配車担当に求められる四つの力
1. 段取りの力
限られた車両とドライバーで、翌日の運行を組み立てる力です。制約条件(拘束時間、車格、免許、納品時刻)を同時に満たす必要があります。
2. 数字を読む力
その運行が採算に合うのか。実車率をどう上げるか。「運べる」と「儲かる」は別だという理解が必要です。荷主別の採算管理、車両別の原価管理をご覧ください。
3. 人を動かす力
ドライバーに納得して動いてもらう力です。無理な依頼をするとき、条件の悪い便を頼むとき、どう伝えるか。ここが最も差が出る領域です。
4. 荷主と話す力
納品時刻の調整、待機の申し入れ、緊急対応の交渉。配車担当は荷主との接点でもあります。
育成の順序
第1段階:現場を知る(3〜6か月)
- 可能なら乗務を経験する(短期間でも効果があります)
- 点呼に立ち会う
- 主要な荷主先に同行する
- 車両の種類と積載の制約を覚える
現場を知らない配車は、ドライバーに信用されません。 「あの人は分かっていない」と思われた時点で、指示が通らなくなります。
第2段階:情報を覚える(3〜6か月)
- ドライバーごとの経験・得意分野・注意点
- 荷主ごとの納品条件と待機の傾向
- 車両ごとの制約
- 協力会社の得意分野
これらが一覧になっていれば、覚える速度が上がります。配車の属人化を解消するで、情報の出し方を整理しています。
第3段階:一部を任せる(6か月〜1年)
いきなり全体は無理です。難易度の低い範囲から渡します。
- 定期便・ルート配送(変動が少ない)
- 近距離のスポット
- 特定の荷主の担当
- 特定の曜日を全面的に
第4段階:判断を任せる(1〜2年)
- 受注の可否を判断する
- 傭車に出すかどうかを決める
- トラブル時の対応を決める
- 荷主と条件を交渉する
この段階で、失敗しても即座に否定しないことが重要です。後から一緒に振り返る形にしてください。その場で覆すと、次から自分で判断しなくなります。
教える側の負担を減らす
「教える時間がない」が最大の壁です。次の工夫が有効です。
- 情報を文書化しておく:口頭で毎回説明しなくて済む
- 判断基準を書き出す:迷ったときに参照できる
- 質問をまとめて受ける時間を作る:随時だと集中が切れます
- 過去の配車表を教材にする:「この日はなぜこう組んだか」
- システムを活用する:情報の共有を仕組みで行う
どこから人を採るか
| 出身 | 強み | 補うべき点 |
|---|---|---|
| 社内のドライバー | 現場と人を知っている | 数字、事務処理 |
| 社内の事務職 | 事務処理、数字 | 現場の理解、ドライバーとの関係 |
| 同業からの中途 | 即戦力になりやすい | 自社の荷主・ドライバーの把握 |
| 未経験の採用 | 先入観がない | すべて(時間がかかる) |
社内のドライバーからの転換は有力な選択肢です。現場と人を知っているという最大の資産があります。ただし、乗務手当がなくなって収入が下がると、本人にとって転換の動機がなくなります。処遇の設計が不可欠です。
評価と処遇
配車担当は責任が重く、拘束時間も長くなりがちです。にもかかわらず、ドライバーより手取りが少ないという会社があります。それでは人が育ちません。
評価の観点としては、次が考えられます。
- 実車率・実働率の改善
- 担当エリアの採算
- 傭車費の抑制
- ドライバーの拘束時間が基準内に収まっているか
- ドライバーからの評価
売上だけで評価すると、無理な運行を組む方向に働きます。拘束時間や安全の指標を必ず組み合わせてください。評価制度のつくり方をご覧ください。
複数名体制にする
育成のゴールは、2名以上が配車を担える状態です。
- 休みが取れる
- 急病や退職に備えられる
- 判断について相談できる相手ができる
- やり方を客観視できる
小規模な会社では難しく感じられますが、「一部だけでも任せられる人」を作るところから始めてください。
承継・M&Aでの意味
配車を担える人材が複数いることは、買い手にとって大きな安心材料です。逆に、社長または一人の担当者しか配車ができない会社は、買収後の運営リスクとして評価されます。
また、後継者に配車を経験させることは、育成の中核でもあります。配車が分かれば、現場も数字も荷主も見えるようになります。後継者育成の進め方、企業価値を高める取り組みをご覧ください。
現場を知る期間の過ごし方
現場を知らない配車はドライバーに信用されないと書きました。この期間をどう使うかを具体的にします。
乗務を経験できるなら、それが最も効きます。短期間でも、実際に走ってみると分かることが多くあります。待たされる感覚、時間の余裕のなさ、荷役の重さ。数字では伝わらない部分です。
乗務が難しい場合は、同乗してください。一日でも構いません。複数の路線に同乗できると、違いが分かります。
点呼への立ち会いも有効です。毎日の会話の中に、現場の状況が現れます。誰がどんな状態か、どの便で何が起きているか。
荷主先への同行も重要です。実際の構内の様子、担当者との関係、待たされる時間。ここを知らないと、条件の交渉もできません。
そして、この期間に気づいたことを記録してもらってください。後から見返すと、当時の疑問が残っています。現場に慣れると、当たり前に思えて忘れてしまう部分です。
ドライバーとの関係を作る
人を動かす力が最も差が出る領域だと書きました。この力をどう育てるかを補足します。
まず、名前と顔を覚えることから始めてください。当たり前のようですが、これができていないと信頼が生まれません。
そして、日常的に話す機会を作ってください。指示を出すときだけ接する関係では、無理な依頼が通りません。点呼の場、帰庫のとき。短くても構いません。
無理な依頼をするときは、理由を伝えてください。「お願いします」だけでは、押し付けになります。なぜその配車になったのか、他に選択肢がなかったのか。説明があれば、受け止め方が違います。
そして、受けてもらったことには礼を言ってください。当たり前と思って何も言わないと、次は断られます。
条件の悪い便が続く人には、そのことを認識していると伝えてください。見られていないと感じることが、不満につながります。
失敗を振り返る場の作り方
失敗しても即座に否定しないことが重要だと書きました。振り返りの進め方を具体的にします。
まず、時期を置いてください。その日のうちに詰めると、感情が入ります。翌日以降に、落ち着いて話す場を作ってください。
そして、何が起きたかを一緒に確認してください。責める形にすると、次から自分で判断しなくなります。判断の材料が足りなかったのか、基準が違ったのか。
そのうえで、自分ならどうしたかを伝えてください。ただし、正解として押し付けないでください。判断には幅があります。
あわせて、その場面が繰り返されるかを確認してください。一度きりの状況なら、深く掘る必要はありません。繰り返されるなら、基準として整理する価値があります。
そして、任せた以上は、結果の責任は任せた側にあります。この姿勢が伝われば、思い切って判断できるようになります。
処遇の設計を先に決める
乗務手当がなくなって収入が下がると転換の動機がなくなると書きました。処遇の設計を具体的にします。
まず、現在の乗務員の収入水準を確認してください。歩合や手当を含めた実際の支給額です。この額を下回る設計では、転換する人がいません。
そのうえで、配車の担当としての賃金を組んでください。責任の重さ、拘束の時間、必要な知識。これらを反映した水準にする必要があります。
そして、移行の期間の扱いも決めてください。育成の途中で、まだ一部しか担えない段階の処遇。ここが決まっていないと、途中で不安になります。
あわせて、乗務に戻る道も残しておいてください。合わないと分かった場合に、戻れる形にしておくと、挑戦しやすくなります。
そして、この設計は事前に本人に示してください。転換してから条件を話すのでは、遅すぎます。
評価の指標を組み合わせる
売上だけで評価すると無理な運行を組む方向に働くと書きました。組み合わせ方を具体的にします。
まず、収益に関する指標を置きます。担当エリアの採算、実車率、傭車に出した費用。ここだけを見ると、無理が生じます。
そこに、時間に関する指標を組み合わせてください。担当するドライバーの拘束時間が基準内に収まっているか。超過が発生していないか。
そして、安全に関する指標も入れてください。担当している範囲での事故と違反。無理な運行が続けば、ここに現れます。
あわせて、ドライバーからの評価も材料になります。ただし、数値化は難しいため、面談で聞いた内容を参考にする形が現実的でしょう。
そして、指標の重みを明示してください。何を最も重視するのかが伝わっていないと、行動が定まりません。安全と時間を優先し、そのうえで採算を追う。この順序を示してください。
教える負担を実際に下げる
教える時間がないが最大の壁だと書きました。負担を下げる工夫をさらに挙げます。
まず、質問を受ける時間を決めてください。随時対応すると、主担当の集中が切れます。一日の終わりにまとめて、という形にすると、双方の効率が上がります。
そして、過去の配車表を教材にしてください。実際に組んだものを見ながら、なぜこうしたかを説明する。この方法なら、新しく資料を作る必要がありません。
あわせて、繰り返し出る質問は文書にしてください。同じことを何度も説明している内容があるはずです。書いておけば、次からは読んでもらえます。
そして、教える期間は主担当の負担が増えることを、会社として認識してください。他の業務を減らす、手当を付ける。何らかの形で報いる必要があります。
あわせて、育成の進み具合を確認する場を作ってください。任せた側と任された側の認識がずれていることがあります。
複数名体制への現実的な進め方
一部だけでも任せられる人を作るところから始めてくださいと書きました。この進め方を具体的にします。
まず、切り出しやすい範囲を探してください。定期の便、特定の曜日、特定の荷主。変動が少なく、判断の余地が小さい部分から渡します。
そして、その範囲だけを完全に任せてください。一部を任せながら口を出すと、責任の所在が曖昧になります。
渡す相手は、必ずしも配車の専任である必要はありません。事務の担当が一部を担う、運行管理者が兼ねる。小規模な会社では、この形が現実的です。
そして、渡した範囲を少しずつ広げてください。半年ごとに一つ増やす程度でも、数年で相当な範囲になります。
そのうえで、主担当が休んだ日に回るかを試してください。ここで問題が出た部分が、まだ移っていない箇所です。
後継者に配車を経験させる
後継者に配車を経験させることは育成の中核だと書きました。この点を掘り下げます。
配車の場には、会社のすべてが集まります。どの荷主とどういう条件で取引しているか、誰がどういう働き方をしているか、どの運行が採算に乗っているか。決算書を読むより、はるかに実感が伴います。
そして、判断の重さも経験できます。受けるか断るか、誰に任せるか、無理を頼むか。この判断を日々行うことで、経営の感覚が育ちます。
期間としては、一年以上を見てください。季節による波を一巡すると、年間の姿が見えます。
ただし、後継者だからといって、いきなり全体を任せないでください。他の人と同じ順序で、段階を踏んでください。順序を飛ばすと、現場の信頼が得られません。
そして、この経験は本人にとっても、社内にとっても意味があります。現場を知っている後継者は、受け入れられやすくなります。
どこから採るかの判断
出身ごとの強みと補うべき点を整理しました。選ぶときの考え方を補足します。
社内のドライバーから転換する場合、現場と人を知っているという強みが最も大きく効きます。指示が通りやすく、無理な依頼も受け入れられやすい。ただし、数字と事務の面は一から学ぶことになります。
社内の事務職から転換する場合は、逆です。処理は早いが、現場の実感がない。だから、現場を知る期間を長めに取ってください。
同業から中途で採る場合、すぐに形にはなります。ただし、自社の荷主とドライバーを知らないため、最初の数か月は判断が外れます。前職のやり方をそのまま持ち込むと、摩擦が生じることもあります。
未経験から育てる場合、時間はかかりますが、自社のやり方が身につきます。長期で考えるなら、この選択もあります。
いずれの場合も、育成の順序は変わりません。現場、情報、一部、判断。この順で進めてください。
まとめ
配車担当には、段取り・数字・人・交渉の四つの力が要ります。現場を知る、情報を覚える、一部を任せる、判断を任せる、という順序で1〜2年かけて育ててください。情報の文書化が教える側の負担を下げます。処遇の設計と、2名以上の体制がゴールです。