ギャップの構造
| 出ていくお金 | タイミング |
|---|---|
| ドライバーの給与 | 毎月(最も大きい) |
| 燃料費 | 翌月払いが多い |
| 高速代 | 翌月 |
| 傭車費 | 翌月 |
| リース料・借入返済 | 毎月 |
| 保険・税金 | 時期による |
一方、運賃の入金は月末締めの翌月末、翌々月ということが珍しくありません。
売上が増えるほど、必要な運転資金も増えます。 「忙しいのに現金がない」という状態は、この構造から生まれます。
この構造でいちばん厳しいのは、給与が毎月出ていくことです。他の費用は交渉の余地があっても、給与は待ってもらえません。しかも、運送業では費用に占める割合が大きくなります。
だから、資金の計画を立てるときは給与の支払日を軸に考えることになります。その日までに手元にいくら必要か。この一点が守れなければ、他がどうであれ回りません。
売上が増えるほど資金が要るという点も、実感しにくい部分です。仕事が増えて喜んでいるうちに、資金が薄くなっていく。この構造を知らないと、なぜ苦しいのかがわかりません。
必要な運転資金を計算する
必要運転資金 = 売掛金 + 貯蔵品 - 買掛金・未払金
おおまかには、次でも把握できます。
月商 × (回収サイト - 支払サイト)÷ 30日
この金額が、常に会社から出ている状態です。手元にこれを賄う資金がなければ、借入で埋めることになります。
この計算をしてみると、想像より大きな額になることが多いはずです。しかも、この金額は事業を続ける限り常に会社の外に出たままになります。
だから、この額を手元資金か借入で賄えているかを確認してください。賄えていないなら、日々の入金でやりくりしている状態です。一つ入金が遅れれば、支払いに詰まります。
計算に使う回収と支払の期間は、荷主ごとに違うことがあります。主要な荷主について実際の日数を確かめると、より正確になります。
この数字は、金融機関に説明するときにも使えます。事業の構造から必要な額であることを示せれば、運転のための借入も理解されやすくなります。
ギャップを縮める方法
1. 回収を早める
- 請求を早く出す:月初に出せば、それだけ早く回ります(請求業務の電子化)
- 請求漏れをなくす:待機料・附帯作業料の計上漏れ
- サイトの短縮を交渉する:新規取引の条件として
- ファクタリング:手数料と相手先への影響を確認したうえで
請求を早く出すだけで、資金繰りは改善します。 月末月初に請求業務で数日かかっている会社は、ここに改善余地があります。
2. 支払いを適正化する
- 燃料・高速代の支払条件を確認する
- リース・割賦の返済計画を見直す
ただし、協力会社への支払いを遅らせるのは避けてください。 取引の公正さの問題であり、信頼も失います。下請法・物流特殊指定の基本をご覧ください。
3. 運転資金を借りる
構造的に必要な資金なので、借入で賄うのは正常です。
- 当座貸越・短期の借入枠を確保しておく
- 季節変動に備えた枠
- 金融機関に事業の構造を説明する(金融機関への説明)
資金が必要になってから相談するのでは遅いことがあります。平時に枠を作っておいてください。
三つのうち、いちばん早く効くのは請求を早く出すことです。相手との交渉も要らず、自社の作業を早めるだけで済みます。
今どれだけかかっているかを測ってみてください。締めてから請求書を送るまでの日数。手作業が多いと、一週間以上かかっていることがあります。この日数が縮めば、入金もその分早くなります。
請求の漏れをなくすことも、直接効きます。待機の料金や附帯の作業料が計上されていないなら、その分は入ってきません。現場の記録が請求につながっているかを確認してください。
回収の期間を短くする交渉は、新しい取引を始めるときが機会になります。既存の条件を変えるより、最初に決めるほうが通りやすいでしょう。
枠を平時に用意しておくという点も重要です。資金が要る場面では、たいてい急いでいます。その状態で相談を始めると、間に合わないことがあります。
なお、売掛を早く現金にする手段を使う場合は、手数料の水準と、取引先にどう伝わるかを確認してください。継続して使うと費用が積み上がります。
新規取引で注意すること
大口の新規荷主を獲得すると、売上が増える前に資金が出ていきます。
- 車両・ドライバーの手配
- 燃料・高速代
- 初回の入金まで2か月
受注前に、必要な運転資金を計算してください。資金が足りずに受けられない、という判断もあり得ます。
この計算をせずに受けてしまうと、忙しくなってから資金が詰まります。しかも、その時点では車も人も手配済みで、後戻りができません。
だから、大きな引き合いが来たときは、採算とあわせて資金の見通しも確認する習慣をつけてください。判断に時間がかかっても、その価値はあります。
与信管理
直取引が増えると、回収リスクも増えます。
- 新規取引前に信用状況を確認する
- 取引限度額を決める
- 入金の遅れを月次で確認する
- 遅れが続く先には早めに対応する
1件の貸倒れが、数か月分の利益を消すことがあります。直取引の開拓をご覧ください。
この四つは、直接の取引を増やすなら欠かせない作業です。元請を通していれば相手の信用は元請が見ていますが、直接になると自社で見ることになります。
新しい相手を受けるときは、まず調べてください。信用の情報を扱う会社に依頼する方法もありますし、業界での評判を聞く方法もあります。
限度額を決めておくことも効きます。一社にどれだけまで売掛を持つかを決めておけば、超えたときに気づけます。
遅れが出た相手には、量を絞る判断も要ります。運び続けるほど、回収できない額が増えていきます。
資金繰り表を作る
月次で、次を並べてください。
- 月初の現金残高
- 入金予定(荷主別)
- 支払予定(給与、燃料、リース、返済、税金、保険)
- 月末の残高見込み
3か月先まで見える状態にしてください。これがあれば、資金不足を事前に察知できます。
この表は、金融機関への説明でも、M&Aのデューデリジェンスでも求められます。財務デューデリジェンスで指摘されやすい点をご覧ください。
この表は、作ることより続けることに意味があります。一度作って満足すると、翌月には使えなくなります。
続けるには、簡単な形にしておくことです。細かく分けすぎると、毎月の更新が負担になります。入金と支払いの主なものが並んでいれば足ります。
作ってみると、資金が薄くなる月が見えてきます。賞与の月、税の支払いの月、保険の更新の月。これらが重なる月があれば、そこが要注意です。
薄くなる月がわかれば、事前に手を打てます。その月の前に入金を早める、支払いをずらす、借入の枠を使う。わかっていれば選択肢がありますが、当月になってから気づくと選べません。
季節変動への備え
- 繁忙期:売上は増えるが、入金は後。資金は最も苦しくなります
- 閑散期:売上は減るが、固定費は変わらない
- 賞与、税金、保険の支払い月
年間のどの月が最も苦しいかを把握し、そこに備えてください。
燃料高騰時の影響
燃料が急騰すると、支払いが先に増え、運賃への転嫁は後になります。この時間差が資金繰りを直撃します。燃料高騰時の資金対策、燃料価格の変動とどう付き合うかをご覧ください。
この時間差に備えるには、二つの方法があります。仕組みとして転嫁できるようにしておくことと、資金の枠を用意しておくことです。
前者があれば、遅れは小さくなります。後者があれば、遅れがあっても耐えられます。どちらも平時に用意しておくものです。
承継・M&Aでの意味
買い手は、運転資金の必要額を必ず見ます。
- 回収サイトと支払サイト
- 売掛金の回収状況(滞留はないか)
- 必要運転資金の水準
- 季節変動
月次の資金繰り表があると、説明が格段に楽になります。 また、回収サイトが長い荷主が多いと、その分の資金負担として評価されます。
この四点は、資金繰りの表があればすべて説明できます。だから、日々の管理がそのまま準備になります。
回収の期間が長い荷主が多いと、その分だけ多くの資金が必要な会社と見られます。買い手にとっては、買った後に用意すべき資金が増えることを意味します。
滞っている売掛があれば、その分は回収できないものとして扱われることがあります。だから、平時から回収を管理しておくことが評価につながります。
入金の遅れに早く気づく
資金繰りを崩す原因として、想定していた入金が来ないことがあります。だから、入金の確認を仕組みにしておく必要があります。
確認の方法は、請求した額と入金された額を突き合わせるだけです。合わないものがあれば、その理由を確かめます。
この作業を月に一度は行ってください。放置すると、何か月も気づかないことがあります。気づいたときには、相手の状況が悪化していることもあります。
遅れが続く相手には、早めに事情を聞いてください。一時的なものか、そうでないか。相手の資金繰りが厳しいなら、こちらも備える必要があります。
滞っている売掛の一覧を作っておくと、状況が見えます。誰にいくら、いつからか。この一覧は、承継の場面でも必ず求められます。
新しい取引を受けるときの計算
大きな取引が来たとき、受けるかどうかは採算だけで決まりません。資金が持つかも確かめる必要があります。
計算するのは、初回の入金までに出ていく額です。人件費、燃料、高速代、傭車費。これらが何か月分か先に出ます。
この額を今の手元資金で賄えるかを見ます。賄えないなら、借入の枠を用意してから受けることになります。
枠が用意できないなら、受けないという判断もあり得ます。受けた結果、資金が回らなくなれば、既存の取引にも影響します。
相手に条件を相談するという道もあります。初回だけ支払いを早めてもらう、一部を前払いにしてもらう。断られるかもしれませんが、聞いてみる価値はあります。
季節の波にどう備えるか
運送業では、繁忙の時期に資金がいちばん苦しくなります。売上は増えても、入金は後だからです。
だから、繁忙期の前に資金を用意しておく必要があります。その時期にいくら必要かは、過去の実績から読めます。
逆に、閑散の時期は売上が減っても費用は変わりません。ここでも資金は減ります。年間を通じて、どの月がどうなるかを把握しておいてください。
賞与や税の支払いも、この波に重なります。時期が決まっているものなので、あらかじめ組み込めます。
年間の資金の動きを一枚にしておくと、備えの計画が立てられます。毎年似た形になるため、一度作れば翌年も使えます。
金融機関にどう説明するか
運転のための借入は、事業の構造から必要なものです。だから、その構造を説明できれば理解されやすくなります。
説明の材料は、回収と支払の期間、必要な運転資金の額、月ごとの資金の動きです。この三つがあれば、なぜ必要かを示せます。
あわせて、改善の取り組みも伝えてください。請求を早く出す仕組みにした、回収の遅れを月次で確認している。管理できていることが伝われば、話が進みます。
相談する時期は、必要になる前です。余裕があるうちに枠を作っておけば、いざというときに使えます。困ってから相談すると、条件も厳しくなります。
請求を早く出す仕組みを作る
この一点だけで資金繰りが改善するにもかかわらず、手をつけていない会社が多くあります。原因は、実績を集めるのに時間がかかることです。
日報が現場から届かない、伝票が車内に残っている、集計を手作業でやっている。こうした事情が積み重なって、締めてから数日から一週間かかります。
改善するには、まずどこで止まっているかを確かめてください。実績が集まらないのか、集計に時間がかかるのか、確認に時間がかかるのか。
実績が集まらないなら、提出の期限を決めて周知します。集計に時間がかかるなら、記録から自動で拾える形にできないかを検討します。
荷主ごとの締めの日が違う場合は、その順番も整理してください。早く締まる相手から先に処理すれば、その分だけ入金も早くなります。
まとめ
運送業は先払い・後入金の構造で、売上が増えるほど運転資金も増えます。まず必要運転資金を計算してください。改善策は、請求を早く出す・請求漏れをなくす・サイトを交渉する・借入枠を平時に確保する、の4つです。3か月先まで見える資金繰り表を作ることが出発点になります。