なぜ個人名義のまま残っているのか
多くは、次のような経緯です。
- 創業時に個人で土地を取得し、そのまま法人化した
- 先祖から受け継いだ土地に工場を建てた
- 個人で借入をして取得したほうが有利だった
- 特に理由なく、変えるきっかけがなかった
日常の経営では問題になりません。問題は相続と承継の場面で表面化します。
何が起きるか
1. 工場の土地が複数の相続人に分かれる
最も深刻な事態です。後継者が会社を継いでも、工場の土地を他の相続人が共有することになります。
共有になると、売却も担保設定も建て替えも、共有者全員の同意が必要になります。事業の判断が、経営に関わっていない人の意向に左右されます。
2. 賃料を巡って揉める
会社が個人に賃料を払っている場合、その受取人が相続人に分かれます。「賃料を上げてほしい」という要求が出ることもあります。
3. 相続税が払えない
工場用地は面積が大きく、評価額も大きくなります。換金できない資産に多額の相続税がかかるという事態が起こります。
4. M&Aができない
会社を譲渡しようとしても、工場の土地が相続人の共有では、賃貸借契約の締結も売却も進みません。買い手から見て極めて不安定な状態です。工場不動産を分けて残すをご覧ください。
対策1:会社に移す
個人から会社へ売却または現物出資する方法です。
利点
- 相続財産から外れ、株式の中に含まれる
- 株式を後継者に集中させれば、分散を防げる
- M&Aの際、会社ごと引き継がれる
注意点
- 個人に譲渡所得課税が生じる
- 会社に取得資金が必要(分割払いや借入の検討)
- 不動産取得税・登録免許税がかかる
- 会社の純資産が増え、株価が上がる可能性がある
最後の点は見落とされがちです。土地を会社に移すと、その分だけ株式の評価が上がり、承継の負担が増えることがあります。自社株の評価と移転をご覧ください。
対策2:個人名義のまま、後継者に集中させる
遺言によって、工場の土地を後継者に相続させる方法です。
利点
- 移転の費用がかからない
- 株価に影響しない
- 後継者が賃料収入を得られる
注意点
- 他の相続人の遺留分に配慮が必要
- 相続税の納税資金を用意する必要がある
- 後継者以外が相続した場合のリスクが残る
この方法を取る場合、遺言書は必須です。何もしなければ法定相続分で分かれます。遺言書の作り方と遺留分への配慮をご覧ください。
対策3:資産管理会社を作る
不動産を保有する会社を作り、その株式を承継する方法です。株式であれば分割しやすく、移転もしやすくなります。
ただし、設立と維持の費用がかかり、税務上の検討も必要です。規模がある程度大きい場合に検討する形になります。
対策4:賃貸借契約を整える
どの対策を取るにせよ、いますぐできて効果があるのがこれです。
個人名義の不動産を会社が使っているのに、契約書がない、賃料が相場と乖離している、というケースが多くあります。次を整えてください。
- 賃貸借契約書を作成する(期間、賃料、修繕負担、解約条件)
- 賃料を適正な水準に設定する
- 実際に支払いを行い、記録を残す
契約が整っていれば、相続が起きても会社が使い続ける権利が明確になります。M&Aの際にも有利です。
土地以外の個人名義資産
食品工場では、次も個人名義になっていることがあります。
- 配送用のトラック・営業車
- フォークリフト
- 倉庫・駐車場
- 商標
- 電話番号・ドメイン
金額は小さくても、承継の場面で必ず問題になります。個人名義の設備・車両・土地をどう整理するかで一覧の作り方を示しています。
まずやること
- 会社が使っている資産のうち、個人名義のものを一覧にする
- それぞれについて、賃貸借契約の有無を確認する
- 不動産の相続税評価額を概算する
- 相続人が誰になるかを整理する
- そのうえで、税理士と対策を検討する
1〜4は自分でできます。問題の大きさが分かるだけでも、動き出す理由になります。
※ 税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実行にあたっては、顧問税理士等の専門家に必ずご確認ください。