遺言書がないとどうなるか
相続人が複数いる場合、遺産は法定相続分に従って共有されます。遺産分割協議で配分を決めますが、全員の合意が必要です。
食品製造業では、次の事態が起こります。
- 自社株が複数の相続人に分かれ、経営の意思決定ができなくなる
- 工場の土地が共有になり、担保設定も建て替えもできなくなる
- 協議がまとまらず、事業の判断が止まる
後継者が決まっていても、遺言がなければ法的には何も決まっていません。
遺言に書くべきこと
1. 自社株を後継者に集中させる
最優先です。分散すると経営が止まります。できれば議決権の3分の2以上、少なくとも過半数を後継者に集中させてください。
2. 事業用資産を後継者に
- 工場の土地・建物
- 倉庫、駐車場
- 個人名義の設備・車両
- 商標などの権利
これらが後継者以外に渡ると、事業が続けられません。個人名義の設備・車両・土地をどう整理するかで一覧の作り方を示しています。
3. 他の相続人への配分
後継者以外の相続人には、事業に関係しない財産を配分します。預貯金、有価証券、自宅、事業用でない不動産、生命保険金など。
ここで問題になるのが、事業用資産の割合が大きすぎて、配分できる他の財産が足りないケースです。食品製造業では非常によくあります。
4. 付言事項
法的な効力はありませんが、なぜこの配分にしたかを自分の言葉で書くことには大きな意味があります。
「会社を続けるために株式と工場を長男に集中させた」「その代わり、次男には自宅と預金を」「長男には従業員の雇用を守る責任がある」。こうした説明があるかないかで、相続人の受け止め方は変わります。
配分できる財産が足りない場合
方法1:生命保険を使う
後継者以外の相続人を受取人とする生命保険に加入しておく方法です。保険金は原則として受取人固有の財産となるため、分割の対象と切り離せます。
ただし、金額が過大な場合には特別受益として扱われる可能性があります。
方法2:代償分割
後継者が事業用資産を取得する代わりに、他の相続人に金銭を支払う方法です。後継者に支払い資金が必要になります。
この資金を用意する手段として、生命保険を後継者が受け取る形にすることがあります。
方法3:除外合意・固定合意
推定相続人全員の合意により、自社株を遺留分の算定基礎から除外する、あるいは価額を合意時点で固定する制度があります。要件と手続きがあるため、専門家との検討が必要です。遺留分への配慮をご覧ください。
遺言の方式
| 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
|---|---|---|
| 費用 | ほぼかからない | 手数料がかかる |
| 無効になるリスク | 形式不備の可能性がある | 低い |
| 紛失・改ざん | リスクあり(保管制度の利用可) | 原本が公証役場に保管される |
| 証人 | 不要 | 2人必要 |
事業承継で株式や不動産を扱う場合は、公正証書遺言をおすすめします。金額が大きく、争いになったときの影響も大きいためです。
書いた後にやること
1. 定期的に見直す
財産の内容、家族の状況、会社の状態は変わります。数年ごとに見直してください。特に、自社株の評価額が大きく変わったときは要注意です。
2. 遺言執行者を指定する
遺言の内容を実現する人を指定しておくと、手続きが円滑に進みます。専門家を指定することもできます。
3. 家族に伝えるかどうか
これは判断が分かれます。伝えておけば、相続時の驚きと反発を避けられます。一方で、伝えたことで生前に対立が生じることもあります。
実務上は、「株式と工場は後継者に集中させる」という方針だけは共有しておくのが現実的です。細かい配分は伝えなくても構いません。家族会議の開き方をご覧ください。
兄弟で継ぐ場合
複数の子が会社に関わる場合は、遺言だけでなく株主間の取り決めも必要です。兄弟で継ぐときに決めておくことを参照してください。
※ 遺言の方式や遺留分の取扱いは法令の改正や個別の事情によって異なります。作成にあたっては弁護士・公証人・税理士等の専門家に必ずご相談ください。