まずIT資産を棚卸しする
使っているシステム・サービスを、すべて一覧にしてください。
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 名称 | 何のシステムか |
| 契約者 | 法人か、社長個人か |
| 契約形態 | 買切り、月額、リース |
| 費用 | 月額・年額 |
| 契約期間 | 更新時期、解約条件 |
| データの保管 | 自社サーバー/クラウド |
| 管理者 | 社内で誰が把握しているか |
対象になるのは次のようなものです。
- 配車・運行管理システム(配車システムの選び方)
- デジタコ、動態管理(動態管理の活用)
- 倉庫管理システム(WMS導入の効果と落とし穴)
- 会計・給与・勤怠
- グループウェア、メール
- ドメイン、ホームページ
- クラウドストレージ
- 携帯電話、通信回線
- 各種のWebサービス
この一覧づくりは、承継の準備のなかでも取りかかりやすい部類です。費用もかからず、専門家に頼まなくても自社で作れます。それでも作っていない会社が多いのは、日々困っていないからでしょう。
作り始めると、把握していなかった契約が出てくることがあります。前の担当者が契約したまま使っていないサービス、更新の時期がわからない契約、誰も内容を知らない仕組み。これらを見つけること自体に価値があります。
集める方法としては、口座の引き落としとカードの明細を見るのが確実です。毎月引き落とされているものを追えば、契約の全体が見えます。担当者の記憶に頼ると、必ず漏れます。
一覧ができたら、更新の時期を一覧に並べてください。いつ何が更新されるかがわかっていれば、見直しの機会を逃しません。
社長個人名義の契約に注意
実務で最も多い問題です。
- ドメイン、ホームページの契約
- クラウドサービスのアカウント
- 携帯電話
- アプリのライセンス
社長が退けば、これらが会社から失われます。 支払いも社長個人のクレジットカードになっていることがあります。
この状態は公私混同の解消が最優先である理由で述べた論点そのものです。承継の準備として、法人名義に切り替えてください。
この問題が起こる理由は単純で、始めたときに個人で契約するのがいちばん早かったからです。会社の手続きを待たずに、その場で登録できる。悪意はなく、便宜のために生じています。
しかし、承継の場面では深刻な問題になります。ドメインが個人名義なら、社長が退いた後にホームページが使えなくなる可能性があります。支払いが個人のカードなら、そのカードが止まった時点でサービスも止まります。
切り替えの手順は、サービスによって違います。名義の変更ができるものもあれば、いったん解約して契約し直す必要があるものもあります。後者の場合、データが引き継げるかを先に確認してください。
切り替えには時間がかかるものもあります。特にドメインは、手続きに日数を要することがあります。承継の話が具体化してから始めるのでは間に合わないため、早めに着手してください。
ライセンスの移転
株式譲渡なら会社は変わらないため、多くの場合そのまま継続します。ただし次は確認が必要です。
- 契約にチェンジオブコントロール条項がないか(チェンジオブコントロール条項)
- 再販・グループ利用の制限がないか
- ユーザー数・車両台数による課金の場合、統合後の費用
事業譲渡・会社分割では、契約を移す手続きが必要になります。ベンダーの同意が要る場合もあります。
株式を譲る形なら会社は変わらないため、原則としては契約もそのまま残ります。だからといって確認を省くと、後で問題が出ることがあります。
特に見ておきたいのが、株主が変わったときの扱いを定めた条項です。この定めがあると、相手の同意が要る場合があります。契約書を一度読み、該当する記載がないかを確かめてください。
台数や人数で料金が決まる契約も、注意が要ります。統合によって台数が増えると、料金の区分が変わることがあります。買い手にとっての費用が増えるため、条件の話に影響する可能性があります。
事業を分けて移す形の場合は、契約ごとに手続きが必要になります。数が多いと、それだけで時間がかかります。一覧があれば、必要な手続きの量も見積もれます。
データの所有権と取り出し
クラウドサービスを使っている場合、データを取り出せるかを確認してください。
- 解約時にデータをどう受け取れるか(形式、期限)
- 過去データの保管期間
- データの所有権が誰にあるか(契約条項)
M&A後にシステムを切り替える場合、過去の運行実績・請求データが取り出せないと困ります。
過去のデータが必要になる場面は、承継のときだけではありません。荷主から過去の運行について問い合わせを受けたとき、労務の記録を確認する必要が生じたとき。手元にないと答えられません。
だから、保管の期間は契約の段階で確認しておく価値があります。何年分が残るのか、それを超えた分はどうなるのか。必要な期間より短いなら、自社で保管する仕組みが要ります。
アカウントとパスワード
意外に深刻な問題です。
- 管理者アカウントを誰が持っているか
- パスワードがどこに保管されているか
- 退職者のアカウントが残っていないか
- 多要素認証の受信先が個人の携帯になっていないか
社長しか知らないパスワードがあると、緊急時に業務が止まります。社長が突然倒れたらで述べた備えの一部です。
この問題は、緊急時に最も困る部分です。社長に何かあったとき、システムに入れなければ、日々の業務も止まります。しかも、パスワードは本人しか知らないことが多い。
備えとしては、管理する台帳を作ることになります。ただし、そのまま紙に書いて置いておくのは危険です。保管の方法を含めて決める必要があります。
方法としては、専用の管理の仕組みを使う、封をして金庫に保管する、複数人で分けて持つといった形があります。どれを選ぶにしても、緊急時に取り出せることと、平時には守られていることの両方が要ります。
多要素の認証を設定している場合は、その受け取り先も確認してください。社長個人の携帯に届く設定になっていると、その端末がないと入れません。会社の端末や共有の連絡先に変えておく必要があります。
退職者のアカウントについても、止める手順を決めておいてください。残ったままだと、外部から入れる状態が続きます。
統合時の論点
M&A後に買い手のシステムに統合する場合、次が課題になります。
- どちらのシステムに寄せるか
- マスタの統合(荷主コード、商品コード)
- 過去データの移行
- 現場の再教育
- 荷主とのデータ連携の作り直し(荷主とのEDI連携)
統合には時間がかかります。 急ぐと現場が混乱するため、段階的に進めるのが通例です。合併を選ぶときの注意点をご覧ください。
補助金を使ったシステム
補助金を受けて導入したシステムには、一定期間の処分制限がかかることがあります。M&Aの手法によっては影響する可能性があるため、事前に確認してください。取得財産の処分制限をご覧ください。
セキュリティ・情報管理
買い手は、次も確認します。
- アクセス権限の管理状況
- バックアップの有無
- 過去の情報漏えい事案
- 荷主との秘密保持契約への対応
個人情報・貨物情報の取扱いをご覧ください。
この四項目は、特別な体制がなくても答えられる形にしておくことが大事です。誰がどこまで見られるか、いつバックアップを取っているか、過去に問題があったか。記録があれば説明できます。
バックアップについては、取っているだけでなく、戻せるかを確認してください。取ったつもりで実際には壊れていた、という事態は起こり得ます。年に一度でも、実際に戻してみる機会を作る価値があります。
承継前に整理すること
- IT資産の一覧を作る
- 個人名義の契約を法人名義に切り替える
- 支払方法を法人のものに統一する
- アカウント・パスワードを管理台帳にまとめる(安全な方法で)
- 使っていないサービスを解約する
- データのバックアップ体制を確認する
- 社内で複数人が把握している状態にする
2番目と7番目が特に重要です。
七つのうち、二つ目の名義の切り替えと七つ目の複数人での把握が特に重要とされているのは、この二つが欠けていると会社が動けなくなるからです。他の項目は不便で済みますが、この二つは業務が止まります。
複数人で把握するというのは、単にパスワードを共有することではありません。何のためのシステムで、どう使い、誰に問い合わせるのかまで、二人以上が知っている状態を指します。
実現するには、担当を決めて引き継ぎの機会を作ることになります。年に一度、担当以外の人に説明してもらうだけでも効果があります。説明できないことが見つかれば、それが把握されていない部分です。
五つ目の使っていないサービスの解約は、費用の削減にもつながります。一覧を作ると、必ずいくつか見つかるはずです。
ベンダーとの関係を確認する
システムを導入した業者との関係も、承継の場面では確認されます。誰が窓口で、どういう条件で保守を受けているか。
特に、長い付き合いで契約書がないまま続いている場合は注意が要ります。担当者同士の関係で融通が利いていると、社長が退いた後に条件が変わることがあります。
確認したいのは、保守の範囲と費用、対応の時間帯、契約の期間です。書面がなければ、この機会に整えておく価値があります。相手にとっても、条件がはっきりするのは悪いことではありません。
あわせて、その業者が今後もサービスを続けられるかも見ておいてください。小規模な業者の場合、そちらの事業が続くかどうかが自社に影響します。代わりが利くかどうかも考えておく必要があります。
データの取り出しをどう確かめるか
クラウドのサービスを使っている場合、データが取り出せるかは契約書に書かれていることがあります。しかし、書かれていても実際にできるかは別です。
確かめる方法としては、一度実際に取り出してみるのが確実です。どういう形式で、どこまでの期間が出るのか。試してみると、想定と違うことがわかる場合があります。
取り出したデータが読める形かどうかも確認してください。特殊な形式でしか出ない場合、他の仕組みに移せません。表計算ソフトで開ける形なら、当面は使えます。
定期的に取り出して保管しておくという運用も考えられます。サービスが終了したときや、契約が切れたときの備えになります。ただし、保管する場所の安全性は確保してください。
統合を前提に整理しておく
譲渡した後に買い手の仕組みに統合される場合、こちらの情報がどう移されるかが問題になります。整理されていれば移しやすく、そうでなければ手間がかかります。
移しやすくするには、コードや区分の付け方を整えておくことが役立ちます。荷主のコード、車両の番号、品目の分類。ばらばらの付け方をしていると、統合の作業が重くなります。
とはいえ、これから全部を作り直す必要はありません。少なくとも、今どういう体系になっているかを説明できる状態にしておけば足ります。説明できれば、相手も対応を考えられます。
統合には時間がかかり、その間は現場が混乱します。だから、段階的に進めるのが通例です。急がせないこと、現場の声を聞くことが、うまく進めるうえで効きます。
整理を進める順序
最初にやるのは一覧づくりです。これがないと、他の作業も始まりません。引き落としの記録を見ながら、半日もあれば骨格はできます。
次に、名義の確認と切り替えです。個人名義のものを洗い出し、法人に切り替えられるものから順に手続きします。時間がかかるものもあるため、早く始めてください。
三つ目が、アカウントの管理です。誰が何を持っているかを整理し、保管の方法を決める。緊急時に取り出せる形にしておきます。
四つ目が、使っていないものの整理と、複数人での把握です。ここまでできれば、承継の場面で困る部分はほぼなくなります。補助を受けて導入したものがある場合は、処分に制限がかかることもあるため、手法を決める前に確認してください。
まとめ
IT資産を一覧にし、契約者が法人か個人かを確認してください。社長個人名義の契約は、承継で失われます。株式譲渡でもチェンジオブコントロール条項の有無は確認が必要です。データが取り出せるか、アカウントを複数人が把握しているかも、事前に整理しておいてください。