なぜ運送業で後継者不足が深刻なのか

理由は3つあります。ひとつは経営者の高齢化。高度成長期から平成にかけて創業した会社が、いま一斉に引退期を迎えています。

ふたつめは事業環境の厳しさ。ドライバー不足、燃料費の変動、そして2024年からの時間外労働の上限規制。子どもに「継げ」と言い切りにくい状況があります。

みっつめは個人保証です。運送業は車両や車庫の取得に借入を伴うことが多く、経営者が個人保証を入れています。後継者はこの保証も引き継ぐことになるため、家族が反対するケースは少なくありません。

道1:従業員に譲る(社内承継)

現場を知る従業員に譲る方法です。運行管理者の資格を持ち、ドライバーからも荷主からも信頼されている人であれば、事業の継続性という点では最も安心できます。

ただし2つの壁があります。ひとつは資金。後継者が自社株を買い取るには相応の金額が必要で、金融機関からの借入や段階的な譲渡といった設計が要ります。もうひとつは個人保証で、オーナーではなかった人が突然会社の借入に保証を入れることになります。

詳しくは運送会社の経営者保証は外せるかもあわせてご覧ください。

道2:第三者に譲る(M&A)

他社に譲る方法です。後継者がいなくても事業と雇用を残せ、経営者は対価を得られます。個人保証も原則として解除されます。

運送会社のM&Aで買い手になるのは、同業でエリアや車種を広げたい会社、荷主側で物流を内製したい企業、そして倉庫や利用運送と組み合わせたい事業者です。許可の取得とドライバーの採用がいずれも難しくなっているため、稼働している会社には引き継ぎ手がつきます。

株式譲渡であれば許可は法人に残るため、手続きの面でも現実的です。相手探しに半年から1年半程度かかる点を見込んでおいてください。

道3:廃業する

3つめは畳む道です。ただし運送業の廃業には、まとまった負担があります。

車両の処分(リース残債があれば清算)、車庫や営業所の原状回復、ドライバーの退職金、そして許可の廃止届。売上が止まってからも支出は続きます。

これらはすべて経営者の負担として残ります。売却であれば支出が不要になるうえ対価がつくため、金額だけを比べても不利になることが多いのが実情です。廃業と承継の比較で具体的に扱っています。

ドライバーを守るという視点

3つの道を比べるとき、金額と同じくらい重いのがドライバーの行き先です。

廃業すれば、全員が職を探すことになります。年齢層が高い会社ほど、再就職の負担は小さくありません。株式譲渡であれば雇用契約は会社に残るため、身分は原則として維持されます。買い手にとってもドライバーは貴重ですから、条件を下げる動機はほとんどありません。

「従業員を路頭に迷わせたくない」という思いがあるなら、その観点でも選択肢を比較してみてください。

先送りが選択肢を狭める

後継者不足そのものは、いまや珍しいことではありません。問題は、決断を先送りすることで選べる道が減っていくことです。

経営者が体調を崩してから動き出すと、時間的な余裕がないぶん条件面で妥協せざるを得ません。行政処分を受ければ評価は下がり、ドライバーが先に離職すれば引き継ぐ相手の魅力も落ちます。

元気なうちに3つの道を比較し、どれを選ぶかを決めておく。それだけで、いざというときの選択肢が残ります。

個人保証をどう扱うか

後継者はこの保証も引き継ぐことになるため家族が反対するケースは少なくありませんと書きました。この壁への対処を整理します。

まず、現在の保証の状況を確認してください。どの借入に、誰が、どういう形で保証しているか。契約書を集めて一覧にしてください。

そのうえで、金融機関に相談してください。承継の際に保証をどう扱うかは、金融機関の判断が要ります。外せる場合もあれば、条件が付く場合もあります。

相談の時期は早いほどよいでしょう。承継が決まってから話すのでは、時間が足りません。方向を検討している段階で、一度相談してください。

そして、外せない場合の扱いも考えてください。保証を引き継ぐ前提で進めるのか、別の道を検討するのか。ここが後継者の判断を左右します。

あわせて、後継者の家族にも説明の機会を作ってください。本人だけで決められる話ではありません。反対の理由が保証にあるなら、その道筋を示すことで答えが変わることがあります。

第三者に譲る形であれば、保証は原則として解除されます。この違いも、比較の材料になります。

社内に譲る場合の資金の設計

後継者が自社株を買い取るには相応の金額が必要だと書きました。設計の考え方を示します。

まず、株式の価値を算定してください。ここが分からなければ、必要な資金も見えません。専門家に依頼する作業です。

そのうえで、資金の調達方法を検討してください。金融機関からの借入、公的な制度の活用、あるいは段階的に譲る方法。組み合わせることもできます。

段階的に譲る方法は、後継者の負担を分散できます。ただし、完了までの期間が長くなり、その間の議決権の扱いを決めておく必要があります。

そして、譲る側の税の扱いも確認してください。手取りの額が変わります。この点で、譲り方の選択が影響します。

あわせて、会社が関与する形もあります。ただし、資金の流れによって扱いが変わるため、専門家と設計してください。

いずれの方法も、時間がかかります。方向が決まってから始めるのでは、間に合わないことがあります。

買い手が何を見ているか

稼働している会社には引き継ぎ手がつきますと書きました。買い手の視点をもう少し具体的にします。

最も重視されるのは、人です。乗る人がいて、管理する人がいる。採用が難しい状況では、これが最大の価値になります。

次が、許可と拠点です。新たに取得するには時間がかかります。すでに稼働している営業所と車庫があることは、そのまま時間を買うことになります。

そして、取引です。安定した荷主があるか、依存が偏っていないか。取引の質が、引き継いだ後の見通しを左右します。

あわせて、労務の状態が確認されます。ここに不安があると、価格に反映されます。逆に、整っていれば評価が安定します。

車両については、台数より状態と更新の見込みが見られます。古い車両が多いと、引き継いだ直後の投資として計算されます。

これらが分かると、何を整えておくべきかも見えてきます。

三つの道を同じ表で比べる

三つの道を比較するときの整理の仕方を示します。

まず、手元に残る額を並べてください。社内に譲る場合、第三者に譲る場合、畳む場合。それぞれで、いくら残るか。税の扱いも含めてください。

次に、時間を並べてください。実行までにかかる期間、その間に必要な作業。畳むのが早いように見えますが、実際には移行の期間が要ります。

そして、雇用を並べてください。何人が残れるか、条件はどうなるか。金額に表れない部分ですが、判断の重い材料です。

あわせて、保証の扱いも並べてください。誰が引き継ぐのか、解除されるのか。個人の生活に直結します。

そして、荷主への影響も書いてください。取引が続くのか、途切れるのか。地域への影響も含めて考えてください。

この表を作ると、どれが有利かではなく、何を重視するかの問題だと分かります。

子に継がせにくい状況をどう扱うか

子どもに継げと言い切りにくい状況があると書きました。この場面での進め方を整理します。

まず、言い切らないことと、話さないことは違います。継いでほしいと迫らなくても、会社の状況を伝えることはできます。

そして、子の側も、聞かれなければ言い出せません。継ぐつもりがあるのに、親が期待していないと思っている場合もあります。逆も同じです。

だから、一度きちんと話す場を作ってください。今の会社がどういう状況か、将来どうしたいと考えているか。そして、子はどう思っているか。

そのうえで、継がない場合の道も伝えてください。第三者に譲る、畳む。選択肢があることが分かれば、子も答えやすくなります。

そして、答えを急がせないでください。生活が変わる話です。考える時間が要ります。

ただし、期限は伝えてください。いつまでに方向を決めたいか。無期限に待つことはできません。

ドライバーの行き先を条件にする

従業員を路頭に迷わせたくないという思いがあるなら、その観点でも比較してくださいと書きました。実務での扱いを補足します。

まず、雇用の維持を条件として交渉することができます。ただし、確約が難しい場合もあります。どこまで求めるかを、先に決めてください。

そして、条件を確認する項目を整理してください。人数、拠点、労働条件、期間。何をどこまで守ってほしいのか。

株式を譲る形であれば、雇用契約は会社に残ります。身分は原則として維持されます。ただし、その後の運営でどうなるかは、買い手の方針によります。

だから、買い手の考え方を確認してください。これまで引き継いだ会社で、どういう運営をしてきたか。過去の事例が最も参考になります。

あわせて、従業員に伝える時期と内容も、相手と調整してください。伝え方によって、その後の定着が変わります。

そして、畳む場合でも、行き先を用意する道があります。同業への紹介、一部の事業だけを譲る形。何もせずに終えるのとは違います。

相手探しにかかる時間を見込む

半年から一年半程度かかる点を見込んでおいてくださいと書きました。この期間の中身を補足します。

まず、資料を整える期間があります。決算書、契約書、名簿、許可の書類。散らばっているものを集める作業から始まります。

そして、相手を探す期間です。条件に合う相手がすぐ見つかるとは限りません。複数の候補と話すことになります。

関心を持つ相手が現れたら、条件の交渉と調査の期間が続きます。ここで、資料の提出と質問への回答が続きます。

そして、契約と手続きの期間があります。スキームによっては、行政の手続きも必要になります。

これらを合わせると、一定の期間が必要になります。だから、引退の時期から逆算して、いつ動き出すかを決めてください。

そして、この期間中も会社を維持する必要があります。人が減り、取引が細ると、話そのものが難しくなります。

元気なうちに何を済ませるか

元気なうちに三つの道を比較しておくと書きました。具体的に何を済ませるかを示します。

まず、社内の候補の意思を確認してください。継ぐ気があるかどうか。ここが分からなければ、道が絞れません。

次に、第三者に譲る可能性を確かめてください。相手がいるかどうか。秘密保持を前提に相談すれば、社内に伝わることはありません。

そして、畳む場合の数字を出してください。契約と決算書があれば試算できます。想像より大きな負担になることが多い部分です。

この三つが揃えば、比較ができます。揃えるまでに、数か月かかります。

そして、比較したうえで方向を決めてください。決めた後は、その方向の準備に集中できます。

ここまでを、体調に不安がないうちに済ませてください。判断する気力があるうちでなければ、この作業は進みません。

行政処分と離職が評価を下げる

行政処分を受ければ評価は下がりドライバーが先に離職すれば魅力も落ちると書きました。この点を補足します。

処分の履歴は、引き継ぐ側にとって直接のリスクになります。事業に制限がかかる可能性があるためです。だから、日常の管理を緩めないでください。

そして、指摘を受けた場合の対応も見られます。是正して再発を防いだ経過が残っていれば、履歴があること自体は大きな減点になりません。

人の離職は、より直接的に効きます。引き継ぐ側が求めているのは、運べる体制です。人が減れば、その価値が下がります。

そして、将来が見えない会社からは、先を読める人ほど早く抜けます。管理者やベテランが抜けると、影響が大きくなります。

だから、検討している段階でも、日常の管理は続けてください。そして、情報の管理を徹底してください。噂が広がると、それ自体が離職の理由になります。

後継者がいない状態を前提に整える

後継者不足そのものはいまや珍しいことではないと書きました。この前提での備え方を整理します。

まず、社長がいなくても回る体制を作ってください。配車、荷主対応、行政対応、資金の管理。これらが社長に集中している限り、誰にも引き継げません。

そして、記録を残してください。判断の基準、取引先の情報、契約の内容。頭の中にあるものを文書にする作業です。

あわせて、有資格者を複数にしてください。運行管理者、整備管理者。一人しかいない状態は、事業の継続そのものに関わります。

これらは、誰に引き継ぐかが決まっていなくても進められます。むしろ、決まる前にやっておくべき作業です。

そして、この状態が整っていれば、社内の人にも、第三者にも引き継げます。選べる道が増えます。

逆に、社長に集中したままだと、どの道も選べません。後継者がいないことより、引き継げない状態であることのほうが問題です。