なぜ生前贈与を検討するのか
- 評価額の上昇を止められる:贈与した時点の評価で確定します
- 負担を複数年に分散できる
- 後継者の地位を早く確立できる:議決権の移転
- 相続時の争いを減らせる:生前に意思を示せます
特に、業績が伸びている会社では、早く移すほど有利になることがあります。
二つの課税方式
| 暦年課税 | 相続時精算課税 | |
|---|---|---|
| 基本 | 年ごとに贈与額に応じて課税 | 一定額まで贈与時は課税されず、相続時に精算 |
| 向く場面 | 長期間かけて少しずつ | まとまった額を一度に |
| 相続時の扱い | 一定期間内の贈与は相続財産に加算 | 贈与財産を相続財産に加算して精算 |
制度の内容は改正されており、加算の期間や控除の仕組みも変わっています。 どちらが有利かは、金額・期間・相続財産の全体像によって変わります。必ず税理士に試算してもらってください。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
評価が低い時期を狙う
自社株の評価は毎年変わります。評価が下がったタイミングで贈与するという考え方があります。
評価が下がる要因の例:
- 役員退職金を支給した年
- 大きな設備投資をした年
- 業績が一時的に落ち込んだ年
ただし、贈与のためだけに事業上不合理な行為をするのは避けてください。 事業判断として合理的なことを行った結果、評価が下がるタイミングを活かす——という順序です。
自社株の評価方法の基本をご覧ください。
贈与の実務
- 評価額を算出する:税理士に依頼
- 贈与する株数を決める
- 贈与契約書を作る:日付、当事者、株数を明記
- 株主名簿を書き換える
- 譲渡制限がある場合、承認の手続き
- 贈与税の申告:翌年の申告期限までに
3と4を怠ると、贈与の事実が認められないことがあります。 書面と名簿は必ず整えてください。株式の移転方法をご覧ください。
注意すべき点
1. 議決権が移る
株式を贈与すると、議決権も移ります。過半数を超えて渡すと、社長の地位が後継者の意向に左右されることになります。
渡す順序と割合を慎重に設計してください。無議決権株式の活用といった方法もあります(設計は専門家と)。
2. 後継者の意思が固まる前に渡さない
渡した後で「継がない」となると、買い戻す必要が生じます。意思と適性を確認してからにしてください。「とりあえず息子に」で失敗しないためにをご覧ください。
3. 他の相続人への配慮
特定の子だけに贈与すると、相続時に不公平感が生まれます。遺留分という制度もあります。
他の子への説明と、他の資産での調整をセットで考えてください。相続人が複数いる場合の株の分け方をご覧ください。
4. 贈与税の納税資金
贈与された側に、贈与税を払う資金が必要です。株は換金できないため、現金の手当てが要ります。相続税の納税資金をどう用意するかをご覧ください。
5. 名義だけの贈与は認められない
名簿を書き換えただけで、実質的に社長が支配している——という状態は、贈与として認められない可能性があります。
- 配当を受け取っているか
- 議決権を行使しているか
- 本人が贈与を認識しているか
名義株の整理をご覧ください。
事業承継税制との関係
一定の要件を満たす贈与について、贈与税の納税が猶予される制度があります。評価額が高い会社では、検討する価値があります。
ただし、適用後も継続要件を満たし続ける必要があり、満たせなくなると猶予が打ち切られます。事業承継税制を運送業で使うときの注意をご覧ください。
株式以外の贈与
自社株だけでなく、次も検討の対象になります。
- 会社に貸している不動産
- 現金(納税資金として)
- その他の資産
会社が使っている不動産を社長個人が持っている場合、その承継も設計に含めてください。個人所有の車庫を法人へ移す場合をご覧ください。
計画的に進める
- 評価額を毎年把握する
- 後継者の意思を確認する
- 何年かけて、どの割合まで移すかを決める
- 毎年実行し、書面と名簿を整える
- 他の相続人への説明
- 遺言でも意思を明確にする(遺言で決めておくこと)
5年、10年という時間軸で考えるものです。だからこそ、早く着手する意味があります。
まとめ
生前贈与は、評価額の上昇を止め、負担を分散する方法です。暦年課税と相続時精算課税があり、どちらが有利かは個別の事情で変わるため税理士に試算を依頼してください。議決権が移ること、後継者の意思確認、他の相続人への配慮、贈与税の納税資金に注意が必要です。