まず契約を棚卸しする

加入している保険を、一覧にしてください。

項目確認する内容
保険の種類自賠責、任意自動車、貨物、請負賠償、施設賠償、労災上乗せ
対象どの車両・どの業務が対象か
補償額対人・対物・貨物それぞれの上限
免責額自己負担額
特約付帯している特約
年間保険料種類別
満期更新の時期

「何にいくら払っているか」を把握していない会社が実際にあります。ここから始めてください。

過去の事故と照らす

過去3年の事故を整理し、次を確認します。

  • 件数と、1件あたりの損害額
  • 保険で埋まった額
  • 保険で埋まらなかった額と、その理由

3番目が最も重要です。補償の隙間が具体的に見えます。事故時の保険と賠償の考え方をご覧ください。

補償が足りていない場合

次はよくある不足です。

  • 貨物保険の上限が低い:高額品を運ぶ場合
  • 荷役中の事故が対象外:請負業者賠償責任保険の未加入
  • 納品先の建物損傷:対物の範囲
  • 労災の上乗せがない:従業員の重大災害時の負担
  • 危険物・特殊輸送に対応していない危険物輸送に必要な資格と体制

保険料を下げるより、まず不足を埋めるべき場合があります。

補償が過剰な場合

  • 使っていない車両に車両保険が付いたまま
  • 車齢が高く、車両保険の価値が低い
  • 重複した特約
  • 廃車・売却した車両が契約に残っている

車両台帳と保険契約を突き合わせると、実際にずれが見つかることがあります。財務デューデリジェンスで指摘されやすい点をご覧ください。

免責額の設定

免責額(自己負担額)を上げれば保険料は下がりますが、小さな事故が多い会社では自己負担が増えます

  1. 過去3年の事故を、損害額の大きさで分類する
  2. 免責額を変えた場合の自己負担の合計を試算する
  3. 保険料の削減額と比較する

この計算をすると、自社に合った免責額が見えます。

事故を減らすことが最大の削減策

保険料は事故の実績で決まります。事故削減が、最も確実で持続的な保険料の削減策です。

安全への投資は、保険料という形でも回収されます

代理店との付き合い方

  • 年1回、契約内容の説明を受ける:更新時に見直しの機会を作る
  • 事故の傾向について助言をもらう
  • 複数社から見積りを取る:ただし補償内容を揃えて比較する
  • 業界に詳しい代理店を選ぶ:運送業の事故の特性を理解しているか

保険料だけで比較しないでください。事故時の対応の速さと質は、金額に表れない重要な要素です。

Gマークなどの活用

安全性優良事業所の認定を受けている場合、保険料の扱いで優遇されることがあります。制度の内容は変わるため、代理店に確認してください。Gマークの取得と承継時の扱いをご覧ください。

承継・M&Aでの扱い

デューデリジェンスでは次が確認されます。

  • 加入している保険と補償額
  • 過去の事故と、保険で埋まらなかった賠償
  • 処理中・係争中の案件
  • 荷主との契約で負っている責任と、補償の対応関係

補償の不足は、潜在的な負担として評価されます。売却前に点検し、必要なら見直しておいてください。

また、株式譲渡の場合も契約者・代表者の変更手続きが必要です。株式譲渡時に必要な届出をご覧ください。

棚卸しをどう進めるか

加入している保険を一覧にしてくださいと書きました。この作業でつまずく場面が決まっているので、進め方を示しておきます。

まず、証券を集めてください。紙で保管しているもの、代理店から届いたもの、更新の通知だけが残っているもの。散らばっていることが多く、探すところから始まります。

見つからないものがあれば、代理店に一覧を出してもらってください。契約している保険会社が複数にまたがっている場合は、それぞれに依頼します。この依頼自体は、通常の業務として応じてもらえます。

集まったら、一覧に落とします。ここで重要なのは、補償の内容を自分の言葉で書き直すことです。証券の用語をそのまま写しても、後から読めません。「どの場面で、いくらまで出るか」を一行で書いてください。

分からない項目があれば、その場で代理店に確認してください。全部を理解しようとせず、事故が起きたときにどうなるかだけを押さえれば足ります。

そして、この一覧を毎年更新する担当を決めてください。作って終わりにすると、数年で実態と合わなくなります。

埋まらなかった部分の調べ方

保険で埋まらなかった額とその理由が最も重要だと書きました。この調べ方を具体的にしておきます。

過去の事故について、実際に会社が支払った額を経理の記録から拾ってください。保険から入った額との差が、埋まらなかった部分です。

差が出た理由は、いくつかに分かれます。補償の上限を超えた、対象外の事故だった、免責の範囲だった、そもそもその保険に入っていなかった。理由によって、対処が違います。

上限を超えたなら、上限の引き上げを検討します。対象外だったなら、その場面を補う契約が必要かを考えます。免責の範囲なら、金額の設定を見直す話になります。

あわせて、金額に出ていない負担も拾ってください。事故の対応にかかった人の時間、荷主への説明、代替の手配。これらは支払いとして記録に残りませんが、実際には負担しています。

この整理は、数年に一度でよいものです。ただ、大きな事故があった年には、必ず行ってください。同じことが次に起きたときに、どうなるかが分かります。

荷主との契約と補償を突き合わせる

荷主との契約で負っている責任と補償の対応関係が確認されると書きました。これは承継の場面だけでなく、日常のリスク管理として重要です。

やり方は、契約書の責任に関する条項と、保険の補償内容を並べることです。契約で負っている範囲が、保険で埋まる範囲を超えていないかを見ます。

よくあるずれは三つあります。一つは、貨物の損害について契約に上限の定めがなく、保険には上限があるケース。高額な荷物を運ぶ場合、この差が大きな負担になります。

二つ目は、荷役や構内作業中の事故です。運送中の事故は対象でも、作業中は別の契約が必要なことがあります。実際に作業をしているなら、確認してください。

三つ目は、納品先の設備を壊した場合です。相手の建物や什器への損害が、どこまで補償されるか。ここは見落とされやすい部分です。

ずれが見つかったら、保険を厚くするか、契約の責任範囲を見直すか、どちらかで埋めてください。両方とも動かせないなら、少なくともそのリスクを認識したうえで受けるかを判断します。

見直しの時期をいつにするか

年に一度、契約内容の説明を受けると書きました。時期の決め方について補足します。

満期の直前に検討を始めると、時間が足りません。比較のための見積もりを取るにも、条件を揃えて依頼する必要があり、数週間はかかります。満期の数か月前から動いてください。

あわせて、車両の増減があった時期にも確認してください。売却した車両が契約に残っている、新しく入れた車両が入っていない。このずれは、台数が動いたときに生じます。

そして、事故があった後も見直しの機会です。実際に起きた事故が、想定していた補償で足りたのかを確認できます。

逆に、毎年同じ内容で自動的に更新している状態は避けてください。事業の中身が変わっているのに、契約が昔のままということがあります。扱う荷物、走る地域、作業の範囲。変わっていれば、必要な補償も変わります。

見直した内容は、記録に残してください。何を検討し、なぜ今の形にしたか。次の年に、そこから始められます。

見積もりを比べるときの揃え方

複数社から見積もりを取るときは補償内容を揃えて比較すると書きました。揃えるべき項目を具体的にしておきます。

対人と対物の上限、貨物の補償額、免責の金額、対象となる車両の範囲、付帯している特約。この五つが揃っていなければ、金額の比較に意味がありません。

依頼するときは、現在の契約内容を書き出して渡してください。「この条件で見積もってください」と伝えるほうが、相手も作りやすく、比較もできます。

そのうえで、より良い形の提案があれば出してもらってください。同じ条件の見積もりと、提案の見積もり。二つを並べて受け取る形にすると、判断しやすくなります。

そして、事故が起きたときの対応についても聞いてください。連絡先、対応の時間帯、現場に来てもらえるか、示談の交渉を任せられるか。ここは契約書の条件には現れません。

金額だけで乗り換えて、事故のときに連絡が付かない。この失敗は実際にあります。安くなった分は、一度の事故で失われます。

免責額を試算する手順

免責額を変えた場合の自己負担を試算すると書きました。実際の手順を示しておきます。

まず、過去数年の事故を、一件ずつ損害額とともに並べてください。件数と金額の分布が見えます。

次に、検討している免責額でその一覧を再計算します。各件について、免責の範囲に収まるものは全額が自己負担、超えるものは免責分が自己負担。合計すると、その設定にした場合の負担額が出ます。

これを、保険料の削減額と比べてください。削減額のほうが大きければ、その設定に変える価値があります。

ただし、過去がそのまま続く前提の計算です。大きな事故が一件でも起きれば、結果は変わります。だから、削減額と負担額が近い場合は、変えないほうが安全です。差がはっきりしている場合にだけ動かしてください。

そして、免責額を上げた場合は、その分を社内で備えておく必要があります。手元の資金で払える範囲かどうかを、あわせて確認してください。

事故を減らす取り組みを保険とつなげる

事故削減が最も確実で持続的な削減策だと書きました。ただ、取り組みと保険料の関係は、すぐには見えません。

だから、社内で示すときは、二つを分けて伝えてください。一つは、事故そのものが減ったこと。件数と、それによって避けられた損害。もう一つは、保険料への反映です。こちらは時間差で表れます。

あわせて、保険で埋まらない部分が減ったことも示してください。免責の自己負担、代車の費用、荷主への対応にかかった時間。事故が減れば、これらも減ります。

代理店にも、取り組みの内容を伝えてください。安全の装置を入れた、教育の体制を整えた、記録の運用を変えた。契約の条件に反映される場合があります。

そして、事故の傾向について助言をもらってください。多くの契約を見ている立場から、自社の事故の型がどう見えるかを聞けます。社内では気づかない指摘が出ることがあります。

安全への投資は、保険料という形でも回収されます。ただし、回収されるまでには時間がかかります。短期の効果を期待せず、続けてください。

使っていない契約を残さない

廃車や売却した車両が契約に残っていることがあると書きました。この種のずれは、気づかなければ何年も続きます。

防ぐ方法は単純で、車両を動かしたときの手順に保険の確認を組み込むことです。売却したとき、廃車にしたとき、新しく入れたとき。そのつど代理店に連絡する担当を決めてください。

そして、年に一度、車両台帳と契約の一覧を突き合わせてください。台数が合っているかを見るだけで、ずれが見つかります。車検の時期に合わせて行うと、忘れません。

あわせて、車齢が上がった車両の車両保険についても見直してください。時間が経つほど、その車両に対して受け取れる額は下がります。払っている保険料と見合っているかを確認する価値があります。

特約の重複も、同じ機会に確認できます。複数の契約に同じ内容が入っていることがあります。代理店に「重複している特約はありますか」と聞けば、確認してもらえます。

これらの点検は、費用を削るためだけの作業ではありません。契約の実態が把握できていることは、管理の水準そのものを示します。

まとめ

まず契約を一覧にし、過去3年の事故で「保険で埋まらなかった部分」を洗い出してください。補償の不足を埋めることが、保険料を下げることより優先される場合があります。免責額は自社の事故傾向から試算し、事故削減が最も確実な削減策です。