まず必要額を出す
次を書き出してください。
- 生活費:月額(現在の支出から、仕事関連を除いた額)
- 住居費:住宅ローンの残り、修繕費
- 医療・介護:将来の備え
- 子・孫への支援:予定があれば
- 趣味・旅行
- 予備費
必要総額 = 年間の必要額 × 想定年数
想定年数は長めに見てください。
収入源を並べる
1. 役員退職金
会社から支給されるものです。在任年数と最終報酬をもとに設計します。
- 会社に支払える資金があるか
- 不相当に高額とされない水準か
- 支給の時期(承継前か後か)
税務上の取扱いがあるため、必ず税理士に試算してもらってください。退職金の設計と税務をご覧ください。
2. 株式の売却代金
M&Aで譲渡する場合の代金です。額面ではなく手取り額で考えてください。株式譲渡益課税の基本、手取りを最大化するための順序をご覧ください。
親族内承継の場合、株式を渡すことになるため、この収入はありません。退職金の比重が大きくなります。
3. 年金
- 老齢基礎年金・老齢厚生年金
- 受給開始年齢と、繰上げ・繰下げの選択
- 在職中の調整
ねんきん定期便や年金事務所で見込額を確認してください。
4. 保険
役員向けの保険で、解約返戻金があるものがないか確認してください。保険の活用と解約返戻金をご覧ください。
5. 個人の資産
- 預貯金、有価証券
- 不動産(自宅、賃貸物件)
- 会社に貸している不動産の賃料収入
会社所有の不動産を個人に移す場合は、税務上の取扱いを確認してください。
6. 引退後の関与による報酬
顧問として残る場合の報酬です。ただし期間限定と考えてください。M&A後の引き継ぎ期間と前経営者の関わり方をご覧ください。
差額を計算する
不足額 = 必要総額 - 収入源の合計(手取りベース)
手取りベースで計算することが重要です。退職金も株式譲渡代金も、税負担があります。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
不足する場合の選択肢
- 引退時期を後ろにずらす:働く期間を延ばす
- 企業価値を上げる:譲渡価格を高める(企業価値を高める取り組み)
- 役員報酬を見直す:退職金の算定に影響します(早めに)
- 生活水準を見直す
- 引退後も一部働く:顧問、他社での勤務
- 個人資産の活用:不動産の売却・活用
2番目が最も本質的です。企業価値を上げるには時間がかかるため、早く着手するほど選択肢が広がります。
個人保証を忘れない
引退後も個人保証が残っていると、資産が実質的に拘束されます。生活資金の計画には、保証が外れることが前提です。個人保証を外すために逆算で準備しておくことをご覧ください。
納税資金を確保する
株式を譲渡した場合、翌年に確定申告と納税があります。受け取った代金を使い切ってしまわないよう、納税分を別に確保してください。
相続への備えとセットで
引退後の生活資金と、相続の問題は連動します。
- 自社株を持ち続ける場合、相続財産になります
- 納税資金の準備が必要になることがあります
- 会社に関わらない子への配分
相続・自社株対策の完全ガイド、相続税の納税資金をどう用意するかをご覧ください。
配偶者と共有する
生活資金の計画は、一人で決めるものではありません。
- 必要額の認識を合わせる
- 保証の有無と金額を伝える
- 引退後の生活の希望を聞く
配偶者が会社の役員になっている場合、その退職金も含めて設計できます。配偶者が役員の場合の承継設計をご覧ください。
専門家に試算してもらう
退職金と株式譲渡代金の配分によって、手取り額は変わります。複数のパターンで試算してもらってください。
- 顧問税理士:税負担と手取り
- 社労士:年金の見込み
- 金融機関:資産の運用と保証
必要額を出すときの落とし穴
現在の支出から仕事関連を除いた額と書きました。ここで見落としやすい点を整理します。
まず、仕事に関連して会社が負担していたものを、個人が負担することになります。車、通信、交際にかかる費用。引退すると、これらが生活費に加わります。
そして、社会保険の扱いも変わります。会社の役員でなくなれば、保険料の負担の形が変わります。医療費の自己負担についても、確認が要ります。
住居についても、修繕の時期を見込んでください。引退後の期間が長いほど、大きな修繕が発生します。
医療と介護については、額の見込みが立てにくい部分です。ただし、備えがゼロだと、他の資金を取り崩すことになります。
そして、想定する年数は長めに取ってください。短く見積もると、後半で足りなくなります。
これらを合計すると、想像より大きな数字になります。ここが判断の出発点です。
手取りで計算する理由
手取りベースで計算することが重要ですと書きました。この点を掘り下げます。
退職金にも、株式の譲渡代金にも、税の負担があります。受け取る額と、使える額は違います。
そして、税の扱いは受け取り方によって変わります。退職金として受け取る場合と、譲渡の代金として受け取る場合では、計算が違います。
だから、配分によって手取りが変わります。この試算は、税理士に依頼してください。複数のパターンで出してもらうと、判断ができます。
そして、受け取る時期も影響します。同じ年に集中すると、負担が大きくなることがあります。
あわせて、納税の時期も確認してください。受け取った翌年に納める形になる場合、その分を確保しておく必要があります。
額面で計画を立てると、実際に使える額が想定より少なくなります。必ず手取りで並べてください。
不足する場合に何を優先するか
企業価値を上げることが最も本質的ですと書きました。優先順位を整理します。
まず、企業価値を上げる取り組みは、時間がかかります。だから、不足が分かった時点で着手してください。数年かければ、譲渡の条件が変わります。
そして、役員報酬の見直しも早めに検討してください。退職金の算定に影響するため、直前に変えても効果が限られます。ただし、会社の資金の状況と合わせて判断する必要があります。
引退の時期を後ろにずらす選択もあります。ただし、健康の状態と、会社の状態の両方を考慮してください。無理に続けると、かえって条件が悪くなります。
生活水準の見直しは、最後の手段ではありません。むしろ、早い段階で現実的な水準を確認しておくべきです。
そして、引退後も一部働く形も検討してください。顧問として関わる、他で働く。収入があれば、必要な総額が下がります。
これらを組み合わせて考えてください。一つの方法で埋めようとすると、無理が生じます。
配偶者との共有をどう進めるか
一人で決めるものではありませんと書きました。共有の進め方を具体的にします。
まず、必要額の認識を合わせてください。何にいくらかかると考えているか。ここがずれていると、計画が成り立ちません。
そして、引退後の生活の希望を聞いてください。どこに住むか、何をしたいか。この希望によって、必要額が変わります。
個人保証については、必ず伝えてください。金額と内容。知らないままだと、相続の場面で大きな問題になります。
そして、配偶者が会社の役員になっている場合、その退職金も設計に含められます。この点も、一緒に確認してください。
あわせて、自分に何かあった場合の備えも共有してください。どこに何があり、誰に相談すればよいか。
この話は一度で終わりません。計画が具体化するたびに、共有してください。
親族に継がせる場合の設計
株式を渡すことになるためこの収入はありませんと書きました。この場合の設計を補足します。
まず、退職金の比重が大きくなります。だから、会社に支払える資金があるかを早い段階で確認してください。資金がなければ、支給できません。
そして、支給の時期も検討が要ります。承継の前か後か。会社の資金の状況と、税の扱いの両面から判断してください。
あわせて、株式をどう渡すかも影響します。無償で渡すのか、対価を受け取るのか。後者なら収入になりますが、後継者の負担が増えます。
そして、後継者の資金の状況も考慮してください。株式の取得と保証の引き受けが重なると、負担が大きくなります。
個人の資産についても確認してください。会社に貸している不動産があるなら、賃料が引退後の収入になります。ただし、承継の際にその扱いを決めておく必要があります。
これらは、税と法務の両面から設計が要ります。専門家と一緒に組み立ててください。
個人保証が残ると何が変わるか
資産が実質的に拘束されますと書きました。この意味を具体的にします。
まず、保証が残っている限り、その額を負う可能性が続きます。会社が返済できなくなれば、個人の資産で払うことになります。
そして、自宅が担保に入っている場合、住まいそのものが影響を受けます。生活の基盤に関わる話です。
あわせて、新しく資金を借りる場面でも影響します。既存の保証があると、個人の与信に反映されます。
そして、相続の場面でも問題になります。保証も相続の対象になり得るため、家族に及びます。
だから、生活資金の計画には、保証が外れることを前提に置いてください。外れない場合、計画そのものが成り立ちません。
外すには時間がかかります。引退の直前ではなく、数年前から準備してください。
納税資金を確保する方法
使い切ってしまわないよう別に確保してくださいと書きました。実務の進め方を示します。
まず、いくら必要かを試算してもらってください。受け取る額と時期が決まれば、おおよその額が出ます。
そして、その分を別の口座に分けてください。同じ口座に置いておくと、使ってしまいます。
納税の時期も確認してください。受け取った年の翌年になる場合、一年以上先です。その間、手を付けない管理が要ります。
あわせて、複数の年にまたがる場合もあります。分割で受け取る形なら、それぞれの年に納税があります。
そして、想定より税負担が大きくなる場合に備えて、余裕を持って確保してください。ぎりぎりだと、他の資金を取り崩すことになります。
この点は、受け取る前に整理しておいてください。受け取ってから考えるのでは、遅くなります。
複数のパターンで試算する
複数のパターンで試算してもらってくださいと書きました。どういうパターンを出すかを示します。
まず、退職金と譲渡の代金の配分を変えたパターンです。どちらに寄せるかで、手取りが変わります。
そして、受け取る時期を変えたパターンです。一度に受け取る場合と、複数の年に分ける場合。
あわせて、引退の時期を変えたパターンも出してもらってください。数年後ろにずらすと、会社の状態も変わります。
そして、譲渡の価格が想定より低かった場合も試算してください。交渉の結果、条件が変わることがあります。低い場合でも成り立つかを確認しておいてください。
これらを並べると、判断の幅が見えます。一つの前提だけで計画を立てると、想定が外れたときに困ります。
試算には費用がかかる場合があります。ただし、判断を誤るより、はるかに安い投資です。
年金の見込みを確認する
ねんきん定期便や年金事務所で見込額を確認してくださいと書きました。確認の実務を補足します。
まず、受け取れる見込みの額を確認してください。想定より少ないことがあります。この額が、生活の基礎になります。
そして、受給を始める年齢の選択肢も確認してください。早く受け取る場合と、遅らせる場合で、月々の額が変わります。
あわせて、引退後も働く場合の扱いも確認してください。収入によって、調整される場合があります。
配偶者の分も確認してください。世帯として、いくら受け取れるか。合計で見る必要があります。
制度は改正されることがあります。だから、確認した時点の情報として扱い、時期が近づいたら再度確認してください。
そして、この確認は早い段階で行ってください。加入の記録に漏れがある場合、確認と訂正に時間がかかります。
まとめ
年間の必要額 × 想定年数で必要総額を出し、退職金・株式売却代金・年金・保険・個人資産を手取りベースで並べてください。不足する場合、最も本質的な打ち手は企業価値の向上です。個人保証が外れることを前提に計画し、納税資金も別に確保してください。配偶者との共有も欠かせません。