まず棚卸しをする
整理の出発点は、現状を一枚にまとめることです。次の項目を借入ごとに並べてください。
- 金融機関名
- 当初金額と現在の残高
- 金利
- 毎月の返済額と残り回数
- 担保(何を差し入れているか)
- 保証(誰が保証しているか、保証協会の保証が付いているか)
- 資金使途(何に使った借入か)
リース債務も忘れずに含めてください。運送会社では車両リースが実質的な借入として大きな比重を占めます。
この一覧を作るだけで、見えていなかった問題が出てきます。 「もう手放した車両の借入がまだ残っている」「同じ担保に複数の抵当が付いている」といったことです。
この一覧を作る作業は、半日もあれば形になります。返済の予定表と契約書を集めれば、必要な情報はほぼ揃います。
作ってみると、把握していなかったことが見つかります。手放した車両の借入が残っている、同じ資産に複数の抵当が付いている、いつのものかわからない保証がある。
特に、担保と保証の欄は丁寧に確認してください。何を差し入れているか、誰が保証しているか。ここを把握していない会社は珍しくありません。
使い道の欄も入れておくと、後で役に立ちます。運転のための借入なのか、車両を買うためのものなのか。性質が違えば、整理の仕方も変わります。
リースを含めるのを忘れないでください。車両をリースで揃えている会社では、こちらの残りのほうが借入より大きいこともあります。金融機関も、これを実質的な負債として見ます。
返済負担を測る
次の2つを計算してください。
年間返済額
元金返済とリース料の年間合計です。元金返済は費用になりませんが、現金は出ていきます。
返済原資
税引後利益 + 減価償却費
おおまかに、これが返済に充てられる金額です。
年間返済額が返済原資を上回っていれば、手元資金が減り続けます。 どこかで新たな借入をしないと回りません。この状態が続いているなら、整理が必要です。
この二つを比べることが、整理が要るかどうかの判断になります。返す額が返せる額を超えていれば、いずれ資金が尽きます。
計算してみて、超えていることがわかっても慌てないでください。多くの会社が、新たな借入で回しています。問題は、その状態が続くかどうかです。
数年分を並べてみると、方向が見えます。差が縮まっているなら改善しています。開いているなら、手を打つ時期です。
元金の返済が費用にならないという点は、経理に詳しくないと実感しにくい部分です。利益が出ているのに現金が残らないという状態は、ここから生まれます。
整理の方向
1. 借換えでまとめる
複数の借入を1本にまとめ、返済期間を延ばす方法です。
- 利点:毎月の返済額が下がる。管理が楽になる
- 注意:総支払利息は増えることがある。担保・保証の再設定が必要
2. 返済期間の延長(リスケジュール)
既存の借入について、返済条件の変更を相談する方法です。
- 利点:手元資金の流出を抑えられる
- 注意:金融機関の評価に影響する場合があります。新規の借入がしにくくなることがあります
安易に選ぶものではありませんが、資金が尽きてからでは選べません。 早めに相談することが重要です。
3. 資産の売却で返済する
遊休不動産、使っていない車両。持っているだけで維持費がかかる資産は、売却して借入を減らす選択があります。
4. 利率の見直し
業績が改善している、保証協会付きから固有貸出に変えられる、といった場合、条件の見直しを相談できることがあります。
四つの方向のうち、三つ目の資産の売却は見落とされやすい選択です。使っていない車両、遊んでいる土地。持っているだけで費用がかかります。
売却の判断をするには、まず何を持っているかの一覧が要ります。車両台帳と、不動産の登記。これらを見れば、使っていないものが見つかります。
一つ目のまとめる方法は、毎月の負担を軽くできます。ただし、期間が延びれば支払う利息の総額は増えます。この点を理解したうえで判断してください。
二つ目の条件の変更は、慎重に検討すべき選択です。今後の借入がしにくくなる可能性があります。ただし、資金が尽きてからでは選べないという点も事実です。
どの方向を取るにしても、金融機関との話が前提になります。一人で決めて実行できるものではありません。
金融機関との進め方
整理の話は、資料を持って自分から行くのが基本です。
- 借入の一覧表
- 直近の試算表
- 資金繰り表(3か月〜1年先)
- 改善の計画(何をして、いつまでにどうなるか)
「苦しいので何とかしてください」ではなく、「こう改善するので、この形にしたい」という順序で話してください。銀行への説明資料のつくり方をご覧ください。
メインバンクを決める
取引金融機関が多すぎると、どこも本気で支えてくれません。中心となる1行を決め、そこに情報を厚く出すほうが、いざというときに動いてもらえます。
資料を持って自分から行くという点が、この場面での要点です。呼ばれてから行くのと、こちらから相談に行くのとでは、印象がまったく違います。
持っていく資料のうち、資金繰りの表があると話が具体的になります。この先何か月でどうなるか、そのうえで何をしたいか。見通しが示せれば、相手も検討しやすくなります。
改善の計画は、数字で書いてください。この荷主の運賃を上げて年間これだけ、この路線から撤退してこれだけ。根拠のある数字なら、相手も判断できます。
中心になる金融機関を決めるという点も、実務では効きます。複数に薄く情報を出すより、一行に厚く出すほうが、いざというときに動いてもらえます。
承継・M&Aへの影響
親族内承継の場合
借入が多いほど、後継者が引き継ぐ個人保証の額も大きくなります。「保証があるなら継ぎたくない」という理由での辞退は実際に起きています。
借入を減らすことが、そのまま保証解除の交渉材料になります。個人保証の解除、保証の引き継ぎ交渉をご覧ください。
M&Aの場合
株式の価値は、おおまかに事業価値から純有利子負債を差し引いて算定されます。つまり借入が多いほど、売り手が受け取る金額は少なくなります。
ただし、借入を減らすために手元資金を使えば、その分も差し引かれます。単純に「返せば高く売れる」わけではありません。 借入金の扱いと純有利子負債をご覧ください。
M&Aで意味があるのは、返済負担が重すぎて利益を圧迫している状態を解消することです。利益が出る体質になれば、事業価値そのものが上がります。
単純に返せば高く売れるわけではないという点は、誤解されやすい部分です。手元の資金を使って返済すれば、その資金も評価から差し引かれます。
意味があるのは、返済の負担が重くて利益を圧迫している場合です。負担が軽くなって利益が出るようになれば、事業そのものの評価が上がります。
後継者に継がせる場合は、また別の意味があります。借入が減れば、負う保証の額も減ります。継ぐかどうかの判断に直接効きます。
やってはいけないこと
- 金融機関に黙って状況を悪化させる:信用を失います
- 社長個人の資金で穴埋めし続ける:実態が見えなくなります
- 高金利の資金でつなぐ:一時しのぎにしかなりません
- 売掛債権の安易な現金化に頼り続ける:構造問題は解決しません
公私混同の解消が最優先である理由をご覧ください。
四つのうち、二つ目が最も見過ごされやすい問題です。社長個人の資金で埋めていると、会社の実態が見えなくなります。
しかも、この資金は会社への貸付として残ります。相続の場面では財産として扱われ、承継の場面では負債として見られます。
一時的に立て替えることはあっても、続けるべきではありません。埋めなければ回らないなら、それは事業の問題です。金融機関に相談して、正面から解決する必要があります。
使い道別に整理して考える
借入は、使い道によって性質が違います。この違いを意識すると、整理の方針も決まります。
運転のための借入は、事業を続ける限り必要なものです。だから、返し切ることを目標にする必要はありません。枠として持ち続ける形が自然です。
車両を買うための借入は、その車両の使用期間に合わせて返すのが基本です。車両を手放した後も返済が残っているなら、期間の設定に無理があったことになります。
過去の赤字を埋めるための借入は、返済の原資がありません。この種類が多いなら、事業そのものの立て直しが先です。
一覧に使い道の欄を入れておくと、この整理ができます。どの種類がどれだけあるかを把握してください。
返済の予定を先まで並べる
複数の借入があると、返済の終わる時期もばらばらです。だから、年ごとの返済額を先まで並べてみる価値があります。
並べると、どの年に負担が重くなるかが見えます。逆に、いくつかが終わる年には余裕が生まれます。
この見通しがあると、車両の更新計画とも突き合わせられます。返済が重い年に大きな更新が重なれば、資金が持ちません。時期を散らす判断ができます。
新しく借りるときも、この表を見て決められます。今後の返済に上乗せしても回るかどうか。感覚ではなく、数字で判断できます。
担保と保証を見直す
棚卸しをすると、担保や保証の状態が見えてきます。ここにも整理の余地があることがあります。
たとえば、すでに返し終わった借入のために設定された担保が、抹消されずに残っていることがあります。この状態だと、その資産を使った新しい借入がしにくくなります。
複数の抵当が同じ資産に付いている場合も、整理の対象です。順位によって扱いが変わるため、状況を把握しておく必要があります。
保証についても、借換えの機会に見直せることがあります。返済が進み、財務が改善しているなら、条件を相談する余地があります。
これらの手続きには司法書士が関わります。金融機関と相談しながら進めてください。
整理した後に何を守るか
整理が進んだら、その状態を保つ仕組みが要ります。放っておくと、また同じ状態に戻ります。
保つための基準として、年間の返済額を返済原資の範囲に収めるという線が使えます。新しく借りるときは、この線を超えないかを確認します。
手元資金の水準も、基準を決めておくと管理しやすくなります。月々の固定費の何か月分を下回らない、という形です。
一覧は年に一度更新してください。残高が減り、条件が変わり、新しい借入が加わります。最新の状態を保っておけば、判断も速くなります。
この一覧は、承継の場面でも必ず求められます。日々の管理が、そのまま準備になります。
相談する時期をどう決めるか
整理の話を切り出す時期は、早いほど選択肢が多く残ります。しかし、早すぎると相手も動きようがありません。
目安になるのは、返済の負担が返済原資を上回り始めたときです。この状態が一年続いているなら、相談する時期でしょう。
もう一つの目安は、手元の資金が減り続けているときです。毎月少しずつ減っているなら、いずれ尽きます。尽きる時期が読めるうちに相談してください。
逆に、資金が尽きてからでは、相手にできることが限られます。しかも、こちらの立場も弱くなります。
相談したからといって、すぐに条件が変わるとは限りません。それでも、状況を共有しておけば、次の判断のときに話が早くなります。
整理と並行して進めること
借入の整理だけをしても、根本は変わりません。返済の負担が軽くなっても、利益が出なければまた同じ状態になります。
だから、事業の立て直しを並行して進める必要があります。運賃を上げる、採算の悪い取引を整理する、稼働を上げる。
この取り組みは、金融機関に示す改善の計画にもなります。返済の条件だけを変えてほしいと言うより、事業をこう直すと示すほうが通ります。
進捗も報告してください。計画どおりに進んでいるか、遅れているならその理由は何か。報告を続けることが、信頼につながります。
まとめ
借入整理の第一歩は、金融機関・残高・金利・担保・保証を一枚に棚卸しすることです。年間返済額が返済原資を上回っていないかを測り、借換え・期間延長・資産売却などを組み合わせます。金融機関には資料と改善計画を持って自分から相談してください。借入の圧縮は、そのまま保証解除の交渉材料になります。