いくら必要か
まず、株式の取得に必要な金額を把握してください。
- 自社株の評価額(自社株の評価方法の基本)
- 取得する株数・割合(過半数は最低限)
- 贈与税・所得税などの負担
加えて、次も考慮が必要です。
- 個人保証を引き受けることになる可能性
- 役員としての責任
この計算は、株の評価が出ていないと始まりません。だから、承継を考え始めたら、まず税理士に評価を依頼してください。
出てきた額を見て、想定より高いと感じることがあります。会社が健全に続いてきたほど、評価は上がるためです。
取得する割合については、経営を安定させるために必要な水準から決まります。具体的にどの割合が要るかは、会社法上の決議の要件によります。司法書士や弁護士に確認してください。
あわせて、税の負担も見込んでおく必要があります。譲り受ける形によって扱いが変わるため、この点も税理士に確認しながら決めることになります。
あわせて、株の取得とは別に必要になる資金も見ておいてください。代表が代わると、当面の運転資金にも余裕が要ります。
調達の方法
1. 金融機関からの借入(後継者個人)
最も一般的です。後継者が個人で借り入れ、株式を取得します。
- 返済原資は、役員報酬または配当
- 返済に何年かかるかを試算する
- 個人の信用力が問われる
返済負担が重すぎると、後継者の生活が苦しくなります。 報酬水準とセットで設計してください。
2. 経営承継円滑化法の金融支援
認定を受けることで、日本政策金融公庫等の融資や、信用保証の特例が利用できる場合があります。
要件と手続きがあるため、取引金融機関または都道府県の窓口に相談してください。経営承継円滑化法でできることをご覧ください。
3. 持株会社(SPC)方式
後継者が新しく会社を作り、その会社が借入をして株式を取得する方法です。
- 返済原資は、対象会社からの配当や、将来の合併後の利益
- 個人の借入にならない
- ただし、設計が複雑で、税務・会計の検討が必要
専門家(税理士・金融機関)と設計してください。 対象会社の収益力が返済に足りるかが前提になります。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
4. 段階的な取得
一度に全株を取得せず、数年かけて少しずつ買い取る方法です。
- 後継者の負担が分散される
- 先代が段階的に退ける
- ただし、支配権の移転が遅れる
5. 会社による自己株式の取得
会社が先代から株式を買い取り、その後で後継者が残りを取得する方法です。
- 後継者の負担が減る(買い取るべき株数が減る)
- 会社に資金と財源の余力が必要
- 税務上の取扱いを確認する必要がある
6. 贈与・退職金との組み合わせ
先代が受け取る退職金を抑え、その分株価を下げるといった設計もあります。先代の生活資金とのバランスが課題になります。
退職金の設計と税務、引退後の生活資金の考え方をご覧ください。
六つの方法は、金額の大きさによって使い分けることになります。個人で借りられる範囲なら一つ目で足りますし、それを超えるなら他の方法を組み合わせます。
四つ目の段階的に取得する方法は、負担を分散できる反面、その間は支配権が完全には移りません。だから、先代がいつまで関わるかを合わせて決める必要があります。
五つ目と六つ目は、後継者が買うべき株数そのものを減らす方法です。会社に資金があるなら、有力な選択肢になります。
六つ目については、先代の生活資金との釣り合いが課題になります。受け取る額を抑えれば後継者は楽になりますが、先代の引退後の生活が成り立たなくなっては本末転倒です。
だから、先代の引退後に必要な金額を先に出しておいてください。その額を確保したうえで、残りをどう調整するかという順序になります。
個人保証の問題
資金と並んで大きな障害が、個人保証です。
- 後継者が新たに保証を求められる
- 株式取得の借入と、会社の借入の保証が重なる
- これを理由に辞退するケースが多い
承継の検討段階で、金融機関に保証の見通しを確認してください。ガイドラインでは、承継時の二重徴求は原則として行わないとされています。経営者保証に関するガイドラインの使い方、個人保証を外すために逆算で準備しておくことをご覧ください。
これを理由に辞退する例が多いという点は、実務でよく見られます。事業に魅力を感じ、経営にも意欲があるのに、この一点で止まります。
だから、打診する前に見通しを確認しておくことが大事です。何も答えられない状態で聞けば、相手は最悪の想定をします。
金融機関に確認するときは、具体的に聞いてください。今の財務状況で、どこまで求められるのか。改善すれば外せる可能性があるのか。その条件は何か。
答えが得られたら、そのまま後継者に伝えてください。良い内容でなくても、見通しがあることに意味があります。
先代がすべきこと
- 株価を把握する:いくらになるのか
- 後継者の負担を試算する:返済に何年かかるか
- 金融機関に早く相談する:融資と保証の見通し
- 企業価値を上げる vs 株価を抑えるのバランスを考える
- 自分の受取額を調整する:後継者が背負える範囲に
4番目は難しい判断です。企業価値が高いほど株価も上がり、後継者の負担が重くなります。 M&Aとは逆の構造になります。
四つ目の判断が難しいのは、会社を良くする努力が、そのまま後継者の負担を増やすからです。この構造は、外部に譲る場合とまったく逆になります。
だから、承継の形が決まっていない段階では、この判断もできません。誰に継ぐかを決めてから、どちらの方向で動くかが決まります。
ただし、どちらの場合でも意味のある取り組みはあります。労務を整える、記録を整える、属人化を解く。これらは評価にも直結しますが、それ以上に会社が回りやすくなります。
五つ目の受取額の調整は、家族の状況も絡みます。後継者以外の相続人がいるなら、その配分にも影響します。全体の設計のなかで決めることになります。
後継者がすべきこと
- 金額を正確に知る:株価、借入、返済
- 個人保証の範囲を確認する
- 家族に相談する:配偶者の理解は不可欠
- 返済計画を立てる:役員報酬から無理なく返せるか
- 会社の実情を確認する:借入、労務、荷主構成
「継いでほしい」と言われて即答しないでください。 数字を見てから判断すべきです。
この五つは、遠慮せずに確かめてよいことです。継ぐかどうかを決めるのは本人であり、判断には情報が要ります。
聞きにくいと感じるかもしれませんが、聞かずに継いで後から知るほうが問題になります。先代の側も、聞かれることを想定しておくべきです。
三つ目の家族への相談は、特に欠かせません。保証を負えば、家庭の資産に関わります。配偶者が知らないまま進めることはできません。
五つ目の会社の実情については、書類で確認してください。口頭の説明だけでなく、決算書、借入の一覧、労務の記録。数字を自分の目で見ることが大事です。
資金が調達できない場合
- 段階的な取得に切り替える
- 取得する株数を減らす:ただし過半数は確保する
- 持株会社方式を検討する
- 経営だけ任せ、株は後で移す:所有と経営の分離
- M&Aに切り替える:資本力のある相手に
最後の選択肢では、後継者候補が幹部として残る形も可能です。経営の重荷と保証を負わずに、事業に関わり続けられます。親族内承継とM&Aを併用する選択肢をご覧ください。
五つのうち、四つ目の形は見落とされやすい選択肢です。株を移さずに、経営だけを任せる。数年後に株を移すという前提で始められます。
この形なら、後継者は経営の経験を積みながら、資金の準備もできます。先代も、その人が務まるかを見てから決められます。
ただし、株を持たない代表は立場が弱くなります。だから、いつまでに移すかを決めておく必要があります。決めないままだと、いつまでも中途半端な状態が続きます。
五つ目の形では、後継者候補が幹部として残ることができます。経営の重荷と保証を負わずに、これまでどおり働ける。本人にとっては、こちらのほうが良い場合もあります。
どの道を選ぶにしても、本人と率直に話すことが前提になります。継いでほしいという気持ちだけで進めると、無理が生じます。
MBOという形
幹部が中心となって株式を取得する形は、MBO(マネジメント・バイアウト)と呼ばれます。複数の幹部で共同して取得することもあります。
ただし、共同取得は将来の意見対立のリスクを伴います。誰が代表になり、過半数を持つのかを明確にしてください。MBOで使える資金の選択肢をご覧ください。
共同で取得する場合の危うさは、始めるときには見えにくいものです。全員が同じ方向を向いているうちは、問題が表面化しません。
だから、うまくいっているうちに決めておく必要があります。誰が代表か、持分をどうするか、辞めるときにどうするか。書面にしておけば、後で揉めても拠り所があります。
後継者の生活が成り立つか
返済の計画を立てるとき、報酬から返せるかだけを見がちですが、生活も成り立つ必要があります。
だから、計算は三段階で行ってください。役員としての報酬がいくらになるか、そこから税や社会保険を引いていくら残るか、生活費を引いていくら返済に回せるか。
この計算をすると、返せる額は想像より小さくなることが多いはずです。家族の状況、子どもの教育、住まいの負担。人によって事情が違います。
返済に何年かかるかが出たら、その年数が現実的かを考えます。あまりに長いと、その間ずっと生活が制約されます。意欲も続きません。
報酬を上げて返済を早めるという方法もありますが、会社の負担が増えます。全体のなかで釣り合う点を探すことになります。
先代と後継者で数字を共有する
この話は、双方が同じ数字を見ていないと進みません。片方だけが知っている状態では、判断もできません。
共有すべきは、株の評価、会社の借入とリース、必要な資金、返済の見通し、保証の状況です。この五つが揃っていれば、話ができます。
共有の場には、税理士に同席してもらう価値があります。数字を第三者が説明すれば、双方が同じ理解に立てます。
そして、時間をかけてください。一度の話し合いで決まるものではありません。持ち帰って考え、家族とも相談し、また話す。この往復が要ります。
急がせると、後で覆ります。覆ってから別の道を探すのでは、時間を失います。
金融機関に何をいつ相談するか
資金の話は、金融機関の判断なしには決まりません。だから、早い段階で相談する必要があります。
相談する内容は三つです。株を取得する資金を貸してもらえるか、その条件はどうか、保証の扱いはどうなるか。
相談する時期は、後継者が決まった直後です。金額が固まっていなくても、方向が決まった段階で伝えておけば、相手も準備できます。
後継者を同席させることも効きます。どういう人が継ぐのかを知ってもらえれば、判断の材料になります。
公的な支援の仕組みについても、この場で聞いてください。使えるものがあるかは、時期や要件によって変わります。都道府県の窓口でも相談できます。
始める時期
この準備には年単位の時間がかかります。株の評価を出し、後継者と話し、資金を組み、保証を整理する。それぞれに時間が要ります。
だから、引退の時期から逆算して始めてください。数年前から動いていれば、選択肢も多く残ります。
早く始めることには、もう一つの利点があります。準備の過程で問題が見つかっても、直す時間があることです。労務に課題がある、公私が混ざっている、記録が足りない。どれも直すには時間がかかります。
逆に、体調を崩してから動き始めると、すべてが急ぎになります。判断も雑になり、条件も選べません。
今すぐ決める必要はありませんが、材料を集めることは今日から始められます。まず株の評価を依頼するところからで構いません。
まとめ
社内承継の最大の障害は、株式取得の資金と個人保証です。個人借入・公的支援・持株会社方式・段階取得・自己株式の取得といった選択肢があります。先代は自分の受取額と後継者の負担のバランスを考え、後継者は数字を見てから判断してください。金融機関への早期相談が鍵になります。