会社分割とは
会社の事業の一部を、切り出して別の会社に承継させる手法です。切り出した事業を既にある会社に渡すのが吸収分割、新しく作った会社に渡すのが新設分割です。
事業譲渡と似ていますが、大きな違いは包括的に承継される点です。事業譲渡では契約を一つずつ移す必要があるのに対し、会社分割では分割計画に定めた範囲がまとめて移ります。
運送業で使われる場面
1. 事業の一部だけを譲る
運送部門と倉庫部門の両方を持つ会社で、倉庫だけを残して運送を譲る(またはその逆)といったケースです。買い手が片方だけを求めている場合に選ばれます。
2. 不動産を手元に残す
車庫や倉庫の土地建物を社長個人や別会社に残し、事業だけを譲る形です。不動産を含めると価格が上がりすぎて買い手が付かない、という場合の解決策になります。ただし、譲渡後もその土地を使い続ける契約をどう結ぶかが論点になります。
3. 事業に関係のない資産を切り離す
投資用不動産、ゴルフ会員権、事業と無関係な子会社。こうしたものを分割で切り出してから株式を譲渡する、という組み合わせもあります。
4. グループ内の再編
複数の運送会社を持つグループで、機能ごとに整理し直す場面でも使われます。
許認可の扱いに注意
ここが運送業で最も重要な論点です。一般貨物自動車運送事業の許可は、会社分割によって当然に移るとは限りません。分割によって事業を承継する場合の取扱いは、事前の認可が必要となるなど、株式譲渡とはまったく異なる手続きになります。
手続きに要する期間も読みにくいため、会社分割を検討する時点で行政書士など専門家に確認することが不可欠です。ここを詰めずに進めると、想定より半年以上遅れることがあります。運送事業の許可は引き継げるかもご覧ください。
雇用はどうなるか
分割される事業に従事している従業員は、原則としてその事業とともに承継されます。ただし、労働者の保護のために事前に通知し、異議を申し出る機会を与える手続きが法律で定められています。
この手続きを飛ばすことはできません。従業員への説明のタイミングを含め、スケジュールに織り込んでください。従業員の雇用と処遇はどうなるかもあわせてご覧ください。
債権者への対応
会社分割では、債権者が異議を述べる機会を設ける手続き(債権者保護手続)が必要です。官報への公告と、知れている債権者への個別催告を行います。
運送会社の場合、金融機関とリース会社への説明が実務上の山場になります。借入やリースの契約に、組織再編を制限する条項が入っていることもあるため、事前確認が必要です。
手続きの重さ
株式譲渡と比べると、明らかに重い手続きです。
| 株式譲渡 | 会社分割 | |
|---|---|---|
| 会社の許認可 | そのまま残る | 個別に手続きが必要 |
| 契約の移転 | 不要(会社は同じ) | 包括承継(一部は同意が必要) |
| 債権者保護手続 | 不要 | 必要 |
| 労働者の保護手続 | 不要 | 必要 |
| 登記 | 役員変更のみ | 分割の登記が必要 |
| 期間の目安 | 短い | 数か月以上 |
それでも会社分割を選ぶとき
次のいずれかに当てはまるなら、検討の価値があります。
- 買い手が事業の一部だけを求めている
- 不動産を含めると価格が折り合わない
- 事業に関係のない資産が大きく、切り離したい
- 複数事業を別々の相手に譲りたい
逆に、会社まるごとを一社に譲るなら、株式譲渡のほうが圧倒的に簡単です。株式譲渡と事業譲渡の違いで基本を整理しています。
税務の取扱い
会社分割には、一定の要件を満たすと課税が繰り延べられる仕組みがあります。ただし要件は細かく、満たさない場合の税負担は大きくなります。手法を決める前に必ず税理士に確認してください。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
分ける前に確かめること
事業を切り分けるという発想が出てきたら、まず確かめてほしいことがあります。分けた後、それぞれが単独で成り立つのかという一点です。
運送会社では、複数の拠点や事業が互いに支え合っていることがよくあります。人の応援、車両の融通、間接部門の共有、まとめて仕入れることで得ている条件。分けると、これらが失われます。
- 仕入れの条件(燃料、タイヤ、保険をまとめて契約している場合)
- 人の融通(繁忙期の応援、欠員が出たときの穴埋め)
- 間接部門(経理・労務を各社で持つと、全体の負担は増えます)
- 金融機関との関係(借入と保証をどう分けるかは、必ず事前の相談が要ります)
- 荷主との関係(複数拠点で受けている仕事を分けられるか)
分けた結果、どちらも小さくなって立ち行かなくなるのが最も避けたい結末です。感情ではなく、分けた後それぞれが回るのかという一点で判断してください。
不動産を残す場合の考え方
車庫や営業所の土地を手元に残したいという希望は、よく聞きます。理由は主に二つで、不動産を含めると価格が折り合わない場合と、賃料収入として持ち続けたい場合です。
ただし、車庫は許可の要件に関わります。事業を譲った先が、その土地を使い続けられなければ、事業そのものが成り立ちません。したがって、残す場合は賃貸借契約をセットで結ぶことになります。
このとき、契約の期間と条件が論点になります。買い手から見れば、車庫を貸してもらえなくなると事業が止まるため、長期の安定した契約を求めます。一方、貸す側としては、将来の選択肢を残しておきたい。ここをどう折り合わせるかは、交渉になります。
賃料の水準も確認されます。実勢と大きく離れていると、その差額が実質的な条件の一部として扱われます。
許認可の手続きが日程を決める
会社分割で運送事業を移す場合、認可の手続きが必要になります。審査に一定の期間がかかるため、この期間が全体の日程を左右します。
加えて、営業所や車庫の届出も、移転先の法人で改めて必要になります。運行管理者と整備管理者の選任も同様です。手続きの数が多く、抜けがあると事業が止まります。
スキームを決める段階で、管轄の運輸支局に事前相談をしておいてください。必要な書類と、おおよその期間の見当がつきます。そのうえで、日程には余裕を織り込みます。
従業員の扱いで踏む手順
会社分割では、分割の対象に含まれる従業員は原則としてそのまま移ります。ただし、手続きのなかで従業員への通知や協議が求められ、決まった段取りを踏む必要があります。
実務上、難しいのは「誰が移り、誰が残るのか」を決める場面です。拠点ごとに分けるなら明確ですが、間接部門の人員や、複数拠点にまたがって働いている人については判断が要ります。
本人の希望と、事業の必要と、受け入れ側の体制。三つを踏まえて決めることになりますが、決めた後の説明が最も大切です。なぜその区分になったのかを、本人が納得できる形で伝えてください。
債権者への手続き
会社分割では、債権者が異議を述べる機会を設ける必要があります。公告と、場合によっては個別の催告が求められ、一定の期間を確保しなければなりません。
実務では、金融機関との事前の調整が欠かせません。借入をどちらの法人が引き継ぐのか、保証はどうなるのか。分割の内容によっては、金融機関の同意が前提になります。
リース会社との調整も同様です。車両のリース契約を移す場合、貸主の承諾が必要になることがあります。台数が多いほど、確認に時間がかかります。
費用と手間をどう見るか
会社分割は、株式譲渡に比べて手続きが重く、専門家への費用も増えます。弁護士、税理士、司法書士、行政書士。関わる人数が増えれば、そのぶん費用も期間もかかります。
それでも選ぶ理由があるとすれば、他の方法では実現できない場合です。買い手が事業の一部だけを求めている、不動産を含めると価格が折り合わない、複数の事業を別々の相手に譲りたい。こうした事情があるなら、手間をかける意味があります。
逆に、単に「そのほうがよさそう」という程度の理由であれば、株式譲渡で進められないかを先に検討してください。手続きが軽いほど、日程も費用も読みやすくなります。
買い手の側から見た会社分割
買い手にとって、会社分割には利点があります。引き継ぐ範囲を限定できるため、簿外の負担を負うリスクを抑えられるからです。事業の一部だけが欲しい場合にも、この方法が使えます。
一方で、手続きが重く、許認可の取り直しに時間がかかり、契約の移転にも手間がかかります。買い手としても、株式譲渡で済むならそのほうが楽です。分割を求めてくる場合には、それだけの理由があるということです。
理由を聞いてみてください。簿外債務への懸念であれば、開示と手当てで解消できる余地があります。事業の一部だけが欲しいのであれば、譲る範囲の話になります。理由が分かれば、対話の仕方も変わります。
他の方法と比べる
一部だけを譲りたい場合、会社分割のほかに事業譲渡という方法もあります。どちらを選ぶかは、移す対象の範囲と、契約や雇用の扱いによって変わります。
事業譲渡では、契約も雇用も個別に移すことになります。相手方の同意が必要で、従業員とは新たに雇用契約を結び直します。数が多いほど手間がかかります。
会社分割であれば、対象に含まれるものは包括的に移ります。ただし、手続きの段取りは決まっており、債権者への対応も必要です。
どちらが適しているかは、契約の数、従業員の人数、移す資産の内容によります。専門家を交えて、自社の場合にどうなるかを具体的に確かめてください。
従業員への説明で気をつけること
会社が分かれるということは、従業員から見れば所属する会社が変わるということです。仕事の中身が同じでも、名刺の会社名が変わり、給与の振込元が変わります。
説明では、なぜ分けるのか、何が変わり何が変わらないのかを丁寧に伝えてください。とくに、雇用条件、勤続年数の扱い、退職金の扱い、有給休暇の残日数。この四つは必ず聞かれます。
移る人と残る人が分かれる場合は、区分の理由を説明できるようにしておいてください。納得できない区分は、後から不満として残ります。
時間の見積もりを甘くしない
会社分割は、決めてから実行まで半年から一年を見ておくのが現実的です。手続きの段取り、債権者への対応、許認可の手続き、税務の検討。それぞれに期間が要ります。
譲渡と組み合わせる場合は、さらに時間がかかります。分割を終えてから譲渡の手続きに入るのか、並行して進めるのか。設計によって全体の日程が変わります。
時期に制約があるなら、この方法が現実的かどうかを最初に確かめてください。間に合わないと分かってから方針を変えると、それまでの検討が無駄になります。
相談の入口
会社分割を検討するとき、最初に確かめたいのは「本当にこの方法でなければならないのか」です。株式譲渡で進められないか、事業譲渡のほうが早くないか。方法を先に決めてから相談すると、他の道が見えなくなります。
相談の場では、何を譲りたいのか、何を残したいのか、いつまでに終えたいのか。この三つを伝えてください。方法は、そこから逆算して決まります。
方法が決まっていない段階でも構いません。むしろ、決めていないほうが選択肢を広く検討できます。
実際に使われている形
運送会社の案件で会社分割が選ばれるのは、限られた場面です。多いのは、車庫や倉庫の不動産を手元に残したい場合と、複数の拠点のうち一部だけを譲りたい場合です。
不動産を残す形では、譲渡の価格を抑えられる一方、賃貸借の条件が長く続く関係になります。貸す側としては安定した収入になりますが、将来売却したくなったときに買い手が付いている状態であることも意味します。
拠点を分ける形では、残した拠点で事業を続けることになります。規模が小さくなったときに、間接部門や仕入れの条件がどうなるかを、事前に見積もっておいてください。
まとめ
会社分割は、事業の一部を切り出したいときの有力な手法です。ただし運送業では許認可の扱いが最大の論点であり、債権者保護・労働者保護の手続きも必要です。まず許認可の可否と期間を確認するところから始めてください。