ステップ1:ゴールを決める
引退時点で、会社と自分がどうなっていたいかを書き出します。
- 引退の時期:◯年後(運送会社の社長は何歳で引退すべきか)
- 方法:親族内、社内、M&A(未定でも可)
- 借入の状態:残高をいくらにするか
- 個人保証:外れていること(個人保証を外すために逆算で準備しておくこと)
- 手取り:引退後に必要な額(引退後の生活資金の考え方)
- 会社の状態:車齢、人員、荷主構成
ステップ2:現状を数字にする
| 項目 | 把握すること |
|---|---|
| 売上・利益 | 直近3期 |
| 借入残高 | 金融機関別、返済スケジュール |
| リース残債 | 台数と満了時期 |
| 純資産 | 時価ベースでの概算も |
| 車齢構成 | 今後5年の更新必要額 |
| 人員 | 年齢構成、5年後の退職予定 |
| 荷主構成 | 上位の比率 |
ステップ3:ギャップを出す
ゴールと現状の差が、これから埋めるべきものです。
例:
- 借入残高 現在◯円 → 5年後に◯円 = 年間◯円の返済が必要
- 車両更新 5年間で◯台、◯円 = 年間◯円の資金が必要
- ドライバー 5年で◯名退職 = 年間◯名の採用が必要
ステップ4:必要利益を計算する
必要な税引後利益 = 年間の借入元金返済 + 年間の車両更新資金 + 内部留保
ここから逆算して、税引前の必要利益を出します。税率を考慮してください。
減価償却費は現金支出を伴わないため、実際の資金余力は「税引後利益+減価償却費」で見ます。ただし、その分は車両更新に回る前提です。
ステップ5:売上と原価に落とす
必要利益から、必要な売上と許容できる原価を逆算します。
- 必要利益 + 固定費 + 変動費 = 必要売上
- 必要売上 ÷ 稼働可能車両数 = 1台あたり必要売上
- 1台あたり必要売上 ÷ 年間走行距離(または拘束時間)= 必要単価
目標利益から逆算した値決め、キロ単価・時間単価の考え方をご覧ください。
ステップ6:年次計画にする
5年分の表を作ります。
| 項目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上 | |||||
| 営業利益 | |||||
| 借入残高 | |||||
| 車両更新(台数・金額) | |||||
| ドライバー数 | |||||
| 主な施策 |
最後の行が重要です。数字だけでなく、何をするかを書いてください。
ステップ7:施策を具体化する
数字を達成するための行動を、年次に割り当てます。
- 1年目:荷主別採算の把握、労務の是正、公私混同の解消
- 2年目:運賃改定(上位3社)、不採算取引の見直し
- 3年目:直取引の開拓、配車の複線化
- 4年目:管理職の育成、後継体制の確立
- 5年目:承継・譲渡の実行
これは例です。自社の課題に合わせて組んでください。承継準備チェックリストを参考にしてください。
月次で管理する
年次計画を作っても、月次で見なければ達成できません。
- 売上・利益の進捗(計画対比)
- 資金繰り(運送業の資金繰りの勘所)
- 施策の進捗(運賃交渉、採用など)
幹部と共有してください。社長一人で見ていても、会社は動きません。
達成できない場合
計画どおりにいかないのが普通です。次を検討してください。
- 施策を追加・変更する:運賃、撤退、採用
- 目標を修正する:借入の削減額、引退時期
- 方法を変える:親族内承継 → M&A など
計画を放棄しないでください。 修正しながら続けることに意味があります。
この計画は他でも使える
- 金融機関への説明(銀行への説明資料のつくり方)
- 補助金の申請(事業計画書の書き方)
- M&Aの企業概要書(企業概要書には何を書くか)
- 後継者への引き継ぎ
一度作れば、複数の場面で活きます。
現状を数字にする作業の進め方
把握すべき項目を挙げました。実際に集める手順を示します。
まず、決算書から取れるものを先に埋めてください。売上、利益、借入の残高、純資産。直近三期分を並べます。
そして、金融機関ごとの内訳を出してください。決算書には合計しか載りません。返済の予定表を集めて、いつまでにいくら返すかを整理します。
リースについては、契約書を集めてください。台数、満了の時期、残っている支払い。ここは決算書からは読み取れません。
車齢の構成は、車両の一覧から作れます。年式を並べ、今後五年で何台の更新が必要かを計算します。
人については、名簿から年齢を拾ってください。定年で抜ける人数が年ごとに出ます。
そして、荷主の構成は、売上の内訳から出します。上位の数社で全体のどれだけを占めるか。
これらを集めるのに、数日から数週間かかります。ただし、一度作れば、毎年更新するだけになります。
必要利益の計算で注意する点
減価償却費は現金支出を伴わないと書きました。この扱いを掘り下げます。
減価償却の分は、費用として計上されますが、現金は出ていきません。だから、その分の資金は手元に残ります。
ただし、その資金は車両の更新に回る前提です。残っているように見えても、使えるわけではありません。
問題は、償却が終わった車両です。費用が発生しないため、利益は増えます。しかし、その車両はいずれ買い替えが必要です。この分の資金が用意できていないと、更新の時期に困ります。
だから、車両の更新に必要な額を、別に確保する形で計画してください。利益の中から積み立てる形になります。
そして、税の負担も考慮してください。利益が出れば税がかかります。手元に残るのは、その後の額です。
必要な利益を計算するときは、税引後で考えてください。税引前の目標を立てると、実際の資金が足りなくなります。
年次計画に施策を書く意味
最後の行が重要ですと書きました。この点を掘り下げます。
数字だけを並べた計画は、達成の方法が書かれていません。売上を増やす、利益を出す。目標としては正しいのですが、行動になりません。
だから、何をするかを書いてください。この荷主と運賃を交渉する、この取引を整理する、何人採用する。行動として書けば、実行できます。
そして、施策には担当と期限を付けてください。誰がいつまでにやるか。ここが決まっていないと、進みません。
あわせて、施策と数字のつながりも示してください。この交渉が通れば、いくら増えるか。つながりが見えないと、優先順位が付けられません。
そして、施策は多くしすぎないでください。年に三つか四つ。多すぎると、どれも進みません。
この形で作った計画は、金融機関への説明でもそのまま使えます。数字だけでなく、どう達成するかが示せるからです。
月次で管理する仕組み
社長一人で見ていても会社は動きませんと書きました。仕組みの作り方を示します。
まず、見る場を作ってください。月に一度、幹部と数字を確認する時間。一時間で足ります。
そして、見る項目を絞ってください。売上と利益の進捗、資金の状況、施策の進み具合。この三つで足ります。
資料は同じ形式にしてください。毎月作り直すと、負担が大きくなります。数字を入れ替えるだけの形にします。
そして、その場で一つだけ決めてください。全部を議論すると、何も決まりません。最も影響の大きい項目について、次の行動を決める。
決めたことは記録し、翌月に確認してください。この往復があって、初めて計画が動きます。
そして、幹部に数字を見せることに抵抗がある場合もあります。ただし、見せなければ判断に加われません。範囲を決めたうえで、共有してください。
達成できないときの直し方
計画を放棄しないでくださいと書きました。修正の進め方を具体的にします。
まず、なぜ達成できなかったかを確認してください。施策が実行されなかったのか、実行したが効かなかったのか、前提が変わったのか。
実行されなかった場合は、なぜ実行できなかったかを見てください。時間がなかった、担当が決まっていなかった、優先順位が低かった。原因によって、対処が違います。
実行したが効かなかった場合は、施策そのものを見直してください。想定していた効果が出ないなら、別の方法が要ります。
前提が変わった場合は、目標を修正してください。荷量が落ちた、費用が上がった、人が確保できなかった。無理な目標を掲げ続けても意味がありません。
そして、修正した内容は記録してください。なぜ変えたのかが分かる形にしておけば、後から振り返れます。
計画は当たるものではありません。修正しながら続けることに意味があります。
ギャップの埋め方に優先順位を付ける
ゴールと現状の差がこれから埋めるべきものですと書きました。埋め方の順序を示します。
まず、自社の判断だけで進められるものから着手してください。公私の分離、数字の見える化、記録の整備。相手が要らない作業です。
次に、時間がかかるものに着手してください。労務の是正、人の育成、有資格者の確保。数年かかるため、早く始める必要があります。
そして、相手のある取り組みを進めてください。運賃の交渉、取引の見直し、荷主の分散。相手の都合に左右されるため、期間が読めません。
最後に、手続きに関するものです。スキームの確定、許可の確認、関係先への説明。方向が固まってから行います。
この順序で並べると、今年何をするかが決まります。すべてを同時に進めることはできません。
そして、優先順位は毎年見直してください。進み具合によって、次にやるべきことが変わります。
作った計画を他で使う
一度作れば複数の場面で活きますと書きました。使い方を具体的にします。
金融機関への説明では、返済の見通しと、それを支える施策が示せます。数字だけでなく、どう達成するかが書かれていることが評価されます。
補助や支援の申請では、事業の計画として使えます。様式に合わせて書き直す必要はありますが、中身はそのまま使えます。
承継の場面では、会社の見通しを示す資料になります。買い手が知りたいのは、引き継いだ後にどうなるかです。
そして、後継者への引き継ぎでも使えます。会社が何を目指し、何をしようとしているか。方向が文書になっていると、引き継ぎが早く進みます。
ただし、相手によって出す範囲を変えてください。すべての情報を誰にでも出す必要はありません。
そして、作った計画は毎年更新してください。古い計画をそのまま出すと、かえって管理されていない印象になります。
ゴールを決めるときの考え方
引退時点でどうなっていたいかを書き出しますと書きました。決め方を補足します。
まず、借入の状態から考えてください。残高をいくらにしたいか。ゼロにする必要はありませんが、引き継ぐ側の負担として妥当な水準を考えます。
そして、保証が外れていることを条件に置いてください。外れていない状態での引退は、生活の不安を残します。
会社の状態については、車齢、人員、荷主の構成。それぞれについて、どうなっていてほしいかを書いてください。
そして、自分の手取りについても目標を置いてください。生活に必要な額から逆算した数字です。
これらを書き出すと、現状との差が見えます。差が大きすぎる場合は、期間を延ばすか、目標を下げるかの判断になります。
ゴールは、実現可能な水準にしてください。届かない目標を掲げても、行動につながりません。
五年分の表をどう埋めるか
五年分の表を作りますと書きました。埋め方の順序を示します。
まず、確定している数字から埋めてください。借入の返済の予定、リースの満了、定年で抜ける人数。これらは動きません。
次に、必要な数字を入れてください。車両の更新にかかる額、採用が必要な人数。ゴールから逆算した値です。
そのうえで、それを支える売上と利益を置いてください。ここが最も難しい部分です。今の水準から、どれだけ伸ばす必要があるか。
そして、伸ばすための施策を年ごとに割り当ててください。運賃の交渉、取引の見直し、稼働の改善。
この段階で、実現が難しいと分かることがあります。その場合は、ゴールを見直すか、期間を延ばしてください。
作った表は、一枚に収めてください。何枚にもわたると、見返さなくなります。
必要単価に落とした後に何をするか
必要な売上と許容できる原価を逆算しますと書きました。落とした後の使い方を示します。
まず、現在の単価と比べてください。既存の取引がその水準に届いているか。届いていない取引が、交渉の対象になります。
そして、差の大きい順に並べてください。すべてを同時に交渉することはできません。影響の大きいところから着手します。
あわせて、単価が届かない取引を続けるかどうかも判断してください。交渉が通らない場合の扱いを、あらかじめ決めておいてください。
そして、新しく受ける仕事については、この単価を基準にしてください。基準があれば、断る判断もできます。
この単価は、配車の担当にも共有してください。日々の判断に使えなければ、計算した意味がありません。
そして、年に一度は計算し直してください。費用も稼働も変わります。古い基準のままだと、実態と合わなくなります。
まとめ
引退時点のゴールを決め、現状との差を出し、必要利益を計算して、売上と単価に落としてください。5年分の年次計画には、数字だけでなく「何をするか」を書くこと。月次で幹部と共有し、達成できなければ修正する。この計画は、金融機関・補助金・M&Aの場面でも使えます。