なぜ自社株の評価が問題になるのか

親族内承継では、株式を贈与または相続で移します。このとき、株式の評価額に応じて贈与税・相続税がかかります

上場企業と違い、非上場の株式には市場価格がありません。そのため、税務上のルールに沿って評価額を算定します。この評価額が想定以上に高く出て、納税資金が用意できないという事態が起こります。

評価の基本的な考え方

非上場株式の評価には、大きく2つの系統があります。

  • 類似業種比準方式:同じ業種の上場企業の株価をもとに、配当・利益・純資産を比較して算定する
  • 純資産価額方式:会社の資産を相続税評価額で洗い直し、負債を引いて算定する

会社の規模(従業員数、総資産、取引金額)によって、どちらを使うか、あるいは両方を併用するかが決まります。規模が大きいほど類似業種比準方式の割合が高くなるのが一般的です。

食品製造業で株価が高く出やすい理由

1. 工場と土地を持っている

純資産価額方式では、土地は相続税評価額(路線価等)で評価し直します。何十年も前に取得した土地は、帳簿価額と評価額が大きく乖離することがあります。

「決算書の純資産は少ないのに、評価すると大きい」という状態が生まれます。

2. 設備を多く保有している

減価償却が進んで帳簿価額が小さくても、実際に稼働している設備には価値があります。

3. 内部留保が厚い

長く続いている会社ほど、利益を積み上げて純資産が厚くなっています。堅実な経営の結果ですが、評価額を押し上げる要因になります。

4. 保険積立金が資産になっている

経営者を被保険者とする保険を積み立てている場合、その解約返戻金相当額が資産として評価されます。

まずやること:評価してもらう

対策を考える前に、いまの評価額を知ることが出発点です。顧問税理士に依頼すれば算定してもらえます。

必要な情報は、直近3期の決算書、法人税申告書、株主名簿、土地の所在が分かる資料です。

評価額が分かると、次が計算できます。

  • 贈与した場合の贈与税の概算
  • 相続が発生した場合の相続税の概算
  • 後継者が買い取る場合に必要な資金

移転の3つの方法

方法特徴
贈与生前に確実に移せる。贈与税がかかる
譲渡(売買)後継者に資金が必要。先代に譲渡所得課税
相続資金は不要だが、時期を選べない。分散のリスク

実務では、これらを組み合わせることが多くなります。相続だけに任せるのは避けるべきです。他の相続人との間で株式が分散するリスクがあります。遺留分への配慮をご覧ください。

負担を軽くする方向

1. 事業承継税制を使う

一定の要件を満たす場合、贈与税・相続税の納税を猶予する制度があります。要件と手続きが細かいため、専門家との検討が必須です。事業承継税制(納税猶予)の使いどころと注意点をご覧ください。

2. 評価額を下げる

役員退職金の支給、含み損のある資産の整理など、評価額を下げる方法があります。ただし会社の財務を実際に痛めるため、副作用の検討が必要です。自社株評価を下げる打ち手と、その副作用を参照してください。

3. 時間をかけて少しずつ移す

毎年少しずつ贈与していく方法です。時間はかかりますが、負担を分散できます。生前贈与の使い方をご覧ください。

いつから始めるか

評価額の算定だけなら数週間でできます。まず評価してもらい、そこから対策を考えるのが正しい順番です。

対策には数年かかるものが多く、相続が発生してからでは選択肢がほとんどありません。相続が起きてからの流れもご覧ください。

※ 税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実行にあたっては、顧問税理士等の専門家に必ずご確認ください。