制度の基本的な考え方

一定の要件を満たす後継者が自社株を取得した場合、その株式にかかる相続税・贈与税の納税が猶予される制度です。

猶予であって免除ではありませんが、一定の条件を満たすと最終的に免除される仕組みがあります。

制度の内容・要件・期限は改正されており、特例的な措置には適用期限が設けられていることがあります。 最新の内容は必ず税理士または中小企業庁の公表資料で確認してください。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。

猶予という言葉の意味を正しく理解しておくことが、この制度を扱ううえでの出発点です。納めなくてよくなるのではなく、納める時期が先に延びる。そして、条件を満たし続ければ最終的に納めずに済む場合がある、という仕組みです。

だから、使った時点で終わりではありません。その後何年にもわたって、条件を満たしているかを見続ける必要があります。この管理を誰がどう行うかまで決めてから使うかどうかを判断してください。

管理の負担を軽く見ると、後で困ります。報告の時期を忘れる、条件を外れたことに気づかない。こうした事態が起これば、猶予されていた分を納めることになります。会社にその資金がなければ、深刻な状態になります。

どんな会社が検討すべきか

  • 自社株の評価額が高い:納税負担が重い
  • 親族内・社内で承継する:後継者が決まっている
  • 納税資金の確保が難しい
  • 事業を長期的に継続する見込みがある

運送業では、不動産の含み益と内部留保で評価が高くなりがちです。自社株の評価方法の基本をご覧ください。

運送業での主な論点

1. 資産保有型・資産運用型会社に該当しないか

制度には、一定以上の資産を保有・運用している会社は対象外とする要件があります。

運送業では、次の点に注意が必要です。

  • 事業に使っていない不動産を多く持っている場合
  • 賃貸用の不動産がある場合
  • 有価証券や保険の資産が大きい場合

車庫・倉庫として事業に使っている不動産は事業用ですが、遊休地や賃貸物件は扱いが異なります。事業に関係のない資産の整理をご覧ください。

2. 雇用の継続

制度には雇用に関する要件があり、従業員数の維持が求められる場合があります。

運送業では、ドライバー不足で人数が減ることが現実に起きます。要件を満たせなくなるリスクを考慮してください。

特例的な措置では要件が緩和されている場合がありますが、報告が必要になるなど手続きが伴います。年齢構成の偏りをどう直すかをご覧ください。

3. 事業の継続

後継者が代表者であり続けること、事業を継続することが求められます。

  • 後継者が病気などで退任した場合
  • 事業を廃止した場合
  • 会社を解散した場合

これらが起きると、猶予が打ち切られる可能性があります。

三つの論点のうち、運送業で最も現実的なリスクは雇用に関する部分です。人手の確保が難しい業界で、従業員数を維持し続けることは簡単ではありません。

だから、制度を検討するときは、今後の人員の見通しを合わせて考える必要があります。定年を迎える人が何人いるか、採用がどれだけ見込めるか。数字で見ておくと、リスクの大きさが測れます。

資産の内容についても、事前の整理が効きます。事業に使っていない不動産や、大きな金融資産があるなら、制度を検討する前にその扱いを考えておく。整理してから申請するのと、そのまま申請するのとでは結果が変わり得ます。

ただし、どこまでが事業用と判断されるかは、具体的な状況によります。自社の資産がどう扱われるかは、税理士に個別に確認してください。

継続要件と打ち切りのリスク

制度を使った後も、要件を満たし続ける必要があります。満たせなくなると、猶予されていた税額と利子税の納付が必要になることがあります。

主な注意点:

  • 定期的な報告義務:期限を過ぎると打ち切りになり得ます
  • 株式を譲渡すると打ち切りM&Aとの関係で重要
  • 後継者が代表を退くと打ち切り
  • 会社の状態の変化

「使ったら終わり」ではなく、長期にわたる管理が必要な制度です。

打ち切りが起きたときに何が困るかというと、猶予されていた分を納める資金が手元にないことです。猶予を受けたのは、そもそも納税資金が用意できなかったからです。だから、打ち切られた時点で資金がないという状態になり得ます。

この事態に備えるなら、猶予を受けている間も納税の資金を少しずつ積んでおくという考え方があります。使わずに済めばそのまま会社の備えになりますし、必要になれば使えます。

備えの積み方は、他の場面と同じです。会社の資金として残す、保険で積む、個人の資産として蓄える。どの形が適切かは税理士に相談してください。

M&Aとの関係

ここが最も重要な論点です。

制度を使った後に株式を譲渡すると、猶予が打ち切られるのが原則です。

  • 後継者が継いだ後、事業が続かずM&Aを選ぶ
  • 後継者が病気などで続けられなくなる
  • 業界再編の中で統合を選ぶ

いずれも現実に起こり得ます。 一定の場合には税額が再計算される仕組みもありますが、条件があります。

「将来M&Aの可能性がある」なら、制度を使うかどうか自体を慎重に判断してください。親族内承継とM&Aを併用する選択肢をご覧ください。

この論点が重いのは、承継の時点では想定していなかった事態が後から起こるからです。後継者が継いだときには続けるつもりでも、数年後に状況が変わることがあります。

運送業では、業界の再編や荷主の変化によって、単独で続けることが難しくなる場面があり得ます。そのときに、制度を使っていることが判断の足かせになるかもしれません。

だから、制度を使うかどうかを決めるときは、十年後、二十年後にどうなっていそうかまで考える必要があります。もちろん読み切れませんが、可能性を意識しておくかどうかで判断が変わります。

一定の場合に税額が再計算される仕組みもありますが、条件があります。自社の場合にどう扱われるかは、制度の内容が改正されることも含めて、税理士に確認してください。

使わないという判断

次の場合、制度を使わないほうが合理的なこともあります。

  • 自社株の評価額が高くない(納税負担が軽い)
  • 納税資金が確保できている
  • 将来M&Aの可能性がある
  • 雇用の維持に不安がある
  • 長期の管理体制がない(報告の期限管理ができるか

制度を使うことが目的ではありません。 会社と後継者にとって何が最善かで判断してください。

五つの条件のうち、最後の管理体制は見落とされやすい点です。制度を使えば、長期にわたって報告と確認が必要になります。この作業を誰が担うのかが決まっていないと、いずれ抜けが生じます。

担当としては、顧問の税理士に任せる形が一般的でしょう。ただし、税理士側にもこの制度を扱った経験があるかどうかで、対応の確実さが変わります。任せる前に確認しておいてください。

社内でも、期限を管理する仕組みが要ります。担当者が代わっても引き継がれるように、記録として残しておく必要があります。

制度を使うことが目的ではないという点は、繰り返す価値があります。使わずに納税資金を用意できるなら、そのほうが自由度は高くなります。比べたうえで決めてください。

手続きの流れ(概略)

  1. 事前の計画の提出:期限がある場合があります
  2. 認定申請
  3. 贈与・相続の実行
  4. 税務申告(担保の提供が必要)
  5. 定期的な報告:一定期間、継続的に
  6. 要件を満たし続ける

1番目の期限を過ぎると使えなくなることがあります。検討するなら早めに動いてください。

専門家の関与が不可欠

この制度は、税理士の中でも扱った経験に差がある領域です。

  • 顧問税理士に経験があるか確認する
  • ない場合、専門家を紹介してもらう
  • 認定支援機関の関与が必要な場合がある

税理士と連携して進める順序をご覧ください。

経験の有無を確認するときは、率直に聞いて構いません。この制度を扱ったことがあるか、何件くらいか、その後の管理まで担っているか。この三点を聞けば、任せられるかどうかの見当がつきます。

経験がない場合でも、顧問を外す必要はありません。会社の数字を知っているのはその人です。制度に詳しい専門家と組む形にして、両方に関わってもらうのが実際的でしょう。

他の対策と比較する

納税負担への対応は、この制度だけではありません。

複数の選択肢を並べて比較してから決めてください。

検討を始める時期

この制度には、事前の計画を出す段階があり、そこに期限が設けられていることがあります。だから、使う可能性があるなら、早い段階で確認しておく必要があります。

確認したいのは三点です。今の制度で自社が対象になり得るか、いつまでに何を出す必要があるか、そのために何を整えておくべきか。この三点を税理士に聞けば、動くべき時期がわかります。

制度の内容は改正されるため、数年前に聞いた話が今も同じとは限りません。特に、期限が設けられている措置については、現在の状況を確認してください。

後継者が決まっていない段階でも、確認だけはしておく価値があります。決まってから調べ始めると、間に合わないことがあります。

後継者と話しておくこと

この制度を使うということは、後継者に長期の義務を負わせるということでもあります。代表であり続けること、事業を続けること、報告を続けること。これらを本人が理解しているかが重要です。

特に、株を手放せなくなるという点は伝えておく必要があります。将来、会社を譲りたいと思っても、それが猶予の打ち切りにつながる可能性がある。この制約を承知したうえで受けるかどうかを、本人に判断してもらうべきです。

話すときは、制度を使わない場合との比較も示してください。使わなければ納税の負担が生じますが、その代わり自由に動けます。使えば負担は先送りできますが、制約が残ります。どちらを選ぶかは、後継者の人生にも関わる判断です。

判断の材料として、実際の金額を出しておくと現実的な話ができます。使わない場合にいくら必要になるのか。税理士に試算を依頼してください。

使った後の管理をどう回すか

制度を使うと決めたら、管理の仕組みを最初に作ってください。後から作ろうとすると、忘れる期間が生じます。

作るべきは、期限の一覧です。いつまでに何を出す必要があるかを並べ、その半年前に準備を始める形にしておく。カレンダーに入れておくだけでも効果があります。

あわせて、確認すべき項目の一覧も作ります。従業員数、代表者の状況、株の保有状況、事業の継続。これらを年に一度確認し、記録に残す。異変があれば早く気づけます。

担当は複数で持つほうが安全です。一人に任せていると、その人が辞めたときに引き継がれません。税理士と社内の担当者の両方が把握している状態にしておいてください。

他の方法と並べて比べる

この制度は選択肢の一つであって、唯一の道ではありません。だから、決める前に他の方法と並べて比べる作業が要ります。

比べるときの軸は、負担の大きさ、必要な準備の期間、その後の自由度の三つです。制度を使えば当面の負担は軽くなりますが、自由度は下がります。生前贈与で少しずつ移せば、負担は分散し、自由度も保てますが、時間がかかります。

生前に譲渡するという選択は、この問題そのものをなくします。株が現金になるため、納税も分割も容易になります。ただし、会社は自分のものではなくなります。

どれが自社と家族にとって良いかは、会社の状況、後継者の意思、家族の構成によって変わります。数字を並べたうえで、時間をかけて判断してください。制度の適用の可否と内容は、必ず税理士と、必要に応じて所管の窓口に確認しながら進めてください。

まとめ

事業承継税制は納税を猶予する制度で、評価額が高い会社では効果があります。ただし運送業では、資産の内容と雇用の維持が論点になります。使った後も継続要件を満たし続ける必要があり、株式を譲渡すると打ち切られるのが原則です。将来M&Aの可能性があるなら、使うかどうか自体を慎重に判断してください。