残ること自体は悪くない
先代が会社に残ることは、必ずしも問題ではありません。取引先との関係、技術的な知見、金融機関との信用。これらは一朝一夕には引き継げないので、一定期間残ることには合理性があります。
問題になるのは、役割が定義されていないときだけです。逆に言えば、定義さえすれば、残ることはむしろプラスに働きます。
決めるべき4つのこと
次の4つを、代表交代の前に決めてください。できれば書面にします。
- 役割:何を担当し、何を担当しないか
- 権限:どこまで自分で決めてよいか
- 頻度:週何日、どの時間帯に来るか
- 期間と報酬:いつまで、いくらで
役割:やることを絞る
残る役割としてうまく機能しやすいのは、次のようなものです。
- 主要取引先への同行訪問(後継者が主、先代が従)
- 金融機関との関係の橋渡し
- 技術的な相談への助言(求められたときだけ)
- 業界団体・地域との付き合い
逆に、避けたほうがよいのは次です。
- 製造現場への直接の指示
- 価格や取引条件の決定
- 人事に関する判断
- 従業員からの相談を直接受けること
特に最後の1つが重要です。従業員が後継者を飛ばして先代に相談する構図ができると、後継者は組織を動かせなくなります。「相談されたら、後継者に話すよう促す」と決めておいてください。
権限:意思決定には入らない
助言はする、決定はしない。この線引きが基本です。取締役として残る場合でも、実質的な決定権は後継者に集約させます。
株式を全部渡していない場合は、ここが曖昧になりがちです。株を持っている以上、いざとなれば覆せるという状態は、後継者にとって重い制約になります。移転の時期を含めた設計は事業承継計画書の作り方で扱っています。
頻度:毎日行かない
実務的にいちばん効くのが、これです。毎日出社すると、どうしても現場に口を出します。週1〜2日、時間帯も決めておくことをおすすめします。
「相談があるときに呼んでもらう」という形にできれば理想的です。後継者の側から声をかける構図になると、関係が健全に保たれます。
期間:終わりを決める
最も忘れられがちなのが、いつまでかを決めることです。期限がないと、なんとなく続いてしまいます。
目安としては、親族内・社内承継で1〜3年、M&Aの場合は買い手との合意によりますが半年〜2年程度が一般的です。延長するかどうかは、期限が来たときに改めて話す——この形にしておくと、双方が切り出しやすくなります。
報酬:役割に見合った額にする
顧問報酬は、実際の役割に見合った額にします。現役時代と変わらない報酬のまま残ると、会社の収益を圧迫するうえ、従業員から見ても納得感がありません。
引退後の生活資金は、顧問報酬ではなく退職金や譲渡対価で確保するのが本筋です。引退後の生活資金をどう作るかを参照してください。
決めたことを従業員に伝える
最後に、決めた内容を従業員にも共有します。「先代は週2日来られますが、業務の指示は新社長からです」と明示するだけで、現場の迷いがなくなります。
より具体的なルールの作り方は先代が会社に残るときのルール作りにまとめています。