制度の基本的な考え方
一定の要件を満たす後継者が自社株を取得した場合、その株式にかかる相続税・贈与税の納税が猶予される制度です。
猶予であって免除ではありませんが、一定の条件を満たすと最終的に免除される仕組みがあります。
制度の内容・要件・期限は改正されており、特例的な措置には適用期限が設けられていることがあります。 最新の内容は必ず税理士または中小企業庁の公表資料で確認してください。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
どんな会社が検討すべきか
- 自社株の評価額が高い:納税負担が重い
- 親族内・社内で承継する:後継者が決まっている
- 納税資金の確保が難しい
- 事業を長期的に継続する見込みがある
運送業では、不動産の含み益と内部留保で評価が高くなりがちです。自社株の評価方法の基本をご覧ください。
運送業での主な論点
1. 資産保有型・資産運用型会社に該当しないか
制度には、一定以上の資産を保有・運用している会社は対象外とする要件があります。
運送業では、次の点に注意が必要です。
- 事業に使っていない不動産を多く持っている場合
- 賃貸用の不動産がある場合
- 有価証券や保険の資産が大きい場合
車庫・倉庫として事業に使っている不動産は事業用ですが、遊休地や賃貸物件は扱いが異なります。事業に関係のない資産の整理をご覧ください。
2. 雇用の継続
制度には雇用に関する要件があり、従業員数の維持が求められる場合があります。
運送業では、ドライバー不足で人数が減ることが現実に起きます。要件を満たせなくなるリスクを考慮してください。
特例的な措置では要件が緩和されている場合がありますが、報告が必要になるなど手続きが伴います。年齢構成の偏りをどう直すかをご覧ください。
3. 事業の継続
後継者が代表者であり続けること、事業を継続することが求められます。
- 後継者が病気などで退任した場合
- 事業を廃止した場合
- 会社を解散した場合
これらが起きると、猶予が打ち切られる可能性があります。
継続要件と打ち切りのリスク
制度を使った後も、要件を満たし続ける必要があります。満たせなくなると、猶予されていた税額と利子税の納付が必要になることがあります。
主な注意点:
- 定期的な報告義務:期限を過ぎると打ち切りになり得ます
- 株式を譲渡すると打ち切り:M&Aとの関係で重要
- 後継者が代表を退くと打ち切り
- 会社の状態の変化
「使ったら終わり」ではなく、長期にわたる管理が必要な制度です。
M&Aとの関係
ここが最も重要な論点です。
制度を使った後に株式を譲渡すると、猶予が打ち切られるのが原則です。
- 後継者が継いだ後、事業が続かずM&Aを選ぶ
- 後継者が病気などで続けられなくなる
- 業界再編の中で統合を選ぶ
いずれも現実に起こり得ます。 一定の場合には税額が再計算される仕組みもありますが、条件があります。
「将来M&Aの可能性がある」なら、制度を使うかどうか自体を慎重に判断してください。親族内承継とM&Aを併用する選択肢をご覧ください。
使わないという判断
次の場合、制度を使わないほうが合理的なこともあります。
- 自社株の評価額が高くない(納税負担が軽い)
- 納税資金が確保できている
- 将来M&Aの可能性がある
- 雇用の維持に不安がある
- 長期の管理体制がない(報告の期限管理ができるか)
制度を使うことが目的ではありません。 会社と後継者にとって何が最善かで判断してください。
手続きの流れ(概略)
- 事前の計画の提出:期限がある場合があります
- 認定申請
- 贈与・相続の実行
- 税務申告(担保の提供が必要)
- 定期的な報告:一定期間、継続的に
- 要件を満たし続ける
1番目の期限を過ぎると使えなくなることがあります。検討するなら早めに動いてください。
専門家の関与が不可欠
この制度は、税理士の中でも扱った経験に差がある領域です。
- 顧問税理士に経験があるか確認する
- ない場合、専門家を紹介してもらう
- 認定支援機関の関与が必要な場合がある
税理士と連携して進める順序をご覧ください。
他の対策と比較する
納税負担への対応は、この制度だけではありません。
- 生前贈与で計画的に移す(生前贈与の使い方)
- 保険で納税資金を用意する(保険の活用と解約返戻金)
- 金庫株を活用する(相続税の納税資金をどう用意するか)
- 生前に譲渡する:問題自体が解消します
複数の選択肢を並べて比較してから決めてください。
まとめ
事業承継税制は納税を猶予する制度で、評価額が高い会社では効果があります。ただし運送業では、資産の内容と雇用の維持が論点になります。使った後も継続要件を満たし続ける必要があり、株式を譲渡すると打ち切られるのが原則です。将来M&Aの可能性があるなら、使うかどうか自体を慎重に判断してください。