3つの方法の特徴

生前贈与
計画的に少しずつ移せるのが利点です。後継者に資金がなくても実行できます。一方、贈与税の負担を考慮する必要があり、株価が高いと一度に移すのは困難です。

売買(有償譲渡)
後継者が対価を支払って取得します。税務上の論点が比較的シンプルな一方、後継者に資金が必要です。金融機関からの借入や持株会社の活用が検討されます。

相続
時期を選べません。遺言がなければ相続人の間で分割協議が必要になり、株が分散するリスクがあります。納税資金の準備も課題です。

運送会社で株価が上がる要因

「利益は出ていないのに株価が高い」というケースが運送業にはあります。主な理由は次のとおりです。

  • 車庫・倉庫などの不動産を保有している
  • 長年の内部留保が積み上がっている
  • 保険の解約返戻金が資産として評価される

評価方法は会社の規模や資産構成によって変わります。まずは現状の評価額を把握するところから始めてください。

移すタイミング

株価が下がった時期に移すと負担が軽くなります。運送業では、次のような場面が該当し得ます。

  • 役員退職金を支給した期
  • 大型の設備投資を行った期
  • 業績が一時的に落ち込んだ期

ただし、税務上の取扱いは個別事情によって異なります。必ず税理士と事前に検討してください。

分散した株を集める

設立時の名義や、過去の相続で株が分散していることがあります。承継の前に集約が必要ですが、次の理由で時間がかかります。

  • 株主の所在が分からない
  • 相続でさらに細分化している
  • 買取価格の合意が得られない

売却やM&Aを考え始めたら、まず株主名簿を確認してください。ここが最初の関門になることがあります。

名義株の整理

実質はオーナーのものだが名義が他人になっている株式がある場合、放置すると承継や譲渡の場面でトラブルになります。経緯を示す資料を集め、早めに整理しておきましょう。

事業承継税制という選択肢

一定の要件を満たす場合、自社株にかかる贈与税・相続税の納税を猶予する制度を利用できることがあります。要件と継続条件があり、制度の内容も見直されることがあるため、早めに検討してください。

なぜ株式が要になるのか

代表者を交代しただけでは、承継は終わりません。会社の重要な決定は株主が握っているためです。後継者が代表になっても株式を持っていなければ、方針をめぐって対立したときに決着がつきません。

運送業では、設備投資の判断が頻繁に発生します。車両を何台入れ替えるか、営業所を増やすか、システムを導入するか。こうした判断のたびに前の世代の同意が要る状態では、機動的な経営は難しくなります。

また、相続が発生したときに株式が分散すると、後から集めるのは容易ではありません。生前に方針を決めておくことが、次の世代の負担を減らします。

三つの方法を、負担で比べる

贈与、売買、相続。どれを選ぶかは、負担が誰にいつ発生するかで比べると分かりやすくなります。

贈与では、受け取る側に負担が生じます。まとまった株式を一度に渡せば負担も大きくなるため、時間をかけて少しずつ渡す方法が使われます。時間があるほど選びやすい手立てです。

売買では、後継者が買い取り資金を用意する必要があります。自己資金で足りなければ、金融機関からの借入を検討することになります。一方、渡す側には代金が入るため、引退後の資金として使えます。

相続では、渡す側の生前には負担が生じません。ただし、いつ発生するかを選べず、他の相続人との間で取り分の問題が起きることがあります。遺言がなければ、株式が法定の割合で分かれることもあります。

運送会社で株価が上がる要因

自社株の評価は、会社の資産と利益の状況によって変わります。運送業では、次のような要因で評価が上がることがあります。

  • 車庫や営業所の土地を自社で所有している
  • 車両を自社所有で多く持ち、償却が進んでいる
  • 利益が数年続けて出ている
  • 内部留保が厚い
  • 保険を資産として計上している

評価が高いこと自体は会社が健全な証拠ですが、承継の場面では負担が増える要因になります。だからこそ、評価がどう動くかを把握したうえで、移す時期を考える意味があります。

具体的な計算方法や税率は年度によって変わるため、ここでは触れません。顧問税理士に、現時点の評価と、数年先の見通しを試算してもらってください。

移す時期をどう考えるか

評価が低い時期に移すほうが負担は軽くなります。ただし、評価が低いということは、利益が出ていない時期であることも多く、単純に「安いうちに」とはいきません。

実務上の考え方としては、大きな設備投資を予定している時期、退職金の支給を予定している時期など、評価が一時的に下がる場面を捉えるという方法があります。いずれも、事前の試算と計画が前提になります。

また、時間をかけて少しずつ移す方法もあります。毎年一定の範囲で渡していけば、一度に大きな負担が生じません。ただし、完了までに年数がかかるため、早く始めるほど有利です。

どの方法を選ぶにせよ、判断には試算が要ります。感覚で決めず、数字を見てから決めてください。

分散した株式を集める

創業から年数が経った会社では、株式が分散していることがよくあります。設立時に名前を借りた相手、相続で分かれた持分、退職した役員が持ったままの株式。

集約には、交渉と時間が要ります。相手のあることなので、自社の努力だけでは進みません。数か月から一年、場合によってはそれ以上かかります。

まずは株主名簿を確認し、実態と一致しているかを見てください。名簿が更新されていない、誰が持っているのか分からない、という状態では、承継の話を始めることすらできません。

そして、集約は譲渡や承継を決めていない段階でも進められます。むしろ、話が具体化する前のほうが、相手も身構えずに応じてくれます。

名義株をどう整理するか

設立時の人数要件を満たすために名前を借りた株式が、そのまま残っていることがあります。実質的には社長のものでも、名簿上は他人の名義です。

整理には、まず実質的な所有者との認識合わせが要ります。当事者が既に亡くなっている場合は、相続人との話になります。年数が経つほど関係者が増え、難しくなります。

放置したまま承継や譲渡を進めると、後から権利を主張される可能性が残ります。買い手からも必ず指摘される点です。気づいた時点で着手してください。

制度の活用を検討する

事業承継に伴う負担を軽減するための制度が用意されている場合があります。要件を満たせば、株式の移転に伴う負担の扱いが変わることがあります。

ただし、要件も内容も年度によって変わり、適用を受けるための手続きや、その後の継続要件もあります。安易に前提とせず、顧問税理士や公的な支援機関の窓口で、現時点の内容を確認してください。

制度を使うかどうかにかかわらず、株式をどう移すかは早く検討を始めるほど選べる手立てが増えます。まず現状の評価を把握するところから始めてください。

後継者が買い取る場合の資金

売買で移す場合、後継者が代金を用意する必要があります。自己資金で足りることは多くなく、多くは借入を検討することになります。

金融機関に相談する際は、返済の原資をどうするかが問われます。後継者個人の役員報酬から返すのか、会社から配当を受けて返すのか。どちらの形を取るかで、必要な体制も変わります。

また、承継を目的とした資金について、支援の枠組みが用意されている場合があります。要件や内容は年度によって変わるため、取引のある金融機関や公的な支援機関の窓口で確認してください。

資金の手当てが難しい場合は、贈与と売買を組み合わせる、時間をかけて少しずつ移す、といった方法も検討できます。一度に全部を移す必要はありません。

他の相続人への配慮

株式を後継者に集めるということは、他の相続人の取り分が減るということでもあります。法律上、一定の相続人には最低限の取り分が認められており、生前にどれだけ説明していても、この権利そのものは残ります。

承継の設計が相続の場面で崩れるのは、たいていここです。株式の集約とセットで、他の相続人に何を渡すのかを具体的に決めておく必要があります。

渡せるものが足りないのであれば、原資をどう作るかから考えます。保険を使う、会社から支給する形を検討する。いずれも家族の事情と税の両方に関わるため、早い段階で専門家に相談してください。

決めたことを書面に残す

誰にどれだけ渡すのか、いつ渡すのか、他の相続人には何を渡すのか。話し合って決めたことは、書面に残してください。

記憶に頼ると、後から食い違いが生まれます。「そう聞いていない」という主張が出れば、そこから関係が壊れます。話し合いの内容と決定事項を、その都度記録しておいてください。

遺言という形で残す方法もあります。株式を誰に渡すのかを明確にしておけば、相続の場面で分散することを防げます。

移した後にやること

株式を移したら、名簿を更新してください。誰が何株持っているのかを、その都度記録しておきます。移動のたびに更新しないと、数年後にまた分からなくなります。

また、株式に譲渡制限がある会社では、移動のたびに承認の手続きが必要です。議事録を作り、保管しておいてください。後の調査や相続の場面で、必ず確認されます。

そして、移した株式の割合が経営権として十分かを確認してください。重要な決定を単独でできる割合まで集まっているか。中途半端な状態で止まると、いざというときに決められません。

時間をかけて移す場合の注意

毎年少しずつ渡していく方法は、負担を分散できる利点があります。一方で、完了までに年数がかかるため、途中で相続が発生すると計画が崩れます。

したがって、途中の段階で万一が起きた場合にどうなるかも、あわせて考えておいてください。遺言で残りの株式の行き先を定めておけば、計画が途中で止まっても、意図した形に近づけられます。

また、渡す側の意思がはっきりしているうちに進めることも大切です。判断が難しくなってからでは、手続きそのものが取れなくなることがあります。

まず現状を把握する

方法を選ぶ前に、現状の把握から始めてください。誰が何株持っているのか、いまの評価はどれくらいか、数年先はどう動きそうか。この三つが分かって初めて、比較ができます。

株主名簿は、多くの会社で更新が止まっています。まず出してきて、実態と合っているかを確認してください。合っていなければ、そこが最初の課題です。

評価については、顧問税理士に試算を依頼してください。現時点の金額と、大きな設備投資や退職金の支給を織り込んだ場合の見通し。数字があれば、移す時期の判断ができます。

専門家の関与は早いほうがよい

株式の移転は、税務と法務の両方に関わります。方法によって負担が変わり、いったん実行すると戻せません。判断の前に、専門家の意見を聞いてください。

顧問税理士には、評価の試算と、方法ごとの負担の比較を依頼します。相続や遺留分に関わる部分は、弁護士の関与が必要になることもあります。

費用はかかりますが、負担の差はそれを上回ります。自己流で進めて後から気づくより、先に相談したほうが結果的に安く済みます。

よくある勘違い

「代表を交代すれば承継は終わり」——重要な決定は株主が握っています。株式が移っていなければ、後継者は方針を決められません。

「相続のときに考えればよい」——相続では時期を選べず、他の相続人との間で取り分の問題が起きます。生前に方針を決めておくほうが、選べる手立ては多くなります。

「うちは株価が低いから関係ない」——土地を持っている、車両を自社所有している、内部留保が厚い。運送会社では、思っているより評価が高いことがあります。まず試算してください。

まとめ

自社株の移転は、方法・時期・資金の3点で設計するものです。そして株主名簿の確認と名義株の整理は、どの方法を選んでも先に必要になります。

税理士と連携し、手取りと負担を比較した設計をご支援します。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。