材料1:買い手にとってのシナジー
最も効く材料です。買い手が自社の事業と組み合わせたときに生まれる価値を、具体的な数字で示すことができれば、評価は上がります。
食品製造業でよくあるシナジーは次のとおりです。
- 生産能力の獲得:買い手の工場が手一杯なら、余力はそのまま価値になる
- 販路の獲得:買い手が持っていない口座(大手量販店など)
- 品目の補完:買い手が作れない商品を作れる
- 地域の補完:配送距離の制約を越えられる
- 原料の共同購買:まとめることで仕入価格が下がる
- 設備の相互活用:繁閑をならせる
相手ごとにシナジーは違います。「この買い手にとって、うちは何の役に立つか」を考えて、面談で伝えてください。
材料2:稼働の余力を数字にする
食品工場で特に効く材料です。「いま何%稼働していて、どこまで増やせるか」を示します。
- 現在のライン別稼働率
- 2交代・3交代にした場合の生産能力
- 増産する場合の制約(排水処理、電力、人員)と、その解消に要する投資額
買い手が生産能力を求めているなら、この資料が交渉の中心になります。ライン稼働率の見方を参照してください。
材料3:許認可と体制の価値
ゼロから同じものを作る場合のコストと時間を示します。
- 土地の取得、建設、設備の導入にかかる期間と費用
- 営業許可の取得に要する期間
- 取引先の工場監査を通るまでの期間
- 人材を採用・育成する期間
「新設なら3年と◯億円かかる」という比較は、買い手にとって分かりやすい判断材料です。特に、住宅地の近くで新設が難しい地域では効きます。
材料4:他の候補の存在
複数の候補と並行して進めていることは、それ自体が交渉材料です。具体的な社名や金額を明かす必要はありません。「複数社と話している」という事実だけで十分です。
ただし、基本合意で独占交渉権を与えると、この材料は使えなくなります。与える前が交渉の山場です。基本合意書で決めることをご覧ください。
材料5:条件との交換
価格だけでなく、条件も交渉の対象です。次のような交換が成立します。
| 売り手が譲る | 売り手が得る |
|---|---|
| 引き継ぎ期間を長くする | 価格を上げる |
| 表明保証の期間を延ばす | 価格を上げる |
| 価格を下げる | 雇用維持の期間を長くする |
| 価格を下げる | 工場・ブランドの継続を明記する |
| アーンアウトを受け入れる | 総額の上限を上げる |
何を優先するかを自分の中で先に決めておくと、この交換がしやすくなります。
材料6:課題への対応策
意外に思われるかもしれませんが、課題を先に開示し、対応策も示すことは交渉力になります。
例えば「設備の更新に◯◯万円必要だが、補助金の活用で自己負担は◯◯万円に抑えられる見込み」と示せば、単なる減額要因ではなくなります。
逆に、隠していて監査で見つかると、金額以上に大きな減額を招きます。安く売ってしまう典型パターンをご覧ください。
交渉で避けたいこと
- 感情的な価格の主張:「先代から続く会社だから」は根拠になりません
- 根拠のない希望額:説明できない金額を出すと、他の主張の信頼も下がります
- 入口で条件を先に譲る:価格の交渉力を失います
- 相手を1社に絞ってから交渉を始める
断る覚悟を持つ
最も強い交渉材料は、「この条件なら断る」という線を持っていることです。
そのためには、断った場合にどうなるかを知っておく必要があります。廃業した場合の手取り、社内承継の可能性、時間をかけて磨き上げてから再開する選択肢。親族内・社内・M&A・廃業を1枚で比べるで全体像を持っておいてください。