なぜ納税が難しくなるのか

自社株には、次の特徴があります。

  • 評価額は高くなり得る:純資産や利益をもとに評価されます
  • 換金できない:市場がなく、簡単には売れません
  • 分割しにくい:分けると経営に支障が出ます

つまり、「財産としては大きいが、現金にはならない」という状態です。しかし相続税は現金で納める必要があります。

自社株の評価方法の基本をご覧ください。

この構造がわかりにくいのは、普段の経営で株の評価を意識する場面がないからです。決算書を見ても株価は載っていません。だから、実感としては「うちは大きな会社ではない」と思っていても、計算してみると想定と違うことがあります。

特に、長く続いてきた会社ほどこの差が大きくなります。毎年少しずつ積み上がった利益が内部に残り、それが評価に反映されるためです。手元の現金が多いわけではないのに、評価だけが上がっていく。

だから、この問題への備えは評価額を知ることから始まります。知らなければ、必要な資金の見当もつきません。

もう一つ知っておきたいのは、評価が下がるのは会社の調子が悪いときだという点です。業績が落ちれば評価も下がりますが、それは望ましい状態ではありません。だから、評価を下げることを目的にするのではなく、評価が高くても対応できる備えを作るという考え方になります。

運送業で評価が高くなる要因

  • 不動産を持っている:車庫、倉庫。取得が古いほど含み益が大きい
  • 内部留保が厚い:長年黒字を続けてきた会社
  • 車両などの資産が多い

健全な経営を続けてきた会社ほど、評価が高くなるという面があります。

不動産の含み益は、運送会社で特に効いてくる要因です。車庫や倉庫として使っている土地を古くから持っていると、帳簿の金額と現在の価値が大きく離れていることがあります。この差が評価に反映されます。

やっかいなのは、その不動産が事業に不可欠だという点です。売れば納税資金になりますが、売れば事業が続けられません。つまり、評価には乗るのに使えない資産です。

だから、不動産を持つ運送会社は、この問題への備えを早く始める必要があります。土地の名義が会社か個人かによっても扱いが変わるため、まず今の状態を確認してください。

納税資金を用意する方法

1. 生前に個人の資産を蓄える

役員報酬から計画的に貯める、という方法です。ただし、報酬には所得税がかかるため、効率は高くありません。

2. 保険を活用する

死亡保険金を納税資金に充てる設計です。受取人を誰にするかで扱いが変わります。保険の活用と解約返戻金をご覧ください。

3. 会社が株式を買い取る(金庫株)

相続人が取得した株式を、会社が買い取る方法です。相続人は現金を得られ、納税に充てられます。

  • 会社に買取資金が必要
  • 財源の規制がある
  • 税務上の取扱いに特例がある場合がある

設計は税理士と行ってください。

4. 死亡退職金

会社から相続人に支給されます。相続税の計算で一定の非課税枠がある場合があります。規程の整備が前提です。退職金の設計と税務をご覧ください。

5. 事業承継税制

一定の要件を満たすと、自社株にかかる相続税・贈与税の納税が猶予される制度があります。

要件・手続き・期限は複雑で、改正もあります。 適用の可否と、適用後の継続要件を含めて、必ず税理士に確認してください。事業承継税制を運送業で使うときの注意をご覧ください。

6. 延納・物納

  • 延納:分割して納める。利子税がかかります
  • 物納:現物で納める。要件が厳しく、認められる財産も限られます

いずれも最後の手段と考え、事前の備えを優先してください。

六つの方法は、どれか一つで足りるというより、組み合わせて使うものです。必要な金額が大きければ、一つの手段では賄えません。だから、それぞれでいくら用意できるかを見積もり、合計で足りるかを確かめる形になります。

見積もるときは、それぞれの手段が使える条件を確認してください。会社が株を買い取る方法なら会社に資金が要りますし、退職金なら規程が整っている必要があります。条件を満たしていない手段は、当てにできません。

順序としては、生前に準備できるものを優先します。相続が起きてから使える手段は限られ、しかも時間の制約があります。延納や物納が最後の手段とされるのは、そのためです。

どの組み合わせが自社に合うかは、会社の財務、個人の資産、家族の構成によって変わります。制度の要件や手続きは改正されることもあるため、税理士と定期的に確認しながら進めてください。

生前にできる備え

1. 評価額を把握する

まず今いくらなのかを知ってください。税理士に評価を依頼すれば算出できます。把握していない経営者が多いのが実情です。

2. 評価を下げる検討

評価の仕組み上、次のような要素が影響することがあります。

  • 役員退職金の支給(純資産が減ります)
  • 設備投資
  • 不動産の保有形態

ただし、事業に不合理な行為は避けてください。 節税だけを目的とした行為は、後で問題になり得ます。必ず税理士と検討してください。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。

3. 生前贈与を活用する

計画的に株式を移転していく方法です。生前贈与の使い方をご覧ください。

4. 遺言を作る

株式を誰に渡すかを明確にします。分散を防ぐことが目的です。遺言で決めておくことをご覧ください。

5. 会社の資金を確保する

金庫株や死亡退職金で対応するには、会社に資金が必要です。計画的に準備してください。

五つのうち、最初の評価額の把握がすべての出発点です。ここが済んでいないと、他の四つをどれだけ進めればよいかが決まりません。だから、まずここに手をつけてください。

評価を下げる検討については、注意が要ります。事業として合理性のある行為であれば問題ありませんが、税負担を減らすことだけを目的とした行為は後から問題になり得ます。設備投資にしても、本当に必要な投資かどうかが基準になります。

会社の資金を確保することは、地味ですが確実に効きます。会社が株を買い取る形も、退職金を支給する形も、会社に資金がなければ実行できません。毎年少しずつでも積み上げておくことが、選択肢を残すことにつながります。

この五つは、どれも数年単位の取り組みです。だから、思い立った時点で始める価値があります。何もしていない状態から一年で整うものではありません。

M&Aという選択

納税資金の問題を根本的に解決する方法として、生前に株式を譲渡するという選択があります。

  • 株式が現金に変わる
  • 相続財産は現金になり、納税も分割も容易になる
  • 後継者不在の問題も同時に解決する

「会社を残す」ことにこだわると、相続で家族が困ることがあります。会社を残すか畳むか運送・物流業のM&Aをご覧ください。

この選択を検討するとき、会社を手放すことへの抵抗が最も大きな障壁になります。長年築いてきたものを他人に渡すという判断は、簡単ではありません。

ただ、判断の材料としては、残した場合に家族がどうなるかを具体的に見ておく価値があります。納税資金が足りなければ、後継者が借入を負うことになります。あるいは、事業に必要な不動産を売ることになるかもしれません。この現実と比べたうえで、それでも残すのかを考える。

残すという判断をするなら、それに見合った備えが要ります。備えができないまま残すという選択は、負担を家族に先送りすることになります。どちらを選ぶにしても、数字を見たうえで決めてください。

相続人が複数いる場合

自社株を継ぐ子と、継がない子。納税負担が偏ることがあります。

  • 株を継いだ子に納税が集中する
  • 他の子には現金が渡り、納税は軽い
  • 不公平感が生まれる

この構造を事前に説明しておくことが、揉めごとを防ぎます。相続人が複数いる場合の株の分け方をご覧ください。

この不公平感は、事前の説明で和らげることができます。株を継ぐということは会社を背負うということであり、納税の負担もその一部だと理解されていれば、受け止め方が変わります。

説明するときは、金額を具体的に示すほうが伝わります。株を継ぐ側にいくらの負担が生じ、他の人にはいくらが渡るのか。数字が並べば、単純な取り分の比較にはなりません。

逆に、この構造を伝えないまま相続を迎えると、株を継いだ側が「多くもらった」と見られます。実際には負担を背負っているのに、そう見えない。この誤解が、家族の関係を損なうことがあります。

必要な金額をどう見積もるか

備えを始める前に、いくら必要かの見当をつけておく必要があります。この見積りがないと、どの手段をどこまで進めればよいかが決まりません。

見積もるには、税理士に試算を依頼することになります。今の時点で相続が起きたらどうなるかという前提で計算してもらう形です。株の評価だけでなく、他の資産も含めた全体で見る必要があります。

出てきた数字は、そのまま固定されるものではありません。会社の業績が伸びれば評価は上がり、退職金を支給すれば下がります。だから、一度出したら終わりではなく、定期的に更新してもらってください。

更新の機会としては、決算の打ち合わせが自然です。年に一度、そのときの数字で試算し直す。この習慣があると、変化に気づけます。

会社の資金をどう積むか

会社側の備えとしていちばん確実なのは、資金を残しておくことです。ただし、利益を残せば内部留保が増え、それが株の評価を押し上げるという面もあります。

だから、どこまで残すかの判断が要ります。資金を残しすぎると評価が上がり、残さなすぎると備えができない。この釣り合いをどう取るかは、会社の状況によって変わります。

実務としては、保険を使って備える形が取られることがあります。積み立てた分が会社の資産として計上され、必要な時期に受け取る設計です。ただし、保険の商品によって税務上の扱いが違い、制度の見直しもあります。契約する前に、税理士に内容を確認してもらってください。

いずれにしても、備えの計画は数年から十数年の時間軸で考えるものです。短期間で用意できる金額には限りがあります。

相続が起きてから使える手段

備えが十分でないまま相続が起きた場合でも、打てる手はあります。ただし、いずれも時間の制約があり、選べる幅は狭くなります。

会社が株を買い取る方法は、この場面でよく検討されます。相続人は現金を得られ、会社は株を回収できる。ただし、会社に資金があることと、法令上の制約を満たすことが前提です。

納付を分割する方法や、現物で納める方法も制度としてあります。ただし、条件があり、認められない場合もあります。しかも、手続きには期限があります。だから、相続が起きたらすぐに税理士に相談してください。

この段階で大事なのは、判断を先延ばしにしないことです。何もしないまま時間が過ぎると、選べる手段がさらに減ります。まず全体像を専門家に見てもらい、進め方を決めてください。

備えを始める順序

順序としては、評価額の把握、必要額の試算、今ある備えの確認、不足分の計画という流れになります。最初の二つは税理士に依頼すれば数か月で出ます。

三つ目の「今ある備え」は、自分で確認できます。個人の預金と資産、加入している保険、会社の手元資金、退職金の規程の有無。これらを一覧にすれば、今の備えの水準がわかります。

不足分が見えたら、それをどう埋めるかの計画になります。何年かけて、どの手段で、いくら用意するか。年ごとの目標に落とせれば、日々の経営のなかで進められます。

計画を立てたら、家族にも共有しておいてください。備えの意味を知らないと、保険料の支払いや資金の積み立てが理解されないことがあります。何のための備えかが伝わっていれば、協力も得られます。

まとめ

自社株は評価額が高くても換金できないため、納税資金の確保が課題になります。まず評価額を把握してください。備えは、保険・金庫株・死亡退職金・事業承継税制・生前贈与などがあり、いずれも生前の準備が前提です。生前に譲渡すれば、この問題自体が解消します。