まず現状を確認する
- 登記簿上の所有者(社長個人か、法人か、共有か)
- 担保設定の有無(会社の借入の担保になっていないか)
- 賃貸借契約の有無と内容
- 賃料の水準(相場と比べてどうか)
- 車庫として届け出ている範囲と実際の使用
契約書がないケースも多くあります。まず書面を整えてください。車庫の要件をご覧ください。
この五つは、一日あれば確認できるものがほとんどです。登記は法務局で取れますし、担保の有無も登記に記載されています。契約書は探せばどこかにあるか、なければないことがわかります。それでも確認していない会社が多いのは、日々困っていないからです。
困っていないうちに確認しておく意味は、問題が見つかったときに時間が使えることにあります。契約書がない、賃料が相場から離れている、担保が付いている。どれも直すには相手との話が要ります。承継の話が始まってからでは間に合いません。
五つ目の、届け出ている範囲と実際の使用が合っているかも、見落とされやすい点です。長年のあいだに使う範囲が広がっていたり、逆に一部を使わなくなっていたりします。届出と実態がずれていると、確認の場面で必ず指摘されます。
移すべきか、残すべきか
| 法人に移す | 個人所有のまま | |
|---|---|---|
| 会社の安定 | 使用が確保される | 相続で分散するリスク |
| M&A | まとめて譲渡できる | 買い手が使用の継続を懸念 |
| 社長の収入 | 賃料収入がなくなる | 賃料収入が続く |
| 相続 | 自社株の評価に含まれる | 個人財産として相続 |
| 移転の負担 | 税・登記の費用が生じる | なし |
どちらが有利かは、個別の事情で変わります。 税務の影響が大きいため、必ず税理士に試算してもらってください。
※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。税務の取扱いは、法令の改正や個別の事情によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。
この表を見るときに大事なのは、どちらが正解ということではないという点です。会社の資金、社長個人の収入、相続人の構成、承継の方法。これらの組み合わせで結論が変わります。
判断の順序としては、まず承継の方法を想定するところからです。子に継がせるつもりなら、不動産も一緒に継がせる設計ができます。外に譲るつもりなら、買い手が使い続けられる形を作る必要があります。どちらも決まっていないなら、どちらにも対応できる形にしておくことになります。
移す場合の費用は、決して小さくありません。しかも、その費用は会社か個人のどちらかが負担します。だから、費用を払ってでも移す価値があるかを、数字で確かめる必要があります。試算は税理士に依頼してください。
移す場合の方法
- 売買:法人が個人から買い取る。法人に資金が必要
- 現物出資:不動産を出資して株式を取得する
- 贈与:課税関係を確認する必要があります
いずれの場合も、時価での取引が原則です。時価から離れた価格で移すと、思わぬ課税が生じることがあります。
また、次の費用が生じます。
- 登録免許税、不動産取得税
- 司法書士報酬
- 譲渡所得への課税(個人側)
個人所有のまま続ける場合の設計
移さない場合、会社が使い続けられることを担保する必要があります。
1. 賃貸借契約を整える
- 期間(できるだけ長期に)
- 賃料(相場水準に)
- 更新の条件
- 解約の予告期間
期間の定めがない契約は、買い手が最も不安に思う状態です。荷主との契約書を整えると同じ発想で、書面を整えてください。
2. 賃料を相場水準にする
相場より高いと、その差額は実質的な役員報酬とみなされ、正常収益力の調整で足し戻されます。逆に安すぎると、買収後に賃料が上がる前提で見られます。
相場水準にしておくのが、評価を正しくしてもらう最短の道です。公私混同の解消が最優先である理由をご覧ください。
3. 相続への備え
社長個人所有のまま相続が起きると、相続人が複数いれば土地が分散します。会社が車庫を使えなくなるリスクがあります。
- 遺言で承継先を決める(遺言で決めておくこと)
- 後継者に相続させる
- 法人に移しておく
車庫が使えなくなれば、事業が成り立ちません。 ここは必ず手当てしてください。
三つのうち、いちばん見落とされるのが相続への備えです。契約を整え、賃料を相場にしても、相続で土地が分かれてしまえば意味がありません。だから、この三つは揃って初めて機能します。
備えの基本は、誰に相続させるかを決めておくことです。会社を継ぐ人に土地も渡すという形が原則になります。ただし、その分だけ他の相続人の取り分が減るため、別の資産での調整が要ります。
調整する資産がない場合は、土地を法人に移しておくことも検討の対象になります。法人が持っていれば、相続で分かれる心配はありません。ただし、その代わりに株の評価に反映されます。どちらを取るかは、税理士と相談して決めてください。
賃料の水準については、一度決めたら見直さないままになりがちです。周辺の相場は年月とともに変わります。数年に一度は確認し、必要なら見直しておくと、実態から離れずに済みます。
M&Aでの扱い
買い手にとって最大の関心事は、「譲渡後もその土地で事業を続けられるか」です。
選択肢は次のとおりです。
- 賃貸借を継続する:期間と条件を明確にする
- 会社に売却してから譲渡する:買い手の資金負担が増える
- 買い手に売却する:不動産も含めて譲渡
1番目の場合、長期の定期借地・定期借家など、一定期間の使用が担保される形にするのが実務的です。
不動産の価値が大きいと、価格が事業の収益力から離れて買い手が付きにくくなることがあります。車庫・倉庫の不動産を持つ会社の評価をご覧ください。
三つの選択肢のうち、どれを取るかは買い手の事情にも左右されます。資金に余裕のある買い手なら不動産ごと買うことを望みますし、そうでなければ賃貸を続ける形を選びます。だから、こちらで一つに決めておく必要はありません。
ただし、どの形でも対応できるように準備しておく意味はあります。契約書があり、賃料が相場水準で、担保の状況が整理されていれば、どの選択肢も取れます。何も整っていないと、選択肢そのものが狭まります。
不動産の価値が大きい会社で気をつけたいのは、価格の話が事業の話から離れてしまうことです。買い手は事業を買いたいのに、不動産の分だけ価格が上がる。この場合、不動産を切り離す形を先に考えておくと、話が進みやすくなります。
切り離し方は、社長個人が持ち続けて貸す形が一般的です。その場合、賃貸の期間をどれだけ担保できるかが論点になります。形の作り方は、弁護士と税理士に相談してください。
担保に入っている場合
会社の借入の担保として、社長個人の不動産が提供されていることがあります。
- 会社を譲渡しても、担保は自動では外れません
- 金融機関との交渉が必要
- 個人保証とセットで整理する
個人保証を外すために逆算で準備しておくことをご覧ください。
親族内承継の場合
会社は子に継がせるが、不動産は個人財産として相続する——という形になりがちです。
- 後継者以外の子に土地が渡ると、会社が使えなくなる可能性
- 賃料をめぐって親族間で対立することがある
「会社を継ぐ子に、車庫の土地も相続させる」という設計が基本です。他の相続人には別の資産で調整してください。相続人が複数いる場合の株の分け方をご覧ください。
賃料をめぐる対立は、実際によく起きます。土地を相続した親族が賃料を上げたいと言い、会社を継いだ子が払えないと言う。どちらにも言い分があり、間に立つ人がいないと解決しません。
だから、土地と会社は同じ人に渡すのが原則になります。分けてしまうと、その後の関係が取引の関係になり、家族の間に利害の対立が持ち込まれます。
やむを得ず分ける場合は、賃貸借の条件を生前に決めて書面にしておいてください。期間、賃料、改定の方法。決まっていれば、後から揉める余地が減ります。この設計は弁護士に相談しながら進めるのが確実です。
判断の順序
- 現状を確認する(登記、契約、賃料、担保)
- 承継の方法を想定する(親族内か、M&Aか)
- 税理士に、移す場合と残す場合の試算を依頼する
- 会社の資金余力を確認する
- 方針を決める
- 契約書・遺言などを整える
この六つのうち、一から二までは自分で進められます。三の試算を依頼するときに、二で想定した承継の方法を伝えておくと、必要な試算が出てきます。伝えないと、一般的な比較で終わってしまいます。
四の資金余力の確認は、法人に移す選択肢を検討する場合に欠かせません。移すには資金が要り、その資金を出せば運転資金が減ります。移した後に会社が回るかまで見て判断してください。
賃料を見直すときの進め方
賃料が相場から離れている場合、いきなり変えると税務上の扱いが問題になることがあります。だから、変えるにも順序が要ります。
まず、相場がいくらかを確かめます。不動産会社に周辺の事例を聞く、公的な評価の資料を見る、鑑定を依頼する。どこまで踏み込むかは、金額の大きさによります。
次に、今の賃料との差を確認します。差が小さいなら、そのままでも大きな問題にはなりません。差が大きいなら、いつからその水準だったのかも含めて、税理士に相談してください。過去の分の扱いが論点になることがあります。
変更するときは、契約書を作り直す形になります。新しい賃料、期間、更新の条件を書面にする。同じ機会に、期間の定めがない状態を解消しておくと一石二鳥です。
担保が付いている場合の整理
社長個人の不動産が会社の借入の担保になっている状態は、運送会社でよく見られます。この状態のまま承継を進めると、いくつかの問題が出ます。
まず、会社を譲渡しても担保は自動的には外れません。だから、社長が会社と関係なくなった後も、自分の不動産が他人の会社の借入を担保し続けることになります。この状態を放置する人はいませんが、外すには金融機関との交渉が要ります。
交渉の材料になるのは、会社の返済能力です。担保がなくても返せると判断されれば外せる可能性がありますし、そうでなければ代わりの担保や条件が求められます。だから、財務を整えることがそのまま交渉の準備になります。
個人保証と一緒に整理するのが実際的です。どちらも金融機関との話であり、同じ場で扱えます。承継の話が具体化する前に、一度相談しておく価値があります。
複数の拠点を持っている場合
営業所や車庫が複数あり、それぞれ所有の形が違うことがあります。本社は法人所有、第二営業所は社長個人、第三は借地。この状態は、整理を難しくします。
だから、まず一覧を作ってください。拠点ごとに、所在地、所有者、契約の有無と期間、賃料、担保の状況、届出の状況を並べる。一枚にまとめると、どこに問題があるかが見えます。
すべてを同じ形にする必要はありません。事業に不可欠な拠点から順に、確実に使い続けられる形にしていけば足ります。優先順位をつけるときは、代わりが利くかどうかで判断してください。
借地の拠点については、契約の残り期間と更新の条件を特に確認しておいてください。貸主との関係が社長個人の付き合いで成り立っているなら、会社としての関係に置き換えていく必要があります。
判断を先送りにしないために
この論点が先送りされやすいのは、今日困っていないからです。車庫は使えているし、賃料も払えている。だから、来年でもいいと思ってしまいます。
しかし、この問題は突然表面化します。社長に何かあれば、その日から相続の話になります。契約書がなければ、会社が使い続けられる根拠もありません。相続人が複数いれば、土地の帰属が決まるまで不安定な状態が続きます。
だから、今日できることだけでも進めてください。登記を取る、契約書を探す、担保の有無を確認する。ここまでなら、費用もほとんどかかりません。
現状がわかれば、次に何をすべきかも決まります。税理士に相談するにしても、現状の資料があるほうが話が早く進みます。手続きの費用や税務の扱いは個別の事情で変わるため、必ず専門家に確認したうえで判断してください。
まとめ
車庫を個人所有のまま残す場合、賃貸借契約を長期で整え、賃料を相場水準にしてください。相続で分散すると会社が使えなくなるため、承継先を明確にすることが不可欠です。法人に移す場合は税と登記の費用が生じるため、税理士に試算を依頼してから判断してください。