属人化が生む問題

  • その人が休めない:有給も取れず、体調を崩しても出てくる
  • 倒れたら止まる:翌日から運行が組めない(社長が突然倒れたら
  • 判断のばらつきが見えない:良い配車か悪い配車か検証できない
  • 不公平感が生まれる:ドライバーから「えこひいき」と見られる
  • 採算が分からない:どの仕事が儲かっているか把握できない
  • 承継できない:後継者も買い手も、この機能を引き継げない

最後の点が決定的です。買い手から見れば、「社長が抜けたら回らない会社」は投資対象として評価しにくくなります。評価を下げてしまう要因をご覧ください。

なぜ属人化するのか

担当者が情報を抱え込んでいるからではありません。配車の判断が、大量の暗黙知に依存しているからです。

  • どのドライバーがどの荷主・どの道に強いか
  • 誰と誰を同じ現場に入れてはいけないか
  • この荷主は何時に行くと待たされるか
  • この車はこの道が通れない
  • この案件は多少赤字でも受けるべき(関係維持のため)
  • あのドライバーは今週すでに拘束時間が厳しい

これらは頭の中にあり、本人も「言葉にしたことがない」のが普通です。

解消の手順

ステップ1:情報を外に出す

まず、頭の中にある情報を紙かデータにします。

対象記録する内容
ドライバー免許、経験、得意なエリア・車格・荷物、注意点
車両車格、装備、通行の制約、整備の予定
荷主納品時刻、待機の傾向、必要な資格・装備、注意点
協力会社得意な領域、単価、対応の速さ

一度に完璧にしようとしないでください。1日1件ずつでも、3か月で相当な量になります。

ステップ2:判断の基準を言葉にする

「なぜその配車にしたのか」を、実際の配車を題材に説明してもらいます。

  • 優先順位は何か(採算か、荷主との関係か、拘束時間か)
  • 迷ったときは何を基準に決めるか
  • 断ってよい仕事の条件は何か

この作業を通じて、本人も自分の基準を初めて意識します。 「なんとなく」だった判断が、教えられる形になります。

ステップ3:副担当を置く

いきなり交代させず、横に座って一緒にやる期間を作ります。

  1. 見ているだけ(1〜2か月)
  2. 一部の便を任せる(近距離、定期便から)
  3. 本人が組んだ案を主担当が確認する
  4. 主担当がいない日を作る
  5. 完全に任せる

4番目が重要です。「休みを取ってもらう」ことが訓練になります。

ステップ4:システムを使う

配車システム・運行管理システムを導入すると、情報が自然に蓄積されます。

  • 過去の運行実績が検索できる
  • ドライバー・車両の情報が一元化される
  • 拘束時間が自動で計算される
  • 誰でも同じ情報を見られる

ただし、システムを入れれば解決するわけではありません。 ステップ1〜2をやらずに導入すると、結局は主担当が独自に判断し、システムは記録装置にしかなりません。

ステップ5:採算を見える化する

配車の判断を検証するには、結果が見える必要があります。

数字が出ると、「この配車が良かったのか」を議論できます。属人的な判断が、共有できる知識に変わります。

本人の抵抗への向き合い方

主担当が抵抗することがあります。理由は多くの場合、悪意ではありません。

  • 「自分の仕事がなくなる」という不安
  • 「他の人には無理だ」という実感
  • 教える時間がない

次のように伝えてください。

  • 役割を変えるのであって、価値を下げるのではない
  • 属人化の解消は、本人が休めるようになるということ
  • より上位の仕事(採算管理、荷主交渉、育成)を担ってもらう

ドライバーへの効果

配車の基準が明確になると、ドライバーの不満が減ります。

  • 「なぜ自分だけこの便なのか」が説明できる
  • えこひいきの疑念が薄れる
  • 希望を出す仕組みが作れる

配車への不満は、離職理由として上位に来ます。ドライバーの離職防止ハラスメント対策をご覧ください。

承継・M&Aでの意味

買い手が最も知りたいことのひとつが、「社長が抜けても回るか」です。配車が仕組みで回っている会社は、その一点で評価が変わります。

  • 引き継ぎ期間を短くできる
  • 買収後の運営リスクが小さい
  • 前経営者への依存が少ない

属人化の解消は、企業価値を上げる取り組みの中でも効果が大きく、時間がかかる部類です。だからこそ早く始める意味があります。企業価値を高める取り組みをご覧ください。

情報を出す作業をどう回すか

一日一件ずつでも三か月で相当な量になると書きました。実際に回すための工夫を挙げます。

まず、書く時間を決めてください。日々の業務の合間にやろうとすると、忙しい日に飛びます。朝の一定の時間、あるいは特定の曜日。予定として確保してください。

そして、書く人を主担当だけにしないでください。ドライバーからも情報が出てきます。この荷主は何時に行くと待たされる、この道は通れない。乗っている人が知っていることを、集める形にしてください。

様式は簡単にしてください。項目が多いと、書くこと自体が負担になります。荷主なら、名称、場所、時刻、注意点。四項目で始めて、必要に応じて足してください。

そして、書いたものを実際に使ってください。使われない資料は、更新もされなくなります。配車を組むときに参照する運用にすれば、自然に精度が上がります。

完璧を目指さないでください。八割の情報があれば、十分に役立ちます。残りの二割のために作業が止まるほうが損です。

判断の基準を引き出す聞き方

実際の配車を題材に説明してもらうと書きました。聞き方を具体的にします。

まず、その日の配車表を前に置いてください。抽象的に「どう判断していますか」と聞いても、答えが出てきません。目の前に具体があると、話せます。

そして、一つずつ聞いてください。この便になぜこの人を付けたのか。他の選択肢はなかったのか。なぜそちらを選ばなかったのか。

答えの中に、判断の材料が出てきます。拘束時間、経験、荷主との相性、車両の制約。これらを書き留めてください。

そして、迷った場面についても聞いてください。判断に迷ったとき、最後に何で決めたか。ここに、その人の優先順位が現れます。

この作業を数日繰り返すと、基準の全体像が見えてきます。本人も、自分がどう判断していたかを初めて整理することになります。

副担当が育つ期間の運用

横に座って一緒にやる期間を作ると書きました。この期間の運用を具体的にします。

見ているだけの期間は、退屈に感じられます。だから、見ながら自分なりに組んでもらってください。そして、主担当の判断と比べる。違った部分について、理由を聞く。この形なら、学びになります。

一部の便を任せる段階では、範囲を明確にしてください。この荷主、この曜日、この車両。曖昧だと、責任の所在が分かりません。

そして、任せた部分については、口を出さないでください。細かく指示すると、自分で判断しなくなります。結果を見て、後から振り返る形にしてください。

主担当がいない日を作る段階が、最も重要です。相談できない状態で判断することが、訓練になります。ただし、連絡が取れる状態にはしておいてください。

そして、この期間に起きたことは記録してください。判断に迷った場面、うまくいかなかった判断。次の人を育てるときの材料になります。

抵抗する本人との向き合い方

役割を変えるのであって価値を下げるのではないと伝えると書きました。この伝え方をもう少し具体的にします。

まず、本人の不安を先に聞いてください。何を心配しているのか。仕事がなくなること、評価が下がること、教える時間がないこと。理由によって、答え方が違います。

そして、新しい役割を具体的に示してください。採算の管理、荷主との交渉、育成。抽象的に「上位の仕事」と言われても、実感がわきません。

処遇についても明確にしてください。役割が変わっても、賃金が下がらないこと。あるいは、より責任のある役割として上がること。ここが曖昧だと、協力は得られません。

そして、休めるようになることを強調してください。長年休めなかった人にとって、これは大きな意味を持ちます。実際に休みを取ってもらうことで、効果が実感されます。

それでも抵抗が続く場合は、時間をかけてください。急いで進めると、必要な情報が出てきません。本人の協力なしには、この作業は完了しません。

システムを入れる前にやること

ステップ一と二をやらずに導入すると記録装置にしかならないと書きました。導入の判断について補足します。

まず、システムは情報を整理する道具であって、判断をする道具ではありません。判断の基準が言葉になっていなければ、誰が使っても同じ結果にはなりません。

だから、順序としては、情報を出し、基準を言葉にしてから導入してください。逆にすると、入力の作業だけが増えます。

そして、導入するなら、何を解決したいのかを先に決めてください。情報の共有か、拘束時間の管理か、実績の記録か。目的が決まっていれば、選ぶ基準も決まります。

入力の負担も見込んでください。配車の担当が入力するのか、事務が入力するのか。誰かの作業が増えることになります。

そして、既存の記録との関係を整理してください。日報、運行の記録、勤怠。二重に入力する形になっていないかを確認してください。

採算が見えると何が変わるか

数字が出るとこの配車が良かったのかを議論できると書きました。この効果を具体的にします。

これまで、配車の良し悪しは感覚で語られてきました。うまく回った、無理があった。この評価では、次に活かせません。

採算が見えると、判断を検証できます。この便を受けた判断は正しかったか。この組み合わせは採算に乗っていたか。結果から学べるようになります。

そして、担当者が変わっても、同じ基準で判断できます。数字が基準になっていれば、経験の差を埋められます。

あわせて、断る判断もしやすくなります。基準を下回る依頼を断ることが、感覚ではなく根拠に基づく判断になります。

ただし、数字だけで判断すると、関係を維持するための仕事を切ってしまうことがあります。数字を基準にしつつ、例外を認める余地も残してください。そして、例外の理由は記録してください。

ドライバーからの希望をどう扱うか

希望を出す仕組みが作れると書きました。この仕組みの作り方を示します。

まず、何について希望を出せるかを決めてください。休みの日、担当したい荷主、避けたい運行。全部を希望どおりにはできませんが、聞く範囲を決めておけば運用できます。

そして、希望をどう扱うかの基準も示してください。全員の希望が重なった場合にどうするか。順番なのか、経験なのか、事情なのか。基準がないと、不公平として受け取られます。

希望が通らなかった場合も、理由を伝えてください。何も言わずに違う配車になると、聞かれていないと感じます。

そして、希望の記録を残してください。誰がいつどんな希望を出し、どうなったか。この記録があると、偏りにも気づけます。

希望を聞くことで、配車の負担は増えます。ただし、納得して働いてもらえる効果のほうが大きい場面が多くあります。

解消が進んだかをどう確かめるか

取り組みが進んでいるかどうかを、自分で確認できる形にしておいてください。

最も分かりやすいのは、主担当が休めているかです。休みを取っても運行が回るなら、解消が進んでいます。逆に、休んだ日に混乱が起きるなら、まだ移っていません。

そして、副担当が組んだ配車が、そのまま実行されているかを見てください。毎回主担当が直しているなら、判断の基準が伝わっていません。

あわせて、情報が文書として存在しているかを確認してください。荷主ごとの条件、ドライバーごとの情報、車両の制約。これらが揃っていれば、第三者にも引き継げます。

そして、実際に一日、主担当を外して回してみてください。試すことでしか、確かめられません。問題が起きたら、その部分がまだ移っていない箇所です。

この確認は、年に一度でも構いません。ただし、確認しないままだと、進んでいるつもりで止まっていることがあります。

まとめ

配車の属人化は、暗黙知の量が原因です。情報を外に出し、判断基準を言葉にし、副担当を置いて段階的に移す。システムと採算の見える化がそれを支えます。主担当には役割の変化として伝えてください。承継・M&Aでは、この一点が評価を大きく左右します。