安定性が評価される理由

買い手は、引き継いだ後にいくら利益が出るかを見積もります。過去の利益が安定していれば、その水準を前提にできます。振れていれば、低いほうの数字を前提にせざるを得ません

つまり、変動そのものより「読めないこと」が評価を下げます。逆に言えば、読める変動なら影響は小さくできます

食品製造業の変動要因

1. 季節性

おでん種、冷やし麺、鍋物、アイス、お節、行事食。食品製造業では、売上が特定の時期に集中する会社が珍しくありません。

年度単位で見れば安定していても、月次では大きく振れます。これは事業の性質であり、説明すれば理解されます。

2. 原材料価格

小麦、油脂、糖類、水産物、食肉、包装資材。価格が上がった年は粗利が圧縮されます。価格転嫁までのタイムラグが、利益の振れとして現れます。

3. 天候・不漁・不作

原料を農水産物に依存する業態では、調達量と価格が年によって変わります。

4. 設備の故障・更新

主要設備が止まると、その期間の生産が失われます。大規模な修繕を行った年は、費用が一時に膨らみます。

5. 取引先の増減

大口の取引先を獲得した年、失った年。構成比が高いほど影響が大きくなります。取引先構成が評価に与える影響をご覧ください。

示し方1:月次の推移を出す

年度の数字だけでなく、36か月分の月次推移を並べます。これだけで、季節性は一目で伝わります。

グラフにして、3年分を重ねて表示すると「毎年同じ形」であることが示せます。同じ形なら、それは変動ではなくパターンです。

示し方2:変動の要因を分解する

利益が前年から動いた理由を、要因別に分けて説明します。

要因影響額
数量の増減+◯◯万円
単価の改定+◯◯万円
原材料の値上がり−◯◯万円
人件費の増加−◯◯万円
エネルギー費−◯◯万円
一時的な修繕−◯◯万円

この分解ができると、「一時的なもの」と「構造的なもの」を切り分けられます。一時的な要因による減益であれば、評価への影響は限定されます。

示し方3:一時的な要因を明示する

決算書の磨き上げで扱った調整と重なります。次のようなものは、明示して除いた数字を示します。

  • 大規模修繕や設備の除却
  • 災害・事故による損失
  • 補助金収入
  • 保険の解約返戻金
  • 役員退職金の一括計上
  • 回収に伴う費用

示し方4:改善の方向を示す

粗利率が下がっている場合、その理由と対策を示します。

  • 「原材料が◯%上がったが、価格改定は◯品目で実施済み。残りは交渉中」
  • 「歩留まりが◯%改善しており、来期は◯万円の効果を見込む」

下がっている事実より、把握して手を打っているかどうかが見られます。価格改定の交渉歩留まりとロスの改善をご覧ください。

運転資本との関係

季節性のある会社では、時期によって在庫と売掛金が大きく変わります。決算期末の数字だけを見ると、実態とずれます。

この点は価格調整にも関わるため、月次の運転資本の水準を示しておくと後の交渉が楽になります。運転資本の調整を参照してください。

やってはいけないこと

安定して見せるために、費用の計上を翌期にずらす、期末に押し込み出荷をする、といった処理は避けてください。買収監査で発見され、数字全体の信頼を失います

変動があること自体は問題ではありません。説明できないことが問題です。