制度の基本

一定期間継続して勤務し、所定の出勤率を満たした労働者には、年次有給休暇が付与されます。勤続年数に応じて日数が増えます。パート・アルバイトにも、所定労働日数に応じて付与されます。

さらに、一定日数以上が付与される労働者については、年に一定日数を確実に取得させることが事業主に義務づけられています。日数や要件は改正されることがあるため、最新の基準を確認してください。

運送業で取りにくい理由

  • その人の担当する運行を、誰が代わるのか
  • 荷主が担当者の変更を嫌う
  • 歩合給の割合が高く、休むと収入が減ると本人が感じる
  • 「休むと迷惑をかける」という空気
  • そもそも本人が制度を知らない

3番目は制度の設計に関わります。有給を取得した日の賃金の計算方法が不明確だと、本人が損をすると感じて取らなくなります。賃金規程で明確にしてください。賃金規程と実態を一致させるをご覧ください。

回すための工夫

1. 代替できる体制を作る

結局はここに行き着きます。

  • 一人の担当を複数名が回せるようにする
  • ルートと荷主の情報を文書化する
  • 予備の人員を確保する(フリーの運行担当)

これは配車の属人化解消と同じ取り組みです。配車の属人化を解消するをご覧ください。

2. 計画的に組み込む

「取りたい人が申し出る」形だと、遠慮して取りません。次のように会社から日程を組む方法があります。

  • 年度初めに、全員の取得予定日を決めてしまう
  • 閑散期にまとめて取得する日を設ける
  • 計画的付与の制度を活用する(労使協定が必要)

計画的付与を導入する場合、労使協定の締結が必要です。社労士に確認してください。

3. 時季指定

取得が進まない労働者について、事業主が時季を指定して取得させる仕組みがあります。本人の意見を聴いたうえで、日を決めます。

年度の後半になって慌てる会社が多いため、上期のうちに進捗を確認してください。

4. 荷主に伝えておく

「担当が休む日がある」ことを事前に伝え、代替の担当者を紹介しておくと、当日の混乱が減ります。荷主も法令対応への理解は持っています。

管理簿を作る

年次有給休暇の管理簿を作成し、一定期間保存することが求められます。次を記録します。

  • 付与日と付与日数
  • 取得した日
  • 残日数

入社日がバラバラだと管理が煩雑になります。付与日を統一する方法もありますが、労働者に不利にならない設計が必要です。社労士に相談してください。

時間単位・半日単位

時間単位で取得できる仕組みもあります(労使協定が必要)。運送業では、通院や役所の手続きなどに使いやすく、取得率の向上につながることがあります。

取らせないとどうなるか

  • 取得義務を果たしていない場合、是正の対象となります
  • 労働基準監督署の臨検で指摘される
  • 未消化分は簿外の債務として扱われることがある
  • 採用・定着に影響する(求職者は必ず見ます)

承継・M&Aでの扱い

労務デューデリジェンスでは、次が確認されます。

  • 管理簿が整備されているか
  • 取得義務が果たされているか
  • 未消化の有給の残日数:全社でどれだけ積み上がっているか

未消化分が大量にある場合、買収後に取得が進めば人員の稼働が減るという形で評価されます。退職時の買取義務がある場合は、より直接的な負担になります。

労務デューデリジェンスで見られる書類退職給付の見積りと価格調整をご覧ください。

採用への効果

求人で「有給取得率◯%」「年間休日◯日」と数字で書けることは、大きな訴求になります。取得を進めることは、コストではなく採用への投資でもあります。求人原稿の書き方をご覧ください。

取得した日の賃金をどう決めるか

取得した日の賃金の計算方法が不明確だと本人が損をすると感じて取らなくなると書きました。ここは制度の設計として押さえるべき点です。

まず、計算の方法には複数の考え方があり、どれを採るかを規程で定める必要があります。定めがないまま、そのつど計算していると、人によって扱いが変わります。

歩合が中心の会社では、ここが特に重要です。運行しない日の賃金をどう計算するかによって、手取りへの影響が大きく変わります。取っても実質的に減らない設計になっているかを確認してください。

そして、決めた内容を本人に説明してください。規程に書いてあるだけでは伝わりません。取った場合にいくらになるのかを、具体的な数字で示すと理解されます。

実際、計算の方法を明確にして説明しただけで取得が進む会社があります。取らない理由が、制度への不信ではなく誤解であることが多いのです。

計算の方法は法令に定めがあるため、設計にあたっては専門家に確認してください。

年度初めに予定を組む

年度初めに全員の取得予定日を決めてしまう方法を挙げました。実際の進め方を示します。

まず、その年に取得すべき日数を全員分把握してください。付与された日数と、義務として取得させる必要がある日数。ここが分からないと、予定も組めません。

次に、運行の状況から取りやすい時期を洗い出してください。荷量が落ちる月、連休の前後、決まった休みの周辺。この時期に寄せると、代替の負担が小さくなります。

そのうえで、本人と相談して日を決めます。会社が一方的に決めるのではなく、希望を聞いてから調整する形にしてください。

決まった予定は、一覧にして配車の担当と共有してください。予定が見えていれば、運行を組む段階で代替を織り込めます。当日に分かると、対応できません。

そして、上期が終わった時点で進捗を確認してください。予定どおり取れていない人がいれば、下期に組み直す必要があります。年度末に慌てると、まとめて休むことになり、運行に支障が出ます。

代替できる体制をどう作るか

結局はここに行き着くと書きました。体制づくりの進め方を具体的にします。

まず、一人しか対応できない運行を洗い出してください。その人が休むと止まる便がどれだけあるか。この数が、体制の弱さを示します。

次に、その運行について、必要な情報を文書にしてください。届け先の場所、担当者、入構の手順、荷降ろしの段取り、注意点。本人の頭の中にある情報を、紙に出す作業です。

そして、実際に別の人が同乗するか、一度担当してみてください。文書だけでは分からない部分が必ずあります。一度でも経験があれば、代われます。

この作業は、休暇のためだけではありません。体調を崩したとき、辞めたとき、事故があったとき。同じ備えが効きます。

荷主が担当者の変更を嫌う場合は、事前に伝えておいてください。突然別の人が来ると不安を持たれますが、あらかじめ紹介しておけば受け入れられます。

管理簿を実際に回す

管理簿を作成し一定期間保存することが求められると書きました。運用の面を補足します。

まず、様式は簡単なもので構いません。氏名、付与した日、日数、取得した日、残日数。この五つが分かれば足ります。

入社日がばらばらだと管理が煩雑になるという問題は、実務でよく生じます。付与日を統一する方法もありますが、労働者に不利にならない設計が必要になるため、専門家に相談してください。

更新の作業は、月に一度でよいでしょう。取得の申請が出るたびに更新する形だと、記入が漏れます。

そして、残日数を本人に伝えてください。自分があと何日残っているかを知らない人が多くいます。給与明細に表示できるなら、それが最も確実です。

あわせて、時効で消える分がある場合も、事前に伝えてください。知らないまま消えると、後で不信になります。

空気をどう変えるか

休むと迷惑をかけるという空気を、取りにくい理由に挙げました。ここは制度では解決しません。

まず、経営に関わる立場の人が取ってください。社長や幹部が休まない会社では、現場も休めません。取る姿を見せることが、最も効く方法です。

次に、取った人に対する言い方に気をつけてください。「休んで大丈夫だった」という反応が、次の遠慮を生みます。取ることが当たり前の扱いになっていることが重要です。

そして、代わりに担当した人への配慮も必要です。負担が特定の人に偏ると、その人が不満を持ちます。順に回す形にしてください。

あわせて、取得の状況を全体で共有する方法もあります。誰がどれだけ取ったかではなく、全体としてどれだけ進んでいるかを示す。取ることが会社の方針だと伝わります。

そして、本人が制度を知らないという場合もあります。入社のときに一度説明しただけでは、覚えていません。年に一度、残日数とあわせて案内してください。

時季を指定する場面での配慮

事業主が時季を指定して取得させる仕組みについて触れました。運用の際に気をつける点を補足します。

まず、本人の意見を聴く手続きを飛ばさないでください。一方的に日を決めると、制度への反発が生まれます。希望を聞いたうえで、調整する形にしてください。

次に、指定する時期を早めにしてください。年度の後半になってから指定すると、まとまった日数を短期間で消化することになり、運行にも本人にも負担がかかります。

そして、指定した日は変えられる余地を残してください。運行の都合や本人の事情で、動かす必要が生じることがあります。動かせる前提であれば、受け入れられやすくなります。

あわせて、すでに自分で取得している人には指定が不要な場合があります。誰が対象になるかを確認してから進めてください。

そして、指定した記録を残してください。いつ、誰に、どの日を指定し、どう了解を得たか。後の確認で必要になります。

未消化が積み上がっている場合

未消化の残日数が全社でどれだけ積み上がっているかが確認されると書きました。積み上がっている場合の扱いを整理します。

まず、全社の合計日数を出してください。人数と日数を掛けると、運行の何日分に当たるかが分かります。この規模感が、対応の緊急度を決めます。

そのうえで、取得を進める計画を立ててください。一度に消化することはできません。数年かけて減らしていく形になります。

計画には、代替の体制づくりも含めてください。体制がないまま取得だけを進めると、運行が回らなくなります。

そして、退職時の扱いについても確認してください。買い取る義務が定められている場合、より直接的な負担になります。規程がどうなっているかを見てください。

承継の場面では、この残日数が資料として求められます。減らす取り組みが進んでいることが示せれば、評価は変わります。

時間単位の取得を入れるとき

時間単位で取得できる仕組みについて触れました。導入を検討するときの見方を補足します。

運送業では、通院、役所の手続き、子どもの学校の行事といった用事に使いやすく、取得の入口になります。一日を休むほどではないが時間が要る、という場面が実際に多くあります。

ただし、運行との相性は考える必要があります。長距離の運行では、時間単位で抜けることが難しい場面があります。地場の配送や、始業前後の時間帯なら使いやすいでしょう。

導入には労使協定が必要になるため、締結の手続きを踏んでください。日数の上限など、定めるべき事項があります。

そして、管理の方法も決めてください。時間単位で取ると、残日数の管理が細かくなります。管理簿の様式が対応しているかを確認してください。

あわせて、半日単位での取得を認める方法もあります。こちらは協定を必要としない形で運用できる場合があります。どちらが自社に合うかは、運行の中身によります。

採用の場面で数字を使う

取得率を数字で書けることは大きな訴求になると書きました。使い方を具体的にします。

まず、自社の取得率を計算してください。付与した日数の合計に対して、取得された日数の合計。この数字が出れば、求人に書けます。

あわせて、年間の休日数も整理してください。求職者が比べるのは、この二つです。金額より先に見る人もいます。

数字が低い場合は、書かないという判断もあります。ただし、書いていない求人は、低いものと受け取られます。改善の途中であれば、その旨を書く方法もあります。

そして、書いた数字は守ってください。求人と実際が違うと分かれば、その人は辞めます。採用にかけた費用も無駄になります。

取得を進めることは、運行の負担としては増えます。ただし、人が集まり、辞めなくなるなら、結果として運行は安定します。費用ではなく投資として見てください。

まとめ

有給の取得は事業主の義務であり、代替体制の構築が根本的な解決策です。年度初めに取得予定を組み、上期に進捗を確認してください。管理簿の整備は必須で、未消化の残日数はM&Aでも確認されます。取得率は求人での訴求材料にもなります。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。労働時間・賃金に関する具体的な取扱いは、法令の改正や個別の労働条件、実際の運用によって異なります。是正を検討される際は、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。