運送会社の管理職に求められる役割
- 運行管理:点呼、拘束時間の管理、安全指導
- 配車:収益とドライバーの働き方の両方を決める
- 人の管理:採用、育成、評価、不満への対応
- 荷主対応:条件の交渉、トラブルの処理
- 数字の管理:担当領域の採算
- 法令対応:帳票、届出、監査への対応
これらは一人で全部担う必要はありません。複数名で分担できる形にすることが、現実的な目標です。
ドライバーから管理職への転換の壁
1. 収入が下がる
乗務手当や歩合がなくなり、管理職になると手取りが減るという会社が実際にあります。これでは誰も引き受けません。
処遇の設計が育成の前提です。責任に見合う報酬にしてください。評価制度のつくり方をご覧ください。
2. 仕事の性質が変わる
運転は一人で完結しますが、管理は人を通じて成果を出す仕事です。この転換に戸惑う人が多くいます。
- 自分でやったほうが早い、と抱え込む
- 元同僚に指示を出しにくい
- 数字の扱いに慣れていない
3. 元同僚との関係
昨日まで一緒に走っていた人に指示を出す。この難しさは相当なものです。会社が公の場で管理職を立てることが不可欠です。
育成の進め方
ステップ1:役割を明確にする
「管理職」という漠然とした名称ではなく、何を判断してよいかを具体的に決めてください。
- 金額の決裁権(◯円まで)
- 配車の最終判断
- 受注の可否
- ドライバーの勤務変更
- 荷主との条件交渉の範囲
権限のない役職は、社内に見透かされます。
ステップ2:必要な資格を取らせる
- 運行管理者(運行管理者の選任と役割)
- 整備管理者(整備管理者の要件)
資格は取得までに時間がかかります。早めに計画してください。免許取得支援制度のつくり方をご覧ください。
ステップ3:数字を見せる
管理職に数字を開示していない会社が多くあります。しかし、数字を知らなければ判断できません。
- 担当エリア・担当荷主の売上と原価
- 車両別の採算(車両別の原価管理)
- 実車率・実働率
全社の決算を見せる必要はありませんが、自分の担当範囲の数字は共有してください。
ステップ4:任せて、口を出さない
最も難しい部分です。
- 決めたことを社長が覆さない
- 失敗しても、その場で否定しない
- 後で一緒に振り返る
- ドライバーからの相談を、管理職経由にする
社長が直接指示を飛ばすと、管理職は機能しなくなります。ここを守れるかが成否を分けます。
ステップ5:外の場に出す
- トラック協会の研修・講習
- 荷主との会議に同席させる
- 金融機関との面談に同席させる
- 同業の管理者との交流
社内だけでは視野が広がりません。
複数名を育てる
一人だけを育てると、その人が辞めたときに元に戻ります。2名以上を目標にしてください。
また、一人に集中させるとその人が疲弊します。運行管理・配車・労務を分担する形が現実的です。配車担当の育成、事務・バックオフィスの体制をご覧ください。
後継者育成との関係
親族が後継者の場合も、管理職が育っていることが前提になります。後継者一人ですべてを背負うのは無理があるためです。
むしろ、後継者を支える管理職がいるかどうかが承継の成否を左右します。後継者育成の進め方をご覧ください。
M&Aでの意味
買い手が最も懸念するのは「社長が抜けたら回らない」ことです。管理職が育っている会社は、次の点で有利になります。
- 引き継ぎ期間を短くできる
- 買収後の運営リスクが小さい
- 前経営者の関与を減らせる
- 買い手が人を送り込まなくてよい
組織図と、誰が何を判断しているかの一覧を作れる会社は、それだけで評価が違います。評価が上がる会社の条件をご覧ください。
決裁権をどう決めるか
権限のない役職は社内に見透かされると書きました。決裁権の決め方を具体的にします。
まず、日常的に判断が必要な場面を洗い出してください。急な依頼を受けるか、傭車に出すか、修理を発注するか、勤務を変更するか。実際に起きていることから挙げてください。
そのうえで、それぞれについて、どこまでを任せるかを決めてください。金額で線を引く方法が分かりやすいでしょう。この額までは自分で決めてよい、超える場合は相談する。
そして、決めた内容を文書にしてください。口頭の取り決めは、その場の判断で覆されます。書いてあれば、根拠になります。
あわせて、社内にも周知してください。誰が何を決められるかが分かっていないと、結局は社長のところに話が来ます。
そして、決めた範囲は守ってください。任せた判断を後から覆すと、次から自分で決めなくなります。異論があるなら、後で振り返る形にしてください。
元同僚との関係をどう支えるか
会社が公の場で管理職を立てることが不可欠だと書きました。具体的な支え方を示します。
まず、就任を全員に伝えてください。何を担うのか、どこまで決められるのか。曖昧なまま始まると、周囲も本人も戸惑います。
そして、その人を通す運用を徹底してください。ドライバーからの相談も、社長に直接ではなく管理職経由にする。社長が直接答えると、その役職は機能しません。
あわせて、判断が正しかった場面では、公の場で支持してください。「あの判断で問題ない」と伝わることが、権威になります。
逆に、異論がある場合も、その場では覆さないでください。後で本人と話す。周囲の前で覆されると、以後の指示が通らなくなります。
そして、本人が悩んでいるときは、話を聞いてください。元同僚に指示を出す難しさは、経験した人にしか分かりません。孤立させないことが重要です。
数字をどこまで見せるか
自分の担当範囲の数字は共有してくださいと書きました。範囲の決め方を補足します。
担当しているエリアや荷主の売上と原価は、必ず見せてください。これがなければ、採算の判断ができません。
車両別の数字も、担当する範囲については共有してください。どの車が残しているか、どこに手を入れるべきか。判断の材料になります。
全社の決算まで見せるかは、判断が分かれます。ただし、会社全体の状況を知らないと、部分の最適化に走ることがあります。少なくとも大枠は伝えてください。
そして、数字の読み方も教えてください。表を渡すだけでは、何を見ればよいか分かりません。どの数字が何を意味するかを、一緒に確認してください。
あわせて、数字の扱いについても伝えてください。社外に出さない、必要のない範囲に共有しない。管理する立場として、情報の扱いも役割の一部です。
分担の形をどう作るか
運行管理・配車・労務を分担する形が現実的だと書きました。分担の設計を具体的にします。
まず、業務を性質で分けてください。日々の運行に関わるもの、人に関わるもの、記録と手続きに関わるもの。この三つが基本の区分になります。
そのうえで、誰が何を担うかを決めてください。人数が少ない場合、一人が複数を兼ねることになりますが、担当を明示することに意味があります。
そして、重なる部分の扱いも決めてください。配車と労務は、拘束時間の管理で重なります。どちらが判断するのかを決めておかないと、抜けます。
あわせて、互いの状況が見える形にしてください。定期的に集まって情報を共有する場を作る。週に一度、短時間でも構いません。
そして、一人が抜けたときに誰が代わるかも決めておいてください。分担していても、代替がなければ属人化と変わりません。
処遇の設計を具体的にする
収入が下がる設計では誰も引き受けないと書きました。設計の進め方を示します。
まず、対象となる人の現在の収入を確認してください。歩合や手当を含めた実際の支給額です。この額が出発点になります。
そのうえで、管理職としての賃金を組んでください。責任の重さ、拘束の長さ、必要な知識。これらを反映した水準が要ります。
そして、変動する部分をどうするかを決めてください。乗務の歩合がなくなる分、収入が安定します。安定を利点と感じる人もいれば、上限ができることを嫌う人もいます。本人の考えを聞いてください。
あわせて、時間外の扱いも整理してください。管理職として扱う場合、その要件を満たしているかの確認が必要です。名称だけを変えて時間外を支払わない運用は、問題になります。専門家に確認してください。
そして、この設計は就任の前に示してください。就任してから条件を話すのでは、遅すぎます。
抱え込みをどう解くか
自分でやったほうが早いと抱え込むという壁を挙げました。この解き方を具体的にします。
まず、実際に自分でやったほうが早いのは事実です。ただし、それを続ける限り、人は育ちません。この構造を本人に説明してください。
そのうえで、任せる範囲を決めてもらってください。全部を任せる必要はありません。この作業は自分で、この作業は渡す。線を引くことから始めます。
そして、渡した後の質を許容してもらってください。最初は自分がやるより時間がかかり、質も落ちます。この期間を越えなければ、育ちません。
あわせて、渡すための準備を支援してください。手順を文書にする作業には時間がかかります。その時間を確保してあげてください。
そして、成果の測り方も変えてください。自分がどれだけ処理したかではなく、担当する範囲全体がどう回っているか。この視点への転換が、管理職になるということです。
外の場に出すことの効果
社内だけでは視野が広がりませんと書きました。外に出す場面の選び方を補足します。
まず、荷主との会議に同席させてください。条件がどう決まっているか、相手が何を求めているか。これを知らないと、配車の判断も的を外します。
金融機関との面談も有効です。会社がどう見られているか、何を説明する必要があるか。経営の視点が身につきます。
同業との交流の場では、他社のやり方が分かります。自社の当たり前が、他社では違うことに気づきます。
研修や講習は、知識を得るだけでなく、同じ立場の人と話す機会になります。孤立しがちな立場だからこそ、この意味は大きいものです。
そして、出た後に話を聞いてください。何を感じたか、自社に持ち帰れることは何か。振り返る場があると、経験が定着します。
社長が口を出さないための工夫
ここを守れるかが成否を分けると書きました。守るための工夫を具体的にします。
まず、社長自身が意識しても、つい口を出してしまいます。だから、仕組みで防いでください。ドライバーからの相談を管理職経由にする、と決めて周知する。社長のところに来た話は、管理職に回す。
そして、判断が気になる場面では、その場で言わずにメモしてください。後で振り返る場で、まとめて話す。この習慣があれば、現場での介入が減ります。
あわせて、社長の役割を新しく定めてください。手が空くことに不安を感じる人が多くいます。荷主との交渉、資金の管理、将来の計画。担うべきことは残っています。
そして、失敗が起きたときが最も難しい場面です。ここで介入すると、それまでの取り組みが戻ります。損失が許容できる範囲なら、任せ切ってください。
許容できない規模の判断については、あらかじめ決裁の範囲を決めておいてください。範囲が決まっていれば、介入ではなく手続きになります。
組織図と判断の一覧を作る
誰が何を判断しているかの一覧を作れる会社は評価が違うと書きました。この資料の作り方を示します。
まず、組織図を作ってください。役職と、担当する範囲。人数が少なくても、誰が何を担っているかが見える形にします。
そのうえで、判断の一覧を作ってください。項目ごとに、誰が決めるか、金額の範囲はどこまでか。日常的に起きる判断を並べます。
そして、社長しか判断できない項目がどれだけあるかを見てください。ここが多いほど、社長への依存が大きいということです。
減らせる項目から順に、移してください。金額の小さいもの、影響の範囲が限られるもの。一度に全部は動かせません。
そして、この一覧を年に一度見直してください。移した項目が実際に運用されているか、まだ社長に来ている項目はないか。進み具合が自分で確認できます。
まとめ
管理職の育成は、処遇の設計から始まります。収入が下がる設計では誰も引き受けません。役割と決裁権を明確にし、資格を取らせ、担当範囲の数字を見せ、そして任せたら口を出さない。2名以上を育て、分担する形が現実的です。社長依存の解消は、承継とM&Aの両方で最重要の課題です。