指標の定義

実働率

実働率 = 実働車日数 ÷ 延実在車日数

持っている車両のうち、実際に動いた割合です。これが低いということは、遊んでいる車両があるということを意味します。

低下の原因は、ドライバー不足、車両の過剰保有、荷量不足、故障・整備待ちのいずれかです。原因によって、買い手の受け止め方が変わります。

実車率

実車率 = 実車走行キロ ÷ 総走行キロ

走った距離のうち、荷物を積んで走った割合です。低ければ空車で走っている距離が長いということです。燃料も人件費もかかるのに売上を生まない距離が、それだけあるということになります。

改善の実務は実車率と帰り荷の確保で詳しく整理しています。ここではM&Aでどう示すかに絞ります。

買い手はここから何を読むか

実働率が低い場合

  • ドライバー不足が原因:採用できれば売上が伸びる=伸びしろ。買い手が採用力を持っていれば、むしろ買収動機になります
  • 荷量不足が原因:買い手が荷物を持っていれば、すぐ埋められる=シナジー
  • 車両が過剰:不要な車両を減らせばコストが下がる=改善余地
  • 故障・整備が原因:車齢が高い可能性。更新投資の負担として見られます

同じ「実働率が低い」でも、原因を説明できるかどうかで意味が正反対になります。説明がなければ、単に「稼働していない会社」と見られます。

実車率が低い場合

  • 片荷の路線が多い=帰り荷を持つ買い手ならシナジーが大きい
  • 配車の効率に改善余地がある
  • 営業エリアが広く、回送距離が長い

実車率の低さは、同業の買い手にとって最も分かりやすいシナジーの源泉です。「うちの帰り荷と組み合わせれば埋まる」と考えてもらえます。低いこと自体が交渉材料になり得ます。

示し方の実務

1. 3期分の推移で出す

単年度の数値より、推移が重要です。改善しているなら、その取り組みも添えてください。

2. 車格別・エリア別に分ける

全社平均だけでは実態が見えません。大型と小型、長距離と近距離では、そもそも水準が違います。区分して示すほうが、理解されやすくなります。

3. 車両1台あたりの数字を添える

実働率・実車率と並べて、次を出すと説得力が増します。

  • 車両1台あたりの月間売上
  • 車両1台あたりの月間走行キロ
  • ドライバー1人あたりの売上

これらは会社の規模に関係なく比較できる数字なので、買い手が自社と比べやすくなります。車両別の原価管理もご覧ください。

4. データの出どころを明示する

デジタコ、運行日報、配車システムのどれから出した数字か。根拠が示せる数字でなければ、DDで確認された際に食い違います。直近3期の数字をどう見せるかで全体の考え方を整理しています。

数値が良くない場合の伝え方

隠さず、次の三点をセットで伝えてください。

  1. 現状の数値
  2. その原因(ドライバー不足か、荷量か、車両過剰か、車齢か)
  3. 取り組んでいること、または改善に必要なこと

「ドライバーが◯名不足しており、実働率が◯%にとどまっています。採用が進めば、既存の荷主から追加の依頼を受けられる状態です」——この説明ができれば、低い数値が伸びしろの説明に変わります。

数値を測っていない場合

「そもそも計算していない」という会社も少なくありません。その場合は、次から始めてください。

  1. 月ごとの延実在車日数と実働車日数を集計する(配車表があれば作れます)
  2. デジタコまたは日報から総走行キロと実車走行キロを集計する
  3. まず1年分を作り、以降は毎月更新する

測っていること自体が、管理ができている会社という印象につながります。数値の良し悪しより先に、測る仕組みを作ってください。

低い数値が武器になる場面

実働率や実車率が低いことは、普通に考えれば弱点です。ただ、譲渡の場面では必ずしもそうではありません。買い手にとっての意味が違うからです。

買い手が見ているのは、引き継いだ後にどれだけ稼げるかです。今の会社の数字がそのまま続くとは考えていません。自社と組み合わせたら何が変わるかを計算します。

実車率が低い会社は、帰り荷を持つ買い手にとって、そのまま利益の伸びしろです。空車で走っている距離に荷物を載せられれば、費用は変わらず売上だけが増えます。これは分かりやすいシナジーです。

実働率がドライバー不足で低い会社は、採用力のある買い手にとって伸びしろです。車両と許可と荷主が既にあって、人だけが足りない状態だからです。

だから、数値を隠す必要はありません。むしろ、原因を明確にして「この条件が揃えば埋まる」と示せるかどうかが勝負です。

原因を切り分ける手順

実働率が低い原因は四つに分かれますが、実際には複数が絡んでいることが多くあります。切り分けの手順を決めておくと整理しやすくなります。

まず、車両の数とドライバーの数を並べてください。ドライバーが車両より少なければ、その差が構造的な遊休です。この時点で人手不足が原因だと分かります。

人数が足りているのに動いていないなら、次は仕事の量を見ます。配車表で、依頼がなくて空いた日が何日あるかを数える。これが多ければ荷量不足です。

そのどちらでもないなら、整備や故障で止まっていた日数を見ます。ここが大きければ、車齢や整備の体制に課題があるということです。

そして、どれにも当てはまらない遊休が残るなら、車両が過剰ということになります。使っていない車両を持ち続けている状態です。

この切り分けは、配車表と整備の記録があればできます。特別なシステムは要りません。

原因によって打つ手が違う

切り分けができたら、対策も変わります。それぞれ見ていきます。

人手不足が原因なら、採用と定着に手を打つことになります。ただ、すぐには埋まりません。譲渡までの期間が短いなら、この状態のまま説明する形になります。「人が入れば動く車両がこれだけある」という説明です。

荷量不足が原因なら、営業に手を打ちます。既存の荷主の中で増やせる部分を探すのが早道です。あるいは、傭車として他社の仕事を受けるという方法もあります。

整備が原因なら、車両の更新か、整備の体制の見直しです。特定の車両で故障が続いているなら、その車両の入れ替えを検討します。

車両が過剰なら、整理です。リースなら清算金と満了までの支払いを比べ、所有なら売却額を見て判断します。整理すれば維持費が減り、数値も改善します。

車格別に分ける理由

全社平均では実態が見えないという点を補足します。車格やエリアによって、そもそも達成できる水準が違うからです。

長距離を走る大型車は、片荷になりやすく実車率が下がりがちです。一方、近距離の配送は往復とも荷物があることが多く、数値が高く出ます。これを平均すると、どちらの実態も見えなくなります。

だから、区分して示してください。大型と中小型、長距離と近距離、あるいは事業の別。区分ごとに数値と、その水準になる理由を添えると、買い手も自社の数字と比べやすくなります。

区分すると、自社の中でも差があることに気づきます。同じ車格でも、担当する荷主によって数値が違う。この差が、改善の手がかりになります。

一台あたりの数字が比較を可能にする

車両一台あたりの月間売上や走行距離、ドライバー一人あたりの売上を添えると説得力が増すという点は、比較のしやすさから来ています。

規模が違う会社同士でも、一台あたりなら比べられます。買い手は自社の数字を知っているので、その基準で見ることができます。自社より高ければ、学ぶところがある会社と見られます。低ければ、改善の余地があると見られます。

どちらでも交渉の材料になります。高いなら収益力の証明、低いなら伸びしろです。出さないことだけが不利になります。

算出は難しくありません。月の売上を稼働している車両数で割るだけです。ただ、分母をどう取るかで数字が変わるので、定義を明示してください。保有している全車両なのか、稼働している車両だけなのか。定義が違えば、比較になりません。

データの出どころを揃える

根拠が示せない数字は、調査で確認されたときに食い違います。この点は、実務では思っている以上に重要です。

走行距離ひとつ取っても、記録装置から取るのか、日報から取るのか、燃料の記録から逆算するのかで数字が変わります。実車の距離も、配車システムの記録と日報では一致しないことがあります。

だから、資料を作る段階で出どころを決めて、そこから一貫して取ってください。そして、資料に出どころを明記する。「デジタコの記録による」と書いてあれば、確認のときに同じ数字が出ます。

複数の系統で数字が食い違っている場合は、なぜ違うのかを説明できるようにしておきます。定義の違いなのか、集計の漏れなのか。説明があれば、食い違いではなく定義の違いとして扱われます。

測っていない会社が最初にやること

計算していないという会社は少なくありません。始め方を具体的にしておきます。

実働率は、配車表があれば作れます。月ごとに、保有していた車両の延べ日数と、実際に動いた延べ日数を数えるだけです。日数を数える作業なので、表計算に配車の記録を移せば自動化できます。

実車率は、走行の記録が要ります。記録装置があれば総走行距離が取れますし、日報に距離が書かれていれば集計できます。実車の距離は、配車の記録から運行ごとに拾う形になります。

最初から完璧を目指さないでください。まず直近の一年分を作り、そこから毎月更新する。一年分あれば季節の波も見えます。三年分そろえば、推移として示せます。

そして、測り始めること自体に意味があります。数値が良いか悪いかより先に、把握している会社かどうかが見られるからです。測っていない会社は、他の管理も緩いと推測されます。

日常の経営にどう効くか

この二つの指標は、譲渡の資料としてだけでなく、日常の判断に直結します。

実働率が見えれば、車両を増やすべきか人を増やすべきかが判断できます。車両が余っているのに増車しても、稼働は上がりません。

実車率が見えれば、どの路線に帰り荷を探すべきかが分かります。空車の距離が長い路線から手をつければ、効果が大きくなります。

一台あたりの売上が見えれば、車両ごとの貢献が分かります。同じ車格でも差があるなら、配車や担当の見直しで改善できるかもしれません。

承継の準備として始めた集計が、結局は日々の判断を良くする。この領域は、その典型です。

改善の取り組みを添える

三期分の推移を示すとき、数値の動きだけでなく、その間に何をしたかを添えてください。数字が動いた理由が分かると、再現性があるかどうかが判断できます。

改善している場合は、何を変えたのかを書きます。配車の組み方を見直した、帰り荷の情報を集める先を増やした、遊休車両を整理した、採用の経路を変えた。取り組みと結果が結びついていれば、その会社は改善できる会社だと伝わります。

悪化している場合も、理由を添えてください。主力の荷主の物量が減った、ドライバーが数名退職した、車両を増やしたが人が追いつかなかった。原因が分かっていれば、対処できる問題として扱われます。

横ばいの場合が、実は説明しにくい状態です。何もしていないのか、手を打っているが効果が出ていないのか。後者なら、何を試して何が効かなかったかを示せると、状況を把握している会社として受け止められます。

数値の裏にある制約も伝える

数値には、努力では動かせない要因が含まれていることがあります。それを伝えておかないと、単に効率が悪い会社と見られます。

たとえば、営業エリアが広く拠点が一つしかない会社では、回送の距離がどうしても長くなります。特定の産地から都市部へ運ぶ仕事が中心なら、帰りの荷物を見つけにくい構造です。危険物や温度管理を伴う荷物では、帰り荷に載せられるものが限られます。

こうした制約は、説明すれば理解されます。むしろ、制約があるなかでどう工夫してきたかを示せると、評価が上がります。

そして、その制約は買い手にとっての機会でもあります。目的地の近くに拠点を持つ買い手なら、回送そのものが不要になるかもしれません。制約を明示することは、シナジーの所在を示すことでもあります。

まとめ

実働率は車両を活かせているか、実車率は走行を売上に変えられているかを示します。買い手にとっては伸びしろとシナジーの判断材料です。3期分の推移を車格別に示し、数値が低い場合は原因と対策をセットで伝えてください。低い数値そのものが、交渉では材料になり得ます。