

詳しい流れは食品製造業のM&Aで解説しています。

食品製造業ならではの確認事項

どの選択肢を採るにせよ、次の点は早い段階で整理しておくことをおすすめします。

  • 保有している営業許可・届出の一覧と、承継時の扱い(営業許可の承継を参照)
  • HACCPに沿った衛生管理の運用状況と記録の残り方
  • 工場・土地の権利関係(社長個人の所有になっていないか)
  • 主要設備の導入年・残存耐用年数・リース残債
  • 販売先の構成と、PB・OEMの契約内容(契約主体の変更に関する条項の有無)

最後の点は見落とされがちです。取引契約に支配権の変更に関する条項が入っている場合、承継の際に取引先の同意が必要になることがあります。

順番を間違えない

3つの選択肢は、排他的なものではありません。「まず親族に打診し、難しければ社内、それも難しければ第三者」と段階的に検討するのが一般的です。ただし、それぞれに必要な準備期間が違うため、どの道を通るにしても共通して効く準備(磨き上げ・許可の整理・数字の見える化)を先に進めるのが合理的です。

決めるのは後でかまいません。準備だけは、早く始めてください。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。許認可・税務の具体的な取扱いは、法令の改正や管轄行政庁の運用によって異なります。実行にあたっては、管轄の保健所・税務署等および専門家にご確認ください。