「経営を教える」の前にやること

後継者教育というと、経営の勉強や外部研修を思い浮かべがちです。もちろん有効なのですが、食品工場では順番が違います。現場に受け入れられていない後継者は、何を言っても通りません

特に食品製造業では、10年20年と同じラインに立ってきた従業員が現場を支えています。その人たちから「この人になら任せられる」と思われることが、最初の関門です。

段階1:現場に立つ(1〜3年)

最初は、実際に製造ラインに入ります。事務所で数字を見るのは後です。

この期間の目的は2つあります。1つは、工程を体で理解すること。原料の受け入れから、仕込み、加熱、冷却、包装、出荷、洗浄まで。どこに手間がかかり、どこでロスが出るのかは、立ってみないと分かりません。

もう1つは、従業員に顔と名前を覚えてもらうことです。一緒に朝早く出て、一緒に洗浄までやった、という事実は後で効いてきます。

この段階で先代がやってはいけないのは、後継者を特別扱いすることです。同じシフト、同じ作業、同じ評価。ここで差をつけると、現場は必ず見ています。

段階2:数字を任せる(2〜4年)

現場が分かったら、次は数字です。ここでいちばん効くのが、品目別の原価計算を後継者に作らせることです。

すでに整備されている会社なら、更新と分析を任せます。整備されていない会社なら、ゼロから作らせる。手間はかかりますが、この作業を通じて後継者は「どの商品で儲かっていて、どこにロスがあるか」を自分の言葉で語れるようになります。原価計算を始めるが出発点になります。

あわせて、月次の試算表、資金繰り、借入の状況も見せます。都合の悪い数字を隠さないことが大切です。

段階3:対外に出す(2〜3年)

最後が、社外との関係です。次の3方向に、先代と一緒に出ていきます。

  • 取引先:定期訪問に同行し、途中から後継者が主に話す
  • 金融機関:決算説明の場に同席し、いずれ後継者が説明する
  • 仕入先・業界団体:顔をつなぐ

取引先への引き継ぎは、代表交代の直前に慌ててやると印象が悪くなります。何年も前から一緒に顔を出していれば、交代の挨拶は形式的なもので済みます。取引先との関係を切らさない引き継ぎを参照してください。

途中で「向いていない」と分かったら

この3段階を進めるなかで、本人に意思がない、あるいは適性が違うと分かることがあります。そのときは、無理に進めないほうが会社のためです。

親族内承継が難しいと分かっても、社内承継や第三者承継という道が残っています。子どもに継ぐ意思がないときの選択肢をご覧ください。早く分かるほど、次の手が打てます

並行して進めること

育成と並行して、株式の移転設計を進めます。自社株の評価、贈与か譲渡か、事業承継税制を使うか。食品工場は資産を持つため株価が高く出やすく、対策に時間がかかります。

自社株の評価と移転事業承継税制(納税猶予)で扱っています。育成が終わってから考え始めると、選べる手が減ります。