この法律が扱う主な支援
- 遺留分に関する民法の特例
- 金融支援
- 事業承継税制の前提となる認定
- 所在不明株主に関する会社法の特例
制度の内容・要件・手続きは改正されることがあります。 最新の内容は中小企業庁の公表資料や、認定支援機関・都道府県の窓口で確認してください。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
遺留分に関する民法の特例
何が問題なのか
後継者に自社株を集中させても、他の相続人から遺留分を請求される可能性があります。
- 自社株の評価が高いほど、請求額も大きい
- 後継者が現金で支払う必要が生じる
- 会社の資金では払えず、個人の負担になる
- これが承継を壊すことがある
相続人が複数いる場合の株の分け方をご覧ください。
特例の内容
推定相続人全員の合意を前提に、次のような取扱いを可能にする仕組みがあります。
- 除外合意:後継者が取得した自社株を、遺留分の算定から除外する
- 固定合意:自社株の価額を合意時点の評価で固定する(その後の価値上昇分を除ける)
固定合意は、業績が伸びている会社で意味を持ちます。 後継者の努力で価値が上がった分まで遺留分の対象になる、という不合理を避けられます。
手続き
- 推定相続人全員の合意が必要
- 経済産業大臣の確認
- 家庭裁判所の許可
全員の合意が前提である点が最大のハードルです。生前の話し合いが不可欠になります。家族への切り出し方をご覧ください。
金融支援
承継に伴って資金が必要になる場面があります。
- 後継者が株式を買い取る資金:親族内承継、社内承継(社内承継の流れと資金調達)
- 相続税・贈与税の納税資金
- 他の相続人への代償金
- 会社の運転資金:承継に伴う信用不安への対応
- M&Aで事業を買い取る資金
都道府県知事の認定を受けることで、日本政策金融公庫等の融資や、信用保証の特例が利用できる場合があります。
認定には要件と手続きがあります。 取引金融機関または都道府県の窓口に相談してください。社内承継の資金調達方法をご覧ください。
事業承継税制の前提となる認定
自社株にかかる相続税・贈与税の納税猶予を受けるには、この法律に基づく認定が前提になります。
- 事前の計画提出が必要な場合がある
- 認定後も報告義務がある
事業承継税制を運送業で使うときの注意をご覧ください。
所在不明株主に関する特例
古い会社では、連絡が取れない株主がいることがあります。
- 設立時の名義株主が転居し、行方が分からない
- 相続が起きたが、相続人が判明しない
会社法には、一定期間連絡が取れない株主の株式を 所定の手続きで整理する仕組みがありますが、この法律により、その期間が短縮される特例が設けられています(要件と手続きがあります)。
M&Aでは、株主が確定できないと取引が進みません。 該当する場合は、早めに専門家に相談してください。名義株の整理をご覧ください。
運送業で特に意味を持つ場面
- 不動産の含み益で自社株評価が高い → 遺留分の特例、事業承継税制
- 後継者に株式を買い取る資金がない → 金融支援
- 古い会社で株主が不明 → 所在不明株主の特例
- 社内承継で幹部に資金がない → 金融支援
使うための準備
- 自社株の評価を把握する(自社株の評価方法の基本)
- 後継者を決める
- 推定相続人と話し合う:遺留分の特例には全員の合意が必要
- 認定支援機関に相談する:税理士、金融機関など
- 都道府県の窓口に確認する
- 期限を確認する:計画の提出期限がある場合があります
使わない判断もある
制度には要件と、使った後の縛りがあります。
- 将来M&Aの可能性があるなら、税制の適用は慎重に
- 手続きと報告の負担が見合うか
- 他の方法(生前贈与、保険、譲渡)と比較する
制度を使うことが目的ではありません。 会社と後継者にとって最善かで判断してください。誰に相談すべきかをご覧ください。
制度の話に入る前に確かめること
支援の中身を調べる前に、自社がそもそもどの支援を必要としているのかを確かめてください。制度から入ると、使えるかどうかの検討に時間を取られ、本来の課題が後回しになります。
確かめるべきは三点です。ひとつは、自社株の評価がどれくらいかということ。評価が高ければ、遺留分も納税も金額が大きくなり、支援の必要性が上がります。評価が低ければ、制度を使わずに済む場合もあります。
ふたつめは、相続人が何人いて、そのうち会社に関わるのが誰かということ。関わらない相続人がいるほど、遺留分の論点は重くなります。
三つめは、後継者に資金があるかということ。株式を買い取るのか、贈与や相続で受けるのかによって、必要な支援がまったく違います。
この三点が整理できていれば、専門家に相談したときの話が早くなります。逆に、整理しないまま「使える制度はありますか」と聞いても、抽象的な答えしか返ってきません。
遺留分の特例が効く場面と効かない場面
除外合意と固定合意という二つの仕組みがありますが、どちらが向いているかは会社の状況で変わります。
除外合意が意味を持つのは、自社株が資産の大半を占めていて、他の相続人に渡せる資産が乏しい会社です。株式そのものを算定から外せれば、後継者が現金を用意する必要がなくなります。
固定合意が意味を持つのは、これから業績が伸びる見込みがある会社です。後継者が経営を引き継いだ後に価値が上がった分まで対象になるのは、感覚としても納得しにくいところです。合意した時点の評価で固定できれば、その不合理を避けられます。
逆に、効きにくい場面もあります。相続人の一人でも合意しなければ、この仕組みは使えません。関係が既にこじれている場合、制度の話をする前に、関係を立て直すところから始める必要があります。
また、そもそも自社株の評価が低い会社では、遺留分の請求額も限られます。手続きの負担に見合うかどうかを考えてください。
相続人全員の合意をどう得るか
この特例の最大の関門は、推定相続人全員の合意です。手続きそのものより、ここに時間がかかります。
順序としては、まず後継者を決め、なぜその人なのかを説明するところからです。制度の話を先に出すと、「自分の取り分を減らす仕組み」として受け取られます。会社をどう残したいのか、そのために何が必要なのかを先に話してください。
説明の材料として、会社の実情を共有することが有効です。株式が換金しにくい資産であること、借入の保証が付いていること、継ぐ側が背負うものがあること。これが伝わっていないと、会社を継ぐことが得に見えます。
そのうえで、会社以外の資産をどう配分するかを示します。合意を求めるなら、こちらも何を用意するのかを提示しないと、話が対等になりません。
説明の場には、第三者を入れると議論が整理されます。顧問税理士でも、外部の相談先でも構いません。家族だけだと、感情の応酬になりやすい話題です。
金融支援が必要になる場面
承継の資金が必要になるのは、ある特定の場面に限られます。どの場面に自社が該当するかを見極めておくと、相談が具体的になります。
後継者が株式を買い取る場合は、その資金が要ります。とくに社内の幹部に継がせる場合、本人に資産がないことが多く、ここが最大の障壁になります。
相続や贈与で株式を受ける場合は、納税の資金が問題になります。株式は換金しにくいので、他に原資がなければ困ります。
他の相続人に代償金を払う場合も同じです。会社を継ぐ側が、継がない側に金銭で調整するという形をとるなら、その資金が必要です。
そして、承継そのものに伴って会社の資金繰りが不安定になる場合があります。代表が代わったことで取引条件が変わる、荷主の支払いが遅れる、といった局面です。
いずれの場合も、取引のある金融機関に早めに相談してください。制度の適用には認定の手続きがあり、時間がかかります。資金が必要になってから動くのでは間に合いません。
所在不明株主の問題は早く着手する
古い運送会社では、設立時に名義を借りた株主が残っていることがあります。当時は数人の名義が必要だったため、親族や知人に頼んだという経緯です。
その名義人が転居した、亡くなって相続人がわからない、あるいは連絡先そのものが不明。こうした状態が長年放置されていることがあります。
日常の経営では問題になりません。ところが、譲渡の場面では致命的です。株主が確定できないと、誰から株式を買うのかが決まらず、取引そのものが成立しません。
整理には所定の手続きと期間が必要で、この法律による短縮の特例を使う場合でも、要件を満たしたうえで進めることになります。いずれにせよ、思い立ってすぐ終わるものではありません。
まずは株主名簿を確認してください。名簿そのものが更新されていない会社も多くあります。誰が何株持っていて、その人と連絡が取れるか。これを確かめるだけでも、着手の価値があります。
制度を使わない判断も成り立つ
支援の仕組みがあると聞くと、使わないと損をするように感じます。しかし、制度には要件があり、使った後にも縛りが残ります。
とくに税の猶予に関する仕組みは、適用後に継続して満たすべき条件があり、報告の義務も伴います。将来的に第三者へ譲渡する可能性があるなら、その時点でどうなるのかを確かめたうえで判断してください。
手続きの負担も現実的な検討材料です。認定の申請、必要書類の準備、その後の報告。小規模な会社では、この負担が実質的な費用になります。
比べる相手も持っておいてください。生前に少しずつ贈与していく方法、保険を活用する方法、後継者が買い取る方法。制度を使わない道と並べて、どれが会社と後継者にとって良いかを考えます。
判断の基準は、制度を使うことではなく、承継が成立することです。手段が目的にならないよう注意してください。
相談先の選び方
この法律に関わる支援は、認定の手続きを伴います。相談する相手を間違えると、手続きの入口で止まります。
まず、顧問税理士に自社株の評価と税務の見通しを確認してください。ここが出ないと、どの支援が必要かも決まりません。税理士が事業承継の実務に慣れていない場合は、その旨を伝えて、詳しい人を紹介してもらう形でも構いません。
金融支援については、取引のある金融機関が窓口になります。日頃から決算の説明をしている相手なら、事情も理解されています。
都道府県には、事業承継に関する相談を受け付ける公的な窓口があります。費用をかけずに現状を整理する入口として使えますし、認定の手続きについても案内が受けられます。
遺留分や株主の整理といった法律の論点は、弁護士の領域です。家族間の合意を書面にする場面でも、専門家が入っているほうが後の紛争を避けられます。
複数の相手に相談すると話が食い違うこともありますが、それ自体は悪いことではありません。論点が浮かび上がるからです。一人の助言だけで進めるより、結果として安全です。
まとめ
経営承継円滑化法は、遺留分の特例・金融支援・事業承継税制の認定・所在不明株主の特例という支援を用意しています。遺留分の特例には推定相続人全員の合意が必要で、生前の話し合いが前提になります。制度の内容は改正されるため、認定支援機関や都道府県の窓口で最新の内容を確認してください。
よくある質問
Q. 後継者がいない会社は、実際どのくらいあるのですか。 A. 帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2025年)」では、全国の後継者不在率は50.1%でした。前年から2.0ポイント下がり7年連続の改善ですが、なお2社に1社です。規模が小さいほど高く、中小企業で51.2%、小規模企業では57.3%となっています。
Q. いわゆる2025年問題とは何のことですか。 A. 中小企業庁は、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人にのぼり、うち約127万人が後継者未定になると試算していました。このまま推移すると累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われるおそれがあるとされ、これが2025年問題と呼ばれてきたものです。運送業も例外ではありません。
Q. 公的な相談窓口はありますか。 A. 国が各都道府県に事業承継・引継ぎ支援センターを設置しています。親族内承継の相談も第三者への引継ぎの相談も受け付けており、費用をかけずに現状を整理する入口として使えます。民間の相談先と並行して使ってかまいません。