どういう条項か

チェンジオブコントロール(Change of Control、以下CoC)条項とは、契約当事者の株主構成や経営権が変わった場合に、相手方が契約を解除したり、事前の承諾を必要としたりする定めです。

典型的な書き方は次のようなものです。

  • 「相手方の議決権の過半数を有する者に変更が生じたとき、本契約を解除することができる」
  • 「支配権に変更が生じる場合、事前に書面による承諾を得なければならない」
  • 「経営権の異動があった場合、速やかに通知しなければならない」

解除できるのか、承諾が必要なのか、通知で足りるのか。効果の強さは条項によって違います。

運送会社でどんな契約に入っているか

  • 大手荷主との基本運送契約:最も多く、最も影響が大きい
  • リース契約:車両、フォークリフト、事務機器
  • 借入・保証に関する契約:金融機関との約定
  • 賃貸借契約:車庫、倉庫、事務所
  • 元請との協力会社契約
  • システム・サービスの契約

特に注意が必要なのは荷主との契約です。売上の柱を失う可能性があるため、買い手も最も気にします。

見落とすと何が起きるか

  1. クロージング後に解約を通告される:主要荷主を失う
  2. 契約違反になる:承諾を得ずに株式を譲渡した場合
  3. 表明保証違反として補償を求められる:買い手に告げていなかった場合(表明保証とは何か
  4. クロージングが延期になる:同意取得に時間がかかる
  5. リースの期限の利益を失う:一括返済を求められる可能性

確認の方法

1. 契約書を集める

まず、会社が当事者になっている契約を物理的に集めます。紙も電子も一箇所に。法務デューデリジェンスと契約書の棚卸しで、棚卸しの手順を整理しています。

2. 条項を探す

見出しは「解除」「契約の終了」「権利義務の譲渡」「届出事項」などに紛れています。次のキーワードで探してください。

  • 支配権、経営権、議決権
  • 株主の変更、資本構成
  • 合併、会社分割、事業譲渡
  • 役員の変更

3. 一覧表にする

項目記録する内容
相手方荷主名、リース会社名など
契約の種類運送基本契約、リース、賃貸借
条項の有無あり/なし/不明(契約書がない)
効果解除可能/事前承諾/通知のみ
売上規模その取引の年間売上
対応誰が、いつ、どう対応するか

売上規模を入れるのがポイントです。影響の大きい順に対応できます。

同意をどう取るか

タイミングが難しい

同意を求めるということは、M&Aを検討していることを相手に伝えるということです。早すぎれば情報が広がり、遅すぎればクロージングに間に合いません。

一般的な進め方は次です。

  1. 最終契約の交渉と並行して、対象となる契約を特定する
  2. 最終契約では、「主要な契約について同意を得ること」をクロージングの前提条件に置く
  3. 最終契約の締結後、クロージングまでの間に同意を取得する
  4. 取得できない場合の扱いを、あらかじめ契約で定めておく

誰が説明に行くか

荷主への説明は、現社長が行くのが基本です。買い手の担当者が突然来ると、荷主は不安になります。「今後も運行体制は変わらない」ことを、これまでの関係の中で伝えるのが最も効果的です。

荷主への引き継ぎ挨拶と信頼の移し方で、伝え方を整理しています。

断られた場合

  • 条件を変更して再交渉する(運賃、期間)
  • その取引を失う前提で、価格を見直す
  • 取引の縮小を織り込んで進める
  • 買い手を変える(同業への譲渡を荷主が嫌う場合など)

最後の点は実際にあります。荷主が特定の同業への譲渡を嫌うケースでは、候補選びの段階から考慮する必要があります。同業に売るか、異業種に売るかをご覧ください。

契約書がない場合

そもそも契約書がなければ、CoC条項もありません。この点だけを見れば有利ですが、条件全体が曖昧という別のリスクがあります。

買い手からは「取引条件が読めない」と評価されるため、結局は不利に働きます。荷主との契約書を整えるをご覧ください。

平時にやっておくこと

  1. 契約書を一箇所にまとめる
  2. 一覧表を作り、年1回更新する
  3. 新規に契約を結ぶときは条項を確認する:交渉できる場合もあります
  4. 自動更新の契約は、更新時に内容を見直す

この作業は、承継でもM&Aでも、あるいは何もなくてもリスク管理として意味があります

手法を変えれば避けられるのか

株式を譲る形で条項に引っかかるなら、事業を譲る形にすれば済むのではないか。よく出る発想ですが、そう単純ではありません。

事業を移す形では、契約そのものを相手に引き継いでもらう必要があります。つまり、支配権の変更を理由とする条項がなくても、契約を移すことについて相手の同意が要ります。避けたつもりが、より広い同意が必要になることがあります。

会社を分ける形でも、契約の内容によっては相手への通知や同意が求められます。どの契約がどう扱われるかは、条項の書き方によって変わるため、一律には言えません。

だから、条項があるから手法を変えるという順番ではなく、まず契約を一覧にして、それぞれがどの手法でどう扱われるかを確認する順番にしてください。手法を先に決めると、後から動かせなくなります。

そして、この確認は買い手側も同じことをします。こちらが把握していない事実が調査で出てくると、条件の見直しにつながります。先に整理しておくほうが有利です。

親族への承継でも条項は効くか

条項の対象は、外部への譲渡だけとは限りません。親族に株式を移す場合や、相続で株主が変わる場合にも、書き方によっては該当します。

「議決権の過半数を有する者に変更が生じたとき」という書き方であれば、相手が誰であるかは問いません。社長が子に株式を移せば、その時点で該当します。

実務では、親族内の承継で相手方が解除に踏み切ることはあまりありません。ただし、通知や承諾の手続きが定められている以上、それを踏まないと契約違反という状態が残ります。後で問題になるのは、この点です。

だから、親族内で株式を移すときも、契約の一覧を確認してください。通知だけで足りる契約なら、手間はわずかです。放置して契約違反の状態を作るほうが、はるかに面倒です。

相続で株主が変わる場合も同じです。相続の後に通知が必要な契約があるなら、手続きの一覧に加えておいてください。

「不明」の欄をどう潰すか

一覧表に「不明(契約書がない)」という欄を作ると書きました。この欄が多く残ったままだと、一覧の意味が薄れます。

まず、社内をもう一度探してください。契約書は、経理、営業、社長の手元に分散していることがあります。締結が古いものほど、経緯を知る人が退職していて所在が分からなくなります。

それでも見つからないときは、相手に写しを求めてください。「社内の書類を整理しているので、控えをいただけますか」という頼み方なら、不自然ではありません。相手側も保管しているのが普通です。

ここで注意したいのは、頼み方によっては何かあるのかと勘ぐられることです。承継の話が動いている時期に一斉に求めると、目立ちます。平時のうちに済ませておくほうが安全です。

そして、探した結果として本当に契約書が存在しない取引は、そのように記録してください。「探したがなかった」と「探していない」は、意味が違います。前者は事実として説明できます。

金融機関とリースは順番が違う

借入やリースの契約にも条項が入っていることがあると書きました。荷主との違いは、説明の順番と、断られたときの影響です。

金融機関は、株主が変わることを重く見ます。保証の前提が変わるからです。個人保証が付いている場合は、誰が保証を引き継ぐのかという話に必ずなります。だから、荷主より早い段階で相談する会社が多くあります。

リースは、契約の本数が多く、相手も複数に分かれます。一件ずつ確認する作業になるため、時間がかかります。台数が多い会社では、この確認だけで日数を要します。

影響の出方も違います。荷主を失えば売上が減りますが、リースで一括の返済を求められれば、資金が一度に出ていきます。金額の規模によっては、こちらのほうが重い問題になります。

だから、一覧を作るときは、荷主との契約と、資金に関わる契約を分けて並べてください。対応の優先順位が変わります。

同意をどんな形で残すか

同意を取得するという場面で、口頭の了解で済ませてしまうことがあります。これは避けてください。担当者が代わると、話がなかったことになります。

形式は難しくありません。契約の名称、支配権が変わる旨、それについて異議がない旨、日付と相手方の署名。この程度がそろっていれば足ります。相手の社内で通しやすいよう、こちらから文案を用意するのが実務的です。

誰の名義で取るかも決めておいてください。担当者の一存で出せる会社もあれば、決裁が要る会社もあります。決裁が必要な相手には、早めに動いてもらう必要があります。

そして、取得した同意は、他の契約書と同じ場所に保管してください。契約書の後ろに綴じておけば、後から見返すときに探さずに済みます。

なお、承諾ではなく通知で足りる契約についても、送った記録を残してください。送ったつもりで送っていなかった、という事態を防げます。

新しく契約を結ぶときが交渉の機会

新規に契約を結ぶときは条項を確認する、と挙げました。ここは実際に交渉できる余地があります。すでに結んでしまった契約を後から変えるより、はるかに現実的です。

申し入れ方としては、削除を求めるより、効果を弱める形が通りやすくなります。解除できるという書き方を、事前に協議するという書き方に変える。あるいは、通知で足りる形にする。相手にとっても、取引を続ける前提であれば受け入れやすい内容です。

理由の伝え方も大事です。「将来の承継を考えたときに、取引が続けられる形にしておきたい」という説明であれば、相手も理解できます。隠すより、率直に伝えるほうが話が早く進みます。

もちろん、大手の荷主で様式が決まっている場合は、変えられないこともあります。そのときは、条項があるという事実を一覧に記録しておいてください。それだけでも、後の準備が変わります。

そして、契約を結ぶ担当者に、この確認を手順として持たせてください。締結のときに一度見るだけで、後から探す作業がなくなります。

一覧を年に一度見直す理由

一覧表を作り年に一度更新すると書きましたが、なぜ一度作れば足りないのかを補足します。

契約は動くからです。新しい取引が始まり、古い取引が終わり、更新のたびに条項が差し替わることもあります。作った時点の一覧は、放っておけば数年で実態と合わなくなります。

見直しの中身は、三つで足ります。新しく結んだ契約を追加する、終わった契約を落とす、売上の欄を直近の数字に更新する。売上が変われば、優先順位も変わります。

時期は、決算の後がやりやすいでしょう。取引先ごとの売上が確定しているため、数字を写すだけで済みます。

そして、この一覧は承継の場面だけでなく、日常の判断にも使えます。特定の取引先への依存がどれだけあるか、条件が不明なまま続いている取引がどれだけあるか。一枚にまとまっていれば、すぐ見えます。

買い手はどこまでを前提条件にするか

主要な契約について同意を得ることをクロージングの前提条件に置く、という進め方を挙げました。ここで論点になるのが、どこまでを「主要な」契約とするかです。

買い手としては、範囲を広く取りたいところです。同意が揃わないまま引き継ぐと、後から解約されるリスクを自分が負うからです。一方、売り手としては、範囲が広いほど作業が増え、情報が広がる範囲も広くなります。

実務では、売上に占める割合で線を引く形が多く使われます。上位の何社まで、あるいは一定の割合を超える取引先まで、といった決め方です。あわせて、資金に関わる契約は金額の大小にかかわらず対象に入れることが多くあります。

そして、同意が取れなかった場合の扱いも、あわせて決めておいてください。取れなくても進めるのか、価格を調整するのか、その取引を除いて考えるのか。ここを決めずに進むと、期日の直前で交渉が止まります。

売り手の側でこの議論を有利に運ぶには、事前に一覧ができていることです。どの契約に何が入っているかを示せれば、範囲の話が事実に基づいて進みます。

まとめ

CoC条項は、荷主との基本契約・リース・借入・賃貸借に入っていることがあります。見落とすとクロージング後の解約や表明保証違反につながります。契約書を集め、キーワードで探し、売上規模とセットで一覧化してください。同意取得は最終契約の前提条件に置くのが実務的です。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。許認可の具体的な取扱い・必要書類・審査期間は、法令の改正や管轄行政庁の運用によって異なります。実際の手続きにあたっては、必ず管轄の運輸支局等および専門家にご確認ください。