個人事業の場合

譲れるのは「事業」であって「会社」ではない

個人事業には株式がありません。したがって株式譲渡という形は取れず、事業譲渡になります

個人事業で食品製造をしている方が売却を考えるとき、譲る対象は次のように1つずつ移していくことになります。

  • 設備・機械
  • 在庫・原材料
  • 取引先との契約
  • 従業員の雇用(あらためて雇用契約を結び直す)
  • 屋号・商標・レシピ
  • 建物・土地(賃借なら貸主の承諾が要る)

1つずつ移すため手続きは煩雑です。何を譲り、何を残すかを一覧にするところから始めてください。

営業許可は引き継げない

個人の営業許可は、その個人に紐づきます。譲受側が自分で許可を取る必要があります。施設が同じでも自動的には移りません。

相続の場合は地位の承継として届け出る仕組みがありますが、生前の譲渡では扱いが変わります。必ず保健所に相談してください営業許可は承継でどうなるか業種別の営業許可と承継を参照。

税金の扱いが違う

個人事業の譲渡では、譲った資産の種類によって課税の扱いが変わります。会社の株式を売る場合とは計算が違うため、手取りの見込みは早めに税理士に確認してください税理士とどう連携するかを参照。

個人経営の食品工場をどう継ぐか

親族が継ぐ場合

「親の代からやっている工場を子が継ぐ」場合でも、手続き上は新しく事業を始めるのと同じになります。

  1. 後継者が営業許可を取る(または地位承継の届出)
  2. 食品衛生責任者を置く
  3. 開業の届出をする
  4. 取引先との契約を結び直す
  5. 設備や在庫の引き継ぎ方を決める(贈与か売買か)

5番目は、贈与税や所得税に関わります。「なんとなく渡す」と、あとで税務上の問題になることがあります

第三者に譲る場合

規模が小さいと仲介会社は動きにくいのが実情です。小規模事業者の承継で、公的な窓口やマッチングの使い方を扱っています。

有限会社の場合

有限会社は今も存在する

法改正で新しく作ることはできなくなりましたが、既存の有限会社はそのまま続けられます。特例有限会社という位置づけです。

有限会社で食品製造を営んでいる場合の売却は、株式会社と同じく持分(株式)の譲渡でできます。個人事業と違い、法人格が変わらないので営業許可も続くのが基本です。

ただし確認すること

  • 定款に譲渡制限があるのが通常。譲渡には承認の手続きが要る
  • 株主名簿が整備されていないことがある
  • 名義だけの株主が残っていることがある
  • 登記が古いまま更新されていないことがある

4番目は見落とされがちです。役員の任期や住所が古いままだと、手続きの途中で止まります。定款を点検する名義株の整理を参照してください。

法人成りを挟むか

個人事業のままだと譲りにくいので、先に法人化してから譲るという考え方があります。

利点

  • 株式譲渡の形が取れ、手続きが簡単になる
  • 営業許可が法人に紐づくため、譲渡時に取り直しが不要になる
  • 買い手の候補が広がる

注意

  • 法人化しても、そのときに許可を取り直す必要がある
  • 設備や在庫を法人に移す際の税務が発生する
  • 社会保険への加入義務が生じる(社会保険の適用
  • 法人化してすぐ譲ると、かえって不自然に見られることがある

譲渡の直前に慌てて法人化するのは勧められません。数年先を見て決めるなら、選択肢として検討する価値があります。税務と手続きの両面があるので、税理士と保健所の両方に確認してください。

規模が小さくても道はある

個人事業でも有限会社でも、作り方・売り先・数字・許可の4つが揃っていれば、引き取り手は探せます

逆に、これが揃っていないと「継ぎたい」と言う人が現れても継げません。地域の名物メーカーをどう残すかで、渡せる形の整え方を示しています。

※ 契約の内容や必要な手続きは個別の事情によって異なります。税務や法務の取扱いも制度改正で変わることがあります。実際の判断にあたっては、契約書を確認のうえ、専門家にご相談ください。