最優先:事業を止めないこと

相続の手続きより先に、会社を動かし続けることが優先です。食品製造業では、製造が止まれば取引先への供給が止まります。

数日以内にやること

  1. 代表者を決める(取締役会または株主総会の決議)
  2. 銀行口座の状況を確認する(凍結の有無、支払いへの影響)
  3. 食品衛生責任者が誰かを確認する(経営者が兼任していた場合、変更が必要)
  4. 取引先・仕入先へ連絡する(供給に影響がないことを伝える)
  5. 従業員へ説明する

2番目が実務上いちばん困る点です。会社の口座は会社名義なので原則として凍結されませんが、代表者の変更手続きが済むまで一部の取引ができなくなることがあります。銀行に早く連絡してください。

3番目は食品製造業に固有です。責任者が不在になると営業に支障が出ます。食品衛生責任者の要件と交代の手続きをご覧ください。

期限のある手続き

手続き目安
死亡届7日以内
代表者変更の登記変更から所定の期間内
相続放棄・限定承認3か月以内
準確定申告4か月以内
相続税の申告・納付10か月以内

3か月と10か月が特に重要です。個人保証がある場合、相続放棄をするかどうかの判断を3か月以内に迫られます。

個人保証の扱い

経営者が会社の借入に個人保証をしていた場合、その保証債務も相続の対象になります。

相続人は、保証債務を含めて相続するか、相続放棄をするかを判断することになります。ただし、会社を継ぐ以上は保証も引き受けるのが通常の流れです。

金融機関と早期に協議し、後継者への保証の切り替えと、経営者保証に関するガイドラインの適用可否を確認してください。個人保証を外すにはをご覧ください。

株式の扱い

遺言がある場合はその内容に従います。ない場合、株式は相続人の準共有となり、権利行使者を1人定めて会社に通知する必要があります。

これが決まらないと、株主総会での議決権を行使できません。役員の選任もできず、会社の意思決定が止まります。

遺産分割協議がまとまるまでの間、暫定的に権利行使者を決めることが実務上必要になります。

相続税の納税資金

食品製造業では、財産の大半が自社株と工場の土地です。換金できない資産に多額の相続税がかかります

対応としては次があります。

  • 会社が自己株式として買い取る(財源規制と税務上の取扱いに注意)
  • 役員退職金を支給する(先代への死亡退職金)
  • 生命保険金を充てる
  • 延納・物納を検討する
  • 事業承継税制の適用を検討する

相続が起きてから使える手は限られます。だからこそ、生前の準備が重要になります。自社株の評価と移転をご覧ください。

個人名義の資産

工場の土地、倉庫、車両、商標。これらが個人名義になっていた場合、誰が相続するかで事業の継続性が変わります

遺産分割協議で後継者に集中させられるとよいのですが、他の相続人の理解が必要です。工場・土地が個人名義のときの相続対策工場用地の相続をご覧ください。

会社への貸付金

先代が会社に貸し付けていた資金は、相続財産として評価されます。回収の見込みが乏しくても、債権として課税対象になることがあります。

後継者以外が相続すると、会社に対する債権者になります。返済を求められる可能性があるため、遺産分割の際に整理しておくべき論点です。

やっておけばよかったこと

相続が起きた後に、多くのご家族が同じことをおっしゃいます。

  • 遺言書があれば、分割で揉めなかった
  • 株式を生前に移していれば、議決権で困らなかった
  • 工場の土地を整理していれば、事業を止めずに済んだ
  • 納税資金の準備があれば、株を手放さずに済んだ
  • 金融機関と話していれば、保証の扱いで慌てなかった

いずれも、生前でなければできないことです。遺言書の作り方から始めてください。

※ 相続手続の期限や税務の取扱いは個別の事情によって異なります。実際の対応にあたっては、弁護士・税理士等の専門家に必ずご相談ください。