DXの前に、まず何が課題か
システムを入れることが目的になると、必ず失敗します。解決したい課題から出発してください。
食品工場でよくある課題は次のとおりです。
- 原価が分からない
- ロスがどこで出ているか分からない
- 衛生記録の記入と保管が負担
- 受発注がFAX・電話で、転記のミスが起きる
- 在庫の実態が分からない
- ロットの追跡に時間がかかる
- 勤怠の集計に手間がかかる
どれが自社にとって痛いかを決めることが第一歩です。
効果が出やすい順序
第1段階:記録を電子化する(数万円〜数十万円)
- 温度の自動記録:冷蔵・冷凍庫にセンサーを付ける
- 衛生記録のタブレット化:紙の帳票を置き換える
- 写真・動画による手順書
温度の自動記録が、最も費用対効果が高い取り組みです。記録漏れがなくなり、担当者の負担も減り、異常時の通知もできます。温度管理のIoT化をご覧ください。
第2段階:数字を集める(数十万円〜)
- 生産実績の自動収集(稼働・停止・生産数)
- 勤怠システムの導入
- 受発注のデジタル化
データが集まらなければ、分析も改善もできません。生産実績の自動収集をご覧ください。
第3段階:仕組みを入れる(数百万円〜)
- 生産管理システム
- 原価管理システム
- 在庫・ロット管理
第1・第2段階を経てからにしてください。何を管理したいかが分からないまま大きなシステムを入れると、使いこなせません。生産管理システムの入れ方をご覧ください。
第4段階:高度化
- 需要予測
- 画像検査
- 設備の予知保全
需要予測にAIは使えるかと画像検査・異物検知の導入判断をご覧ください。
失敗するパターン
1. 大きなシステムから入る
いきなり数千万円のシステムを導入し、現場が使いこなせずに形骸化する。最も多い失敗です。
2. 現場を巻き込まない
事務所で決めて、現場に「使ってください」と渡す。使われません。
導入前に、実際に入力する人に触ってもらってください。手が濡れる、手袋をしている、時間がない——現場には制約があります。
3. 紙とデジタルが二重になる
システムを入れたのに、紙の記録も続けている。負担が増えただけという状態です。
導入時に、何をやめるかを必ず決めてください。
4. データを集めるだけで使わない
収集はできているが、誰も見ていない。「誰が、いつ、何のために見るか」を決めてから導入してください。
5. 属人化する
導入担当者しか使い方が分からず、その人が抜けると止まる。複数人が扱える状態にしてください。
食品工場ならではの制約
- 水がかかる、湿度が高い:防水・防塵の仕様が必要
- 手袋をしている:タッチパネルが反応しないことがある
- 洗浄する:機器が薬剤に耐えられるか
- 低温環境:バッテリーの持ち、結露
- 異物混入のリスク:機器の破損片が製品に混入しないか
最後の項目は必ず確認してください。事務所用の機器をそのまま製造区域に持ち込むと、破損時のリスクがあります。
投資判断の考え方
効果を数字にする
- 削減できる時間 × 時間単価 × 年間日数
- 削減できるロス・不良の金額
- ミスの防止による損失回避
- 生産量の増加による限界利益
忘れがちな費用
- 初期費用だけでなく月額の利用料
- 保守費用
- 導入時の教育の時間
- 既存データの移行
- ネットワーク工事
補助金の活用
IT導入や設備投資に対する補助金が使える場合があります。ただし、補助金があるから導入するのは順序が逆です。
必要な投資を、補助金を使って実行する。この順序を守ってください。省力化投資への補助と食品製造業が使える補助金の種類をご覧ください。
承継との関係
DXは、属人化の解消そのものです。
- 頭の中にあった情報がデータになる
- 誰でも同じ情報にアクセスできる
- 引き継ぎがしやすくなる
- 買い手から見て、管理水準が高く映る
逆に、属人化したExcelが業務の中核にある状態は、承継の障害になります。承継時のシステム引き継ぎをご覧ください。
まず何をするか
冷蔵・冷凍庫の温度記録を自動化する。数万円から始められ、効果がすぐ分かります。ここから始めるのが最も確実です。