作成と届出

常時一定人数以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務づけられています。事業場ごとである点に注意してください。営業所が複数ある会社では、それぞれで確認が必要です。

人数の基準や届出の手続きは、社労士または労働基準監督署に確認してください。

運送業で特に重要な記載事項

1. 労働時間・休憩・休日

  • 始業・終業の時刻(運行によって変動する場合の定め方)
  • 休憩の与え方(一斉付与の例外を含む)
  • 休日の定め方(シフト制の場合の特定方法)
  • 変形労働時間制を採用する場合、その内容

運送業では労働時間が不規則になりやすいため、ここが実態と合っているかが最大の論点です。労働時間の把握方法をご覧ください。

2. 賃金

賃金規程を別立てにするのが一般的です。歩合給・固定残業代・各種手当の定めを明確にしてください。賃金規程と実態を一致させるをご覧ください。

3. 安全衛生・健康管理

  • 健康診断の受診義務
  • 点呼への協力
  • アルコールチェック
  • 飲酒運転の禁止と処分

4. 車両の使用と事故の取扱い

  • 車両を私用に使わないこと
  • 事故時の報告義務と手順
  • 交通違反の反則金・罰金の負担
  • 事故の損害を賃金から控除しないこと(一方的な控除は問題になります

事故の損害をドライバーに負担させる運用は、争いになりやすい領域です。規程の書き方と運用を社労士に確認してください。

5. 副業・兼業

労働時間の通算や過労の観点から、運送業では特に整理が必要な項目です。

6. ハラスメント

防止措置が事業主に義務づけられています。相談窓口の設置と周知が必要です。ハラスメント対策をご覧ください。

実態とずれやすい項目

  • 始業・終業時刻:規則には「8:00〜17:00」とあるが、実際は運行次第
  • 休憩時間:規則には60分とあるが、実際は取れていない、または分散している
  • 休日:週休2日と書いてあるが、実際は稼働日数が多い
  • 手当:規則にある手当を払っていない/ない手当を払っている
  • 試用期間:規則の期間と実際の運用が違う
  • 退職金:規程があるのに積立も引当もない(退職給付の見積りと価格調整

就業規則に書いてあることは、会社の約束です。守れない内容を書かないでください。

周知が必要

作成・届出だけでは足りません。労働者がいつでも見られる状態にする必要があります。

  • 事業場に掲示する、または備え付ける
  • 書面を交付する
  • 社内のシステムで閲覧できるようにする

ドライバーは事務所にいる時間が短いため、点呼場所や休憩室に置くなど、実際に見られる場所を選んでください。周知されていない就業規則は、効力が問題になることがあります。

変更するときの手順

  1. 変更案を作る(社労士と)
  2. 労働者の過半数代表者の意見を聴く:意見書を作成する
  3. 労働基準監督署に届け出る
  4. 労働者に周知する

過半数代表者の選出は、36協定と同様に民主的な手続きが必要です。会社が指名すると問題になります。36協定の締結と管理をご覧ください。

不利益変更の場合

労働条件を引き下げる変更には、より慎重な手続きが求められます。労働者の同意、変更の必要性、代償措置、説明の状況などが考慮されます。一方的な変更は無効とされる可能性があります。賃金制度改定の進め方と説明をご覧ください。

承継・M&Aの前に

就業規則は、労務デューデリジェンスで必ず確認されます。次を点検してください。

  • 最新版がどれか分かるか(改定履歴が残っているか)
  • 届出の控え(受付印のあるもの)があるか
  • 意見書が揃っているか
  • 営業所ごとに必要な分が揃っているか
  • 実態と整合しているか
  • 周知されているか

「どれが最新か分からない」という状態は実際によくあります。ファイルを整理し、最新版を確定させるところから始めてください。労務デューデリジェンスで見られる書類をご覧ください。

統合を伴う場合

M&A後に複数社の就業規則を統合する場合、労働条件の違いをどう揃えるかが大きな課題になります。不利益変更に当たる部分は、経過措置を含めた設計が必要です。合併を選ぶときの注意点をご覧ください。

最新版を確定させる作業

どれが最新か分からないという状態は実際によくあると書きました。この整理をどう進めるかを示します。

まず、社内にある就業規則をすべて集めてください。事務所の棚、社長の手元、電子ファイル。複数の版が散らばっていることがあります。

次に、それぞれについて、いつのものかを確認します。届出の受付印があれば、そこから日付が分かります。印のないものは、案の段階で止まった版である可能性があります。

そして、届出の控えと突き合わせてください。届け出た版と、社内で使っている版が違うことがあります。この場合、どちらが有効かの判断が必要になるため、専門家に相談してください。

最新版が確定したら、他の版には「旧版」と明記して分けて保管してください。捨ててしまうと、過去の条件が確認できなくなります。

そのうえで、改定の履歴を一覧にしてください。いつ、どの部分を、なぜ変えたか。この一覧があると、以後の管理がはるかに楽になります。

事業場ごとという意味

事業場ごとである点に注意してくださいと書きました。営業所が複数ある会社では、ここが見落とされがちです。

本社でまとめて作成し、届け出ているつもりでも、事業場ごとの手続きが必要な場合があります。人数の基準も、事業場単位で判断されます。

だから、まず自社の事業場がどこかを整理してください。営業所、車庫、倉庫。それぞれが独立した事業場に当たるかどうかは、実態によって判断されます。

そのうえで、それぞれについて必要な手続きが済んでいるかを確認してください。届出の控えが事業場ごとにあるか。意見書が揃っているか。

内容についても、事業場によって労働条件が違うなら、それが反映されている必要があります。本社と営業所で始業の時刻が違うのに、同じ規則を使っている。こうした状態は、実態とのずれになります。

そして、新しく営業所を開設したときは、この手続きを忘れないでください。開設の手続きに気を取られて、労務の側が漏れることがあります。

守れない内容を書かない

書いてあることは会社の約束だと書きました。この原則を、具体的な項目で見ておきます。

始業と終業の時刻は、運行によって変わるのが実態です。固定の時刻だけを書くと、実態と合いません。運行によって変動する場合の定め方を、実態に合わせて書いてください。

休憩についても、一律の時刻を書いて実際に取れていないなら、書き方を見直す必要があります。ただし、取れていないこと自体が問題である場合は、運行の側を直すのが本筋です。

休日の日数も同じです。週休二日と書いてあるのに実際の稼働日数が多いなら、どちらかを直す必要があります。

手当についても、規則にあるが払っていないものは、請求される可能性があります。廃止したなら、規則からも削ってください。

そして、退職金の規程があるのに準備がない場合は、将来の負担として残ります。制度を続けるなら準備を、続けないなら制度の見直しを検討してください。

周知が届く場所を選ぶ

ドライバーは事務所にいる時間が短いと書きました。周知の方法を、実態に合わせて選んでください。

掲示や備え付けをする場合、点呼の場所や休憩室が現実的です。事務所の奥の書棚に置いても、見られません。

電子で見られるようにする方法もあります。ただし、全員が使える環境にあるかを確認してください。使えない人がいるなら、紙も併用する必要があります。

そして、置いてあることを伝えてください。存在を知らなければ、見られる状態とは言えません。改定したときには、そのつど知らせてください。

あわせて、内容の要点をまとめた資料を配る方法も有効です。全文を読む人は多くありません。日常に関わる部分だけでも伝われば、意味があります。

新しく入る人には、入社時に説明してください。既存の従業員には周知したが、その後に入った人が知らない。この状態が、数年で生まれます。

事故の扱いをどう書くか

事故の損害をドライバーに負担させる運用は争いになりやすいと書きました。規程での扱いについて補足します。

まず、賃金から一方的に差し引く形は問題になります。損害の負担を求めること自体と、賃金から控除することは別の話です。ここを混同しないでください。

そのうえで、規程に書くべきは、事故が起きたときの報告の手順と、その後の対応の流れです。誰に、いつ、どう報告するか。この部分は明確に定めてください。

損害の負担については、書き方によって扱いが変わるため、専門家に確認しながら定めてください。自己流の条文を置くと、いざというときに使えないだけでなく、他の条項の信頼も損ないます。

あわせて、交通違反の反則金の扱いも決めておいてください。ここも曖昧なまま慣行で処理されていることが多い部分です。

そして、実際の運用が規程どおりかを確認してください。規程では手順が定められているのに、現場では別の処理が行われている。この状態は、規程がないのと変わりません。

変更の手続きで押さえること

変更の手順を四つ挙げました。それぞれで実務上つまずく点を補います。

変更案を作る段階では、実態の確認が先です。何をどう変えたいのかが決まっていないまま専門家に相談すると、一般的な案が出てきます。自社の何が問題かを整理してから相談してください。

過半数代表者の意見を聴く手続きでは、選出の方法が重要です。会社が指名すると、手続き自体の有効性が問われます。どう選んだかを記録に残してください。

意見書は、内容に反対の意見が書かれていても構いません。聴いた事実が必要です。ただし、反対意見が出た場合は、その内容を検討した記録も残しておくべきです。

届出の後は、控えを保管してください。受付印のある控えが、後の確認で必要になります。

そして、周知まで済ませて初めて手続きが完了します。届け出た時点で終わりにしないでください。

点検を定期の作業にする

承継の前に点検する項目を挙げましたが、これは日常の管理としても有効です。

年に一度、就業規則と実態を突き合わせる時間を作ってください。労働時間、休日、手当。この三つを確認するだけで、大きなずれは見つかります。

確認する人は、労務の担当と、運行を知っている人の両方が必要です。規程を読める人だけでは、実態が分かりません。現場だけでは、規程の意味が読み取れません。

そして、ずれが見つかったら、その場で対応を決めてください。次回に持ち越すと、そのまま数年が過ぎます。

あわせて、法令の改正がなかったかも確認してください。改正に伴って見直しが必要な項目が出ることがあります。

点検の記録は残してください。いつ、誰が、何を確認したか。承継の場面で、管理が続いていることの証明になります。

副業と兼業をどう整理するか

運送業では特に整理が必要な項目だと書きました。考え方を補足します。

論点は二つあります。一つは、労働時間の通算です。他社でも働いている場合、時間の管理が複雑になります。もう一つは、疲労の問題です。運転を伴う仕事では、休息が確保できているかが安全に直結します。

だから、規程では、届け出を求める形にするのが実務的です。禁止するかどうかより、把握できているかどうかが重要になります。

届け出を受けたら、内容を確認してください。就業の時間帯、業務の内容、頻度。運行に支障が出る可能性があるなら、本人と話す必要があります。

そして、判断の基準を規程に書いておいてください。どういう場合に認められないのか。基準がないと、人によって扱いが変わります。

あわせて、届け出のない副業が分かった場合の扱いも決めておいてください。ここも、規程がなければ対応できません。

まとめ

就業規則は事業場ごとに作成・届出・周知が必要です。運送業では労働時間・休憩・休日の記載が実態とずれやすく、書いてあることは会社の約束として扱われます。守れない内容は書かないこと。承継の前に、最新版の確定と実態との突合を行ってください。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。労働時間・賃金に関する具体的な取扱いは、法令の改正や個別の労働条件、実際の運用によって異なります。是正を検討される際は、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。