「後継者がいない」は「継げない」ではない
後継者不在で相談に来られる経営者の多くが、廃業をほぼ決めた状態でいらっしゃいます。しかし話を伺うと、その会社には引き継ぐ価値のあるものが残っていることがほとんどです。
食品製造業の場合、次のようなものがそれにあたります。
- 食品衛生法に基づく営業許可と、それに適合した施設
- 取引先との長年の関係と、継続している受注
- 配合・製法と、それを作れる従業員
- 稼働している設備と、立地
これらは、同業や近接業種の会社から見れば、ゼロから作るのに何年もかかるものです。継ぐ人が社内にいないだけで、外にはいるという状況は珍しくありません。
最初にやること1:現状を数字にする
判断の前に、直近3期分の決算書と、できれば品目別の採算を用意します。「儲かっているのかどうか」が曖昧なままでは、廃業もM&Aも判断できません。
ここで赤字だったとしても、すぐに諦める必要はありません。役員報酬や生命保険料を調整した後の実質的な利益で見ると、黒字に転じる会社は多くあります。決算書の磨き上げで説明している考え方です。
最初にやること2:廃業したらいくらかかるかを出す
廃業は「やめるだけ」ではありません。食品工場の場合、次の費用が発生します。
- 設備の撤去・処分費用(冷凍機の冷媒回収、配管・排水設備の解体を含む)
- 建物の解体、あるいは原状回復(賃借の場合)
- 従業員への解雇予告手当・退職金
- 在庫と原材料の処分
- 借入金の一括返済
これを積み上げると、手元に残るどころか持ち出しになる例は少なくありません。数字の作り方は廃業とM&A、どちらを選ぶべきかで扱っています。
最初にやること3:残っている選択肢を並べる
後継者不在でも、次の選択肢は残っています。
- 社内の幹部に承継する(資金は融資や分割で対応できる場合があります)
- 同業・近接業種へ譲渡する(雇用も許可も設備もそのまま引き継がれます)
- 一部の事業だけ譲る(採算の良いラインだけ残す形も取れます)
- 廃業する
幹部への承継は「本人にその気がない」と決めつけられがちですが、資金と保証の不安が理由であることが多く、そこが解けると話が変わります。社内承継(MBO)の設計をご覧ください。
時間があるうちに動く
選択肢が多いのは、会社が回っているうちです。受注が減り、人が辞め、設備が止まってからでは、譲渡先を探すのも難しくなります。
後継者がいないと分かったときこそ、いちばん動くべきタイミングです。まずは数字を揃えて、選択肢を並べるところから始めてください。
言い方はいろいろでも、同じ状態
ご相談の入り口は、人によって言い方が違います。
- 「食品メーカーの後継者不在をどうしたらいいか」
- 「食品加工業で後継者不在のまま歳をとった」
- 「食品製造業の後継者不足が業界全体の話だと聞いた」
- 「食品工場の後継者不足で、うちも他人事ではない」
- 「食品会社の後継者不足は、探せば解決するのか」
どれも同じ状態を指しています。言い方に迷って相談が遅れるのが、いちばんもったいない。
子が継がないと分かったとき
「食品会社をやっているが息子が継がない」「食品工場を子供が継がないと言っている」。家業として食品工場をやってきて、継がないと言われた。よく聞く話です。
まず確認したいのは、本当に本人に聞いたのかということです。「たぶん継がないだろう」と思い込んだまま何年も過ぎている例が少なくありません。家族で話し合う場をどう作るかを参照してください。
そのうえで継がないと決まったなら、それは悪い知らせではありません。「継がない」と分かった時点から、次の手が打てます。
後継者なしで売却を考える
後継者なしの食品会社が売却を選ぶのは、逃げではありません。従業員の仕事と、取引先への供給を残す手段です。
地方食品メーカーの後継者不足は、域内に候補が少ないことが原因のこともあります。域内に相手がいなくても、域外の企業が候補になります。相手の探し方と廃業と承継をどう比べるかを参照してください。