事業主に求められる措置

おおむね次が求められます。具体的な要件は指針で示されており、変更されることもあるため最新の内容を確認してください。

  1. 方針を明確にし、周知・啓発する:ハラスメントを行ってはならないこと、行った場合の対処を明示する
  2. 相談窓口を設置し、周知する
  3. 相談があった場合に適切に対応する:事実確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止
  4. プライバシーを保護し、不利益な取扱いをしない

就業規則への記載と周知が出発点になります。就業規則の見直しをご覧ください。

運送業で起きやすい場面

1. 点呼の場

毎日、一対一で行われます。指導のつもりの言動が、受け手には威圧と感じられることがあります。他の人が見ていない場であることが、問題を見えにくくします。

2. 配車

「気に入らない人に条件の悪い便を回す」という形は、実際に相談として上がる典型です。配車の基準が属人的で不透明だと、そう受け取られやすくなります。配車の属人化を解消するをご覧ください。

3. 無線・電話でのやりとり

運行中の指示が、感情的な言い方になることがあります。他のドライバーが聞いている場合もあります。

4. 事故・遅延の後

強く叱責する場面。本人が萎縮すると、次から事故やヒヤリハットが報告されなくなります。安全管理の観点からも問題です。事故発生時の初動と再発防止をご覧ください。

5. 荷主先・納品先

自社の従業員が、取引先の担当者から暴言や過大な要求を受けることがあります。これも対応が必要な領域です(後述)。

6. 少数派への言動

女性ドライバー、外国人材、若手、高齢者。数が少ない属性に向けられる言動は、本人が声を上げにくい構造があります。女性ドライバーが働きやすい職場づくりをご覧ください。

相談窓口をどう作るか

形だけにしない

「総務に相談してください」と掲示するだけでは機能しません。運送業では特に、次の工夫が要ります。

  • 複数の窓口を用意する:社内(できれば男女)と社外
  • 連絡方法を選べるようにする:対面が難しいので、電話・メール・書面
  • 周知の場所を工夫する:点呼場所、休憩室、給与明細への同封、車内掲示
  • 社外窓口を活用する:社労士事務所や外部サービスへの委託

ドライバーは事務所にいる時間が短いため、「いつでも見られる場所」に情報を置くことが重要です。

匿名でも受け付ける

実名では相談しづらいのが実情です。匿名の投書箱やフォームを併設してください。

相談があったときの手順

  1. まず聞く:評価や反論をせず、事実を聞き取る
  2. 記録する:日時、場所、内容、目撃者
  3. 本人の希望を確認する:どう対応してほしいか
  4. 事実確認をする:行為者や周囲から。相談者が特定されないよう配慮する
  5. 必要な措置をとる:配置の変更、注意・指導、懲戒
  6. 被害者への配慮:業務上の不利益が生じないように
  7. 再発防止:全体への教育、ルールの見直し

相談したことを理由に不利益な扱いをしてはなりません。 配車を減らす、条件の悪い便に回すといった対応は、それ自体が新たな問題になります。

荷主先での被害(カスタマーハラスメント)

納品先での暴言、理不尽な要求、過度な待機の強要。自社の従業員が社外で受ける被害への対応も、事業主に求められる配慮の範囲です。

  • ドライバーから報告を受ける仕組みを作る
  • 記録を残す(日時、場所、内容)
  • 会社として荷主に申し入れる(個人に対応させない
  • 改善されない場合、取引条件の見直しを検討する

「お客様だから我慢して」という対応は、離職に直結します。会社が矢面に立つ姿勢を示すことが、定着につながります。ドライバーの離職防止をご覧ください。

「指導」と「ハラスメント」の線引き

業務上必要かつ相当な範囲の指導は、ハラスメントには当たりません。管理職が萎縮して指導しなくなるのも問題です。次を目安にしてください。

指導ハラスメントになりやすい
行為・結果について話す人格や能力を否定する
改善の方法を示す責めるだけで終わる
適切な場所と時間で人前で、長時間
感情を抑えて怒鳴る、物にあたる
記録が残せる内容記録に残せない言葉

最後の項目が実用的な基準です。「その発言を文字にして残せるか」を自問してもらうと、判断しやすくなります。

管理職への教育

運行管理者・配車担当は、日々ドライバーと接する立場です。次を伝えてください。

  • ハラスメントの定義と具体例
  • 指導との線引き
  • 相談を受けたときの対応
  • 自分が行為者にならないための注意点

安全教育の年間計画に組み込むと、確実に実施できます。安全教育の仕組み化をご覧ください。

承継・M&Aでの意味

労務デューデリジェンスでは、相談窓口の設置状況、過去の相談・係争の有無が確認されます。未解決の紛争は簿外の負担として扱われます。

また、離職率が高い会社では、その原因として職場環境が問われます。労務デューデリジェンスで見られる書類をご覧ください。

窓口を機能させるまで

形だけにしないと書きました。設置した後に機能させるための工夫を挙げます。

まず、担当者を決めて、名前を出してください。「総務」ではなく、誰に話せばよいかが分かる形にします。顔が見える相手のほうが、話しやすくなります。

そして、その担当者に対応の仕方を教えてください。相談を受けた経験がない人が突然対応すると、良かれと思って行った対応が事態を悪化させることがあります。まず聞く、評価しない、勝手に動かない。この基本を押さえてもらってください。

社外の窓口を併設する場合、費用がかかります。ただし、社内では話せない内容が上がってくる可能性があります。とくに、経営に近い立場の人が関わる場合、社内の窓口では機能しません。

そして、窓口があることを繰り返し伝えてください。一度掲示しただけでは、忘れられます。年に数回、給与明細に同封する、点呼の場で触れる。目に入る回数が必要です。

相談がまったく上がってこない状態は、問題がないことを意味しません。上げにくい状態かもしれない、と考えてください。

事実確認をどう進めるか

相談者が特定されないよう配慮すると書きました。実際には難しい場面が多く、進め方に工夫が要ります。

まず、相談者の希望を必ず確認してください。事実確認を進めてよいか、行為者に伝わってもよいか。本人が望まない段階で動くと、状況が悪化します。

そのうえで、確認の順序を考えてください。周囲から先に聞くことで、相談者が特定されにくくなる場合があります。ただし、聞き方によっては噂が広がります。

行為者から聞くときは、決めつけないでください。相談があったという事実を伝え、状況を聞く。この段階では、事実がまだ確定していません。

そして、両者の話が食い違う場合があります。この場合、無理に白黒を付けようとせず、記録を残したうえで、今後の対応を決めてください。判断が難しい場面では、専門家に相談する価値があります。

確認の過程はすべて記録してください。誰にいつ何を聞き、どう答えたか。後から経過を示せる形にしておく必要があります。

荷主先での被害に会社が出る

会社が矢面に立つ姿勢を示すことが定着につながると書きました。実際の動き方を具体的にします。

まず、報告を受ける仕組みを作ってください。何かあったときに、その日のうちに伝えられる相手を決めておきます。日報に一行書く形でも構いません。

報告を受けたら、記録してください。日時、場所、相手、内容。一度きりなら様子を見る場合もありますが、繰り返されるなら対応が要ります。

申し入れは、会社から行ってください。乗務している本人に対応させないことが重要です。本人が言えば、その後の関係が悪くなります。

申し入れの内容は、事実を示す形にしてください。こういう場面がこれだけありました、と伝え、改善を相談する。相手を責める形にすると、話が進みません。

改善されない場合は、担当を変える、便を減らす、取引の条件を見直す。段階を踏んで判断してください。何もしないという選択は、本人が辞める結果になります。

線引きを管理職に伝える

記録に残せるかどうかを目安として挙げました。この基準を管理職に浸透させる方法を補足します。

まず、具体的な場面で考えてもらってください。抽象的な定義を説明するより、「この場面でこう言ったらどうか」という形のほうが伝わります。自社で実際に起こりうる場面を使ってください。

そして、指導をしなくてよいという話ではないことを、明確に伝えてください。萎縮して何も言わなくなると、安全にも品質にも影響します。伝えるべきことは伝える、ただし言い方と場所を選ぶ。この整理です。

あわせて、指導の記録を残す習慣をつけてもらってください。記録に残す前提で話すと、自然に言い方が整います。そして、記録があれば、後から指導の内容を説明できます。

管理職自身が相談を受ける立場でもあります。受けたときにどうするか、どこにつなぐか。ここも教えておいてください。

この内容は、安全教育の年間計画に組み込むと確実に実施できます。単発の研修だと、一度で終わります。

配車の透明性が予防になる

配車の基準が属人的で不透明だとそう受け取られやすくなると書きました。この点は、予防として最も効く部分です。

まず、配車の基準を決めてください。誰にどの便を割り当てるか。車格、経験、資格、拘束時間の状況。判断の材料を明文化します。

そのうえで、基準を全員に伝えてください。基準が分かっていれば、割り当てに疑問を持ったときに、理由を確認できます。分からなければ、感情の問題になります。

そして、条件の悪い便が偏っていないかを、定期的に確認してください。意図がなくても、結果として同じ人に集中していることがあります。数字で見れば分かります。

偏りが見つかったら、順に回す形に変えてください。理由があって固定している場合は、その理由を説明してください。

この取り組みは、承継の準備としても意味があります。配車が特定の人の頭の中だけで回っている状態は、引き継ぎの障害になります。

事故の後の言い方

強く叱責する場面を、起きやすい場面として挙げました。ここは安全にも直結するため、掘り下げます。

事故が起きた直後、対応する側も動揺しています。感情が出やすい場面であることを、まず認識してください。

だから、その場で長く話さないでください。まず状態を確認し、必要な対応を進める。原因の話は、落ち着いてからにします。

そして、原因を確認する場は、責める場と分けてください。責められると本人は自分を守る答え方をします。事実が出てこなければ、対策も打てません。

周囲の前で叱責することは避けてください。本人が萎縮するだけでなく、周りも報告しにくくなります。

報告されなくなることが、最も避けたい結果です。会社が実態を把握できなくなり、同じ事故が繰り返されます。

少数の人が声を上げにくい構造

数が少ない属性に向けられる言動は本人が声を上げにくいと書きました。この構造への手当てを補足します。

まず、その人が一人だけの状況を減らせないかを考えてください。同じ立場の人が複数いれば、相談し合えます。採用の段階から、一人だけにならない配慮ができる場合があります。

そして、窓口の担当を複数の属性から選んでください。相談する相手が限られていると、話しにくい内容が出てきません。

あわせて、設備の面も見てください。更衣室、休憩室、トイレ。物理的に居場所がないことが、働きにくさとして現れます。

そして、悪意のない言動が問題になることもあります。長年の慣習として続いてきた呼び方や扱いが、受け手には違って響く。この点は、教育の場で具体例として扱ってください。

本人から声が上がるのを待たないでください。面談の機会に、こちらから状況を聞く。聞かれなければ言わない人が多くいます。

まとめ

方針の周知、相談窓口の設置、適切な対応、不利益取扱いの禁止が求められます。運送業では点呼・配車・荷主先が固有の場面です。窓口は複数用意し、点呼場所や給与明細など実際に目に入る場所で周知してください。荷主先での被害には、会社が矢面に立つことが定着につながります。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。労働時間・賃金に関する具体的な取扱いは、法令の改正や個別の労働条件、実際の運用によって異なります。是正を検討される際は、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。