直取引と元請経由の違い
元請経由(下請・傭車)
上位の運送会社や利用運送事業者から仕事を受けます。営業をしなくても仕事が入り、荷量も安定しやすい一方、運賃には元請の取り分が乗っているため、実入りは薄くなります。
直取引
荷主(発荷主・着荷主)と直接契約します。中間マージンがないぶん運賃水準は高く、条件交渉も自社でできます。ただし営業・請求・クレーム対応まで自社で担う必要があります。
比率が効く三つの理由
1. 利益率が変わる
中間に一社入るごとに、運賃から一定割合が抜けます。何割抜けるかは案件によって大きく違いますが、同じ走行距離で残る利益が変わるのは間違いありません。運賃と原価の考え方で、原価から見た採算の測り方を整理しています。
2. 運賃の決定権を持てる
元請経由では、燃料や人件費が上がっても、値上げを求める相手は元請です。元請自身も荷主との間で苦しんでいるため、簡単には通りません。
直取引なら、自社の原価を根拠に荷主と直接交渉できます。値上げ交渉が成立するかどうかは別として、交渉の土俵に立てるかどうかの差は大きいものです。
3. 情報が入る
荷主と直接つながっていれば、荷量の見通し、拠点の移転計画、物流の見直しといった情報が早く入ります。車両や人員の計画を立てるうえで、この差は効きます。
M&Aでの評価への影響
買い手が直取引比率を重視する理由は明確です。
- 元請が仕事を止めたら終わり、という構造ではない
- 運賃改定の余地がある=買収後に収益改善できる
- 荷主との関係そのものが資産になる
逆に、元請1社経由の仕事がほぼすべてという会社は、その元請との関係が切れるリスクを織り込まれます。買い手は運送会社のどこを見るかもご覧ください。
なお、直取引でも1社に偏っていれば同じ問題が起きます。荷主分散が価値に効く理由とセットで考えてください。
直取引にはコストもある
元請経由の運賃が安いのは、元請が次を引き受けているからでもあります。
- 営業と荷主開拓
- 配車の調整と荷量の波の吸収
- 請求・入金管理
- クレーム・事故対応の窓口
- 与信リスク(荷主が支払わなかった場合)
直取引を増やすなら、これらを自社で担う体制が要ります。体制がないまま比率だけ上げると、社長の負担が跳ね上がるという結果になりがちです。
現実的な進め方
ステップ1:今の比率を把握する
荷主別の売上一覧を作り、直接契約と元請経由に分けます。何割が直取引かを数字で把握するところから始めます。
ステップ2:既存の直荷主を深掘りする
新規開拓より、既にある関係を広げるほうが成功率が高いのが実情です。今運んでいる荷主の別部門・別拠点・別品目に広げられないかを探ります。
ステップ3:着荷主との接点を活かす
運送会社には、荷物を届ける先という接点があります。着荷主が自社で配送を委託している場合、そこから直接の取引につながることがあります。現場のドライバーが最も情報を持っています。
ステップ4:受けられる条件を明確にする
自社の得意な品目・エリア・車格・時間帯を整理し、「これなら確実にできる」という範囲を明示します。何でもやると言うより、範囲が明確なほうが選ばれます。
ステップ5:請求と与信の仕組みを整える
直取引が増えると、請求先も増えます。入金管理と与信確認の仕組みがないと、事務負担と貸倒リスクが上がります。
元請との関係を壊さない
注意すべきなのは、元請の荷主に直接アプローチしないことです。信義に反するだけでなく、既存の仕事を一気に失う可能性があります。
直取引を増やすのは、あくまで新しい接点からです。元請経由の仕事も、荷量の安定という点で価値があります。両方を持つのが強いという前提で考えてください。
目標の置き方
「何割にすべき」という基準はありません。会社の規模、営業に割ける人手、事務の体制で変わります。現実的なのは、今より数ポイント上げることを毎年続けるという目標の置き方です。
引退から逆算して企業価値を高めたい場合、直取引比率は3〜5年かけて動かす指標と考えてください。企業価値を高める取り組みで全体像を整理しています。
比率を出すところで手が止まる
今の比率を把握するのが最初のステップですが、実際にやってみると、そこで分類に迷います。境目が曖昧な取引があるからです。
たとえば、荷主の物流子会社から受けている仕事。形式上は別法人からの受注ですが、実質的には荷主と直接つながっています。あるいは、元請から紹介されて始まったが、今は自社が直接契約している取引。
分類の基準としては、運賃を誰と決めているかで見るのが実務的です。自社が相手と直接交渉して単価を決めているなら直取引、上位の会社が決めた単価を受けているなら元請経由。この基準なら、迷いが減ります。
そして、分類そのものより、分類の過程で見えることのほうが価値があります。この取引は誰と何を決めているのか、単価はいつ誰が決めたのか。並べてみると、条件を長年見直していない取引が見つかります。
抜けている割合を知る方法
中間に一社入るごとに運賃から一定割合が抜けるという点は、自社では見えにくい部分です。それでも、見当をつける方法はあります。
同じような条件の仕事を、直取引と元請経由の両方で受けているなら、その単価を比べてみてください。距離、車格、荷役の有無、時間の指定。条件が近い便同士を並べると、差が見えます。
比べられる組み合わせがない場合は、原価から逆算します。自社の原価に必要な利益を乗せた金額と、実際に受けている運賃を比べる。差が小さければ、抜かれている分が大きいということです。
この数字が出ると、直取引を増やす動機がはっきりします。感覚で「元請経由は安い」と言うのと、便あたりいくら違うと言えるのでは、社内の説得力も違います。
元請経由にも価値がある
直取引を増やす話をすると、元請経由の仕事が悪いものに聞こえます。そうではありません。
元請経由の仕事には、営業をしなくても入ってくるという価値があります。荷量の波を上位の会社が吸収してくれることもあります。請求先が一社にまとまるので、事務の負担も小さくなります。与信の心配も減ります。
つまり、運賃が安いのは、これらの機能に対する対価でもあります。自社でその機能を持つつもりがないなら、元請経由のほうが合理的です。
だから、目指すのは全部を直取引にすることではありません。両方を持ち、その比率を自分で選べる状態にすることです。買い手が評価するのも、直取引が多いこと自体というより、運賃を自分で決められる部分があることです。
体制がないまま比率を上げるとどうなるか
直取引に伴うコストを挙げましたが、体制がないまま比率だけ上げた場合に何が起きるかを具体的にしておきます。
まず、社長の負担が跳ね上がります。新しい荷主との交渉、条件の調整、トラブルの対応。これらが全部社長に来ます。日常の配車もこなしながらでは、どこかが手薄になります。
次に、請求の事務が増えます。請求先が増え、支払いの条件もそれぞれ違う。入金の確認が追いつかなくなり、未回収に気づくのが遅れます。
そして、与信のリスクが顕在化します。元請経由なら支払い能力は上位の会社が確かめていますが、直取引では自社で判断することになります。一件の貸倒れが、その年の利益を消すこともあります。
だから、比率を上げるなら、事務と与信の体制を先に、あるいは同時に整えてください。順序を誤ると、利益率は上がったのに手元の資金が苦しくなるという結果になります。
着荷主との接点をどう活かすか
荷物を届ける先という接点は、運送会社にとって数少ない営業の機会です。ただ、活かすには工夫が要ります。
まず、ドライバーが情報を持っていることを認識してください。届け先の担当者が何に困っているか、どの会社が配送を担っているか、荷物の量がどう動いているか。日々接している人しか知り得ない情報です。
この情報を吸い上げる仕組みを作ります。難しいものは要りません。気づいたことを報告する欄を日報に一行足す、月に一度の集まりで聞く。その程度で十分です。
そして、情報が上がってきたら、社長か営業の担当が動く。ドライバーに営業をさせるのではなく、情報を持ってきてもらう形にするのが現実的です。
あわせて、報告した人に何らかの形で報いてください。実際に取引につながったときに評価される仕組みがあると、報告が続きます。
元請の荷主に手を出さない
元請経由で運んでいる荷主に直接アプローチしないという点は、強調に値します。
これは倫理の問題であると同時に、実務上の危険でもあります。発覚すれば、その元請からの仕事が一気に止まります。しかも、業界内で話が広がれば、他の元請との関係にも響きます。
ただ、境目が難しい場面もあります。荷主の側から「直接お願いできないか」と持ちかけられることがあるからです。
この場合も、元請に伝えたうえで進めるのが安全です。相手の事情を無視して受けると、後から発覚したときに説明ができません。元請が納得したうえで移るなら、問題は起きません。
直取引を増やすのは、あくまで新しい接点からです。この線を守ることが、結局は長く続く道になります。
数年かけて動かす指標
目標の置き方について、もう少し具体的にしておきます。
比率を大きく動かすには、新しい取引を積み上げるしかありません。一件の直取引が始まるまでに、接点を持ち、条件を詰め、試験的に受け、本格化するという段階を踏みます。半年から一年はかかります。
だから、年に数ポイントというのが現実的な水準です。三年で十ポイント動けば、十分に説明できる変化です。
そして、動かした過程を記録してください。どの年に何件増え、それがどういう経緯で始まったのか。この記録があると、比率の数字そのものより説得力があります。増やせる会社だということが伝わるからです。
引退の時期から逆算するなら、三年から五年かけて動かす指標と考えてください。譲渡を検討し始めてから着手したのでは、実績を作る前に交渉の段階に入ってしまいます。
受けられる範囲を明示する意味
何でもやると言うより範囲が明確なほうが選ばれる、という点を補足します。
荷主の側からすると、頼む相手を選ぶときに気にするのは、確実にやってくれるかどうかです。断られる可能性がある相手、品質が読めない相手には頼みにくい。だから、範囲が広いことより、範囲内なら間違いないことのほうが価値になります。
整理の仕方としては、品目、エリア、車格、対応できる時間帯、荷役の可否、必要な資格や設備。この六つを書き出してみてください。自社が確実にできる範囲が見えます。
書き出すと、意外に説明していなかったことが出てきます。冷凍が扱える、荷役の資格者がいる、夜間の配送に対応できる。相手が知らなければ、依頼は来ません。
この整理は、譲渡の場面でもそのまま使えます。自社が何をできる会社なのかを一枚で示せることは、買い手にとっても分かりやすい材料です。
比率が低いままでも説明はできる
元請経由が中心の会社が不利なのは事実ですが、説明の仕方で見え方は変わります。
まず、元請との関係の安定性を示してください。取引年数、契約書の有無、こちらの窓口が何人いるか、相手の何部署とつながっているか。長く続いていて、複数の接点がある関係なら、簡単には切れません。
次に、その元請の中での位置づけを示します。どの方面をどれだけ担っているのか、代わりが利く仕事なのか。特定の方面や品目を一手に引き受けているなら、それは代替されにくいということです。
そして、直取引を増やすために何をしているかを示します。着荷主からの接点を拾う仕組みを作った、受けられる範囲を整理した、事務の体制を整えた。まだ結果が出ていなくても、方向は伝わります。
買い手が最も避けたいのは、読めない会社です。比率が低いことより、それをどう捉えてどう動いているかが説明できないことのほうが、不利に働きます。
まとめ
直取引比率は、利益率・運賃決定権・情報という三つの面で効き、M&Aでも重視されます。ただし営業・請求・与信を自社で担う体制が前提です。既存の関係を深掘りしながら、数年かけて少しずつ上げていくのが現実的な進め方です。