制度化されたことの意味

食品衛生法の改正により、原則としてすべての食品等事業者に、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理が求められるようになりました。規模や業種に応じて、HACCPに基づく衛生管理と、手引書を活用したHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のいずれかを行うこととされています。

実務上の要点は、「衛生管理計画をつくり、そのとおりに実施し、記録し、必要に応じて見直す」という循環が回っているかどうかです。承継の場面で見られるのも、まさにこの循環です。

買い手が確認する5つのこと

  1. 衛生管理計画が実態に合っているか 手引書をそのまま綴じただけになっていないか。自社の工程・商品に合わせて具体化されているか。
  2. 記録が継続して残っているか 温度、洗浄、従業員の健康状態など、日々の記録が途切れていないか。まとめ書きになっていないか。
  3. 逸脱時の対応が決まっているか 基準を外れたときに誰が何をするかが決められ、実際に発動した記録があるか。
  4. 教育が行われているか 新入社員・外国人材を含め、理解できる形で教育・掲示がされているか。
  5. 行政対応・苦情・回収の履歴 過去に何があり、その後どう改善したか。

「完璧でないと不利」ではない

ご相談の場でよく伺うのが、「うちはHACCPが不十分だから、M&Aなんて無理だろう」という言葉です。しかし実際には、中小の食品工場で完全に整っている例のほうが少数です。

買い手が本当に嫌うのは、不備そのものではなく「把握できていないこと」です。何ができていて何ができていないかを自社で説明でき、是正の方針と時間軸を示せれば、それは減点ではなく、むしろ管理能力の証明になります。

逆に、「問題ありません」と説明したあとで買収監査から想定外の指摘が出ると、信頼が損なわれ、条件が大きく動きます。

取引先監査という、もう一つの関門

大手小売や大手メーカーと取引がある場合、行政の基準とは別に、取引先独自の工場監査基準が課されていることがあります。承継の際には、この監査を新体制で改めて受け直す必要が生じることがあります。

監査の頻度、直近の評価結果、指摘事項と改善状況は、そのまま買い手への説明材料になります。取引先ごとの監査記録を一箇所に集めておくだけでも、承継準備として意味があります。

FSSC22000などの任意認証をどう扱うか

FSSC22000やISO22000といった任意の認証は、取得していれば取引の間口が広がり、承継の場面でもプラスに働きます。ただし認証には維持コストと更新審査が伴います。

承継の検討にあたっては、認証の有効期限、次回審査の時期、承継に伴う組織変更が認証にどう影響するかを、認証機関に確認しておく必要があります。

承継前に整えるなら、この順で

  1. 衛生管理計画を、自社の工程に合わせて書き直す
  2. 記録の様式を簡素化し、確実に毎日残る形にする
  3. 逸脱時の手順を明文化し、責任者を決める
  4. 過去の行政対応・苦情・回収を時系列で一覧にする
  5. 取引先監査の結果と改善状況をまとめる

いずれも、承継のためだけの作業ではありません。日々の事故を防ぎ、回収リスクを下げる取り組みそのものです。食品表示と回収リスクもあわせてご覧ください。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。衛生管理に関する具体的な要求事項・運用は、法令の改正や管轄行政庁の運用、取引先の要求によって異なります。実際の対応にあたっては、管轄の保健所等および専門家にご確認ください。