財務DDは「粗探し」ではない
買い手は、決算書の利益をそのまま信じて価格を出すわけではありません。買った後も続く利益はいくらかを知りたいだけです。そのために、一過性の損益や、実態と違う計上を洗い出します。
指摘が出ること自体は問題ではありません。問題になるのは、指摘に対して説明できないときです。
1. 車両とリースの計上
運送会社の財務DDで必ず見られるのが車両まわりです。
- 所有車両とリース車両が台帳と一致しているか
- リース残債が漏れなく把握されているか(オペレーティングリースは注記のみのことがある)
- すでに使っていない車両が資産に残っていないか
- 売却済み・廃車済みの車両が除却されているか
台帳と現物と決算書の三つが合っていないケースは珍しくありません。売却を考え始めた時点で車両台帳を作り直すのが最も確実です。詳しくはリース残債が価格に与える影響もご覧ください。
2. 減価償却の方法と過不足
償却を止めている、あるいは任意の金額で調整していると、利益が実態より大きく見えます。買い手は適正償却後の利益に引き直して評価するため、この調整で利益が大きく下がることがあります。
中古車両を多く使う会社では、耐用年数の取り方も論点になります。方針を一貫させ、説明できるようにしておいてください。
3. 荷主別の売上構成
売上高そのものより、誰からいくら受け取っているかが重視されます。
- 上位1社の比率が高すぎないか
- その荷主との取引が何年続いているか
- 元請経由か直取引か
- 直近で失った荷主・増えた荷主はあるか
荷主が偏っていると、価格そのものより支払い条件に影響します。荷主分散が価値に効く理由で詳しく整理しています。
4. 役員・オーナー関連の支出
役員報酬、社長個人名義の車両、家族への給与、私的な交際費、社長所有の不動産への賃料。こうした支出は、買い手にとって買収後には発生しない費用です。
これらは「正常収益力」に足し戻される(=利益が増える)方向にも働きます。隠すのではなく、金額と内訳を整理して自分から出すほうが有利です。公私混同の解消が最優先である理由もあわせてご覧ください。
5. 未計上の債務
決算書に載っていない負担が最も嫌われます。運送業では次が典型です。
- 未払残業代(労働時間の記録と賃金台帳の突合で見えます)
- 退職金規程があるのに引当がない
- 事故の賠償で保険で埋まらない部分
- 社長個人からの借入・個人への貸付
未払残業代は労務DDと連動して確認されます。労務デューデリジェンスで見られる書類、未払残業代の整理もご覧ください。
6. 燃料費・修繕費の期ズレ
燃料の在庫計上、大型修繕の費用処理と資産計上の切り分け、車検費用の期またぎ。金額は大きくありませんが、利益のブレの原因として説明を求められます。月次で見たときの変動が説明できれば十分です。
7. 資金繰りと入出金のサイクル
売掛の回収サイトと、燃料・給与の支払いサイクルのずれは、運送業では常に論点です。買い手は運転資金の必要額を見積もるため、月次の資金繰り表があると評価されます。
準備しておくと進みが早いもの
- 直近3期の決算書・勘定科目内訳書・税務申告書
- 月次試算表(直近2期分)
- 車両台帳(所有・リースの別、残債、年式)
- 荷主別売上の一覧(直近3期)
- 借入金一覧(残高・金利・保証の有無)
- リース契約書一式
これらはデューデリジェンスの準備と当日の流れで整理した資料リストと重なります。
指摘されたときの対応
その場で取り繕う必要はありません。事実を確認して後日回答するで構いません。むしろ即答して後で食い違うほうが、信頼を損ないます。
指摘の中には、価格を下げるための交渉材料として出されるものもあります。どこまでが実態でどこからが交渉かは、経験がないと判断が難しい部分です。仲介・アドバイザーに同席してもらってください。
まとめ
財務DDで見られるのは、車両・リース、償却、荷主構成、役員関連費用、未計上債務、そして資金繰りです。いずれも売却を決める前から整えられます。決算書の見え方を整えるとあわせて、早めに着手してください。