まず「継ぐ意思」を確認する
すべての前提が、本人の意思です。ここが曖昧なまま比較を始めても意味がありません。
注意したいのは、意思の確認は一度では終わらないということです。最初は「考えておく」と言った人が、条件が具体的になると受ける場合もあれば、その逆もあります。特に幹部の場合、資金と保証の見通しがないまま聞かれても答えられません。社内承継(MBO)の設計で先に条件を作ってから聞いてください。
観点1:株式をどう渡せるか
ここが親族と幹部でいちばん違います。
- 親族:贈与・相続で移せるため、後継者側に買い取り資金は不要(ただし贈与税・相続税がかかる)
- 幹部:原則として買い取りが必要。数千万円の資金調達が前提になる
この差は大きく、幹部承継が実現しにくい最大の理由になっています。逆に、持株会社を使うなどの設計ができれば、この差は埋まります。
観点2:現場の信頼
ここは幹部が圧倒的に有利なことが多い観点です。長年一緒に働いてきた工場長には、すでに信頼があります。一方、外から戻ってきた親族には、それがありません。
ただし、この差は時間で埋められます。現場に数年立てば、親族でも信頼は得られます。後継者を育てる順序の段階1が、まさにそのための期間です。
逆に幹部の場合、同僚から上司になる難しさがあります。長く横並びだった人が突然社長になると、他の幹部が納得しないことがあります。これは事前に役員に登用しておくことで緩和できます。
観点3:取引先・金融機関との関係
食品製造業では、取引先が「誰が経営するか」を気にします。特に大手量販店やメーカーとの取引では、供給の継続性が重視されます。
ここは、どちらが有利とは一概に言えません。親族には「あの会社の後継ぎ」という分かりやすさがあり、幹部には「実務を分かっている人」という安心感があります。重要なのは、どちらであれ何年も前から顔を出していることです。
金融機関については、個人保証を引き受けられるかが実務的な論点になります。個人資産の有無で差が出やすい部分です。
観点4:経営の適性
製造の腕と経営の適性は別のものです。優秀な工場長が優秀な経営者になるとは限りません。逆に、現場が不得手でも数字と対外交渉に強い人が会社を伸ばすこともあります。
判断の材料としては、次の3つが分かりやすい指標です。
- 都合の悪い数字を自分から報告できるか
- 人に任せられるか(自分でやってしまわないか)
- 取引先に対して「できません」と言えるか
両方いる場合、いない場合
両方いる場合は、役割を分けるという選択があります。親族が代表、幹部が製造の責任者として役員に入る。あるいはその逆。株式は親族、経営は幹部という形も取れます。ただし、権限と責任の線引きを明確にしないと後で揉めます。
どちらもいない場合は、第三者承継(M&A)が現実的な選択肢になります。従業員の雇用も取引先との関係も、そのまま引き継がれる形です。後継者がいないと分かったとき、最初にやることから進めてください。
決めた後にやること
決めたら、他の候補者にきちんと伝えることを忘れないでください。幹部を後継者候補として意識させておきながら親族に決まった、という展開は、その幹部の離職につながります。
役員として処遇する、株式の一部を持ってもらう、といった形で会社に残ってもらう設計を、同時に考えてください。