なぜ運送業で特に重要なのか
- 運転中の意識喪失は大事故に直結する
- 座位が長く、生活が不規則になりやすい
- 食事の時間・内容が偏りやすい
- 平均年齢が高く、有所見率も上がりやすい
- 一人で運行するため、異変に気づく人がいない
健康起因事故は、本人・荷主・会社のすべてに深刻な影響を及ぼします。
健康診断の実施
実施すべきタイミング
- 雇入れ時:採用したら実施します。忘れられやすい項目です
- 定期:年1回が基本
- 深夜業に従事する場合:回数が増えます
運送業では深夜運行が多いため、該当するドライバーの回数が通常より多くなる点に注意してください。具体的な回数と項目は、社労士または労働基準監督署に確認してください。
受診率を上げる工夫
「行く時間がない」という理由で未受診になるのが最も多いパターンです。
- 勤務時間内に受診させる:休みの日に行かせると受診率が下がります
- 巡回健診を利用する:健診車に来てもらう
- 日程を複数用意する:運行に合わせて選べるように
- 未受診者を管理する:一覧にして、個別に声をかける
受診率が低いことは、監査での指摘対象になります。監査で見られる帳票をご覧ください。
所見があった場合の対応
受診させるだけでは不十分です。結果に基づく対応が求められます。
- 結果を確認する:会社として把握する(本人任せにしない)
- 医師の意見を聴く:就業上の措置が必要か
- 必要な措置をとる:勤務の軽減、配置転換、就業の制限
- 再検査・治療を促す:受診したか確認する
- 記録に残す
健康情報は機微な個人情報です。取り扱う人を限定し、目的外に使わないよう管理してください。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
なぜ重要か
睡眠中に呼吸が止まることで、日中に強い眠気が出ます。居眠り運転による重大事故の原因として知られており、運送業では特に注意が必要です。
本人が自覚していないことが多いのが厄介な点です。「よく寝ているはずなのに眠い」「いびきがひどいと言われる」といった兆候があれば、検査を検討してください。
検査の進め方
- 簡易検査:自宅で装置を装着して測定する方法があります。負担が小さく、まず全員に実施する会社もあります
- 精密検査:簡易検査で疑いがあれば、医療機関で詳しく調べます
- 治療:診断されれば、CPAPなどの治療が行われます
治療により眠気が改善し、そのまま乗務を続けられるケースが多くあります。「検査を受けたら辞めさせられる」という不安を持たせないことが重要です。
会社としての伝え方
「病気を見つけるため」ではなく、「事故から守るため」「安心して働き続けてもらうため」と伝えてください。費用を会社が負担する会社も増えています。
生活習慣病への向き合い方
高血圧、糖尿病、脂質異常症。運送業では有所見率が高い領域です。
- 健診結果をもとに、産業医または医療機関につなぐ
- 食事や休憩の環境を整える(休憩室、冷蔵庫、電子レンジ)
- 治療中の場合、服薬と運転への影響を確認する
- 改善に取り組む人を評価する仕組みを作る
脳・心臓疾患のリスク
健康起因事故の中でも重大な結果につながりやすい領域です。健診項目に加え、必要に応じた検査を検討してください。実施の要否と方法は、産業医または医療機関に相談してください。
点呼での健康確認
日々の点呼は、健康状態を確認する最も重要な機会です。形式的に「体調は?」と聞くだけでなく、次を見てください。
- 顔色、話し方、動作
- 睡眠時間(前日の帰着時刻から逆算できます)
- 本人からの申告
「無理をさせない」という運用が実際にできているかが重要です。人手が足りないから乗ってもらう、という判断が事故を生みます。点呼記録の電子化をご覧ください。
記録の残し方
- 健康診断の実施記録と結果(保管方法に注意)
- 未受診者への対応の記録
- 所見があった場合の医師の意見と、とった措置
- SAS検査の実施状況
- 点呼での健康確認の記録
これらは監査で確認され、Gマークの審査項目にも関わります。Gマークの取得と承継時の扱いをご覧ください。
承継・M&Aでの意味
買い手は、ドライバーの年齢構成と健康管理の状況を見ます。平均年齢が高く、健康管理の記録がない会社は、事故リスクと将来の人員減として評価されます。
逆に、健診の受診率が高く、SAS検査を実施し、記録が整っている会社は、管理水準の高さを示せます。評価が上がる会社の条件をご覧ください。
未受診者をどう減らすか
未受診者を一覧にして個別に声をかけると書きました。実務での進め方を具体的にします。
まず、対象者の一覧を作ってください。氏名、前回の受診日、次に受けるべき時期。深夜の運行に従事している人は回数が違うため、区分して管理する必要があります。
そのうえで、受診の予定を先に押さえてください。日程を用意してから案内するほうが、進みます。「都合のよいときに行ってください」では、後回しになります。
そして、受診できていない人には、理由を聞いてください。時間が取れない、場所が遠い、結果を知るのが怖い。理由によって、対処が違います。
結果を知るのが怖いという理由は、実際にあります。この場合は、所見があっても直ちに乗務ができなくなるわけではないこと、治療しながら働いている人がいることを伝えてください。
そして、受診を勤務として扱ってください。休みの日に自分の時間で行かせる運用では、受診率は上がりません。
結果を会社としてどう扱うか
結果を会社として把握し本人任せにしないと書きました。扱い方には注意が要ります。
まず、健康に関する情報は機微な個人情報です。誰が見られるかを限定し、保管の場所も分けてください。運行の担当者が自由に見られる状態は避けるべきです。
そのうえで、就業上の措置が必要かどうかは、医師の意見に基づいて判断してください。会社が結果だけを見て判断すると、根拠のない措置になります。
措置をとる場合は、本人に説明してください。なぜその措置が必要で、いつまで続くのか。説明なしに運行を変えると、不信が生まれます。
そして、再検査や治療を促した記録も残してください。促したが受けていない、という事実も記録に含めます。会社として働きかけた経過が示せることが重要です。
あわせて、措置をとった後の経過も見てください。改善したら措置を解除する。この見直しがないと、一度変えた配置がそのまま固定されます。
点呼で異変に気づくために
顔色、話し方、動作を見ると書きました。実際に気づける形にするための工夫を挙げます。
まず、点呼を短時間で済ませないでください。形式的に確認を取るだけの運用では、異変に気づけません。相手の顔を見て、少し話す時間が要ります。
次に、いつもと違うかどうかで見てください。基準は、その人の普段です。だから、同じ人が継続して点呼を担当するほうが気づきやすくなります。担当が毎回変わる体制だと、変化が分かりません。
そして、前日の帰着の時刻を確認してください。休息が十分に取れているかは、記録から分かります。本人が大丈夫と言っても、時間が足りていなければ判断が要ります。
異変を感じた場合の手順も決めておいてください。誰に相談し、誰が乗務の可否を判断するか。その場で決められないと、結局そのまま出してしまいます。
そして、乗務させない判断をした場合に、本人が不利にならない扱いにしてください。申告すると損をする仕組みでは、誰も申告しません。
費用と時間をどう見るか
費用を会社が負担する会社も増えていると書きました。判断の材料を整理します。
健診や検査にかかる費用は、人数分となると小さくありません。ただし、健康起因の事故が一件起きた場合の影響と比べてください。荷物、車両、相手方、そして運行そのものが止まります。
そして、費用を本人負担にすると、受診率が下がります。受診率が下がれば、把握できない状態が続きます。結果として、リスクが残ります。
時間についても同じです。勤務時間内に受診させると、その分の運行ができません。ただし、受診しないまま乗務を続けるほうが、リスクは大きくなります。
あわせて、実施を支援する制度が用意されている場合があります。制度の内容や要件は変わることがあるため、実施を検討する時点で最新の情報を確認してください。
そして、かけた費用と時間は記録に残してください。管理に取り組んでいる実績として、承継の場面でも説明できます。
検査を切り出すときの言い方
検査を受けたら辞めさせられるという不安を持たせないことが重要だと書きました。伝え方を具体的にします。
まず、対象を絞らないでください。特定の人だけに声をかけると、その人が疑われていると受け取ります。全員を対象にすれば、個人の話になりません。
次に、目的を先に伝えてください。事故から守るため、安心して働き続けてもらうため。病気を見つけるためという言い方は、避けるほうが伝わります。
そして、見つかった場合にどうなるかを、あらかじめ説明してください。治療によって改善し、乗務を続けている人が多いこと。会社としてどう支えるか。ここが分かっていれば、受けやすくなります。
費用を会社が負担するなら、それも先に伝えてください。自己負担があると思っていると、それだけで断られます。
そして、実際に見つかった人には、丁寧に対応してください。一人目の扱いを他の人が見ています。ここで不利な扱いをすれば、以後は誰も受けません。
生活の環境を整える
食事や休憩の環境を整えると書きました。会社としてできることを具体的にします。
まず、休憩の場所です。車内でしか休めない状態と、横になれる場所がある状態では、回復が違います。既存の部屋を使えるよう整えるだけでも変わります。
次に、食事です。冷蔵庫と電子レンジがあれば、持参した食事が取れます。外食が続くと、内容が偏ります。小さな設備ですが、効果があります。
そして、運行の組み方も関わります。食事の時間が取れない運行が常態化しているなら、それは健康の問題として扱う必要があります。
あわせて、休息が取れる時間帯かどうかも見てください。帰庫が深夜になり、翌朝が早い。この繰り返しは、生活のリズムを崩します。
改善に取り組む人を評価する仕組みも有効です。ただし、数値の結果ではなく、取り組みそのものを認める形にしてください。結果で評価すると、隠すようになります。
記録が問われる場面
記録は監査で確認され認定の審査項目にも関わると書きました。どういう形で問われるかを補足します。
まず、実施したことが分かる記録です。受診の一覧、実施日、対象者。全員分が揃っているかが見られます。
次に、所見があった場合の対応です。結果を受けて何をしたか。医師の意見を聴いた記録、とった措置、その後の経過。ここが空欄だと、受診させただけと見られます。
そして、未受診者への働きかけの記録も必要です。受診率が低い場合、その理由と対応が問われます。何もしていないのと、働きかけたが受けていないのとでは、扱いが違います。
記録の保管については、健康に関する情報である点に注意してください。誰が見られるか、どこに保管するか。管理の方法自体も確認されることがあります。
そして、承継の場面では、これらの記録が管理水準を示す材料になります。年齢構成が高くても、管理の記録があれば評価は変わります。
一人で運行することへの備え
一人で運行するため異変に気づく人がいないと書きました。この点への備えを整理します。
まず、連絡の取り方を決めておいてください。定時の連絡を求める運用にしている会社があります。長距離の運行では、途中で一度声を聞くだけでも、状態が分かります。
次に、動態を確認できる仕組みがあるなら、活用してください。長時間動いていない、想定と違う場所に止まっている。こうした状況に気づける可能性があります。
そして、異常があった場合の手順を決めておいてください。連絡が取れないときに、誰が、どこに、どう確認するか。決めていないと、判断が遅れます。
あわせて、本人が体調の異変を感じたときに、途中で止まれる運用にしてください。無理をしてでも届けようとする心理が働きます。止まってよいと伝えられているかどうかが、判断を変えます。
そして、止まった場合の対応も準備してください。荷物をどうするか、代わりの車をどう手配するか。段取りがあれば、本人も止まりやすくなります。
まとめ
健康管理は運送業の安全確保の中核です。勤務時間内の受診で受診率を上げ、所見があれば医師の意見に基づいて措置をとってください。SASは自覚しにくいため会社からの働きかけが必要で、治療により乗務を続けられることが多いと伝えることが大切です。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。労働時間・賃金に関する具体的な取扱いは、法令の改正や個別の労働条件、実際の運用によって異なります。是正を検討される際は、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。