原則は「すべて算入」

割増賃金の計算の基礎には、原則としてすべての賃金が算入されます。除外できるのは、法令で限定的に列挙されたものだけです。

この原則を逆に理解している会社が多くあります。「基本給だけで計算すればよい」という運用は、ほぼ確実に誤りです。

除外できるものの考え方

法令で除外が認められているのは、労働と直接的な関係が薄く、個人的な事情によって決まる性質のものです。おおむね次のような類型です。

  • 家族手当(扶養家族の人数に応じて支給されるもの)
  • 通勤手当(通勤距離・実費に応じて支給されるもの)
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当(住宅費用に応じて支給されるもの)
  • 臨時に支払われた賃金
  • 一定期間ごとに支払われる賞与など

重要なのは「名称ではなく実質」で判断される点です。

名称が同じでも扱いが違う例

支給の仕方扱い
家族手当を、扶養人数に応じて支給除外できる可能性
家族手当を、全員一律で支給除外できない
住宅手当を、家賃の一定割合で支給除外できる可能性
住宅手当を、持家・賃貸を問わず定額で支給除外できない
通勤手当を、距離に応じて支給除外できる可能性
通勤手当を、全員一律で支給除外できない

「一律定額で払っている手当は除外できない」——これが実務上の目安です。

運送業で誤りやすい手当

次の手当は、除外が認められないのが通常です。基礎に含めてください。

  • 無事故手当
  • 皆勤手当
  • 乗務手当・運行手当
  • 職務手当・役職手当
  • 資格手当(大型、けん引、危険物、フォークリフト)
  • 精勤手当
  • 食事手当(実費弁償の性質が明確でない場合)

これらを外して計算していると、割増賃金の単価が過小になります。単価が過小なら、残業した全時間分が未払いになります。

歩合給の扱い

歩合給にも割増賃金の支払いが必要です。ただし、固定給とは計算方法が異なります

固定給部分と歩合給部分でそれぞれ単価を出し、合算するという考え方をとります。計算式は複雑になるため、社労士に確認するか、対応した給与計算ソフトを使ってください

「歩合給には残業代が含まれている」という説明は、区分が明確でなければ通りません。歩合給の設計をご覧ください。

影響が大きい理由

単価の誤りは、次のように波及します。

  1. 手当を1つ除外し忘れる
  2. 時間あたりの単価が過小になる
  3. その人の残業時間すべてに誤りが及ぶ
  4. それが全ドライバーに適用されている
  5. さかのぼって計算される

人数×月数×時間の掛け算になるため、1つの誤りが大きな金額になります未払残業代が価格に与える影響をご覧ください。

点検の方法

  1. 支給している手当をすべて書き出す:給与明細から
  2. それぞれの支給基準を確認する:一律か、個人の事情に応じてか
  3. 基礎に算入しているかを確認する:給与計算の設定を見る
  4. 単価を手計算で検算する:数名分でよい
  5. 実際の支払額と照合する

4番目が重要です。ソフトの設定が誤っているケースが実際にあります。導入時の設定のまま、手当を追加したときに反映されていない——という状態です。

誤りが見つかったら

まず、いつから、誰に、いくらの誤りがあるかを把握します。そのうえで、過去分の扱いと今後の是正を決めてください。金額の規模によって選択肢が変わるため、社労士と進めることをおすすめします。

未払残業代の整理の進め方で手順を整理しています。

規程との整合

賃金規程に「割増賃金の基礎に算入しない手当」を列挙している場合、その内容が法令に沿っているかを確認してください。規程に書けば除外できる、というものではありません。賃金規程と実態を一致させるをご覧ください。

手当の一覧を作るところから

支給している手当をすべて書き出すという手順を示しました。この作業を具体的にします。

まず、給与明細から項目を拾ってください。人によって付いている手当が違うため、数名分ではなく、全員分の明細から拾う必要があります。使われていないと思っていた手当が、一部の人にだけ残っていることがあります。

次に、それぞれについて支給の基準を書いてください。全員一律なのか、条件を満たした人だけか。条件があるなら、その条件は何か。

そして、いつから支給しているか、なぜ始めたかも分かる範囲で書いてください。目的が説明できない手当は、扱いの判断も難しくなります。

この一覧ができたら、賃金規程と照らしてください。規程にない手当、規程にあるが払っていない手当。どちらも見つかります。

そのうえで、専門家に見てもらってください。名称だけを並べても判断できないため、支給の基準まで書いた一覧が必要になります。

一律定額という目安の使い方

一律定額で払っている手当は除外できないという目安を示しました。この目安の使い方を補足します。

この目安が成り立つのは、除外が認められている手当が、個人的な事情によって金額が変わる性質のものだからです。全員に同じ額を払っているなら、その性質を持ちません。

だから、迷ったときはこう考えてください。その手当の金額は、人によって変わるか。変わるなら、何によって変わるか。扶養している家族の人数、通勤の距離、住宅の費用。これらによって変わるなら、除外の検討ができます。

逆に、勤続年数や役職や運行の内容によって変わる場合は、労働に関係するものとして扱われます。金額が人によって違っても、除外できるとは限りません。

そして、この目安はあくまで目安です。実際の判断は個別の事情によるため、最終的には専門家に確認してください。

ただし、目安を持っておくことで、点検の優先順位が付けられます。明らかに除外できないものが除外されているなら、そこから直してください。

給与計算の設定を検算する

ソフトの設定が誤っているケースが実際にあると書きました。検算の進め方を具体的にします。

まず、対象を数名に絞ってください。全員分を手計算するのは現実的ではありません。働き方の違う三、四名で足ります。

そして、その人の一か月分について、規程どおりの計算をゼロから行ってください。基礎に算入すべき賃金を合計し、単価を出し、時間を掛ける。

出た金額と、実際の支給額を比べます。差があれば、どこで生じているかを追ってください。基礎に入っていない手当があるのか、時間の集計が違うのか。

ソフトを使っている場合は、設定の画面で、どの手当が基礎に含まれているかを確認してください。導入時の設定のまま、後から追加した手当が反映されていない。この状態が実際にあります。

そして、手当を新設したときには、必ず設定を確認する運用にしてください。ここが手順に組み込まれていないと、同じことが繰り返されます。

規程に列挙している場合の確認

規程に書けば除外できるというものではないと書きました。この点を掘り下げます。

賃金規程に「割増賃金の基礎に算入しない手当」として項目が並んでいる会社があります。この記載があること自体は問題ありませんが、その内容が法令に沿っているかは別の話です。

だから、列挙されている項目を一つずつ確認してください。法令で除外が認められている類型に当たるか。支給の実態がその類型に合っているか。

沿っていない項目があれば、規程を直す必要があります。そして、その項目を基礎に含めた計算に改める必要があります。

規程を直すだけでは足りません。実際の計算が変わらなければ、状態は同じです。規程と計算の両方を直してください。

そして、過去の分をどうするかは、別に判断が要ります。範囲と金額を把握したうえで、専門家と方針を決めてください。

手当を整理する機会にする

点検の過程で、目的の曖昧な手当が見つかります。この機会に整理する価値があります。

長く続いている会社ほど、手当の数が増えています。当時の事情で作られ、その事情がなくなった後も残っている。名称だけが残り、なぜ払っているかを誰も説明できない手当があります。

整理の方法は二つあります。一つは、廃止して基本給に統合すること。もう一つは、目的を明確にして残すことです。

統合すれば、計算が単純になります。基礎に算入するかどうかで迷う項目も減ります。ただし、廃止は労働条件の変更になるため、手続きと説明が必要です。

残す場合は、支給の条件と金額の決まり方を明確にしてください。誰にどういう場合にいくら払うのか。説明できる形にすることが目的です。

そして、整理した結果は本人にも伝えてください。項目が減っても総額が変わらないことが分かれば、不安になりません。説明なしに明細の見た目が変わると、疑いを持たれます。

誤りの規模をどう見積もるか

いつから、誰に、いくらの誤りがあるかを把握すると書きました。この見積もりの進め方を示します。

まず、誤りの原因ごとに対象者を特定してください。特定の手当を除外していた場合、その手当が付いている人が対象です。全員とは限りません。

次に、いつから続いているかを確認してください。その手当を新設した時期、計算の設定を変えた時期。節目が起点になります。

そして、一人分について正しい計算をやり直し、差額を出してください。この差額に、対象の人数と月数を掛ければ、おおよその規模が出ます。

働き方によって差額の大きさが違うため、数名分を計算して幅を見てください。時間外が多い人ほど、差額も大きくなります。

この見積もりは概算で構いません。正確な金額を出す前に、規模を知ることが目的です。規模が分かれば、対応の優先順位と資金の見通しが立てられます。

今後の分から正す

過去分の扱いと今後の是正を決めてくださいと書きました。順序としては、今後の分が先です。

計算の設定を直せば、その月から正しい金額になります。この時点で、誤りの積み上がりが止まります。過去分の方針が決まっていなくても、ここは先に進められます。

そして、支給額が変わる人が出ます。増える人が多くなるはずですが、その分の人件費をどう賄うかを見込んでおいてください。

本人への説明も必要です。なぜ金額が変わったのかを伝えないと、疑問が残ります。計算方法の見直しによるものだと説明してください。

過去分については、範囲と金額を把握したうえで、専門家と方針を決めてください。ここは自己判断で処理しないでください。

そして、方針を決めた事実を記録に残してください。承継の場面では、金額がゼロであることより、把握して対応していることが評価されます。

点検を定期の作業にする

一度検算して直しても、時間が経てばまたずれます。定期の作業として組み込んでください。

時期は年に一度で足ります。賃金を改定する時期に合わせると、資料が揃っていて作業しやすくなります。

やることは、手当の一覧を更新し、数名分を検算する。この二つです。前回の作業の記録があれば、短時間で済みます。

あわせて、手当を新設したときや、給与の仕組みを変えたときには、そのつど確認してください。定期の点検だけでは、間の期間に生じた誤りが残ります。

そして、点検した記録を残してください。いつ、誰が、何を確認し、問題がなかったか。管理が続いている事実が示せます。

この記録は、承継の場面でも監査の場面でも同じように使えます。用途ごとに作り直す必要はありません。

資格手当の扱いに注意する

資格手当を除外できない手当として挙げました。運送業では該当する人が多いため、影響が大きい部分です。

大型、けん引、危険物、フォークリフト。これらの資格に対する手当は、業務に関係するものとして扱われます。個人的な事情によって決まるものではありません。

だから、基礎に含めて計算する必要があります。ここを外していると、資格を持つ人ほど単価が過小になります。経験の長い人ほど資格が多く、時間外も多い。この重なりで、金額が大きくなります。

そして、資格の取得を支援している会社では、手当の額も大きくなりがちです。取得を促す目的は正しいのですが、計算の扱いは別に確認してください。

あわせて、資格を取った時点で手当が付き、計算の設定に反映されているかも確認してください。手当は付いたが、基礎に入る設定になっていない。この状態が生じやすい場面です。

点検のときは、資格手当が付いている人を優先して検算してください。影響が大きい順に見るのが効率的です。

まとめ

割増賃金の基礎には原則としてすべての賃金が算入され、除外できるのは法令で限定列挙されたものだけです。無事故手当・皆勤手当・乗務手当・資格手当は除外できません。一律定額の手当は除外できないのが目安です。単価の誤りは全時間分に波及するため、まず検算してください。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。労働時間・賃金に関する具体的な取扱いは、法令の改正や個別の労働条件、実際の運用によって異なります。是正を検討される際は、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。