なぜ「仕組み化」なのか
安全教育が続かない理由は決まっています。
- 全員を集められない(運行がバラバラ)
- 担当者が忙しく、準備の時間がない
- 内容がマンネリ化し、聞く側の関心が薄れる
- 記録を残す作業が負担
気合いや意識では続きません。負担を減らし、自動的に回る形にすることが必要です。
年間計画を先に作る
年度初めに、次を決めてしまいます。
| 項目 | 決めること |
|---|---|
| 実施月 | 毎月/隔月など。日付まで決める |
| テーマ | 月ごとの内容(12テーマを先に決める) |
| 形式 | 集合、少人数、動画、個別 |
| 担当 | 誰が準備し、誰が実施するか |
| 記録 | 誰が、どの様式で残すか |
計画を紙にした時点で半分終わりです。その場で考えようとするから続きません。
テーマの例
指導・監督の指針で示されている項目に加え、自社の実態に合わせて選びます。
- トラックの運行の安全を確保するために必要な運転技術
- 危険の予測と回避
- 健康管理の重要性
- 車両の日常点検
- 貨物の積載方法と固縛
- 異常気象時(雪、大雨、強風)の対応
- 交通事故に関わる社会的責任
- 飲酒運転の防止
- 過労運転の防止
- 自社で起きた事故・ヒヤリハットの共有
法令で求められる項目と回数は改正されることがあるため、最新の指針を確認してください。
実施しやすい形式にする
1. 全員集合にこだわらない
運行がバラバラな以上、全員を一度に集めるのは困難です。同じ内容を複数回に分けて実施し、全員が受けられるようにしてください。
2. 短く、頻繁に
年に1回2時間より、月に1回15分のほうが定着します。点呼の場を使う方法もあります。
3. 動画や資料を活用する
トラック協会や関係機関が提供する教材があります。自作にこだわらず、既存のものを使ってください。担当者の準備負担が大きく減ります。
4. 個別指導を組み合わせる
デジタコのデータをもとに、急ブレーキが多い、燃費が悪いといった個別の傾向を伝えます。全体への話より、自分のことのほうが響きます。デジタコを労務管理にどう使うかをご覧ください。
自社の事故データを使う
最も効果があるのが、自社で実際に起きたことを題材にすることです。
- 先月起きた事故・ヒヤリハットの状況
- ドライブレコーダーの映像(本人が特定されない配慮をしたうえで)
- その場所・その状況で何ができたか
他人事ではなく自分たちの話なので、関心が違います。ただし、個人を責める場にしないことが絶対条件です。責める場になると、事故やヒヤリハットが報告されなくなります。事故発生時の初動と再発防止をご覧ください。
記録の残し方
記録がなければ、実施していないのと同じです。次を残してください。
- 実施日、時間
- 実施者
- テーマと内容(使用した資料も添付)
- 参加者の氏名(本人の署名があると確実)
- 欠席者への対応(いつ、どう補ったか)
様式を1枚に固定してください。毎回書式を考えていると続きません。
特定の運転者への指導
次に該当する運転者には、通常の教育に加えた特別な指導が求められます。
- 事故を起こした運転者
- 新たに雇い入れた運転者
- 高齢の運転者
実施の時期・内容・記録の要件は指針で定められています。採用時の指導が漏れやすいので注意してください。未経験者の採用と育成、高齢ドライバーの安全管理をご覧ください。
監査・Gマークとの関係
指導・監督の実施記録は、監査での確認項目であり、Gマークの審査でも評価されます。教育を仕組み化することは、そのまま両方への対応になります。
監査で見られる帳票、Gマークの取得と承継時の扱いをご覧ください。
承継・M&Aでの意味
安全教育の記録が整っている会社は、事故リスクが低く、管理ができている会社と評価されます。事故が多い会社は、保険料の高さだけでなく荷主からの信用にも関わります。
また、教育が社長個人のカリスマではなく仕組みで回っていることは、社長依存からの脱却を示す材料にもなります。評価が上がる会社の条件をご覧ください。
点呼の場を使うという方法
点呼の場を使う方法もあると書きました。この形が有効な理由と、進め方を補足します。
点呼は毎日行われ、全員が必ず通ります。集合の日程を調整する必要がありません。ここに数分を足すだけで、全員に届く教育の場になります。
ただし、点呼そのものの時間を圧迫しないでください。健康状態の確認や指示事項は、本来の目的です。教育を足すなら、その分の時間を見込んで運行を組む必要があります。
内容は、一つのテーマを一か月かけて少しずつ扱う形が向いています。毎日違う話をすると、実施する側の準備が続きません。同じテーマを角度を変えて繰り返すほうが、定着もします。
そして、話した内容を記録に残してください。日付、テーマ、話した相手。点呼の記録に一行足す形で足ります。
ただし、この方法だけでは足りない場面もあります。まとまった時間が必要な内容は、別に機会を設けてください。両方を組み合わせる形が現実的です。
欠席者をどう拾うか
同じ内容を複数回に分けて実施し全員が受けられるようにすると書きました。それでも受けられない人が出ます。
だから、名簿で管理してください。誰が受けて誰が受けていないか。テーマごとに一覧にすれば、抜けが見えます。
受けられなかった人には、補う方法を用意してください。資料を渡して読んでもらう、動画を見てもらう、個別に短時間で話す。形式は問いませんが、記録は残してください。
そして、いつまでに補うかを決めてください。期限がないと、そのまま流れます。翌月までに、といった目安を置いてください。
同じ人が繰り返し受けられない場合は、運行の組み方に原因があります。その人だけが常に外れる配車になっていないかを確認してください。
この管理は、監査の場面でも問われます。実施したという記録があっても、対象者の一部しか受けていなければ、実施として認められない場合があります。
マンネリ化を避ける工夫
内容がマンネリ化し聞く側の関心が薄れるという問題を挙げました。避けるための工夫を挙げます。
まず、自社で起きたことを題材にすることが最も効きます。他人事ではなく、自分たちの現場の話だからです。ただし、事故がない月もあります。その場合は、ヒヤリハットや、近隣で起きた事例を使ってください。
次に、話す人を変える方法があります。毎回同じ人が話すと、聞く側も慣れます。ベテランのドライバーに話してもらう、整備の担当に車両の話をしてもらう。立場が違うと、内容も伝わり方も変わります。
そして、一方的に話す形にしないでください。「この場面でどうするか」と問いかけると、参加している状態になります。全員の前で答えさせる必要はありません。少人数なら、隣どうしで話すだけでも変わります。
季節に合わせたテーマも有効です。冬の路面、夏の疲労、雨の視界。その時期に実感を持てる内容は、関心を引きます。
そして、反応が悪かった回は記録しておいてください。次の年に同じ内容を組むときの参考になります。
特定の運転者への指導を漏らさない
採用時の指導が漏れやすいと書きました。漏れを防ぐ方法を示します。
まず、採用の手続きに指導を組み込んでください。雇用契約、免許の確認、健康診断、そして指導。一連の流れの一項目として位置づければ、忘れません。
次に、事故を起こした運転者への指導は、事故の対応の手順に組み込んでください。初動、報告、原因の分析、そして本人への指導。ここまでを一つの流れとして扱います。
高齢の運転者については、診断の時期と連動させてください。診断を受けた後に、その結果を踏まえた指導を行う。この順序が自然です。
そして、対象者と実施の状況を一覧で管理してください。誰がいつ該当し、いつ実施したか。個別に管理していると、抜けます。
実施の時期、内容、記録の要件は指針で定められています。改正されることもあるため、最新の内容を確認してください。
映像を使うときの配慮
ドライブレコーダーの映像を本人が特定されない配慮をしたうえで使うと書きました。この配慮の中身を具体的にします。
まず、本人に事前に伝えてください。黙って使うと、監視されているという受け止めになります。教育の材料として使いたいと伝え、了解を得るほうが安全です。
そして、いつ誰の映像かが分かる情報は伏せてください。日付、場所、車番。これらを出さなければ、特定されにくくなります。
とはいえ、社内では分かってしまう場合があります。だから、映像を使う場では、その人を責める話にしないことが絶対の前提です。何が起きたか、どうすれば防げたかだけを扱ってください。
もし責める場になれば、以後は記録が出てこなくなります。機器があっても、報告されなければ意味がありません。
そして、映像を使った回の反応を見てください。参加している人の表情が硬いなら、扱い方に問題があります。使い方を変えるか、しばらく別の題材にしてください。
記録の様式を一枚に固める
様式を一枚に固定してくださいと書きました。何を載せるかを具体的にします。
上部に、実施日、時間、実施者、テーマ。ここは毎回同じ位置に置きます。
中央に、内容の欄。使った資料の名称と、話した要点を数行。詳細に書く必要はありません。後から何をやったかが分かれば足ります。
下部に、参加者の氏名と署名の欄。人数分の行を用意しておきます。署名があると、実施した事実が確実になります。
そして、欠席者と、その人にいつどう補ったかを書く欄も設けてください。ここが空欄のままだと、抜けが残ります。
使った資料は、この様式に添えて保管してください。年度が終わったら、一年分をまとめて綴じる。監査で求められたときに、そのまま出せます。
教育が仕組みで回っている状態
教育が社長個人のカリスマではなく仕組みで回っていることが承継の材料になると書きました。この状態をどう作るかを整理します。
まず、年間の計画が文書としてあることです。誰かの頭の中にあるのではなく、紙になっている。これが第一の条件になります。
次に、担当が決まっていることです。準備する人、実施する人、記録する人。社長が全部を担っている状態は、仕組みとは言えません。
そして、教材が揃っていることです。毎回その場で作るのではなく、使う資料が決まっている。次の担当者が引き継げる形になります。
あわせて、記録が様式に沿って残っていることです。誰が見ても、何をいつやったかが分かる状態にします。
この四つが揃っていれば、担当が代わっても続きます。買い手から見ても、引き継いだ後に同じ水準が保てると判断できます。
個別指導をどう組み立てるか
デジタコのデータをもとに個別の傾向を伝えると書きました。この場の作り方を補足します。
まず、伝えるのは事実からにしてください。「運転が荒い」ではなく、「この区間で急な減速が月に何回記録されています」。数字から入ると、話が対立になりません。
そして、心当たりを聞いてください。その区間の道の状況、その時間帯の混み方、運行の余裕。本人にしか分からない事情があります。数字の背後に、配車の問題が隠れていることもあります。
そのうえで、変えられることを一つ決めてください。全部を直そうとすると、何も残りません。この場面ではこうする、という一点に絞ります。
そして、次に会うときに結果を見てください。変わっていれば認め、変わっていなければ理由を一緒に考える。この往復があって、初めて指導になります。
指導の記録も残してください。日付、伝えた内容、本人の反応、決めた対策。特定の運転者への指導として求められる場面でも、この記録が使えます。
まとめ
安全教育は年間計画を先に作り、短く頻繁に、複数回に分けて実施するのが続けるコツです。既存の教材を活用して担当者の負担を減らし、自社の事故データを題材にすると関心が高まります。様式を固定して記録を残してください。ただし、個人を責める場にしないことが前提です。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。労働時間・賃金に関する具体的な取扱いは、法令の改正や個別の労働条件、実際の運用によって異なります。是正を検討される際は、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。