評価が必要になる場面
この五つのうち、実際に直面する頻度が高いのは相続と贈与です。しかし、少数株主から株を買い取る場面も、古い会社では起こります。過去の経緯で分散した株を集めるとき、いくらで買うかが問題になります。
価格を決めるときは、当事者の立場によって適用される考え方が変わることがあります。だから、当事者同士で決めた金額をそのまま使うと、後から問題になる可能性があります。取引の前に税理士に確認してください。
相続税・贈与税での評価と、M&Aの価格は別
ここを混同すると誤解が生じます。
| 相続税・贈与税の評価 | M&Aの価格 | |
|---|---|---|
| 目的 | 課税のための評価 | 当事者間の合意 |
| 方法 | 財産評価の通達に基づく | 時価純資産+営業権、EBITDA倍率など |
| 決まり方 | 計算で決まる | 交渉で決まる |
M&Aの価格については、運送会社の売却価格はどう決まる?、時価純資産+営業権の考え方をご覧ください。
この混同が実際に起こす問題は、二つの方向に出ます。一つは、評価額が高いのを見て「うちはこんなに価値がある」と考え、譲渡の話で折り合わなくなること。もう一つは、評価額が低いのを見て「売っても大した額にならない」と考え、検討そのものをやめてしまうことです。
どちらも、根拠にしている数字が目的の違うものだから起こります。課税のための評価は、誰が計算しても同じ結果になるように作られています。譲渡の価格は、相手がその会社をどう見るかで変わります。
だから、承継の方法を考える段階では、両方の数字を持っておくのが実際的です。課税のための評価は税理士に、譲渡した場合の見込みは仲介や専門家に聞く。二つを並べて初めて、どの道を選ぶかの判断ができます。
評価方式の基本的な考え方
非上場株式の相続税評価では、会社の規模や株主の立場に応じて、いくつかの方式が使い分けられます。
- 類似業種比準方式:同業種の上場会社の数値と比較して評価する
- 純資産価額方式:会社の資産から負債を引いた額をもとに評価する
- 併用方式:上の二つを組み合わせる
- 配当還元方式:少数株主が取得する場合など
どの方式が適用されるかは、会社の規模区分と株主の立場で決まります。 判定の基準や計算方法は詳細で、改正もあります。必ず税理士に評価を依頼してください。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
四つの方式があるということは、同じ会社の株でも、誰が取得するかによって評価が変わり得るということです。経営に関わる立場で取得する場合と、少数の株主として取得する場合とで、考え方が違います。
だから、株を誰にどう渡すかを設計するときは、方式の違いも視野に入れることになります。ただし、どの方式が適用されるかの判定は基準が細かく、自己判断できるものではありません。設計の段階から税理士に入ってもらってください。
会社の規模区分についても、業種や従業員数、資産の規模などから判定されます。自社がどの区分になるかも、あわせて確認しておくと理解が進みます。
運送業で評価が高くなる要因
1. 不動産の含み益
車庫・倉庫の土地を古くから所有している場合、簿価と時価の差が大きくなります。純資産価額方式では、これが評価に反映されます。
「決算書の純資産は少ないのに、評価額は高い」という状況は、この要因で生じます。車庫・倉庫の不動産を持つ会社の評価をご覧ください。
2. 内部留保の蓄積
長年黒字を続け、利益を社内に留保してきた会社ほど、純資産が厚くなります。健全な経営の結果として、評価が上がります。
3. 保険の解約返戻金
積立型の保険がある場合、その返戻金相当額も資産として評価されます。保険の活用と解約返戻金をご覧ください。
この三つに共通するのは、どれも会社が健全に続いてきた証拠だという点です。土地を持ち、利益を積み、備えの保険に入っている。経営としては望ましい状態が、評価を押し上げます。
だから、評価が高いことを問題として捉えるより、それに見合った備えができているかで考えるほうが建設的です。評価が高い会社は、それだけ資産のある会社です。その資産をどう使えば納税に対応できるかを考えることになります。
逆に、評価を下げようとして事業に無理をすると、会社そのものが弱ります。利益を出さない、投資をしない、備えをしない。どれも短期的には評価を下げますが、会社の力も落ちます。
評価額を知る意味
- 相続税の見込みが分かる:納税資金の準備につながります
- 贈与の計画が立てられる
- 承継の方法を判断できる:評価が高すぎて親族内承継が難しい場合もあります
- 対策の効果が測れる
把握していない経営者が非常に多いのが実情です。まず税理士に依頼して算出してもらってください。
四つのうち、三つ目の「承継の方法を判断できる」が最も大きな意味を持ちます。評価が高すぎると、親族に継がせることが後継者の負担になります。数字を見て初めて、その現実が見えます。
把握していない経営者が多いのは、聞かなければ出てこない数字だからです。決算書には載らず、税理士も依頼がなければ計算しません。だから、こちらから頼む必要があります。
依頼するときは、何のために使うかを伝えてください。承継の検討のためだと伝われば、あわせて必要になる試算も提案してもらえます。単に評価額だけを聞くより、判断に使える形で出てきます。
評価は毎年変わる
利益、純資産、業種の指標。いずれも毎年変わります。
- 好業績の年は評価が上がる
- 大きな設備投資をすると変わる
- 退職金を支給すると純資産が減る
年1回、決算後に確認することを習慣にしてください。税理士と連携して進める順序をご覧ください。
毎年確認する習慣を持つと、変化の理由も見えてきます。今年は上がった、その原因は利益が伸びたからだ。この理解があると、次の年の見通しも立てられます。
贈与を計画している場合は、この推移がそのまま判断の材料になります。評価が上がり続けているなら、早く移すほうが有利になる可能性があります。ただし、有利かどうかは制度の内容と個別の事情によって変わるため、税理士に確認したうえで判断してください。
確認の場としては、決算の打ち合わせが自然です。数字が固まった直後なので、そのまま計算に入れます。年に一度と決めておけば、忘れることもありません。
評価を下げる検討
制度の仕組み上、次のような要素が評価に影響することがあります。
- 役員退職金の支給(純資産が減ります)
- 設備投資
- 不動産の保有形態
- 会社の規模区分
ただし、事業に不合理な行為は避けてください。 税負担の軽減だけを目的とした行為は、後で問題になり得ます。必ず税理士と検討してください。
納税資金とセットで考える
評価額が分かったら、それに対する納税資金があるかを確認してください。
自社株は換金できないため、「財産は大きいが現金がない」という状況になります。相続税の納税資金をどう用意するかをご覧ください。
この確認をしないまま評価額だけを知っても、判断には使えません。評価が高いこと自体は問題ではなく、それに対応できないことが問題だからです。
だから、評価を依頼するときに、納税の見込みも一緒に試算してもらうのが効率的です。二つの数字が並んで初めて、備えが足りているかがわかります。
事業承継税制との関係
一定の要件を満たすと、自社株にかかる相続税・贈与税の納税が猶予される制度があります。評価額が高い会社ほど、検討する価値があります。
ただし要件は複雑で、適用後の継続要件もあります。事業承継税制を運送業で使うときの注意をご覧ください。
M&Aを選ぶ場合
生前に譲渡すれば、自社株が現金に変わります。
- 相続財産は現金になり、分割も納税も容易になる
- 評価額と譲渡価格は別なので、実際にいくらで売れるかは交渉次第
「評価額=売れる金額」ではありません。 高く評価されているからといって、その金額で売れるわけではない点に注意してください。相場はいくらか|規模別の考え方をご覧ください。
評価額と譲渡価格がずれる理由は、見ているものが違うからです。課税のための評価は資産と過去の利益を見ますが、買い手は買った後に稼げるかを見ます。だから、資産が多くても稼ぐ力が弱ければ、価格は評価額に届きません。
逆に、資産は少なくても、荷主が安定していて人が定着している会社なら、評価額より高く付くこともあります。この差を理解しておくと、話が具体化したときの受け止め方が変わります。
評価額が想定より高かったとき
初めて計算してもらって、想定より高い数字が出ることがあります。手元に現金がないのに、財産としては大きい。この状態をどう受け止めるかが、次の判断につながります。
まず確認したいのは、その評価に対して納税の備えがどれだけあるかです。個人の預金、加入している保険、会社の資金。これらを足して、足りるかどうかを見ます。
足りない場合、埋める方法を検討することになります。備えを積む、評価が下がる場面を待つ、制度の適用を検討する、あるいは生前に譲渡して現金に変える。どれを選ぶかは、家族の状況と会社の見通しによります。
大事なのは、高い数字を見て動きを止めないことです。数字がわかったからこそ、対応を始められます。わからないまま過ごすより、はるかに良い状態です。
後継者にとっての意味
評価額は、後継者にとっては引き継ぐときの負担の大きさを意味します。株を受け取れば、それに応じた負担が生じます。だから、後継者にもこの数字を知らせておく必要があります。
知らせずに進めると、いざ引き継ぐ段階になって「そんな負担があるとは思わなかった」となります。継ぐ意思が揺らぐこともあります。だから、早い段階で共有しておくほうが、双方にとって良い結果になります。
共有するときは、負担だけでなく備えの状況も一緒に伝えてください。今これだけの備えがあり、あと何年でどこまで積むつもりか。見通しがあれば、後継者も受け止めやすくなります。
あわせて、会社の資産の中身も説明しておく価値があります。なぜ評価が高いのか。土地があるからなのか、利益を積んできたからなのか。理由がわかると、会社を理解することにもつながります。
評価を下げる検討で気をつけること
評価を下げる要素として挙げられるものは、どれも事業上の判断と表裏一体です。退職金を支給するのは、その人が退くからです。設備投資をするのは、事業に必要だからです。
だから、順序を逆にしないことが大事です。評価を下げたいから退職金を出す、評価を下げたいから投資をする。この順序で動くと、事業として不合理な行為になり得ます。
正しい順序は、事業として必要な判断をし、その結果として評価が動く時期を活かすことです。退任の時期が来た、投資が必要になった。そのときに、贈与などの手を合わせて打つ。
何が合理的な範囲かの判断は、個別の事情によって変わります。自社の場合にどう考えるべきかは、税理士と相談したうえで決めてください。
数字をどう使うか
評価額が出たら、それを他の数字と並べてみてください。会社の年間の利益、社長個人の資産、借入の残高、他の相続人に渡せる資産。並べると、全体像が見えます。
全体像が見えると、何が足りないかもわかります。納税の備えが足りないのか、他の相続人に渡せる資産が足りないのか、それとも会社の資金が足りないのか。足りない部分が特定できれば、そこに手を打てます。
この作業は、一枚の紙にまとめるだけで足ります。厳密である必要はありません。おおよその金額が並んでいれば、判断には使えます。
まとめた紙は、家族に説明するときにも使えます。数字が並んでいると、口で説明するより伝わります。年に一度更新すれば、状況の変化も共有できます。
まとめ
自社株の評価は、相続・贈与・自社株買いの場面で必要になります。M&Aの価格とは別の考え方である点に注意してください。運送業では不動産の含み益と内部留保で評価が高くなりがちです。まず税理士に依頼して評価額を把握し、納税資金とセットで考えてください。