なぜ逆算が必要か
「保証を外してください」と言えば外れるものではありません。金融機関が見るのは、会社の状態です。
- 財務内容が改善しているか
- 法人と個人が分離されているか
- 経営の透明性があるか
これらを整えるには数年かかります。引退の直前に言い出しても間に合いません。
金融機関が見る三つの条件
経営者保証に関するガイドラインでは、おおむね次の要素が挙げられています。
1. 法人と経営者個人の資産・経理の分離
- 社長個人が使う車両・不動産が会社名義になっていないか
- 会社と社長個人の間で貸借がないか
- 私的な支出が経費になっていないか
- 社長所有不動産の賃料が相場から離れていないか
ここが最も分かりやすい判断材料になります。公私混同の解消が最優先である理由をご覧ください。
2. 財務基盤の強化
- 純資産がプラスであること(債務超過でない)
- 利益が継続的に出ていること
- 返済能力があること
- 内部留保が積み上がっていること
運送業では、車両更新の負担を踏まえた返済能力が見られます。目標利益から逆算した値決めをご覧ください。
3. 経営の透明性
- 月次試算表を定期的に提出しているか
- 資金繰り表を作っているか
- 悪い情報も早く伝えているか
- 質問に速やかに答えられるか
日頃の情報開示の積み重ねが問われます。銀行への説明資料のつくり方をご覧ください。
逆算のスケジュール
| 時期 | やること |
|---|---|
| 5年前 | 現状の保証内容を把握する。金融機関に「将来的に外したい」と伝える |
| 4年前 | 公私混同の解消に着手する。役員貸付・借入の精算 |
| 3年前 | 月次試算表・資金繰り表の提出を定例化する |
| 2年前 | 財務改善の実績を積む。借入の整理・借換えを検討 |
| 1年前 | 解除の具体的な協議を始める |
| 承継・譲渡時 | 解除または後継者への切替えを実行 |
「将来的に外したい」と早い段階で伝えておくことが重要です。金融機関側にも準備が必要です。
まず現状を把握する
意外に、正確に把握していない経営者が多くいます。
- どの借入に、誰の保証が付いているか
- 保証の範囲(特定債務か、根保証か)
- 保証の限度額
- 担保の内容
- リース契約の保証
借入だけでなく、リースの保証も忘れないでください。台数が多いと、金額は大きくなります。
承継の場合
親族内・社内承継では、次の三つのいずれかになります。
- 保証が解除される:会社の状態が条件を満たす
- 後継者に切り替わる:最も多い形。後継者が新たに保証する
- 二重に保証が残る:前経営者と後継者の両方。これは避けるべき
3番目は、ガイドラインでも二重徴求を求めないことが示されています。前経営者の保証を外すよう、明確に求めてください。
後継者が保証を負うことを嫌って辞退するケースは実際に多くあります。保証の見通しを早く示すことが、承継の成否を左右します。「とりあえず息子に」で失敗しないためにをご覧ください。
M&Aの場合
株式を譲渡しても、保証は自動では外れません。金融機関との個別の交渉が必要です。
- 買い手が保証を引き受ける
- 買い手の信用力で借換えを行う
- 譲渡代金で借入を返済する
最終契約では、「いつまでに、外れなかったらどうするか」まで定めてください。「努力する」だけの条項では不十分です。条件交渉で譲れない点の決め方、クロージングでやることをご覧ください。
外れない場合の対応
- 一部でも外す:借入ごとに交渉する
- 期限を区切る:「◯年後に再協議」
- 担保に切り替える:不動産等がある場合
- 譲渡代金で返済する:借入をなくせば保証も終わります
- 保証の範囲を限定する:根保証から特定債務保証へ
全部か無かで考えないことです。減らすだけでも意味があります。
家族への影響
保証は、相続の対象になり得ます。社長が亡くなった場合、家族が保証債務を引き継ぐ可能性があります。
家族が保証の存在を知らないというケースは実際にあります。金額と内容を必ず共有してください。相続・自社株対策の完全ガイドをご覧ください。
現状の把握から始める
正確に把握していない経営者が多くいますと書きました。把握する手順を具体的にします。
まず、金融機関ごとに借入の一覧を作ってください。残高、返済の期日、金利、そして保証の有無。契約書を集めるところから始まります。
そして、保証の範囲を確認してください。特定の借入だけを保証しているのか、今後の借入も含む形なのか。この違いは大きく、後者は残高が変わっても保証が続きます。
限度額の定めがあるかも確認してください。定めがなければ、実質的に全額が対象になります。
担保についても整理してください。会社の資産か、個人の資産か。自宅が入っている場合、生活の基盤に関わります。
そして、リースの契約も忘れないでください。車両のリースには保証が付いていることがあります。台数が多いと、金額は無視できません。
この一覧ができたら、家族とも共有してください。相続の場面で必要になります。
金融機関に早く伝える意味
将来的に外したいと早い段階で伝えておくことが重要ですと書きました。この理由を掘り下げます。
まず、金融機関の側にも判断の手続きがあります。担当者が独断で決められるものではありません。時間が要ります。
そして、条件を満たしているかを見るには、実績が必要です。一期の決算だけでは判断できません。数年の推移を見ることになります。
だから、意向を伝えたうえで、そこから条件を整えていく形になります。伝えていなければ、整える方向も分かりません。
そして、伝えることで、何が足りないかを教えてもらえる場合があります。この情報が、準備の指針になります。
あわせて、担当者が代わることも想定してください。伝えた内容が引き継がれるよう、記録に残る形で相談してください。
そして、承継の話が具体化した段階で初めて相談するのでは、間に合いません。数年前から始めてください。
公私の分離を実際に進める
ここが最も分かりやすい判断材料になりますと書きました。進め方を具体的にします。
まず、会社名義の資産のうち、実際には個人が使っているものを洗い出してください。車両、不動産、通信の契約。使用の実態を確認します。
そして、個人が使っているものは、個人に移すか、適正な使用料を払う形にしてください。曖昧なままだと、指摘されます。
会社と個人の間の貸し借りも整理してください。役員への貸付、役員からの借入。残高があるなら、返済または精算の計画を立ててください。
私的な支出が経費になっている場合は、止めてください。これは今後の分から正せます。
社長が所有する不動産を会社が借りている場合、賃料が相場から離れていないかを確認してください。高すぎても低すぎても、指摘の対象になります。
これらの整理には、決算の期を単位に時間がかかります。一度に全部は動かせません。
透明性を実績として積む
日頃の情報開示の積み重ねが問われますと書きました。積み方を具体的にします。
まず、月次の試算表を定期的に提出してください。求められてから出すのではなく、毎月決まった時期に届ける形にします。
そして、資金繰りの見通しも作ってください。今後数か月の入金と支払い。これがあると、資金の相談も早く進みます。
あわせて、事業の状況も伝えてください。取引の変化、車両の更新、人の状況。数字だけでは分からない部分です。
そして、悪い情報こそ早く伝えてください。取引を失った、事故があった、資金が厳しい。後から分かるより、はるかに信頼されます。
質問には速やかに答えてください。答えられない質問があるなら、いつまでに回答するかを伝えてください。
この積み重ねは、保証の話だけでなく、日常の資金の相談でも効きます。
二重に残る事態を避ける
前経営者と後継者の両方に保証が残る形は避けるべきだと書きました。この点を掘り下げます。
まず、交代の際に、前経営者の保証を外すよう明確に求めてください。何も言わなければ、そのまま残ることがあります。
そして、後継者が新たに保証する場合でも、前経営者の分は同時に外すのが本来の形です。この点は、ガイドラインでも二重に求めないことが示されています。
ただし、会社の状態によっては、金融機関が難色を示す場合もあります。この場合、どういう条件なら外せるかを確認してください。
そして、外れる時期を明確にしてください。交代と同時なのか、一定の期間の後なのか。曖昧なまま進むと、いつまでも残ります。
あわせて、書面で確認してください。口頭の合意では、担当者が代わったときに残りません。
前経営者にとっては、引退後も保証が残る状態は生活の不安になります。ここを解消することが、承継の完了の条件です。
後継者が辞退する理由への対処
保証を負うことを嫌って辞退するケースは実際に多くありますと書きました。この場面での対処を示します。
まず、保証の見通しを早く示してください。継ぐかどうかを判断する材料として、最も重要な情報です。
そして、外せる可能性があるなら、その道筋を伝えてください。会社の状態がこの条件を満たせば外れる、という具体的な話があれば、判断が変わります。
外せない場合でも、範囲を限定できる可能性があります。全額ではなく一部、期限を区切る形。選択肢を示してください。
そして、後継者の家族にも説明してください。反対の理由が保証にある場合、本人だけを説得しても進みません。
あわせて、保証がどういう場合に実行されるのかも説明してください。漠然とした不安は、正確な理解で小さくなることがあります。
そして、それでも辞退する場合は、尊重してください。無理に負わせると、後で問題になります。
譲渡の契約に何を書くか
努力するだけの条項では不十分ですと書きました。書くべき内容を具体的にします。
まず、いつまでに解除するかを書いてください。期限がなければ、実行の担保がありません。
そして、解除されなかった場合の扱いを書いてください。代金の一部を留保する、買い手が代わりに負担する、契約を解除できる。何らかの手当てが要ります。
あわせて、誰が交渉を担うのかも決めてください。買い手が主体的に動くのか、売り手が同席するのか。放置されると、進みません。
そして、金融機関との事前の協議も進めてください。契約を結んでから交渉を始めるのでは、遅くなります。
解除の方法としては、買い手が保証を引き受ける、買い手の信用で借り換える、代金で返済する。いずれの道を想定するかを、事前に整理しておいてください。
この部分は、専門家と設計してください。条項の書き方によって、実効性がまったく変わります。
減らすだけでも意味がある
全部か無かで考えないことですと書きました。段階的に減らす方法を具体的にします。
まず、借入ごとに交渉してください。すべてを一度に外すのは難しくても、一部の借入について外れる可能性があります。
そして、新しく借りる際に、保証なしの形を求めてください。既存の分は残っても、増やさないことができます。
返済が進んだ借入から順に外す方法もあります。残高が小さくなれば、金融機関の判断も変わりやすくなります。
そして、根保証の形になっている場合は、特定の債務に限定する形への変更を求めてください。今後の借入まで含まれる状態を、既存の分だけに絞れます。
担保がある場合は、担保に切り替える交渉もあります。不動産などの資産があれば、保証を減らせる可能性があります。
これらは一度の交渉で決まりません。決算のたびに、状況を伝えながら少しずつ進めてください。
家族に伝えるときの内容
金額と内容を必ず共有してくださいと書きました。伝えるべき内容を整理します。
まず、どの金融機関に、いくらの保証があるか。この基本の情報が共有されていない家庭が多くあります。
そして、保証の性質も伝えてください。特定の借入だけか、今後の分も含むか。金額が変動する可能性があるかどうかは、重要な違いです。
担保についても伝えてください。自宅が入っている場合、生活の基盤に関わります。
そして、相続が発生した場合にどうなるかを説明してください。保証も相続の対象になり得ます。知らないまま相続すると、大きな問題になります。
あわせて、相談先も伝えてください。何かあったときに、誰に連絡すればよいか。
この話はしにくい内容です。ただし、伝えないことは守ることになりません。一度、時間を取って話してください。
まとめ
保証を外すには、法人と個人の分離・財務基盤・経営の透明性という条件を満たす必要があり、数年かかります。5年前から「将来的に外したい」と伝え、公私混同の解消と情報開示を積み重ねてください。承継では二重徴求を避け、M&Aでは期限と代替策まで契約に定めることが重要です。