名義株とは

株主名簿に記載されている人と、実際に出資した人(実質的な所有者)が違う株式のことです。

典型的には、次のような経緯で生じます。

  • 設立時に一定人数の発起人が必要とされた時代の名残
  • 親族・友人・従業員に名前を借りた
  • 出資は社長が全額行った

古い会社ほど、この状態が残っています。

この状態が生まれた当時は、問題として意識されていませんでした。名前を借りた側も貸した側も、形式的なことだと理解していたからです。実際、その世代のあいだは何も起きません。

問題になるのは、世代が変わったときです。名前を貸した本人は事情を知っていますが、その子は知りません。株主名簿に父の名前があれば、財産だと考えるのが自然です。悪意があるわけではなく、事実を知らないだけです。

だから、この問題は時間とともに解決が難しくなります。事情を知る人が減り、証拠も失われていく。今が、いちばん解決しやすい時期だという見方ができます。

放置するとどうなるか

1. 名義人が権利を主張する

「自分は株主だ」と主張されると、争いになります。会社の意思決定に影響が及びます。

2. 名義人が亡くなると相続の対象になる

最も厄介なパターンです。名義人の相続人は、当時の事情を知りません。「父の財産だ」と主張することがあります。

相続人が複数いれば、株がさらに分散します。時間が経つほど、収拾がつかなくなります。

3. M&Aが進まない

買い手は100%の取得を望むことがほとんどです。株主が誰か確定できないと、次のことが起きます。

  • 表明保証で「株式は売主に帰属している」と保証できない
  • クロージングの前提条件を満たせない
  • 案件そのものが止まる

表明保証とは何か法務デューデリジェンスと契約書の棚卸しをご覧ください。

4. 相続税の申告で問題になる

実質的に社長の財産であれば、相続財産に含めるべきと判断される可能性があります。

四つのうち、実務でいちばん多く問題になるのが二つ目です。名義人本人とは話ができても、その相続人とは関係がありません。会社の事情を説明するところから始めることになります。

しかも、相続人が複数いれば全員と話す必要があります。一人でも応じなければ、その分の株は動きません。世代が下るほど人数が増え、連絡を取ること自体が難しくなります。

三つ目のM&Aが止まるという点は、承継を考えている会社にとって深刻です。買い手は株主が確定していない会社を買えません。だから、話がどれだけ進んでいても、この一点で止まります。

しかも、止まるのは話が具体化した後です。相手も時間を使い、費用も発生している。その段階で判明すると、信頼にも関わります。だから、話を始める前に整理しておく必要があります。

確認の方法

  1. 株主名簿を確認する:そもそも整備されているか
  2. 設立時の書類を探す:定款、登記事項証明書、払込みの記録
  3. 誰が出資したかを確認する:通帳、領収書
  4. 名義人の現在の状況を確認する:生存、所在、相続の発生
  5. 配当の支払い実績を確認する

「株主名簿がない」「どこにあるか分からない」という会社は実際にあります。まず作るところから始めてください。

この五つを進めるとき、いちばん手がかりになるのは出資金を誰が払ったかの記録です。当時の通帳や振込の記録が残っていれば、それが最も強い材料になります。ただ、古い会社では残っていないことが多いでしょう。

記録がない場合、関係者の記憶が頼りになります。設立に関わった人、当時の経理を担当していた人、名義人本人。話を聞ける人がいるうちに、聞いて記録に残しておいてください。

株主名簿がない会社は、まず作ることから始まります。登記や決算の資料から、いつ誰に何株が渡ったかを追い、現在の状態を組み立てる作業です。手間はかかりますが、これがないと何も進みません。作り方は司法書士に相談してください。

作る過程で、記録と実態が合わない部分が見つかることがあります。それが名義株の候補です。見つかったら、その経緯を確認する作業に移ります。

実質的な所有者の判断材料

誰が真の株主かは、次のような点から判断されます。

  • 誰が出資金を払ったか:最も重要
  • 株券を誰が保管していたか
  • 配当を誰が受け取っていたか
  • 議決権を誰が行使していたか
  • 名義人が株主であることを認識していたか
  • 関係者の証言

証拠が残っていないことが多いのが実務の難しさです。

この六つのうち、証拠として残りやすいのは配当の記録と議決権の行使です。配当を出したことがある会社なら、誰に払ったかの記録が経理に残っています。総会の議事録があれば、誰が議決権を行使してきたかも確認できます。

逆に、配当を出したことがなく、総会も形式的にしか開いていない会社では、材料が乏しくなります。その場合は、出資金の出どころと関係者の記憶に頼ることになります。

だから、今ある資料はすべて保管しておいてください。古い議事録、決算の資料、当時の通帳。捨てないことが、後の整理を助けます。

整理の進め方

1. 名義人が生存していて、協力が得られる場合

最も簡単です。今のうちに手を打ってください。

  • 名義株であることを確認する書面を作る
  • または、株式を譲り受ける(買い取る)
  • 株主名簿を訂正または書き換える

買い取る場合の価格や税務上の取扱いは、税理士に確認してください。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。

2. 名義人が生存しているが、権利を主張する場合

争いになります。次を検討してください。

  • 証拠を整理する
  • 買い取りで解決する(価格の交渉)
  • 弁護士に相談する

金銭で解決できるなら、そのほうが早いことが多くあります。

3. 名義人が亡くなっている場合

相続人と交渉することになります。相続人が複数いると、全員との合意が必要です。

時間が経つほど、相続人の数は増えます。早く動くほど解決しやすいという性質があります。

三つの場合分けのうち、一つ目がいちばん望ましい状態です。名義人が生きていて、事情を理解していて、協力してくれる。この条件が揃っているなら、迷わず進めてください。

進めるときは、書面にすることが大事です。口頭で確認しても、後から証拠になりません。名義であったことを確認する書面か、株式を譲り受ける書面か。どちらの形を取るかは、税務上の扱いも含めて税理士と相談してください。

二つ目の場合、金銭で解決するほうが早いことが多いのは、争いになると時間も費用もかかるからです。相手の言い分が通るかどうかを争うより、買い取って終わらせるほうが会社にとって損が少ない場合があります。

ただし、価格の決め方には注意が要ります。適正でない価格で取引すると、税務上の問題が生じることがあります。金額を決める前に、税理士に確認してください。

定款の確認

あわせて次を確認してください。

  • 譲渡制限の定め:株式の移転に会社の承認が必要か
  • 相続人等に対する売渡請求:相続で株が渡った場合に、会社が買い取れる定めがあるか
  • 株券発行会社かどうか

売渡請求の定めを設けておくと、将来の分散を防げます。ただし、社長自身の相続にも適用される点に注意が必要です。司法書士・弁護士に相談してください。

いつやるか

今すぐです。 理由は明確です。

  • 当時の事情を知る人が高齢化している
  • 名義人が亡くなると、相続人が増える
  • M&Aの交渉が始まってからでは間に合わない
  • 時間が経つほど証拠が失われる

承継を考え始めた時点で、最優先で着手すべき項目のひとつです。承継準備チェックリストをご覧ください。

この四つの理由は、どれも時間が経つほど状況が悪くなることを示しています。だから、他の準備と並べて優先順位をつけるなら、上位に置くべき項目です。

特に、承継を外部への譲渡で考えている場合は、話を始める前に片づけておく必要があります。交渉が進んでから判明すると、そこで止まります。相手の信頼を損なうことにもなります。

親族に継がせる場合も、同じことが言えます。後継者が引き継いだ後に名義株の問題が表面化すると、対応するのは後継者です。事情を知らない世代に持ち越すのは、負担を渡すことになります。

従業員が株主の場合

従業員持株制度などで、従業員が株を持っていることがあります。名義株とは異なりますが、M&Aでは同様に整理が必要になります。

  • 退職時の買い取りルールがあるか
  • 退職者が持ったままになっていないか
  • M&Aの際に全員から買い取れるか

名義人にどう切り出すか

整理を進めるうえで、最初の一歩がいちばん難しいかもしれません。何十年も触れてこなかった話を、突然持ち出すことになるからです。

切り出し方としては、会社の整理の一環として伝えるのが自然です。承継を考えるようになり、書類を整えている。その過程で名義の話が出てきたので、確認させてほしい。この形なら、相手を疑っているようには聞こえません。

相手が事情を覚えていれば、話は早く進みます。覚えていない場合は、当時の経緯を説明することになります。誰が出資したか、なぜ名前を借りたか。説明できる材料を用意してから話すほうが、相手も理解しやすいでしょう。

相手が高齢の場合は、家族にも同席してもらう形を考えてください。本人が理解しても、後から家族が事情を知らずに主張することがあります。その場で家族も一緒に聞いていれば、後の争いを防げます。

整理にかかる時間と費用

名義株の整理は、思っているより時間がかかります。相手の都合もあり、書類の準備もあり、税務の確認もあるためです。数か月では済まないことも珍しくありません。

費用としては、専門家への報酬と、買い取る場合の代金が発生します。買い取る代金は、株数と価格によって変わります。会社の資金で買い取るのか、社長個人が買い取るのかによっても扱いが違います。

費用を惜しんで先送りすると、後でもっとかかることになります。相続が発生すれば相手が増え、争いになれば弁護士の費用も加わります。今のうちに片づけるほうが、結果的に安く済むでしょう。

進めるときは、全体の見通しを最初に立ててください。何株が対象で、何人と話す必要があり、どれくらいの費用がかかるか。見通しがあると、途中で止まらずに進められます。

整理した後にやること

名義の問題が片づいたら、同じことが起きないように記録を整えておく必要があります。株主名簿を正確に保ち、変動があれば都度更新する。この習慣がないと、また同じ状態に戻ります。

あわせて、株式の移転に会社の承認が要る定めがあるかを確認してください。この定めがあると、株主が勝手に第三者へ譲ることを防げます。ない場合は、設けることも検討の対象になります。

整理の経緯も、記録として残しておいてください。誰から何株を、いつ、どういう経緯で回収したのか。将来、確認の場面でこの記録が求められることがあります。

定款の見直しについては、設ける定めによって将来の場面での働き方が変わります。自社にとってどういう定めが望ましいかは、司法書士や弁護士と相談したうえで決めてください。

従業員が持っている株の扱い

従業員が株を持っている場合、名義株とは性質が違いますが、整理の必要は同じです。特に、すでに退職した人が持ったままになっているケースは要注意です。

確認するのは、退職時の買い取りについての決まりがあるかどうかです。決まりがあれば、それに沿って回収できます。なければ、個別に交渉することになります。

在職中の従業員が持っている場合も、承継の場面では全員から集めることが求められます。だから、日頃から連絡が取れる状態を保ち、株を持っている意味を理解してもらっておく必要があります。

制度として持株の仕組みを持っている会社は、その規約を一度読み直してください。退職時の扱い、価格の決め方、相続が起きた場合の扱い。これらが決まっていないと、後で困ります。内容の見直しは、司法書士や弁護士に相談しながら進めてください。

まとめ

名義株は、名義人の相続で分散し、M&Aを止める原因になります。まず株主名簿と設立時の書類を確認し、誰が出資したかを整理してください。名義人が生存し協力が得られる今のうちに、書面での確認または買い取りを進めてください。時間が経つほど解決は難しくなります。