今日できること(1日)

  • 引退したい年齢を紙に書く(仮でよい)
  • 連絡先リストを作る:荷主、協力会社、金融機関、専門家
  • 印鑑・許可証・重要書類の保管場所を紙に書く
  • その紙の場所を、配偶者と幹部1名に伝える
  • 借入の一覧を作る:残高、返済日、保証の有無

これだけで、社長に何かあったときの備えになります。社長が突然倒れたらをご覧ください。

1か月でできること

  • 車両台帳を現物と突き合わせる:所有・リース、残債、稼働状況
  • 荷主別の売上を3期分集計する
  • 契約書を1か所に集める:荷主、リース、賃貸借、借入
  • 株主名簿を確認する:実態と一致しているか
  • IT資産の一覧を作る:契約者が法人か個人か
  • 会社の資産で、事業に使っていないものを書き出す

デューデリジェンスの準備と当日の流れで必要になる資料と重なります。

3か月〜1年でやること

公私混同の解消

  • ☐ 社長・家族が使っている車両を整理する
  • ☐ 社長個人への貸付・借入を精算する
  • ☐ 個人名義の契約を法人名義に切り替える
  • ☐ 私的な支出を経費から外す
  • ☐ 社長所有不動産の賃料を相場水準にする

公私混同の解消が最優先である理由をご覧ください。

労務の是正

  • ☐ 労働時間の記録方法を見直す(荷待ち・荷役を区分)
  • ☐ 割増賃金の計算基礎を検算する
  • ☐ 固定残業代の時間数と超過分の扱いを明確にする
  • ☐ 就業規則・賃金規程と実態を一致させる
  • ☐ 36協定・健診・選任者研修の期限を管理する

労働時間の把握方法賃金規程と実態を一致させるをご覧ください。

許認可の整合

  • ☐ 届出上の営業所・車庫と実態を突き合わせる
  • ☐ 運行管理者・整備管理者の選任状況と研修受講
  • ☐ 帳票の欠落を確認する

監査で見られる帳票をご覧ください。

数字が見える体制

  • ☐ 月次試算表を出す
  • ☐ 資金繰り表を3か月先まで作る
  • ☐ 荷主別・車両別の採算を出す

荷主別の採算管理運送業の資金繰りの勘所をご覧ください。

1〜3年でやること

社長依存からの脱却

  • ☐ 配車を複数人が担える状態にする
  • ☐ 荷主訪問に幹部を同行させる
  • ☐ 一定金額までの決裁を幹部に委ねる
  • ☐ 月次の数字を幹部と共有する
  • ☐ 管理者資格(運行管理者等)の取得を進める

配車の属人化を解消する管理職の育成をご覧ください。

企業価値の向上

  • ☐ 荷主を分散する
  • ☐ 運賃を改定する(実績を記録する)
  • ☐ 直取引比率を上げる
  • ☐ 不採算取引から撤退する
  • ☐ ドライバーの採用・定着を改善する

企業価値を高める取り組みをご覧ください。

資金と保証

  • ☐ 個人保証の解除可能性を金融機関に確認する
  • ☐ 借入の整理・借換えを検討する
  • ☐ 車両更新の資金計画を立てる

個人保証を外すために逆算で準備しておくことをご覧ください。

方法を決める(判断の期限を設ける)

並行して検討して構いません。 準備は共通です。親族内承継とM&Aを併用する選択肢をご覧ください。

優先順位

すべてを同時にはできません。効果と緊急度で並べると、次の順になります。

  1. 今日できること:緊急時の備え。1日で終わります
  2. 労務の是正:最も大きな減額要因。時間もかかります
  3. 公私混同の解消:比較的短期間でできます
  4. 社長依存からの脱却:最も時間がかかるが、効果も最大
  5. 企業価値の向上:3〜5年かけて

今日の作業を実際に終える

これだけで社長に何かあったときの備えになりますと書きました。実際に終えるための補足をします。

引退したい年齢を書く作業は、五分で終わります。正確でなくて構いません。仮の数字を書き、日付も入れてください。後で見返したときに、いつ考えたかが分かります。

連絡先の一覧は、手元の名刺と携帯の記録から作れます。荷主、協力会社、金融機関、専門家。名前、会社名、電話番号、何の担当か。この四項目で足ります。

保管場所の記録は、実際に確認しながら書いてください。頭の中では覚えているつもりでも、書き出すと曖昧な部分が出ます。

そして、伝える相手を二名にしてください。一名だと、その人と連絡が取れない場合に困ります。

借入の一覧は、返済の予定表を集めれば作れます。金融機関ごとに、残高、返済日、保証の有無。

これらを一つの封筒か袋にまとめ、場所を決めてください。分散していると、緊急時に集められません。

一か月の作業をどう配分するか

一か月でできることを挙げました。作業の配分を示します。

車両台帳の突き合わせは、一日で終わります。現物を見て、台帳と合っているかを確認する作業です。売却した車両が残っている、逆に増えているのに記載がない。こうしたずれが見つかります。

荷主別の売上の集計は、請求のデータがあれば数日で作れます。三期分を並べると、取引の変化が見えます。

契約書を集める作業には、時間がかかります。散らばっていることが多く、探すところから始まります。一週間程度を見てください。

株主名簿の確認は、実態と一致しているかを見る作業です。過去に名義を借りている、相続で分散している。こうした状態が見つかることがあります。

そして、契約者が個人になっているものの一覧も作ってください。通信、システム、リース。承継の際に扱いが問題になります。

これらは並行して進められます。一か月あれば、形になります。

労務の是正に最も時間をかける

最も大きな減額要因で時間もかかりますと書きました。この理由を掘り下げます。

まず、実態を把握するのに数か月かかります。記録を確認し、計算を検証し、どこにずれがあるかを特定する作業です。

そして、直すには制度の見直しが必要になります。専門家と組み立て、全員分を試算し、説明して移行する。ここでさらに数か月です。

運用が定着するまでには、そこから半年から一年かかります。制度を変えた直後は、記録も計算も揺れます。

だから、着手から完了まで二年から三年を見てください。承継の時期の直前に始めるのでは、間に合いません。

そして、完了していなくても、把握して着手していることには意味があります。範囲と原因が示せれば、価格の調整として処理されます。

把握していない状態が最も不利です。だから、まず現状を確認するところから始めてください。

社長依存の脱却をどこから始めるか

最も時間がかかるが効果も最大ですと書きました。着手の順序を示します。

まず、配車から始めてください。日常的に判断が必要で、社長が抜けたときに最も早く影響が出る領域です。

そして、週の一日だけでも任せてください。全部を渡す必要はありません。一日でも、判断を経験することに意味があります。

次に、荷主への訪問に幹部を同行させてください。関係が社長個人に紐づいていると、引き継ぎに時間がかかります。

決裁の範囲も決めてください。この金額までは自分で判断してよい。範囲があれば、社長がいなくても止まりません。

そして、数字を共有してください。判断の材料がなければ、任せても決められません。

これらを一年続けると、社長が数週間不在でも回る状態に近づきます。そして、この状態が承継の場面で最も評価されます。

公私混同の解消を短期間で進める

比較的短期間でできますと書きました。進め方を具体的にします。

まず、洗い出しから始めてください。会社名義だが個人が使っているもの、個人名義だが会社で使っているもの。両方向を確認します。

車両については、使用の実態を確認してください。家族が日常的に使っている車が会社名義になっている場合、扱いを決める必要があります。

貸付や借入がある場合は、精算の計画を立ててください。一度に返せない場合でも、返済の予定が示せれば違います。

私的な支出については、今後の分から止めてください。過去にさかのぼって直すことはできません。

不動産の賃料については、相場との比較を確認してください。高すぎても低すぎても、指摘の対象になります。

これらは、決算の一期で形になります。ただし、期の途中で始めても、その期の決算には中途半端に残ります。期の初めから取り組むほうが、きれいに整理できます。

並行して検討することの意味

並行して検討して構いませんと書きました。この点を掘り下げます。

後継者の候補に打診しながら、第三者の可能性も確かめる。この二つを同時に進めることに、問題はありません。

ただし、社内の候補に対しては、他の道も検討していることを伝えるかどうかの判断が要ります。伝えると、本人が身を引くことがあります。伝えないと、後から知られたときに不信になります。

実務としては、方向がある程度固まってから伝えるのが現実的です。ただし、決まった後に伝えるのでは遅すぎる場面もあります。

そして、準備の作業は共通です。どの道を選んでも、公私の分離も、労務の是正も、数字の見える化も必要になります。

だから、方向が決まらないうちは、共通の準備を進めてください。方向に固有の作業は、決まってから着手すれば足ります。

そして、判断の期限だけは決めてください。並行して検討することと、決めないことは違います。

進み具合を確認する仕組み

この一覧は、作って終わりにしないでください。確認の仕組みを作ります。

まず、済んだ項目に印を付けてください。日付も入れると、いつ済んだかが分かります。

そして、半年に一度、全体を見返してください。進んでいる項目、止まっている項目。止まっているなら、理由を確認してください。

止まる理由は、たいてい担当が決まっていないか、優先順位が低いかのどちらかです。どちらも対処できます。

そして、残りの期間と照らしてください。引退の時期まで何年あり、残っている項目にどれだけかかるか。間に合わない場合は、優先順位を見直してください。

あわせて、この一覧を幹部と共有する方法もあります。ただし、承継を検討していることが伝わるため、時期は慎重に判断してください。

そして、済んだ項目についても、記録を残してください。何をいつ整理したかが、後の説明で使えます。

資料を集める段階でつまずかない

契約書を一か所に集めるという項目を挙げました。この作業でつまずく場面と対処を示します。

まず、契約書が見つからないことがあります。古い取引ほど、所在が分からなくなります。この場合、相手に写しを求めてください。平時のうちなら、不自然ではありません。

そして、そもそも契約書がない取引も見つかります。この場合は、書面がないという事実を記録してください。後から作る必要はありませんが、把握しておく必要があります。

集めた契約書は、種類ごとに分けてください。荷主、協力会社、リース、賃貸借、借入。探すときに時間がかかりません。

そして、一覧を作ってください。相手、種類、期間、更新の方法、主な条件。この一覧があると、中身を見なくても状況が分かります。

あわせて、支配権の変更に関する条項があるかも確認してください。承継の際に手続きが必要になる契約が分かります。

この作業には数週間かかります。ただし、一度やれば、以後は新しい契約を足すだけです。

許認可の整合を確認する

届出上の内容と実態を突き合わせるという項目を挙げました。確認の手順を示します。

まず、営業所と車庫について、届け出ている内容を確認してください。場所、面積、収容できる台数。実際に使っている状態と合っているか。

移転や増設をしたが手続きをしていない、という状態が実際にあります。この場合、手続きが必要です。

そして、選任している管理者を確認してください。届け出ている人が、実際に業務を担っているか。退職した人の名義が残っていることがあります。

研修の受講状況も確認してください。期限があるため、漏れが生じやすい部分です。

そして、車両の台数についても、登録と実態を照合してください。売却した車両が残っている、増えているのに届け出ていない。

これらのずれは、承継の手続きの段階で必ず見つかります。先に直しておけば、スケジュールが崩れません。

まとめ

承継の方法が決まっていなくても、準備の9割は共通です。今日できるのは、引退年齢を紙に書く・連絡先と保管場所を記録する・借入一覧を作ること。1か月で台帳と契約書を整理し、1年で労務と公私混同を是正、3年で社長依存の解消と企業価値の向上を進めてください。