計画書は5項目でよい

立派な冊子を作る必要はありません。次の5項目が入っていれば、計画書として機能します。

  1. 会社の現状(数字と課題)
  2. 承継の方針(誰に、いつ)
  3. 年次のスケジュール
  4. 株式と資産の移転計画
  5. 課題への対応策

A4で3〜5枚。これで十分です。

1. 会社の現状

直近3期の売上・利益・借入残高に加えて、食品製造業なら次を入れます。

  • 品目別の売上と粗利(上位10品目程度)
  • 取引先の構成比(上位5社で何%か)
  • 主要設備の導入年と更新見込み
  • 従業員の年齢構成と、技能保有者の状況
  • 営業許可の種類と、衛生管理の体制

ここは都合の悪い数字も入れることが重要です。課題が書いていない計画書は、読む側から見て信用できません。

同じ項目でも、書き方で伝わり方が変わる

計画書が機能するかどうかは、分量ではなく具体性で決まります。同じ項目を、弱い書き方と伝わる書き方で並べてみます。

項目弱い書き方伝わる書き方
現状「売上は横ばい、収益は厳しい」「売上◯億で横ばい。上位10品目で売上の◯割。うち3品目は限界利益が出ていない」
方針「長男に継がせる予定」「長男に、20XX年に代表交代。株式は3年かけて移転。本人の同意は取得済み」
課題「人手不足」「配合を把握しているのは製造部長1名。2年以内に文書化し2名へ展開する」
設備「設備が古い」「冷凍機は導入◯年目。更新の見積もり◯万円。補助金の公募に合わせて検討」
資金「税金が心配」「株式評価◯万円、贈与税の想定◯万円。納税資金は退職金で手当てする」

右の列に共通しているのは、数字と期限が入っていることです。数字が入ると、読む側が検証できます。期限が入ると、次に何を確認すればよいかが分かります。

数字が出せない項目があれば、それ自体が課題です。「品目別の採算が出せない」と書いて、対応策に「原価管理を整備する」と書けば、計画書として成立します。

2. 承継の方針

誰に、いつ、どの方式で承継するかを1〜2行で書きます。「長男 ◯◯ に、20XX年に代表を交代し、株式は3年かけて移転する」といった形です。

まだ決まっていない場合は、「候補は2つあり、20XX年までに決定する」と書けば構いません。決まっていないことを、決まっていないと書くほうが計画書として正直です。

3. 年次のスケジュール

横軸に年、縦軸に「会社」「先代」「後継者」の3行を取った表が分かりやすい形です。

会社先代後継者
1年目品目別原価の整備代表/全般製造現場
2年目設備更新(包装ライン)代表/対外原価管理を担当
3年目価格改定の実施代表/金融機関取締役就任・取引先同行
4年目保証解除の協議会長へ代表就任
5年目顧問(週2日)株式移転完了

この表があると、後継者育成と会社の施策と株式の移転が、同じ時間軸に乗ります。育成の中身は後継者を育てる順序を参照してください。

4. 株式と資産の移転計画

次の項目を書きます。

  • 現在の株主構成(少数株主がいれば、その扱い)
  • 移転の方法(贈与・譲渡・相続)と時期
  • 想定される税負担と、その資金
  • 個人名義になっている工場・土地・設備の扱い
  • 個人保証の解除の見通し

食品製造業では、工場や土地が個人名義のままになっている例が多くあります。承継後も賃貸で残すのか、会社に移すのか。ここを空欄にしないでください。個人名義の設備・車両・土地をどう整理するかで扱っています。

5. 課題への対応策

1で書いた課題ごとに、いつ何をするかを1行で書きます。

  • 「A社への依存度が◯%」→ 3年で新規販路を2社開拓する
  • 「配合が製造部長のみ把握」→ 2年以内に文書化し、2名に展開する
  • 「冷凍機が導入から◯年」→ 補助金の公募に合わせて更新を検討する

この対応策こそが、計画書の中心です。課題と対応策が対になっていれば、金融機関にも後継者にも伝わります。金融機関への説明で、どこを見られるかを整理しています。

誰に見せるかで、出し方を変える

計画書は1つ作れば足りますが、見せる相手によって重点が変わります。全部を同じように見せる必要はありません。

  • 後継者:課題と対応策が中心です。何を引き受けることになるのかを、良い面も悪い面も含めて共有します。ここを隠すと、承継後に不信が残ります。
  • 金融機関:数字の裏付けと、借入・保証の見通しが中心です。年次のスケジュールと、返済計画との整合が見られます。
  • 家族:株式と資産の移転、相続との関係が中心です。会社を誰が経営するかと、財産をどう分けるかを分けて説明します。
  • 従業員:計画書そのものを見せる必要はありません。方針が固まった段階で、必要な部分だけを口頭で伝えます。

金融機関に見せることには、副次的な効果があります。計画を共有している会社は、支援の相談がしやすくなります。承継に関する制度の活用や、保証の扱いの協議も、計画があるほうが進みます。

作った後は毎年見直す

計画書は一度作って終わりではありません。年に1回、実績と照らして更新します。予定どおり進まなかったことを消さずに残すのがコツです。何が遅れているかが見えると、次の一手が決まります。

年に一度、どう見直すか

更新の作業は1〜2時間で終わります。決算が固まった後に、次の順で見てください。

  1. スケジュール表の実績を書き込む:予定どおり進んだもの、遅れたもの、やらなかったものを分けます。
  2. 遅れの理由を1行で書く:忙しかった、判断できなかった、前提が変わった。理由によって次の手が変わります。
  3. 現状の数字を更新する:売上、利益、借入、取引先構成、設備の年数。1年分進んでいます。
  4. 課題の一覧を見直す:解消したもの、新しく出てきたもの。
  5. 引退時期を確認する:変わっていないか。変わっているなら、全体を引き直します。

コツは、遅れた項目を消さずに残すことです。3年続けて同じ項目が遅れているなら、それは「やる気がない」のではなく「その方法では進まない」というサインです。担当を変える、外部の手を借りる、あるいは優先度を下げると決める。判断の材料になります。

よくある質問

Q. 承継の方針がまだ決まっていません。計画書は作れますか。 A. 作れます。「候補は2つあり、20XX年までに決定する」と書けば構いません。決まっていないことを、決まっていないと書くほうが計画書として正直です。むしろ、決まっていない項目に期限を入れることが、計画書を作る目的のひとつです。

Q. 認定支援機関や金融機関に見せる前提で作るべきですか。 A. まず自社のために作ってください。誰かに見せるために作ると、都合の悪い数字が落ちます。課題が書かれていない計画書は、読む側から見ても信用されません。自社用に作ったものから、相手に応じて出す部分を選べば十分です。

Q. 何ページくらいが適切ですか。 A. A4で3〜5枚です。それ以上になると、作るのも見直すのも負担になり、続きません。詳細は別紙にして、本体は全体が見渡せる分量に保ってください。

Q. 個人名義の工場や土地は、どう書けばよいですか。 A. 現状(誰の名義か、会社がどう使っているか、賃料はいくらか)と、承継後どうするか(賃貸で残す/会社に移す/売却する)を書きます。ここを空欄にしたまま進めると、承継の直前に大きな論点として戻ってきます