教育を三つに分けて考える
| 種類 | 内容 | 性格 |
|---|---|---|
| 法令で求められる教育 | 運転者への指導・監督、特定の運転者への指導 | 必須。記録が必要 |
| 職務を遂行するための教育 | 配車、運行管理、整備、事務 | 会社ごとに設計 |
| 次の役割に進むための教育 | 指導役、管理職、後継者 | 意図的に作らないと生まれない |
多くの会社は1だけで、2と3が個人任せになっています。安全教育の仕組み化で、1の進め方を整理しています。
入社時の教育を設計する
最も投資対効果が高いのがここです。入社直後の対応が、定着率を大きく左右します。
- 誰が担当するか(教育担当を明示する)
- 何日間、どんな順序で教えるか
- 単独乗務までのステップ
- どの段階で何ができればよいか
これを1枚の表にしてください。「見て覚えろ」では、未経験者は続きません。未経験者の採用と育成をご覧ください。
段階を作る
ドライバーの場合、次のような段階を設けると育成の道筋が見えます。
- 導入期:会社のルール、点呼、日報、車両の扱い
- 基本期:担当ルートを単独で回れる
- 応用期:複数の荷主・車格に対応できる
- 指導期:新人に教えられる
- 管理期:配車・運行管理を担う
段階ごとに「何ができればよいか」を具体的に書いてください。それがそのまま評価の基準にもなります。評価制度のつくり方をご覧ください。
教える人を育てる
教育体系の最大のボトルネックは、教える人がいないことです。
- ベテランドライバーに指導役を任せる
- 指導のやり方を教える(何を、どの順で、どう伝えるか)
- 指導役に手当を付ける
- 指導した実績を評価に反映する
教えることが本人の負担にしかならない状態だと、誰も引き受けません。手当と評価をセットにしてください。
高齢ドライバーに指導役を担ってもらうことは、本人の負担軽減と技能継承を同時に実現します。高齢ドライバーの安全管理をご覧ください。
資格取得の支援
- 大型・けん引などの免許
- フォークリフト、玉掛け、危険物
- 運行管理者:会社にとって必須の人材(運行管理者の選任と役割)
- 整備管理者(整備管理者の要件)
費用負担のルール、勤務時間内の受講可否、取得後の手当を制度として決めておいてください。採用の訴求材料にもなります。求人原稿の書き方をご覧ください。
なお、費用を負担した従業員が短期間で退職した場合の返還について定める場合は、法令上の制約があります。設計は社労士に確認してください。
記録を残す
- 誰が、いつ、何を受けたか
- 資格の取得状況と有効期限
- 選任者の研修受講履歴
運転者台帳と連動させると管理しやすくなります。選任者の研修は受講漏れが起きやすいので、期限管理を仕組みにしてください。監査で見られる帳票をご覧ください。
大がかりにしない
体系という言葉に構える必要はありません。次の3枚があれば十分機能します。
- 入社時教育の予定表(何日目に何をやるか)
- 段階と到達基準の一覧(各段階で何ができればよいか)
- 年間の教育カレンダー(安全教育のテーマと実施日、資格の更新時期)
作ってから、毎年少しずつ直していけば十分です。
承継・M&Aでの意味
教育体系があることは、次を示します。
- 人が育つ仕組みがあり、属人的でない
- 新規採用者を戦力にできる
- 管理者の後継が育っている
- 法令上の教育義務を果たしている
買い手が最も懸念するのは「人が抜けたら回らない」ことです。教育の仕組みは、その懸念に対する直接的な答えになります。企業価値を高める取り組み、後継者育成の進め方をご覧ください。
三枚をどう作るか
三枚があれば十分機能すると書きました。それぞれの作り方を具体的にします。
入社時教育の予定表は、何日目に何をやるかを並べるだけです。一日目は会社のルールと点呼、二日目は車両の扱いと日常点検、三日目から同乗。この程度から始めてください。
段階と到達基準の一覧は、各段階でできてほしいことを行動として書きます。「単独で担当ルートを回れる」「複数の車格に対応できる」。判断できる書き方にしてください。
年間の教育カレンダーには、安全教育のテーマと実施日、資格の更新時期、選任者の研修の期限を載せます。期限のあるものを一枚に集めることが目的です。
三枚とも、最初から完璧を目指さないでください。書けるところから書き、使いながら直していきます。
そして、この三枚を保管する場所を決めてください。担当が代わったときに、これが引き継がれれば教育の仕組みが続きます。
教える人を育てる手順
指導のやり方を教えると書きました。何をどう伝えるかを具体的にします。
まず、教える順序を伝えてください。ベテランは全部を知っているため、話が飛びます。段階の一覧があれば、その順に沿って教えられます。
そして、やって見せることの重要性を伝えてください。口で説明するより、実際にやって見せるほうが早く伝わります。そのうえで、やってもらい、確認する。
できていないときの伝え方も助言してください。責める言い方をすると、質問しなくなります。何ができていて、何が足りないかを分けて伝える形にしてください。
あわせて、教える側にも余裕が要ることを認識してください。時間に追われていると、丁寧に教えられません。指導する期間は運行を軽くしてください。
そして、教えた内容を記録してもらってください。誰に何を教えたか。この記録が、教育の実施記録としても使えます。
職務のための教育を設計する
二つ目の職務を遂行するための教育が個人任せになっていると書きました。設計の進め方を示します。
まず、職務ごとに必要な知識を書き出してください。配車なら、運行の組み方、拘束時間の管理、荷主との調整。整備なら、点検の項目、記録の付け方。
そのうえで、それをどう伝えるかを決めてください。すべてを座学でやる必要はありません。実際の業務の中で教える部分と、まとめて教える部分を分けてください。
そして、外部の講習を使う方法もあります。自社で教えられない内容は、外に頼るほうが早く確実です。
あわせて、教える教材を残してください。手順の文書、過去の資料。次の人を育てるときに、また一から作る必要がなくなります。
この教育は、法令で求められるものではありません。だから、意識して設計しなければ生まれません。ここを整えている会社と、そうでない会社の差が、数年で開きます。
次の役割への教育を意図的に作る
三つ目の次の役割に進むための教育は意図的に作らないと生まれないと書きました。この作り方を補足します。
まず、どういう役割があるかを示してください。指導役、配車の担当、運行管理者、管理職。進める先が見えなければ、目指す人も出てきません。
そして、それぞれに必要な要件を示してください。資格、経験、担ってほしい範囲。何を満たせばその役割に就けるのかが分かる形にしてください。
そのうえで、候補になる人と話してください。本人にその気がなければ、進みません。役割の内容と処遇を伝えたうえで、意向を確認してください。
そして、段階的に任せてください。いきなり全部を渡すのではなく、一部から。この進め方は、配車でも管理職でも変わりません。
あわせて、この教育には時間がかかります。一年や二年の単位です。だから、必要になってから始めるのでは間に合いません。余裕のあるうちに始めてください。
記録の期限を管理する
選任者の研修は受講漏れが起きやすいので期限管理を仕組みにしてくださいと書きました。管理の方法を具体的にします。
まず、期限のあるものを一覧にしてください。選任者の研修、資格の更新、健康診断、免許の有効期限。対象者と期限を並べます。
そして、この一覧を年間のカレンダーに反映してください。月ごとに、その月に対応が必要なものが分かる形にします。
期限の少し前に動き出す仕組みも要ります。二か月前に確認する、といった目安を決めてください。期限の当月に気づいても、間に合わないことがあります。
そして、担当を決めてください。誰も見ていない一覧は、更新もされません。
あわせて、運転者台帳と連動させてください。人ごとの情報が一か所にまとまっていれば、確認が一度で済みます。人の出入りがあったときの更新も忘れません。
教育の効果をどう確かめるか
教育を実施しても、効果が出ているかを確認しなければ、続ける意味が見えません。確かめ方を示します。
まず、入社した人が予定どおりの段階まで進んでいるかを見てください。予定より遅れているなら、教え方か、基準の設定に問題があります。
そして、早期に辞めた人の数を追ってください。入社後三か月で辞める人が減っているなら、入社時の教育が効いています。
あわせて、事故と違反の件数も見てください。教育の内容が現場に届いていれば、傾向に変化が出ます。ただし、短期間では判断できません。
そして、教わった側に聞いてください。何が役に立ったか、何が足りなかったか。この意見が、次の設計の材料になります。
あわせて、教える側の負担も確認してください。負担が重すぎると、続きません。仕組みとして回るかどうかが、最も重要な点です。
小規模な会社での進め方
体系という言葉に構える必要はないと書きました。人数の少ない会社での進め方を補足します。
教育の担当を専任で置くことはできません。だから、運行管理者や配車の担当が兼ねる形になります。この前提で、負担の小さい設計にしてください。
そして、外部の教材を活用してください。自作にこだわらず、団体や関係機関が提供するものを使う。準備の負担が大幅に減ります。
入社が年に一人か二人という会社では、入社時の教育を毎回組み立て直すのは非効率です。予定表を一枚作っておけば、次からはそれに沿うだけです。
そして、社長が教えている場合は、その内容を文書にしてください。社長が抜けたときに、教育の機能が失われます。
小規模だからこそ、一人の抜けが大きく響きます。育てる仕組みは、規模が小さいほど重要になります。
到達基準を評価につなげる
段階ごとの基準がそのまま評価の基準にもなると書きました。つなげ方を具体的にします。
まず、段階が上がったときに処遇が変わる形にしてください。手当が付く、賃金が上がる、担当できる仕事が増える。何も変わらないなら、段階を上がる動機がありません。
そして、誰が判定するかを決めてください。指導者が自分で判断すると、甘くも厳しくもなります。別の人が確認する形にすると、基準が揃います。
判定の時期も決めてください。随時では、忘れられます。年に二回、あるいは一定の期間が経った時点。決めておけば、本人も準備できます。
そして、判定の結果は本人に伝えてください。何ができていて、何が足りないか。次に何を目指せばよいかが分かる形にしてください。
あわせて、判定の記録を残してください。誰がいつどの段階に上がったか。この記録は、教育の実施記録としても、処遇の根拠としても使えます。
法令で求められる教育を確実に回す
一つ目の法令で求められる教育について、記録が必要だと書きました。回し方を補足します。
まず、年間の計画を先に作ってください。実施の月、テーマ、担当。この計画が紙になっていれば、実施の確率が大きく上がります。
そして、特定の対象者への指導を漏らさないでください。新しく雇い入れた人、事故を起こした人、一定の年齢に達した人。該当したときに実施する仕組みが要ります。
実施の手続きの中に組み込むのが確実です。採用の手続き、事故の対応の手順。一連の流れの一項目にすれば、忘れません。
そして、実施の時期や内容の要件は指針で定められており、改正されることがあります。年に一度は最新の内容を確認してください。
記録は様式を固定してください。毎回書式を考えていると続きません。一枚に収まる形にして、資料を添付して保管してください。
教育を採用の材料にする
教育の仕組みがあることは、応募する側にとっても判断の材料になります。この点を活かしてください。
未経験で応募する人が最も不安に思うのは、教えてもらえるかどうかです。入社後の流れが具体的に示せれば、その不安が小さくなります。
だから、求人には入社時の教育の内容を書いてください。何日間、誰が、どういう順序で教えるか。単独で乗るまでの期間。
そして、その先の道筋も書いてください。資格の取得を支援していること、段階が上がると処遇が変わること。長く働ける会社だと伝わります。
あわせて、実際に育った人の例を載せてください。前職が何で、入社してどれくらいで独り立ちしたか。制度が機能していることの証明になります。
教育の仕組みを整えることは、定着のためだけではありません。採用の場面でも直接効いてきます。
まとめ
教育を「法令」「職務」「次の役割」の三つに分けて整理してください。入社時教育の設計が最も効果的で、段階と到達基準を示すと道筋が見えます。教える人には手当と評価を用意すること。入社予定表・段階一覧・年間カレンダーの3枚から始められます。