整備管理者の役割

事業用自動車の点検・整備が適切に行われるよう管理する立場です。主な職務は次のとおりです。

  • 日常点検の実施方法を定め、その結果に基づいて運行の可否を決める
  • 定期点検の計画を立て、実施する
  • 点検・整備の記録を管理する
  • 車庫の管理
  • 整備要員を指導・監督する

運行管理者が「人と運行」を見るのに対し、整備管理者は「車両」を見る役割です。両者は別の選任であり、兼務している会社もあります。

選任の考え方

一定台数以上の事業用自動車を使用する営業所ごとに、整備管理者を選任し、届け出る必要があります。営業所ごとである点が重要です。営業所を新設した場合、その営業所にも選任が必要になります。

具体的な台数の基準や届出の様式は、管轄の運輸支局または行政書士に確認してください。

資格要件の考え方

整備管理者になれるのは、大きく二つの道があります。

  1. 整備に関する実務経験があり、所定の研修を修了している
  2. 自動車整備士の資格を持っている

実務経験の年数や、対象となる業務の範囲、研修の実施主体と時期については、地方運輸局が案内しています。要件を満たすかどうかの判断は、事前に窓口で確認してください。

また、選任後も定期的に研修を受ける必要があります。受講の管理を忘れないようにしてください。

承継・M&Aで問題になる点

1. 社長が兼務している

小規模な運送会社では、社長が整備管理者を兼ねていることがあります。社長が退けば、その営業所に整備管理者がいなくなります。

承継を考え始めたら、後任の候補を決めて要件を満たす準備を始めてください。 研修の実施時期は限られているため、思い立ってすぐ選任できるとは限りません。

2. 選任はしているが実態がない

名前だけ登録されていて、実際には点検の管理をしていない。この状態は監査で必ず問題になります。デューデリジェンスでも確認される項目です。法務デューデリジェンスと契約書の棚卸しをご覧ください。

3. 記録が残っていない

点検整備記録簿の保存が不十分だと、実施していても証明できません。記録の保存は、実施と同じくらい重要です。

日常点検と定期点検

日常点検は運行前に実施するもので、実際に行うのはドライバーです。整備管理者は、その方法を定め、結果を確認し、運行してよいかを判断します。

定期点検は一定の周期で行うもので、整備管理者が計画を立てます。実施を外部の整備工場に委託している場合でも、計画と記録の管理は自社の責任です。

点検の周期や項目は法令で定められています。具体的な内容は変更されることがあるため、最新の情報を確認してください。

監査・巡回指導で見られること

  • 整備管理者が選任され、届け出られているか
  • 研修を受講しているか
  • 日常点検の記録があるか
  • 定期点検整備記録簿が保存されているか
  • 不具合が見つかったときの処置が記録されているか

巡回指導への対応監査で見られる帳票もあわせてご覧ください。

後任を育てる

整備管理者は、資格要件があるためすぐには代われません。次の準備を進めてください。

  1. 候補者を決める(整備に関わってきた人、または整備士資格を持つ人)
  2. 要件を満たすか、運輸支局に確認する
  3. 研修の実施時期を調べ、受講させる
  4. 選任し、届け出る
  5. 実際に点検管理の業務を任せる

運行管理者と同様、複数名が担える状態にしておくと、退職や不在のリスクに備えられます。運行管理者の選任と役割もご覧ください。

整備の外注と自社整備

整備を外注していても、整備管理者の選任は必要です。外注先が優秀でも、管理する責任は自社にあります。委託内容と記録の受け取り方法を明確にしておいてください。

運行管理者との違いを押さえる

運行管理者が人と運行を見るのに対し、整備管理者は車両を見る。この違いは、日常の役割分担にも表れます。

朝の点呼で、運行管理者は運転者の体調と当日の指示を確認します。同じ場面で、日常の点検の結果が上がってきます。その結果に基づいて運行してよいかを判断するのが、整備管理者の職務です。

つまり、二つの役割は同じ場面で接します。だから、兼務している会社が多いのも自然な流れです。

ただ、兼務には限界があります。台数が増えれば、点検の管理も、記録の確認も、整備の計画も増えます。一人で両方を担い続けると、どちらかが形だけになります。

だから、規模が大きくなったら分けることを検討してください。承継の場面でも、両方を一人が兼ねている状態は、その人が抜けたときの影響が二重になります。

研修の時期が制約になる

思い立ってすぐ選任できるとは限らない、という点は、この役割で最も実務的な制約です。

実務経験で要件を満たす場合でも、所定の研修を修了している必要があります。研修の実施時期は限られているので、次の機会まで待つことになります。

だから、後任を立てる計画は、研修の日程を調べるところから始めてください。いつ、どこで実施されるのか。申し込みの時期と定員も確認します。

そして、選任した後も定期的に研修を受ける必要があります。受講の管理を忘れると、要件を満たさない状態になりかねません。

管理の方法は、資格の一覧に受講の記録と次回の時期を書き込むだけで足ります。期限の前に通知する仕組みを作っておいてください。

日常点検を機能させる

日常点検を実際に行うのはドライバーですが、方法を定め、結果を確認するのが整備管理者の職務です。ここが形だけになりやすい部分です。

形骸化する理由は、時間です。朝の出庫が集中する時間帯に、丁寧に点検する余裕がない。結果として、記録だけが残ります。

対処としては、まず何を確認するかを絞ってください。項目が多すぎると、全部が雑になります。運行に直結する項目に絞り、確実に見てもらうほうが実効性があります。

そして、確認した結果をどう報告するかを決めます。異常がなければ印を押すだけ、異常があれば具体的に書く。書きやすい様式にしておくと、報告が上がってきます。

異常が報告されたときの手順も決めてください。誰に伝え、誰が判断し、修理までどうするか。報告しても何も起きないと分かれば、次から報告されなくなります。

外注していても責任は自社にある

整備を外部に委託していても選任は必要で、管理する責任は自社にある。この点は誤解されやすい部分です。

整備工場に任せているから大丈夫、という認識の会社があります。ところが、点検の計画を立てるのも、実施を管理するのも、記録を保存するのも自社の役割です。

だから、委託の内容を明確にしてください。何を、どの周期で、どこまで依頼しているのか。そして、記録をどういう形で受け取るのか。

受け取った記録は、自社で保管します。整備工場に控えがあるから大丈夫、ではありません。求められたときに自社から出せる状態にしておく必要があります。

あわせて、依頼していない部分がないかも確認してください。定期の点検は委託していても、日常の点検で見つかった不具合の処置が抜けている、といった隙間が生じることがあります。

記録が残っていないと実施も証明できない

点検整備の記録が不十分だと、実施していても証明できない。この点は、監査でも承継の調査でも同じです。

残すべきは、点検を実施した日、実施した人、確認した項目、見つかった不具合、そしてその処置です。最後の項目が抜けやすい部分になります。

不具合が見つかったのに、その後どうしたかが書かれていない。修理したのか、様子を見たのか、部品を待っているのか。処置の記録がなければ、見つけただけで放置したように見えます。

保存の期間と場所も決めてください。年度ごとに分け、どこにあるかを担当以外も分かる形にします。探せない記録は、無いのと同じ扱いになります。

電子で保存する場合は、期間を指定して取り出せるかを確認してください。画面で見られるだけで書き出せない仕組みだと、提示の場面で困ります。

後任を育てる順序

候補を決めるとき、整備に関わってきた人か整備士の資格を持つ人が自然な選択肢になります。ただ、他の観点もあります。

整備管理者の仕事は、自分で修理することではありません。計画を立て、記録を管理し、運行の可否を判断し、整備の要員を指導することです。つまり、管理の仕事です。

だから、技術に詳しいことに加えて、記録を面倒がらないこと、そして運行を止める判断ができることが要ります。この車は出せないと言えるかどうかが、実は最も重要な資質です。

配車の都合で押し切られる人では、役割を果たせません。だから、選任した後に、その人の判断を経営者が支える姿勢を示してください。一度でも判断が覆されれば、次から言わなくなります。

そして、複数名が要件を満たす状態を目指してください。運行管理者と同じく、一人に依存した体制は、退職や不在で崩れます。

承継の準備としての位置づけ

社長が兼務している会社では、この論点が承継の日程を決めます。

社長が退けば選任が欠けるので、退く前に後任を用意しなければなりません。研修の時期に制約があるので、逆算すると年単位の準備になります。

運行管理者と整備管理者の両方を社長が兼ねている場合、二人分の後任が要ります。同じ人が両方を取るのか、分けるのか。どちらにせよ、時間がかかります。

だから、承継を考え始めたら真っ先に確認してください。今の選任者が誰で、その人が退いた後に誰が担うのか。ここに答えがないうちは、他の準備をいくら進めても日程が立ちません。

そして、この準備は承継の予定がなくても価値があります。社長が病気や事故で動けなくなったときにも、体制が欠けない会社になるからです。

営業所ごとという条件を見落とさない

選任が営業所ごとであるという点は、拠点を増やすときに効いてきます。

新しい営業所を作れば、そこにも選任が必要になります。既存の拠点から人を動かせば、元の拠点が薄くなります。新たに確保するなら、要件を満たす人を探すか育てることになります。

だから、営業所を増やす検討は、物件や荷量だけでなく、この人的な要件から始めてください。人の目処が立たないうちに物件を押さえると、開設できないまま家賃だけが出ていきます。

そして、拠点を集約する場合も確認が要ります。営業所を減らせば選任も減りますが、残る拠点の台数が増えるので、管理の負担は増します。

複数の拠点を持つ会社では、拠点ごとに選任者と、その人の資格と研修の状況を一覧にしておいてください。どこが薄いかが一目で分かります。

車両の状態が評価にも直結する

整備の管理は、要件を満たすためだけの作業ではありません。車両の価値そのものに関わります。

承継の場面で、車両は帳簿の価額ではなく実際の状態で評価されます。同じ年式と走行距離でも、整備の記録が残っている車両は評価が安定します。引き継いだ後の修繕の費用が読めるからです。

記録がなければ、状態が読めないので保守的に、つまり低めに見積もられます。実際にはよく整備されていても、証明できなければ同じことです。

だから、整備の記録を残すことは、資産の価値を守る作業でもあります。この観点を社内で共有すると、記録の重要性が伝わりやすくなります。

あわせて、修繕の履歴から車両ごとの傾向も見えます。特定の車両で故障が続いているなら、入れ替えの判断材料になります。更新計画の土台としても使えます。

点検の周期は最新を確認する

点検の周期や項目は定められていますが、内容が変更されることがあります。だから、自社の運用が現在の内容に合っているかを、定期的に確認してください。

確認の方法は、所管の案内を見るか、委託している整備工場に聞くのが早道です。工場は日常的に扱っているので、変更にも詳しいはずです。

そして、変更があった場合は、社内の様式や運用も直す必要があります。古い項目のまま記録を取り続けていると、実施していない項目が出ます。

あわせて、車両の種類によって扱いが違う場合もあります。自社が保有している車種について、それぞれ確認してください。

まとめ

整備管理者は営業所ごとに選任が必要で、資格要件と研修があるため急には代われません。社長が兼務している会社は、承継の準備として後任の育成を早めに始めてください。名前だけの選任と記録の不備は、監査でもデューデリジェンスでも必ず指摘されます。

※ 本記事は一般的な考え方を整理したものです。許認可の具体的な取扱い・必要書類・審査期間は、法令の改正や管轄行政庁の運用によって異なります。実際の手続きにあたっては、必ず管轄の運輸支局等および専門家にご確認ください。